PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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ペルソナ4リメイクおめでとうです!


Chapter6『All work and no play makes Jack a dull boy』 ActⅠ

 青一色の劇場の狭いボックス席。

 鼻と四肢が長い目玉の男の背後には舞台を一望できる空間があった。

「いかがお過ごしでしょうか?」

 ベロア生地のカウチソファーに座り、真珠のイヤリングを煌めかせるダイアナは、紅い口紅を纏った唇を神秘的に動かす。

「お客様に新たな絆の力が三つも、到来する予感がします」

 紫アイシャドウの瞼は微笑に伏せられる。

 

「お客様は流浪の末、絆を深めない路をお選びになってしまった」

 レースをあしらった長いドレスの裾から、白魚の手が現れ膝下に置いてある本を撫でる。

「けれども今は──繋がりがどんどん大きくなっていく。ああ、(わたくし)は僥倖でございます」

 金色の瞳は嬉しそうに薄暗い部屋を照らしていた。

「え? 殆どがコノエ・ヨシナリ様から知っただけですか?」

 きょとんとダイアナはこちを見てくる。

「あなた様に絆の力を広げさせた、コノエ様にはいずれ感謝したいですね」

 口元に拳を持っていきくすくすと上品に微笑む。

 それを見た山田士狼(やまだしろう)は近衛由成の紹介はロクな目にあっていないと、少し不満気な表情を作った。

「お時間のようですね、ではそろそろまたお会いしましょう」

「それではごきげんよう」

 イゴールの言葉で、青い扉は閉ざされた。

 

 

二〇三〇年 四月二十七日

 

 士狼は思い出す、四月二十五日(おととい)の事を。

 

「こちらの時間の流れが違う世界だって? 多分、常世国(とこよのくに)だね」

 相馬光希(そうまみつき)は本棚をがそごそと漁る。

「日本神話における死後の世界で、不老不死の理想郷の国」

 目の前に置かれたのは日本神話の分厚い本だった。

「で、常世は永遠という意味と不老不死から、不変の世界って意味合いにもなったんじゃないかなって思うの」

 苦い顔を作り、本を覗き見るように士狼は閲覧する。

「じゃあ、そこに夕方に出る地縛霊が絡んだらどうなりますか?」

 待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、相馬先輩が駆け寄ってきた。

 ダンと机を叩いて、前のめりの姿勢を取り、先輩の大きな鼻が士狼の額に当たる。

 

「なにそれ!? 面白い事を思いつくわね! 我が後輩ちゃん!」

 鼻息が士狼の左分けの前髪を揺らす。

 あまりの熱に士狼の体は自然と後ろに反っていた。

「⋯⋯そ、そんなに?」

 士狼はマニア気質ではないので、なんで先輩は盛り上がれるのか謎であった。

 表情も困惑色である。

「強い思いで土地に執着する幽霊と不変の世界であり、死後の世界の組み合わせか──!! く──っ! 考察(もうそう)が捗るッ!!」

 何をそんなに盛り上がれるのか士狼は理解不能であった。

 それと同時に、突然の(そう)な態度を見せつける相馬先輩に恐怖を抱く。

「夕方ってのも意味深ねえ」

 相馬先輩は一言一句の単語も逃さなかった。

「夕方は逢魔時(おうまどき)って言われてて、昼と夜の境目だからか妖怪が出やすい時間帯なのよねー」

 愛想笑いしか浮かばなかった。

 こちらの気持ちは無視。

 まるで暴走機関車を見ているようだと、士狼は疲弊した。

 

「今即興で推測組み立てたんだけど、興味はある?」

 ご満悦な笑みを見せる相馬先輩。

 ここでまた士狼の頭上に選択肢が浮上する。

 帰るか、応じるかだ。

 士狼は考える、聞いた方が吉田杏奈(よしだあんな)について、何か分かるかも知れない。

 今日はその為に来たので、興味もない長話を聞く覚悟をしなくてはいけない。

 なので山田士狼の選択は──

 

 

(あの旧校舎は、アンナさんの未練で常世化した場所⋯⋯)

 ここは嬰琴(えいきん)市立図書館。

 今日は吉田杏奈の自殺した事件を調べるついでに、テスト勉強をしにやってきた。

(で、扉が出てくるのは、世界の境目があやふやになりやすい時間帯だから現れる)

 吉田杏奈の自殺について取り上げられた新聞紙を探しながら、相馬先輩の即興の考察を士狼なりにまとめていた。

 

 綺麗に保存された新聞紙を手に取る。

 相馬先輩のアドバイスだ。

 過去の事件を調べるなら図書館がいいと、薦められた。

 嬰琴市限定のローカル紙が良いそうだ。

 相馬先輩は一緒に行きたがっていたのだが、胃もたれがすると判定し丁重に断った。

 

 筈が──

 

「たく、これに手を付けた先輩つまらないと思ったな」

 勝手についてこられた。

 その代わりテスト勉強を教えてくれる事で、交渉は成立した。

「ただの自殺事件ですからね⋯⋯」

 Aラインの白襟がついた黒ワンピースを纏う相馬先輩に、ため息を吐く士狼。

 ニュースの後日の新聞紙を、手当たり次第に手に取っていく士狼。

 先輩だが女子と二人っきりという状況なのに、恋愛漫画を読んでいる感覚になれないのは、蘊蓄(うんちく)を垂れ流す姿を見ているからだろうなと、猫目を憂いに伏せる。

 

「中間テストいやだなー、せっかくのゴールデンウィークに勉強も計算に入れなきゃいけないんでしょ」

 小さな声で相馬先輩は話しかけている。

「⋯⋯そうですね」

 自習に加えて指揮棒を入れるケースを買う為、バイトも入れている士狼はげんなりとした。

「とりあえず一週間分ね」

 互いの新聞紙をかき集め、次は空いている席を探す。

 

 ゴールデンウィーク初日なのか、図書館の利用者が多かった。

 キョロキョロと士狼は二人分の席を探し当てると、そちらに駆け寄り背もたれに手を置くと、他人の手と重なった。

「あ」

 手の主を見ると動揺しながら、こちらを申し訳なさそうに見ていた。

「あ、あ、あの⋯⋯ど、どうぞ」

 もう片方の腕にはノートと筆箱を抱えている。

 異常な怯え方に疑問に思ったのか、士狼は問いかける。

「大丈夫か?」

 丸首のシャツの上から、カーディガンを羽織り、ズボンはジーズンであった。

 短く切られたもじゃもじゃの黒髪の前髪は両目を隠しており、顔立ちが不明瞭だが、雰囲気は同じ男子高校生だと伝わる。

 

「あ⋯⋯すみません。同い年そうな人を見るとつい⋯⋯」

 まるで一人だけ曇り空のような声色と雰囲気で返されると、相馬先輩が割り込んできた。

「人見知りにしてはえらく過剰ね、過去に何かあったね。聞かないでおくけど」

 黒い丸眼鏡のレンズをきらめかせて、推測を立てるが触れないと相馬先輩が言う。

「⋯⋯意外ですね、ってきり聞くかと思いました」

 人の過去も根掘り葉掘りを求めるタイプだと思っていたが、そうではない人だと士狼は目を丸め感想を述べた。

「オカルトを追っているとね、悲しい過去のせいで恨みつらみを遺して祟る幽霊とか知るからね」

 辺りを見渡しながら相馬先輩は語る。

「幽霊も人間も()()()()()()()()()、本人がああならなるべく触れない」

 相馬先輩は言い切ると、そういう配慮の仕方があるのかと初めて彼女に感心した。

「あ、ありがとう」

 目が前髪に隠れて表情が読みにくいが、口元と雰囲気が安堵に包まれているのが伝わってくる。

 

「どうして図書館に?」

 士狼は興味本位で目隠し少年に訊ねてみる。

「自習だよ、僕も皆に追いつかないとダメだから」

 こちらを見ないような仕草をしつつ語る。

「俺もだよ中間テストあるから」

 空いている席探しを再開すると、さらりと答える。

「⋯⋯そうか、もうそういう時期なんだね」

 意味深な台詞を目隠し少年が呟くと、士狼は思わずそちらを向いてきょとんと不思議そうに疑問符を浮かべる。

「おーい、後輩君。席見つけたから行こうー」

 相馬先輩が呼びかけたので、目的地に案内すると士狼は返事をする。

「じゃあな、お互いに勉強がんばろうな」

 爽やかに士狼は別れの挨拶をすると、目隠し少年はこくりと頷いて手のひらを小さく振った。

 

 

「⋯⋯」

 ニュースの発表から一週間分の事件を追うと、吉田杏奈の遺書は見つからず、自殺の線は前言撤回され、不審死として処理された。

 家族も不審な点はあったものの、素振りが無かったと新聞紙では語っている。

 調査の結果、いじめがあったと明らかになっており、取材を受けた女子生徒が仮名で答えていた。

 

「⋯⋯はあ、もっと追わないとダメなのね⋯⋯」

 相馬先輩は小声で呟く。

 参りましたとばかりに、コピーした記事をファイリングしたファイルを枕にして机に突っ伏した。

「こうなったら、一か八か警察に聞かないとダメですかね?」

 真顔を作り小声で聞いてみる。

「守秘義務。そもそも学生の私達は門前払いよ」

 先輩は即答で士狼の案をばっさりと切り捨てた。

「⋯⋯そうですか」

 いい案だと思ったのにと、落胆しながら新聞紙の情報をノートに書き写す士狼。

「⋯⋯じゃあ探偵に任せるとか?」

 大分前に、ニュースで見たことがあると士狼は言い出す。

 脳裏にはテレビの画面に映っていた探偵を思い浮かべる。

「事務所はあるらしいけど。

 不審死で打ち切ったっぽい、事件を調べてくれるかな?」

 その線は微妙だなと相馬先輩はむすっと口を結ぶ。

 

「せめて、遺書さえ残していれば⋯⋯」

 新聞の文章を写し終えると、次は教科書を開いてテスト勉強をしだす。

 カリカリとシャープペンシルの音を響かせながら、士狼は黄昏の音楽室に佇む吉田杏奈の顔を思い浮かべる。

 地縛霊になる程”未練”があるというのに、なぜ遺書を遺さなかったんだろうかと士狼はモヤモヤしていると、相馬先輩も士狼と似たような表情をしていた。

「でも、化けて出てるワケでしょう? 絶対にあると思うんだよね⋯⋯遺書」

 キランと光らせて凛々しい表情を見せてくる相馬先輩を眺めると、静かな図書館に聞き覚えのある声が響き渡った。

 みな廊下の方を向いていた。

「!」

 目隠し少年の声だと士狼は立ち上がり、声の元へと駆けつけて行った。

 

 

 図書館の廊下に出るとトイレ付近でこれまた、見慣れた少し高い背中を目撃する。

「瀧じゃないか、どうしたんだ?」

 返事がないので、肩をぽんと置いて気づかせようと促そうとすると、その先には先程出会った怯えきった目隠し少年がいた。

 

「⋯⋯っ! 山田くん?」

 瀧の切れ長の目がこちらを向く。

「し、し、知り合いだったの慈宗(ちかむね)君と⋯⋯」

 ただ事じゃないという雰囲気を醸し出す目隠し少年は、猫背気味に怯えきっていた。

 まるで猫が背中をいかり立てて、警戒している姿勢みたいだ。

 違いは彼の視線の先に映る物に怯えている事である。

「そうだけど」

 士狼は凛々しい表情で肯定すると、瀧が珍しく覇気のない声色で目隠し少年に語りかけ始めた。

「⋯⋯あの、その⋯⋯げ、元気にしてるかな?」

 いつも背筋を伸ばして眼鏡をくいっとあげる瀧にしては、ぎこちない態度である。

「⋯⋯」

 目隠し少年はペコリとお辞儀をして、その場から去ってしまった。

 

「瀧。名前を呼ばれていたけど、知り合いか?」

 緊張が解かれたのか、汗だくになりながらこちらを瀧は見た。

「知り合いも何も⋯⋯」

 精神を落ち着かせる為なのか深呼吸し、瀧は話を続ける。

「彼が"鴨沢弘務(かもざわひろむ)"くんだよ。前髪で目が隠れていて、最初は気づかなかった」

 その言葉に士狼は目を丸め驚愕した。

 そして同時に初対面の態度の裏付けだと気づいた。

 

「僕のせいで、鴨沢くんをああしてしまったんだ⋯⋯」

 肩から振動が伝わったかと思うと、瀧の拳が強く握られていた。

「そうなんだ」

 士狼は複雑な表情を作る。

 瀧はいじめられていた彼をホームルームで彼と一緒に教壇に立ち犯人探しをしようとした結果、人の視線を怖がる人間になってしまった。

 自分にはどうしようもない出来事だと、思っていた。

 

「君と父さんとシャドウのお陰で、ここに来たけど⋯⋯まさか現状を見るとは思わなかった」

 瀧が苦笑する。

「ここに来た?」

 士狼は問う。

「不登校になった人の本を借りにね。父さん曰く、やり方を知らないから傷つけてしまったんだって言われてね」

 瀧の曇った表情は深刻そうだった。

「だから知ろうとしに?」

 怯えきった鴨沢の態度を思い出しながら、士狼は真っ直ぐと瀧を見た。

「うん。ただ助けたいだけじゃダメなんだなと、父さんの話を聞いて思ったよ」

 切なそうに話す瀧はチェック柄のシャツを翻すと、そのまま前に進む。

 

「進展があったら、メッセージを送るよそれじゃあ」

 瀧の姿を見送ると、士狼も元の席に戻って自習に励む。

 

(⋯⋯瀧も頑張ってんだな)

 自分も吉田杏奈の未練探しを頑張ってみようかなと、士狼は密かに思った。

 

 

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