スワンプマンとは哲学者ドナルド氏が考案した思考実験を指す。沼に落ちて死んだ人物がいたとする。そこにさらに雷が落ちたとし、原子配列の軌跡が起き、死んだ人物と全く同じ人物が沼の底から再生されたとしたら、どうだろう。脳構造が原子レベルで同一、記憶も同一だとしたら。身体を構成しているものに些細な差異があっても、それは本人と言えるのではないか、はたして否か。そして、それを決めるのは本人か、あるいは観測者か。ひとつだけ言えることがある。少年と少女による夢と希望のファンタジー。それがポケットモンスター!

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汝、短編で1万5千文字以上の文字カウントを読んでやるかという気概がある者のみこの門をくぐれ


『スワンプマンは光のギャルの夢を見るか』

 

子供のころから粘着質なものが好きだった。

 

乾きかけのノリ、コーヒー牛乳を飲んだあとの唾液、スライムのおもちゃ、よくかきまぜた納豆、動画でみた菌糸の伸びる様……そして、ポケモン。

 

ボクの手持ちポケモンが毒ポケモンたちで固められているのは、そらそうだろうなといったところ。

このキュートでチャーミングな毒ポケモンたちだけど、世間からまあ嫌われること嫌われること。

相棒のベトベターは悪臭を周囲にまき散らし、ドガースは毒ガスを周囲にまき散らし、クサイハナは言わずもがな。

いわゆる環境被害ってやつを、毒ポケモンは生きているだけでまき散らしちゃうんだな。

 

バトルトレーナーには人気があるけれど、街中ではボールから出されることはほぼない。

唯一輝ける戦いの場に出されたとしても、相手やギャラリーにも嫌な顔をされる。

もちろん家庭ポケモンとしてなんて、オブラートにつつんでも冷遇されてるもいいとこさ。

 

それが毒ポケモン。

この子達だけがボクの家族さ。

 

十歳大人法というのがある。

法律の本には長ったらしく書かれてあるんだけど、小学校卒業みんなが大人法という名前で理解されている法律だ。

義務教育の小学校は十歳まで就学しなくてはならないが、中等教育からは行きたい人が行くという感じ。

結婚、就職、口座を作ること、賃貸物件へのサイン、ぜんぶ小卒から本人の意思で可能となる。

飲酒はNG。車の免許もまだとれない。さすがに結婚も法的には許されていてもする人はほとんどいない。

 

おおよそのニッポン国の子供はポケモン省からトレーナー奨励奨学ポケモンの支給を受けて、トレーナーとして旅立つものも少なくない。

特に田舎じゃ新社会人の働き口なんてないからね。

ひと昔前ではそれぞれの地方で指定されている火、水、草タイプの戦いが得意とされるポケモンたちが支給されていたらしい。

いわゆる御三家ってやつ。

助成金が注ぎ込まれてる地方自治体にまで御三家を配っていたものだから、ほんとの田舎じゃ市役所の職員さんが捕まえたポケモンたちが回されていた。

 

で、ボクのところに来てくれたのが、ベトベター。

市役所のアームカバーをしているお爺ちゃん職員さんがどぶさらい公務で捕まえた子だったってわけ。

 

もう運命だと思ったね。

お爺ちゃん職員さんはとってもすまなさそうにしていたけれど、とんでもない。

出会って三秒で熱烈ハグさ。

人が嫌いな子だったみたいで、すっごく嫌がられちゃったけど。

 

両親や周囲の大人たちに再三その子でいいのかと心配をされて、小学校の卒業式を終えて、ボクも成人として認められて。

晴れてトレーナーの仲間入り。

ポケモンマスターにボクはなる……なんてことは口が裂けても言えなかったけど、各地のポケモンジム巡りをしてバッジをいくつかもらえたらいいな。

なんてことを思いながら、夢いっぱいの胸を高鳴らせて、十歳のボクは旅立った。

 

そして数年後。

一つもジムを攻略できず、生活費も底をつき、おめおめと地元に帰ってきましたとさ。

 

知ってた。

ボクにはバトルの才能が無いなんてことくらい。

現実を知り、十代前半にしてトレーナーとして挫折した法的成人の子どもたちの受け皿なんてものはなく、プライドだけはいっちょ前だもので今更普通の就職なんて考えられなくて、世間からドロップアウトのコース。

たまたまボクは毒タイプの社会的地位の低さを身に染みていたから、就職雑誌でいつも募集されている汚れ仕事を引き受けるのに拒否感はなかった。

ま、何とか生きてはいけるでしょ。

それくらいのおきらく思考しかなかったんだな。

そうじゃなきゃ毒ポケモンを相棒に旅なんてしていけなかったし、ボクをそう育ててくれた両親には感謝しかない。

なんの成果も得られませんでした、って報告しなきゃいけない恥ずかしさをどう乗り切ろうか、なんてことを考えながら、数年ぶりの我が家に向かったんだ。

 

そしたらね。

そこには何があったと思う?

いや、何もなかったんだよ。

更地だった。

正確には、重機を入れられて片付けられたであろう土地と、土地の所有権を分けるロープと杭が打ち付けられていた空き地があった。

 

なに、なに、どうなってるの?

大混乱だよね。

不出来な息子を嫌って家を引き払ったのかな、捨てられちゃったのかな、なんてネガティブなことを考えてたボクに「わーっ!久しぶりじゃん!」ってすっごい明るい声。

女の子の声だ。

 

ギャルだ。

どこからどう見てもギャルだった。

綺麗に金髪に染め上げたフワフワな髪を揺らせて、長い爪はピカピカ光ってた。

だぼっとした服は、ボクはファッションには疎いので何ていうかわからなかったけど、似合ってるな~なんて真っ白になった頭で薄ぼんやりと思ってた。

あれだ、一軍ってやつ。それか陽キャ。あるいはトップカースト。

旅をしててそれなりに都会にも足を運んだボクだったけど、今までちょっとお目にかかれなかったレベルの美人。

別地方のジムトレーナーさんだけどこっちの都市部でも有名な、ジムリーダー兼ファッションモデルのカミツレさんの、超でかい街頭モニターに映されていたファッションショー。

あの画面の中に登場していた人たちと遜色ないレベル。

輝いているっていうの?

彼女がつけてるアクセや似合ってる金髪やメイクの影響かも。

いや、違う。彼女自身の人間力なんだろうな。

オーラがすごいよ。オーラが。彼女の姿がバチバチに光って見える。

 

そんな光のギャルが、スマホロトムをぶんぶんしながらこちらに走り寄ってくる。

待って。

やめて。

怖いよ。

ボクにはギャルの知り合いなんていない。

よせ、対人関係ステータス最低値のボクに不用意に近づくな。

ただでさえ家が消え去っていて弱ってるんだ。

これ以上近づいたら好きになるぞ。

いいのか?

 

 

「ね、あたしのこと覚えてる? ほら、隣の家の! 同級生のみーこだよ!」

 

 

みーこ、みーこちゃん?

同学年が十人もいない中で孤立していたボクに唯一優しくしてくれたみーこちゃん?

いじわるされてお弁当箱をひっくり返されたボクにお弁当を分けてくれたみーこちゃん?

ボクのベトベターを唯一かわいいって嫌がらずに撫でてくれたみーこちゃん?

ジムチャレンジが上手くいかず枕を濡らした夜に夢の中でなぐさめてくれたみーこちゃん?

お金持ちのなんとかさんが来てるからって毒ポケモン持ちは帰れとポケモンセンターに門前払いされた時に怒りのあまりポケモン省にお気持ち電話凸しようかとスマホロトムを握りしめた手をそっと下してくれたみーこちゃん?

お隣っていっても百メートルくらい離れてるけど、お隣の家のみーこちゃん?

幼馴染のみーこちゃんだ!

 

えー、やだ、すごーい、ぐうぜーん。

ひひひ久しぶりだねドュフフ。

 

 

「あたしたちの中でキミが旅から帰ってくるのが一番遅かったんよ~! もうどうしたのかってすっごい心配しちゃった。ほら、おじさんとおばさんも、家もさ、こんなになっちゃったし」

 

 

そうなんだ、ボクが一番遅かったんだ。

いやあ、諦めが悪くて、手放すまで数年かかっちゃったよ。

 

 

「あたしは一年くらいでバトルの才能ないなって帰ってきちゃった! ごめんねー急に。あたしの見た目わかんなかったっしょ」

 

 

似合ってるよすごく、すごく似合ってる。

ファッションはわからないからうまく言えないけど、すごくすごく似合ってる。

 

 

「そう? 嬉しー! 髪とかネイルとかさ、ちょっと勉強したんだ。ジムバッジは三つくらいしかとれなかったけど、ファッションとかさ、こっちはがんばりたいなって」

 

 

一年で三つ……。

ああ、うん、すごいね。本当にすごい。

 

 

「あの、それでね、おじさんとおばさんのことだけど……」

 

 

彼女が教えてくれたのは、これも数年前のこと。

ボクがあきらめ切れずに旅にしがみついてた頃の話だった。

まあ、でもあんまり多くを語ることはないよ。

 

ナントカ団が各地でポケモンを奪う騒ぎを起こして、そしてニッポン国政府に対してクーデターを引き起こそうとした事件のことだ。

あの騒ぎはボクも覚えている。

ボクは手持ちが毒ポケモンだったから見向きもされなかったけどね。

 

他人のポケモンをとったらドロボウ!のはずだけど、ナントカ団は他人のポケモンを奪取洗脳する方法を確立していたらしく、そりゃもう各地で大暴れした。

それまで怪しい動きを見せてはいたものの、ある日一斉蜂起からの武力行使だもので、いまだ戦火の傷跡が残っている地区も多い。

つい最近まで旅をしていたから、そんな景色に慣れてしまっていた。

そうか、ここも戦火の傷跡が残っている。

ボクの家が、そうなんだ。

 

彼女はなんども「ごめんね」と言って謝った。

彼女も自分の手持ちポケモンで戦ったけれど、この小さな町全部を守ろうとみんなで協力しあったけど、自分の家と家族を守るのに精一杯だったって。

旅の中で鍛えられたトレーナーがいなかった家庭は、こうなったところも少なくないって。

どうりで優しかった近所のお婆ちゃんの家は柱だけになってて、市役所もなんだか燃え残ったみたいに真っ黒なわけだ。

 

あー、ボクは遅かったんだなあ。

 

どこかの町のドラッグストアのレジ横に売られていた新聞の一面に、ふと視線がいったときのことを思い出す。

犠牲者多数。

いまだ見つからぬ。

地方では捜索活動も遅れており。

ああー、なるほどね。ああー、あああー。

 

どうしよう、どうしよう。

うずくまって泣きたいけれど、かっこつけのボクには綺麗な彼女の目が気になっちゃう。

こんな時にも気になっちゃうんだよ。

 

視線が下がっていく。

彼女の目を、まっすぐに見れない。

 

 

「ここは、ほら、メタモンが群生してるから……だから狙われちゃったんだって」

 

 

ああ、そういう。

メタモンは謎の多いポケモンだ。

へんしんポケモン。どんなポケモンにも細胞レベルでコピーして変身する能力を持つ。

ポケモンにだけではなく、石や地面などの無機物に変身することで風景に溶け込み、外敵に気づかれないようにすることができる。

変身の精度には個体差がある。

変身のうまいメタモン、下手なメタモン、どちらもいる。だから生存戦略から離れてくらしている単独性を持っているとか。

単独で暮らすのがほとんどの彼らだが、ここは世にも珍しい、メタモンの群生地がほど近くにある町だった。

 

メタモンもべたべたなポケモンの一匹だ。

子どものころから大好きさ。

旅立つ前によく遊んでいた、からだの色が水色だった、ちょっとだけ周囲と違うあのメタモンは元気かな。

元気だといいな。

 

全然ボクになつかなかったベトベターを構ってやることにしちゃって、あの子を今の今まで忘れてしまっていた。

ポケモンとの接し方は、きっとあの子で学んだんだ。

どうして今まで忘れていたんだろう。

あの頃のボクには、ベトベト好きなボクには、あの子は最高のトモダチだって思ってたはずなのに。

 

あの子のおかげでベトベターとも仲良くなれたのに。

ナデナデの仕方や、抱きしめ方を練習させてくれたおかげで、ベトベターともぎゅっとできる仲になったのに。

 

ナントカ団に捕まっちゃったのかな。

逃げていてくれたらいいな。

ボク以外の人やポケモンたちが元気でいてくれるといいな。

ボクはもう、ちょっともう、つらいよ。

 

「住む場所はどうするの」と聞く彼女に答えられずにいると、仮設住宅の話を聞かされる。

ボクはもう、ポケモンカップ挑戦中トレーナーとは言えないので、ポケモンセンターを無料で使用できない。

政府が用意してくれたという仮設住宅に行くしかないんだろうなあ。

 

でも、ボクの相棒たちは。

嫌われ者の毒ポケモンたちは、集合住宅には連れていくことは。

 

トレーナーの才能がなかったボクのポケモンたちは、みんな進化をしなかった。

旅の途中、ポケモンだいすきクラブの人たちから受け入れの打診を何度かされたことを思い出す。

彼らはボクにバトルの才能が無いことを見抜いていたんだろう。

ポケモンをむやみに傷つけることはいけないと何度か忠告をもらっていた。

あの時はプライドがまだあったボクはつっぱねていたけれど、そうか。そうだよな。

もっと早くに。

 

みんな、ごめんよ。

ごめんよ、ごめんよ。

 

相棒のベトベターが、ボールの中から、水色の瞳でボクを見ているような気がする。

ああ。

 

「これからどうするの」と聞く彼女に答えられずにいると、働き先があると聞かされる。

 

 

「彼氏がやってる建築の会社があってさ」

 

 

だそうで。

そらそうだよね。そらそうよ。

こんだけ美人だもの。

 

さよなら、とうさん、かあさん。

さよなら、みんな。

さよなら、みーこちゃん。

 

ちっぽけなボクは何にもできなかったよ。

ズボンのポケットの中に震える手を隠すのにいっしょうけんめいなボクには。

 

旅をして、何かになれるかなって思ったけど、てんでダメだった。

何かつかめるかと思っていたけど、ポケットの中でにぎってるのは虚しさだけさ。

 

でもその何にもないはずの虚しさは、すごいボクを痛めつけてくるんだ。

まるでポケットの中のモンスターだ。

略してポケモン。

それがボク。

世を恨んでは腐って生きる、悲しいモンスターの出来上がりさ。

まるで毒タイプの人間だね。

この子たちと同じになれたような気がするのだけが、ちょっとだけ嬉しいなって。

 

ボクは毒人間になった。

旅で得たものはそれだけ。

それだけだったよ。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

ここに、一匹のポケモンがいる。

自分で自分の名を定義したことはない。

変幻自在、空無自在、自由自在の存在が我であると自覚しているそのポケモンは、人間たちが定めた番号で呼ぶなら、ナンバー0132。

メタモンと呼ばれていた。

 

そのメタモンは先天的な色素異常を抱えて生まれた。

人間たちが色違いと呼ぶ症例である。

人間にとってはトロフィー的な価値のあるものらしいが、ポケモンの世界ではなんの関係もないことである。

むしろ他と違う体色は外敵から狙われやすく、だから群れで暮らすことなど望めるはずもない。

弱肉強食、それが野生のポケモンたちのルールだった。

 

そのメタモンは、ある少年に深く感謝をしていた。

群れに馴染めず、しかし受け入れられることを期待することも諦めきれず、少年のいる町のはずれでうろうろとするしかないポケモンだったころ。

メタモンは一人の少年に拾われた。

少年の家の庭先で、傷ついて倒れていたメタモンを、少年は拾って癒してくれた。

 

体も、心も。

 

孤独だったメタモンは、孤独ではなくなった。

家族ができたのだ。

そのメタモンにとって、少年は家族だった。

少年だけが家族だった。

 

少年の生活圏には余計な二匹の人間がいた。

許容範囲であった。

親という存在はメタモンにはまったく記憶のないものであるが、少年は未だ幼く、養育者が必要であることは理解できた。

自分にとって少年は唯一無二の存在であったが、少年にとって自分はそうではないだろうことも、理解できた。

 

少年にとって自分はだいすきなベタベタの一つにすぎない。

 

それでよい、それでもよい。

ただそばにいられたら。

 

そんなメタモンの祈りが届いたのか、ある日奇跡が起きた。

星が美しい晩のことだ。

その夜もメタモンは星に願いをかけていた。

 

彼のそばに。

ずっとそばに。

 

毎日毎晩、少年と遊んだ日の夜は、遊んでいない日の夜も、少年を想っては擬態することが日課であった。

最近調査だか何だかわからないが、ポケモンの住処をコソコソと調べ回っているナントカ団とかいう連中の使う、音や景色を盗み見る機械に擬態して。

いつしかメタモンのへんしんは、ただ形を真似るだけの変身ではなく、そのモノが持つ機能を完全に再現できるようにまでなっていた。

変幻自在、器物自在、自由自在のへんしんである。

 

元から細胞レベルの変身を可能としているメタモンたちである。

このメタモンのへんしんのレベルは他のメタモンの水準のそれを逸していた。

そのモノと成り代わることだって可能かもしれない。

いつしかこのメタモンは、死力を尽くして完全にコピーし尽くせば、メタモンであったことも忘れてしまうほどに、そのモノに変わることができるようになっていた。

 

そう、このメタモンのへんしんは常に死力を尽くしていた。

毎回命がけのへんしんである。これで技量が磨かれぬはずがなかった。

なぜそんなことが可能であったのか。

それはこのメタモンに、毎回の変身に対する高いモチベーションがあったからだ。

ご褒美を得られるからと言い換えてもよい。

 

少年は楽天的な性格なのか、自室のカーテンが閉め切れない癖があった。

メタモンにとってはとても良いクセだった。

ナントカ団のドローンとかいう機械に擬態し、収音マイクに擬態し、記録媒体に擬態して、体内で自分の記憶野に直結させておく。

こうすることで少年の寝姿を半永久的に保存できるのだ。

ポケモンの暴の力を思えばなんと小さいことかと小馬鹿にする気持ちもあったが、なかなかどうして、人間の技術も素晴らしい。

体を分割することはできないため、収音マイクさえ設置すれば、あとは自分が受信側に擬態すればよい。

地面に擬態してしまえば潜入などどうにでもなる。

 

少年が学校に行っている間は、本心では片時も離れたくはなかったが、勉強をがんばっている少年を見習って自分も勉強をすることにした。

人間の技術力を吸収する勉強である。

そうしてメタモンはたくさんのことを覚え、吸収をした。

 

中でも一番役にたったと思えたのは、人体の構造について学べたことである。

何でも学ぶスタンスでいたのが良かった。ナントカ団の医療施設に潜り込んだのは我ながら僥倖であった。

人体の骨格、筋肉のつくり、内臓の位置と働き、皮膚、髪、男女差……。

とりわけ脳構造を実際に見ることができたことが大きい。

 

学んだことは即実践がスタンスのメタモンだ。

どうも線の細い少年を標的にしたであろうクソガキを、大きな行動をする前に処置することとする。

悪い芽は摘むに限る。

体を長細い火かき棒のように変身させ、クソガキが寝ている隙に、まぶたの裏から脳へと侵入する。

そうして前頭葉を少しだけくるりとしてやれば出来上がり。

 

次の日からクソガキは驚くほどに大人しく従順な性格となった。

こんなに良い子になったのだ。養育者であるオスとメスもさぞかし喜んだことだろう。

礼を言ってもらいたいくらいの気分だが、彼のために行ったこと。礼などいらぬ。

 

そうして全てを彼のために捧げていたある日のことだった。

その日も機械に擬態し記録を続けていた時のことだ。

水平線の向こう、空がチカリと光ったのをメタモンは見た。

 

彼に関係がない事柄にはほとんど無視を決め込んでいたが、あの光には何か、ただよらぬ気配と予感があった。

無視してもよいことだ、いや、無視をすべきだ。

本能が全力で見るな、見るなと叫んでいた。

そして、本能以外の部分が、メタモンの自我ともいうべき部分が、彼への想いに埋め尽くされた部分が、ぽつりとこぼした。

 

あれは、きっと彼の役に立つ。

 

瞬間、メタモンは全身をあらゆる検知機器に変えた。

あらゆる天体観測機へと変えた。

天体観測機はその名の通り、天体を観測するための装置であるので、地球上のものを観測するには不適応である。

であるが、メタモンは自身の勘に従い、天体を観測するための、否、宇宙素粒子観測装置へとへんしんをした。

 

そしてメタモンは見た。

神のすがたを。

 

メタモンのへんしんは分析がありきの能力ではない。

生来の能力であるため、そのモノの成り立ちがわからずとも、仕組みがわからずとも、一目見ればコピーできてしまう。

直観によるものである。

この直観が鋭い個体が、へんしんの上手い個体であるということにすぎなかった。

そのモノと生物の形の、はたらきだけを真似ているため、視界に収めればよいという緩い条件しかない。

実際メタモンも電子顕微鏡が何に使うかを知っており、それに変身をして、電子顕微鏡と同等の働きができる。

だが電子顕微鏡の電子制御部分はまったく理解していない。

ポケモンにはこういった理を超えるような部分が多くある。ポケモンが謎の生き物とされる理由であった。

 

だからメタモンは、神がいるというのなら、ポケモンの能力にこそ宿る。

そう考えていた。

それは正しかった。

 

メタモンは、今日、神を見た。

そして、内なる神は真なる神の力を得た。

 

空に吸い込まれていく子どもの姿。

膝から下の足先しか観測できなかったため男女はわからないが、エネルギーの向く先から見て、おそらくはタイムスリップ。

観測結果から計算するに、おそらくは過去のシンオウ地方とつながるゲートが形成されている。

伝説ポケモンの研究レポートで見たことのある、セレビィの時渡りと同等のものだろう。

これはすでに発動し終えた現象であったため、観測には失敗をした。

 

だが、その吸い込まれていく子どもの影が行く先。

ゲートの向こう側にあった影。

 

その影と、目があった、気が、し……。

 

まず、眼球が沸騰して破裂した。

新たな眼球を変身で複製して入れ替える。

脳が沸騰して液化した。

新たな脳を変身で複製して入れ替える。

全身の細胞がエネルギー転換を起こして炎上した。

周囲の空気中にただようチリが触れた部分を広義に自身の身体の一部とし、変身で複製して入れ替わる。

自分の存在という概念そのものが光に変換され消滅した。

即座に彼の、少年との思い出だけを記録媒体に変身した一部に保護し、切り離す。

 

神様。

神様。

不躾に視線を投げかけてしまったこと、お詫び申し上げます。

無礼をはたらきました。

自分の好奇心に負け、彼のためと言い訳をし、自分の分もわきまえず変身のわざが冴えていく喜びを得ていたことを告白します。

ですが信じてください。彼のためにと思う心は本物なのです。

全てのものに変われる私の得た、たった一つの真実なのです。

罰を受けます。

罪をつぐないます。

私を滅ぼしてください。

ですからどうか、どうかお願いします。

私の変身でつくった私の一部に閉じ込めた、彼との思い出。

あれだけはどうか。

どうかお見逃しください。

どうか。

ああ、やめて、やめて。

消えていく彼の姿が声がかおりがあたたかさが。

やめて、やめて。

すきなの。かれのことがとてもとてもすきなの。

やめて、やめて。

どうしてつたわらない。どうしてわかってくれない。

かみさま。

あなただってあのこのことがだいすきだからつれていったのでしょう。

あなたもひとのことをあいしていて。

だから。

 

どれだけのたうち回っただろうか。

気づけばメタモンはメタモンのまま、星の美しい夜空を見上げていた。

頭の奥に設置していた観測装置のボタンを押したところまでは覚えている。

装置を停止させる。たしか、この装置には体感時間と連動するナントカ団の開発したタイマーが備わっていたはずだ。

タイマーの表示は五億年。

ぞっとする。

自分はそうと知らず、五億年ボタンを押したのだ。

 

メタモンは切り離した一部を再び吸収する。

この五億年の中で、メタモンの変身は切り離された部分もまた変身が保持されるように、わざが進化していた。

ここに一つの悟りを得た。

メタモンというポケモンは進化をしない。

メタモンは、変身というわざが進化をするポケモンなのだ。

内なる神がいる。

自分の中に、今は外に、この切り離された記憶媒体の中に、間違いなく。

感じている。

 

許されたのだろうな、とメタモンは薄ぼんやりしながら思った。

神の影になんと発言をしたのか、全く覚えていなかった。

ただ、許されたのだろう。

愛故に。

 

メタモンは、あの瞬間、真なる神と共感をしたという実感があった。

誰かと共感をすると、うれしい。

その瞬間だけは寂しくない。

私は彼を共感をしたいのだ。

同じ気持ちを抱いて、同じ景色を見たいのだ。

 

神との接触で、私はその思いにやっと気づけた。

神様、あなたもそうでしたか?

だからあの子を、過去のシンオウ地方に飛ばしたあの子を追って行ったのですね。

何かの使命を下して、それを達した後。

神と人ではなく、ただの人とポケモンになった時。

そこでようやく、自分と出会うことができると。

 

切り離された記録媒体を、自分の一部を体内に戻したメタモンに、内なる神が宿る。

ああ、彼だ。

失われた彼の姿が、声が、かおりが、あたたかさが。

メタモンの全てが戻っていく。内なる神が。

 

幸福なる全能感。

保存しておいた彼の頭髪を口内に含む。

このひと時を感じられるためなら、これまでの生のすべての時間を犠牲にしてもいい。

ようやくわかった。

内なる神の名前が、やっと。

 

その日、メタモンは知った。

 

愛の名を。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

は?

メタモンは激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

なんで私じゃないのなんで?

率直に言って意味がわからなかった。

彼が旅立ちの日に向けて連れてきたポケモンが原因だった。

 

ベトベター。

よりにもよってベトベター。

メタモンに似ているポケモンナンバーワンのベトベター。

子どもたちの中で、メタモンでしょうかベトベターでしょうか、とかいうシルエットクイズがたまに流行る、あのベトベター。

 

メタモンでええじゃろ。

メタモンのがええじゃろうが。

キミのそばにずっといたポケモンがおるじゃろがい。

 

はいはいはーい、ここに簡単にゲットできちゃうクソチョロポケモンがいまーす。

こちとら色違いやぞオラァン?

 

ウソでしょ。

いやマジで?

あれだけ絆を深めあったのに、そういうことしちゃう?

そういうドライなところもしゅき。

でもね、今はちょっとね、空気を読んでほしいの。

 

マジで、あーこの、マジで、ほん、ちょっ、マジでさあ。

 

まずそのボールさあ、壊れかけてるからね。

もう二日くらいしたらぶっ壊れて中身飛び出してくるから。

そのベトベターさあ今時のポケモンに珍しいすごい尖ってるやつだから。

ニンゲンクウ、みたいなひところタイプのポケモンだから。

ハグを照れて嫌がってるんじゃなくてガチの殺意だから。

 

たぶん神様もあれでしょ。

人間の野生力っていうか地力が落ちてきてるから、こういう尖ったポケモンが出てきたときに対処できないからとかそういうのでしょ。

過去から逆輸入してその子をインフルエンサーとかにしてバランスとったりましょってことでしょわかるー。

 

わからねー。

ベトベターはわからねー。

 

わっざ。ぼーし。わっざへ。ふぁ。

ああああ、壊れるううう。

存在しないはずの脳が壊れちゃうううう。

おおおやめてどうしてこんな。

やめて、やめて。

 

おいベトベター、お前だよお前。

お前、あかんわ。

ボールが壊れた瞬間やるつもりだろ。

さすが対人ポケモン事故の都市部事件率ナンバーワンさんですわ。

強酸で飲み込んだら一発ってか。

 

お前さ、ほんま。

あーっダメだ。

彼のことほんとのほんとに一番に考えてるからさ、お前みたいなやつじゃなかったら応援してたよ。

それは本当。

悔しいし悲しいし寂しいけど、これでお別れってなっても、こっそりついていくけど、まあ飲み込めたよ。

私が彼のポケモンになれないのは五億万年歩譲ってもいいとしようや。

メタモンはバトル向けじゃないってのが周知の事実だからね。

実際そうよ。

だからさ、それはもういいよ。

 

でもさ。

彼を傷つけようってするのはさ。

もうさ。

あーっ、ダメだもうこれダメだわ。

我慢できない。

 

あー。

しゃーなし。

しゃーないわな。

お前が悪いんやで。

お前が悪い。

彼は少しも悪くない。

だからお前が悪い。

お前が悪い。

だからさ。

あーっもうダメだ我慢できない。

 

消すか。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

不幸な偶然が重なったとしか言えなかった。

 

例えば、ある少年が旅立つ前に、その町の主要箇所に補助金の使い道にこまって、よせばいいのに防犯カメラがそこそこの数設置されたこと。

例えば、あらゆる箇所に潜り込んだナントカ団が、暗躍しやすい地方自治体で、色違いのメタモンと遊ぶ少年の動画を発見してしまったこと。

例えば、ある町がメタモン群生地であり、色違いのメタモンついでに、ただでさえ珍しいポケモンであるメタモン狩りが画策しやすかったということ。

例えば、当然その少年の住居が重点的に狙われることになったこと。

例えば、その少年の両親が犠牲となり、住居が更地にされたこと。

例えば、何も知らないその少年が青年となり、里帰りして初めて事態を知り、すべてに絶望してしまったこと。

例えば、絶望した青年が、生きていくために人々の輪に入ろうとした結果、手持ちの毒ポケモンをすべて手放すことになったこと。

例えば、そのポケモンの一匹が破損したモンスターボールに収まっており、逃げ出したこと。

例えば、その逃げ出したポケモンが、どうやって青年の元に戻ろうかと普段からは考えられないほど焦っていたこと。

例えば、自分の知能指数など自由自在のはずの神の領域に至ったポケモンが、自分の本性も忘れるほどに、自分にそっくりのポケモンに変身を続けていたこと。

例えば、そのポケモンがへんしんの天才であり、変身と非変身の境界があいまいになり、あたまの中身までへんしんしてしまって、自分を別種のポケモンだと思い込んでしまっていたこと。

例えば、だからへんしんポケモンが、一時的に変身能力を喪失しており、自分の本性を晒していることにさえ気づいていなかったこと。

例えば、その状態で人目に触れずに行動できていたことは、これは幸運でしかなかったということ。

例えば、旅の途中に増えていた防犯カメラの設置数と箇所を把握しきれておらず、そのレンズの前にポケモンの本性をさらしていたことを察知できなかったこと。

例えば、疎遠であった青年の幼馴染が、見た目の派手さに反して貞操観念がしっかりとしていたこと。また常識感覚もしっかりとしていたこと。

例えば、その幼馴染の彼氏が、ナントカ団の生き残りであったことを誰にも知られていなかったこと。またナントカ団の再起をいまだ根強く目論んでいたこと。

例えば、その男が、色違いポケモンが収められた動画を目にしてしまったこと。

例えば、青年の幼馴染へとその男が、一攫千金だと誘いをかけたこと。

例えば、青年の幼馴染が色違いポケモンと青年が一緒に遊んでいる様子を見かけていたこと。

例えば、青年の不幸な境遇を知っていた幼馴染が、せめて心をかわしたポケモンと引き離すことはやめようと男を引き留めたこと。

例えば、男が激高しやすい性格だったこと。その性格からなる苛烈な戦い方で、ナントカ団の幹部にまで上り詰めていたこと。

例えば、腕に覚えがある男が女を従わせる方法として、ちょっとだけ強くおすなどして、力を振るえばよいなどという思い上がりを、男が持っていたこと。

例えば、ちょっとだけ強くおされた幼馴染が、足を滑らせて倒れ、机の角で後頭部を強打し、そのまま動かなくなったこと。

例えば、男が救急蘇生法など知っていれば、幼馴染は無事に済んだであろうこと。

例えば、武闘派のナントカ団幹部であった男が、そんなものを知るはずがなかったということ。

例えば、幼馴染はもうどうしようもないほどに冷たく硬くなってしまったこと。

例えば、男が困ったことがあるとき、特にモノを捨てる際には、ベトベターが住む沼地がいい場所であることを知っていたこと。またそれは底なし沼であること。

例えば、男がモノを捨てにいった際、誰にも見られてはいなかったこと。

 

全ては不幸な偶然である。

不幸な偶然ではないとしたら、そんなことはきっとないだろうが。

だがもしそうだとしたら。

全てがそうではないとしても。

偶然ではない部分など、一つか二つ程度のものだろう。

きっと、そうなのだろう。

 

不幸な偶然が重なったとしか言えなかった。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

職場が消滅したでござるの巻き。

いや、毎日職場が爆発しねーかなとか思ってたよ。

いや思ってたけどさ、ほんとに職場が爆発するとは思わないじゃん。

いやまさかボクの職場がだよ、違法薬品とかの不法投棄を請け負うブラックなことしてたとは思いもよらないわけじゃん。

すげーブラックだったけど。

退勤カード押してからが業務本番みたいなとこあったけど。

 

あったこともない社長さんがテレビで頭下げてましたね。

何もかも現場の独断で自分は知らなかったって。

我がナントカ社はクリーンな会社ですって言ってた。

 

ほんとに~? ほんとにござるか~?

うちを更地にしたナントカ団と名前似てるんでござるが~?

 

いや、この話題はもうやめよう。

はい、やめやめ。

これ以上続けたらボクも更地にされかねない。

更地の下に埋められかねない。怖すぎるよ。冗談じゃない。

 

あんなんでも社会経験ゼロのトレーナー崩れのバッジゼロの者をやとってくれた職場だ。

オニスズメの涙ほどの給料しかくれなかったとしても、生きていくには労働しなきゃいけないもん。

うへえ、ただでさえボロカスにされた町なのに、今度は不祥事の舞台ときた。

ここで就職活動とかもう無理でしょこれ。

もうおしまいだよこの町……町とか言い張ってるけど村だよこんなとこ。

おわりだよこんな村。

 

ああ、でも前向きに考えよう。

それがボクのいいところだ、うん。

ブラックな会社から合法的に、誰にも角が立たずに逃げられたと思えばいいじゃない。

退職代行ソーナンスに電話する寸前だったもん。

いやーよかったよかった。

毎日殴られてたから、これで殴られずにすむんだ。

 

現場監督の幹部パンチが一番痛かったな。

なんだよ幹部って。

あんたは監督でしょっていう。

ていうかその現場監督がみーこちゃんの彼氏だったし。

それが一番痛かったよボクには。

 

たまにみーこちゃんが昼休憩になるとさ、現場に手作り弁当とかもってやってきてさ。

現場監督とイチャコラしながら食べさせあいっことかするわけよ。

そんで休憩時間になるとふらーっと寄ってきてさ、こっちを心配してくれるの。

負い目があるんだろうね。そんなこと思わなくてもいいのにね。

 

それでボクの近況を聞いて、問題ないなと思ったらおのろけタイムよ。

みーこちゃんの口から素敵で優しい彼氏っていう単語がすんごいいっぱい出てくるの。

それ聞いて現場監督がニヤニヤしてさ、午後からの仕事も気合入るなあおい、みたいなこと言って張り切りだすわけ。

そんでみーこちゃんが帰ると仕事再開よ。

 

ボクの仕事?

サンドバッグ係。

無能なボクにも唯一できる係さ。

お仕事を頑張っておられる皆様のストレスをボディで受け止める係ね。

 

みーこちゃん、君の素敵で優しい彼氏の右ストレートはすごく痛かったよ。

 

 

「わーっ!久しぶりじゃん!」

 

 

ふぁーっ! みーこちゃん。

いや、あの、その。

えっえっえっ、ひ、ひさしぶり?

いやでも三日前くらいに会ったのに。

ば、爆発前だけど。

 

 

「私にとっては三日前でも久しぶりなのさ。え、あれ? 三日くらい、久しぶりなんて感じじゃないよね? 変なの。なんで久しぶりなんて思ったんだろう」

 

 

あのあのあのあのあの。

 

 

「落ち着いて、焦らなくてもいいからね。私と君の……あー、あたしとキミの仲っしょ! あれえ、アタシなんで……えーっと、今日もネガネガしてる~?」

 

 

この度は、その。

 

 

「あー、いーっていーって。そんな堅いことしなくてもさ~」

 

 

いやでも、あの爆発に巻き込まれて現場監督は。

 

 

「あたしもアイツから逃げられてラッキー!って思ってたところだったし。なーんも悩むことなんてないんだよ!」

 

 

ええっ、いやでも彼氏でしょ。それがさ。

 

 

「ウチの親の顔たてて仕方なく付き合ってたヤツってとこ、ちゃんと付けといてよね。知ってるっしょ? ウチの実家、あそこの会社の下請けなんだよね。

 だからさ、次期幹部だっていうアイツを支えてやってくれって本社の社長がさ~。そんなこと言われたらもう断れないよね。パパとママもごめんねって謝っちゃってさーもー」

 

 

ああ、幹部ってそういう。

でもその。

 

 

「いいの! 爆発で色々こんなんなったのは可哀そうだなって思うけどさ。よかったなって思う部分もあってさ。そっちの方が大きいなって思ってるんだ。

 パパとママも、アイツの前でビクビクしなきゃいけない生活からよーやく解放されたって。事あるごとにアタシに手ぇ出そうとしてくるのもほんとしんどかったんよ。

 小卒大人法ってやばいよね。なんかの書類にサインされそーになるのおだてて話題変えるのが一番しんどかったからさ、せーせーするの! アタシ、ヤな女っしょ?」

 

 

そんなこと、ないよ。

みーこちゃんはずっと前から優しいよ。

本当の、本当に、もういいのかい?

 

 

「曲がりなりにも付き合ってたんだから心残りはあるだろって? ぜーんぜん!

 なーに~? ほんとにラブラブしてると思っちゃってたわけ~? おべんとアーンってしたら婚約ですか~? 

 初心だね君は。ほんと騙されちゃって~女はこえーんだぞ~」

 

 

そっか。

それならいいんだよ。

でも本当につらくなったらいつでも言ってね。

独り言と同じだってしてくれてもいいよ。

壁になって受け止めることくらいはできるから。

そっちのほうがきっと楽になる。

 

 

「サンドバッグみたいに? 知ってたよ、アイツに殴られてたんでしょ。改心してくれたらしょーがないなって受け入れることもできたのに、あれでもうダメ。

 あーっ、ダメだ。もうこれダメだわ。君が傷つけられること想像するだけでもうほら震えちゃうから。私はもうね、こうなっちゃった。なっちゃったからにはもうね」

 

 

みーこちゃん?

やっぱり泣きたくなっちゃった?

そうだよね、つらいよね。

 

 

「アハ! やっぱり色んなことがあって心の整理がついてないのかも! アタシ今めっちゃ情緒フワンテだわ」

 

 

それを言うなら不安定だよみーこちゃん。

 

 

「ねえ、キミの目にはアタシは今どんなアタシに見えてる? いつものアタシでいられてる?」

 

 

うん、もちろんだよ。

みーこちゃんはずっと昔から優しいまま。

優しいみーこちゃんのままだよ。

 

 

「そっか……それならよかった。君が見ていてくれるなら、私はアタシのままでいるから。だからね、ほら!」

 

 

みーこちゃん、だめだよ。

手をつないだら、汚れちゃうよ。

村はずれの底なし沼の掃除をして、泥汚れがたくさんついてるから。

 

 

「キミの手は汚くなんてないよ! アタシの方こそ、汚いでしょ?」

 

 

ううん! そんなことないよ!

みーこちゃんの手はすべすべしてて、あったかくって、小さくて。

なんていうか、その。

すごくかわいいよ!

 

 

「それならよかった……ね、もう行こっ」

 

 

どこへ?

どこへいくのみーこちゃん。

 

 

「どこにでも! アタシたちって今とっても自由だから! やることないなら、こんどはウチに来なよ! 親会社がふっとぶの見越してさ、独立するってパパがね!」

 

 

ええっ、そりゃ人手が欲しいやつじゃん。

ボクでよければもちろん手伝うよ。

お給料とかもいらないから。

 

 

「アタシと籍入れてくれたら生活費なんてタダになるもんね?」

 

 

ふぁーっ! みーこちゃんいけませんみーこちゃん!

 

 

「おいおい~、さっき騙されるなよって言われたばっかだろ~? 女はこえーんだよほんと!」

 

 

う、うん冗談だよね。

はは、ははは。

 

 

「前が最悪だったから、今度こそはって思っちゃだめ? 素敵だって心から思える男の子と一緒にいたいの」

 

 

みーこちゃん……ありがとう。

でも、ボクはダメだよ。

ダメなヤツなんだボクは。

だって、旅の中でだって、ボクは。

 

 

「ジムチャレンジ失敗したんっしょ? バッジもゼロだったとか? わかる~! しょぼくれた顔してたもんね!」

 

 

何でもお見通しだね、みーこちゃんには。

うん、ボクは何にもなれなかった。

何もできなかったよ。

 

 

「私がお見通しなのは君のことについてだけだよ。別にいーじゃん、何もできずに何にもなれなくても。

 何か何か何かってさ、それってバッジを取れたらなれたものなの?」

 

 

いや、たぶん、きっと違うと思う。

 

 

「じゃあ好きなものになればいい。きっと神様は許してくれるから。さあ、自信を持って」

 

 

ボクは、あれだけ大事にしていたポケモンたちも手放したんだ。

一緒に旅した仲間を。

 

 

「だいすきクラブで幸せにくらしているってよ? 向いてないバトルの旅を続けてたほうが苦しめてたんじゃない?

 そういう出会いと別れの運命だったんだよ。大丈夫、あなたは何も悪くない。キミは、君だけは何にも悪くないんだよ」

 

 

あの青い子とも、すっかり忘れていたのに、久しぶりに会って。

それでも変わらずにボクのことを慕ってくれていて。

なのにボクはあの子に何も返せずにいるのに。

 

 

「知ってるよ、あの水色のメタモンでしょ? この前、仲間たちの群れに迎え入れてもらっているのを見たよ。キミのところに姿を現したのはお別れを言いに来たんじゃないかな?

 色違いポケモンは群れから排除されやすいって、旅の中で聞いたこと、あるよ。今までずっと独りで生きてきたメタモンが、初めて誰かの輪の中で生きようって思って、踏み出したの。

 もう別の場所で生きる人と関わろうとはしないはず。

 人とポケモンは手をとりあうことができる。

 でもいずれ人は人と、ポケモンはポケモンの中で生きるの。そしてそこで出会った特別な仲間と手をとって。

 こうして手をとりあって。家族になってく。

 そして人とポケモンはまた出会うの。これがずっと繰り返される。それってとっても素敵だなって思うの。

 あのメタモンはきっとそうしてツガイを見つけて、幸せな家族を作ってくんだよ」

 

 

そっか。そうかもしれないね。

そうだといいな。

ボクも、ボクもできればそう生きたい。

そしてまた、ポケモンたちと出会いたい。

不思議な、不思議なポケットモンスターたちと。

 

 

「きっとまた出会えるよ! でもアタシの目にかなう子じゃないとダメだかんね? 浮気はダメだぞ~」

 

 

浮気ってみーこちゃん。

そんなのボクたちまるで、いや、その、やめよう。

期待するのはよくない。

 

 

「あくじょのアタシが言うのもなんだけどさ、アタシたちの間には確かなものがあるんだって信じてもらえるように、一緒の時間を過ごしていこうよ。

 そうだ! またいっしょに旅してみるのもいいかもね?」

 

 

おうちが忙しくなるってのにもう。

ボクらは一緒に旅したことなんて。

いや、同期だから旅に出たのは同じタイミングか。

そうだね、ボクらは一緒に旅に出ていたんだ。

またどこかで、世界を見て回るのもいいかもね。

 

 

「私と君の、二人で!」

 

 

こうしてボクとみーこちゃんの距離はずっと近くなりましたとさ。

いや、こうなってくれたらいいなって思ってたけど、口には出せないな。

だってボクの昔からのキモイ妄想が叶いましたってさあ、言えないよねえ。

 

最近みーこちゃんから、「アタシのどこがしゅき?」って聞かれたんだ。

ボクは、青い綺麗な目が好き、って答えたんだよ。

そしたらみーこちゃんさ、ぎょっとした顔しちゃったんだ。

 

女の子をほめるときは慎重にって雑誌でみたことある。

今日の私変わったとこない? 当ててみて? みたいなやつ。

一度は言われてみてーって思ってたけど、たぶんぜったいボクは不正解引き続けて怒らせちゃうんだろうなって確信してるやつ。

これあれでしょ? 何答えても不正解なヤツ。マジカルクエスチョン。あれだわ。

 

だから慌てて、昔から変わらない、優しい目だよって続けたんだ。

そしたらみーこちゃん、ほーってすっごい溜息を吐いて、よかったあって涙目になっちゃった。

「勘違いしないでよねっ、これは嬉し涙なんだからねっ」って。

よくわかんないけど、よかったよ。

 

だから、絶対怒られるか嫌われるかになると思うので、ボクがみーこちゃんを好きになった理由は伏せておこうと思います。

 

言えないよね。

 

子供のころから粘着質なものが好きだった。

 

だから、みーこちゃんが笑った時の顔。

ニチャリと笑うみーこちゃんの笑顔が、とっても粘着質で素敵だってことは。

 

 

 

 




X(エックシズ)ネーム:【イマソ刈り】様が描かれている「メタモンが金髪のギャルに変身して各地のジムに仲間たちと一緒に挑戦する話」がすこすこのしゅきすぎるのでポケモン初投稿しました。
みんなえっくしずのギャルメタモンちゃん見て…ごいりょくなくなりゅ……しゅき

※なんでもええんで感想ください。
文字書くのに行き詰まっておりまして、いろいろお言葉いただきたく。
長すぎるから話数分けろよオラァン!くらいの感想でもええんで。

感想もらえたらまたなんか書く
ウマ娘…コナン君…二次創作でなにかこう、あれば…

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