可哀そうなお姉さまを愛でたいだけですのに!   作:パンデュ郞

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十一

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ」

「紫月さまぁ。夜中にそれは流石に怖いですよぉ」

 

 食事の場が終わって、わたくしたちは自室に戻って参りました。

 わたくし以外の人間が、よくもお姉さまにあんな顔をさせてくださりましたね。万死に値します。

 こうなれば、穏便に隠居で済ませてあげようと思っていた計画を

 

「しかし、凄い浮かれようでしたねぇ。娘を売りに出したようなものだと言いますのに」

「そういう人なのですよ、あの人は」

 

 本当に、度し難い愚物。

 都合がよいからと見逃して上げていれば図に乗ったようですね。

 この家の実権を握っているのは誰か、教えて差し上げないといけないようです。

 

「己の無能さを隠すために、他の人を道具のように使う。そして、名采配だろうとすごぶるのですよ」

「わあ、味方にすると厄介なタイプですね!」

「娘であるわたくしも、お姉さまも。あの人にとっては、己を輝かせるアクセサリーでしかないつもりなのでしょう」

「紫月様の傲慢さはお父様似という……申し訳ございませんでした二度と言いません許してください」

 

 雪女が身の毛のよだつようなことを言い始めたので、圧を加えて黙らせます。もしも続けて口にするようでしたら、その時には二度と見ぬ顔になっていただけです。

 わたくしの式神は現状雪女だけですが、いなくなれば代わりを探すだけです。ちょっとは惜しいですが、まあちょっとだけですかね。

 見放さないでと足元に縋りつく雪女を尻目に、今後の展開を考えます。

 

 家の実権を握っているのはわたくし。この家の古株の使用人は、お父様ではなくわたくし側についているといってよいでしょう。新参はそうではないので、そこを考慮に入れて動く必要はありますが。

 クーデターを起こせば、今すぐにでも追い出すことは可能ではあります。それをした場合、わたくしがすぐに家督を継ぐことになり、その後のあれこれで長時間拘束されることが予想できるでしょう。

 仮にそうなった場合、お姉さまをあの五代家の連中に奪われてしまう可能性が出てくるのです。

 

 だとしても、こちらを放置していればお姉さまがどこぞの馬の骨の家に売り飛ばされるなどというありえない展開が待ち受けています。そんなもの許容できるはずがありませんので、こちらの展開は考えないものとします。

 ならば、考えるべきはいつあの愚か者を追い出すか。

 

「今すぐにはできない。であれば、何の準備が先に必要かを考えなければなりません」

「難しいですねぇ」

「お姉さまをわたくしの手元に置き続けるためです。必要な手間ですよ」

 

 ああ、愛しのお姉さま。待っていてください。わたくし以外のあなたに関わる苦難は全てわたくしが取り払ってみせますので。ですので、安心してわたくしに苦しめられていてくださいませ。

 わたくしが最もお姉さまに対しての災厄ですって。いやですね、そんな褒めないでください。わたくし以外がお姉さまを苦しめることは許しませんけれど。

 

「こうなったら、五代家の集まりに関われるようになったのは僥倖でしたね。先に向こうの方を何とかしてしまいましょう」

「つまり、あの水無瀬家を何とかするんですね?」

「……そうでした、それもあるんでしたね」

 

 頭を抱えたくなります。

 あの男ならば、お姉さまの事を愚父にばらされたくなければとか言ってくる可能性が捨てきれません。

 かといって、やらなければならないことが多すぎてわたくし一人では正直手が回らない。ああ、配下の育成というものはこういう時に役立つのですね。私が優秀過ぎるがあまり、なんでも一人でこなせすぎているのがここであだとなるとは。

 ああ、天才というのは孤高なものです。

 

「こうなれば、他の五代家の方の力を借りましょう」

 

 できればやりたくありませんが、水無瀬家が関わってくれば面倒というレベルでは済まされません。

 そうなると、他の五代家の力を借りて抑え込むのが一番真っ当で手間の少ない手段となるでしょう。

 借りを作ってしまうのがデメリットですが、時間が惜しい今ならば十分候補として考えられます。

 そうなれば、どの家に力を借りるのかという話になりますが……。

 

「不知火か、磐城のどちらかになるでしょう」

「その理由をお聞きしても?」

「単純に不知火は水無瀬と仲が悪いのです。同じ水の家である生明ともそこまでですが、当主が変わり次期当主に恩を売れるとなれば話を聞いてはくれるでしょう」

 

 何より、あの家は感情論に弱い。姉を助けるためという名目を携えれば、きっと快く手助けしてくれるはず。

 問題は、お姉さまに懸想している雅人様の家だという点です。

 

「磐城の利点はあるんですか?」

「磐城は中立、調和を重んじる家です。今の当主である愚か者は散々疎まれているでしょうから、話が通じる相手に変わるというのなら歓迎できる話でしょう」

「その言い方、なんか問題ありそうですね」

 

 雪女もわかってきましたね。

 デメリットがなければ、不知火と並べることなどしません。

 磐城にも重大なデメリットが存在します。

 

「磐城は、退魔士界において強さを重んじます」

「紫月様にピッタリじゃないですか。何が問題なんですか?」

 

 これが大問題なのですよ。

 

「おそらく、磐城家当主と関わることがあれば……わたくしの隠している実力が表に出て、準一級の位ではいられなくなるでしょう」

「あー、隠しておける相手じゃないってことですね?」

「ええ。現退魔士界において、最も影響力のある人物と言っても過言ではありませんから」

 

 そうすれば、お姉さまを虐めるために費やせる時間が大幅に減ってしまいます。ある意味本末転倒とも取れる行動になってしまうわけですね。

 

 鋼条についてはよく存じませんので、交渉の余地があるかもわかりません。わからない相手にこちらの手札を開示するのはリスクが高すぎるので弾きます。

 榊原は論外ですね。あそこの家は必要とあらば平気で裏切り行為を行う家です。一番ありえません。まだ水無瀬家に直接乗り込んで黙らせる方が現実的でしょう。

 

 では、どちらを選ぶのかという話になります。磐城か、不知火か。

 

「……決めました。磐城を頼りましょう」

「紫月様、そこまでして雅人さんのこと……」

「違います! こちらにはデメリットだけではなくメリットもあるからです!」

 

 確かに雅人様に貸しを作るのはこの上なく嫌ですが。考えるだけで今すぐ愚父を殴殺したくなるほどに嫌ですが。埋めてしまって何もなかったことにしてしまおうかと考えてしまうほどに嫌ですが。決してそれが理由というわけではないのです。

 

「当主となる以上、一級に位を上げておくのは悪い話ではありません。わたくしとの縁を求めてお姉さまを狙う輩は増えるでしょうし、準一級では舐められるでしょうから」

 

 もちろん、陰ながらその手の輩を黙らせることは可能です。

 ですが、どちらにしてもデメリットを呑む必要があるのであれば、メリットがある方を選ぶのが賢いやり方というものでしょう。断じて雅人様に貸しを作りたくないからではないですよ? 不知火を頼るのが一番快く後腐れもなく終わる方法だとは思いますが、選ばないのは私怨からではないのですよ?

 

「明日学園で真砂様とお話いたしましょう」

「直接話に行くんじゃないんですね」

「お馬鹿。格下の家の者が、格上に話に行くのですよ。いくら当人が当代一の才媛でも、形式というものがあります」

 

 もちろんわたくしが磐城の家の前で本気を出せば話を聞いてくださるでしょうが、そんなことしたらその後がどうなることか。

 忙しすぎてお姉さまとの時間を作れないなどとなったら、それこそ生きている意味がなくなってしまいます。

 可能な限り穏便に。必要以上のことはせずに、事を終わらせるといたしましょうね。

 

 もちろん、今回は本当に穏便に済ませる予定ですよ? あの愚父の今後は知りませんけれども。

 愚母の方はどうしてやりましょうかね。お姉さまに対して干渉が過ぎるようであれば、こちらは亡き者にしてもよいのですが……まあ、終わった後に考えるといたしましょう。忙しくなる今、思考を割くほどの相手ではありませんから。

 肉親の情? 私よりも劣った人物が偉そうにしているだけですのに、沸くと思いますか?

 そういうことです。

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