可哀そうなお姉さまを愛でたいだけですのに!   作:パンデュ郞

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お久しぶりです。また少しずつ投稿再開していきます。
ゆるりとお付き合いくだされば幸いです。


十五

「本当に良かったんですかぁ? 確信、持たれたみたいですよぉ」

「構いません」

 

 自室へと戻り、雪女と共に今後についての話をしています。

 当初の目論見通り、生明の主人となるために磐城の手助けを得ることには成功しました。

 今後わたくしがクーデターを起こしても、これで大きな厄介事は取り除けるということになります。

 

「最悪殺せばいいだけの話です。それに、あまり言いふらす方とも思えません」

「そうですねぇ。まあ、紫月様がよろしいのであれば私は深く追求しませんけど」

 

 冬の死神――雪女の事がバレたのは予定外でしたが、力量の調整はいたしました。一級に割り振られることはあれど、特級まで行くことはないでしょう。

 終わってみれば望み通りの結果に着地できたと言えるのではないでしょうか。真砂様にも知られたのが少し気がかりですけれども……そちらは追々対処するとして、今は愚父を降ろすタイミングについて考えを進めるとします。

 

「お姉さまの婚姻タイミングを考えれば、早い方がよいでしょうね。家の者に手回しするとして……一週間後にはクーデターを実行に移すとしましょう」

「おや、思ったよりものんびり進行なんですね」

「あまり早すぎても混乱を生みます。真の主が誰か浸透させていても、それを外にも知らしめる必要がありますから」

 

 その点は磐城も手伝ってくださるのですけどね。

 実際には過去の愚父の悪事を書類化し、日の下に晒す準備期間というわけになります。

 一刻も早く進めたいところですが、急ぎ過ぎては今後に支障が出ます。いくら望もうとも、やらなければならないことを蔑ろにしてはなりません。

 

「やれやれ、せめてお父様がもう少し当主としての自覚がなければよろしいのですが。最低限の事はこなしてらしてるのが厄介ですね」

「とは言っても、殆ど家令がやってるだけですけどね。しかも、内容紫月様にバレバレですし」

 

 何なら私が指示を出して方針を固めて処理をしている面もありますとも。今も実務面での支配者はわたくしです。

 ですが、実際に印をしているのはあの愚父。外様に名が知れているのはあの愚父なのです。

 

「安定した状態でこの家を継ぐのは必須条項。こちらに関しては、少しばかりも妥協は許されません」

 

 これはお姉さまを他家に渡さないために必要な条件ですので。欠片も妥協するつもりはございません。

 ですので、お姉さまが嫁ぐまでの時間を存分に活用させていただくといたしましょう。せっかく二か月と相応の時間を作ってくださったのですから、使わないのは失礼というものです。

 

 さてはて、それでは書類の作成に移るといたしましょう。必要なのは告発文となります。

 具体的な内容なども、残しておいた資料を参考に記しつつ、一つ一つ過去の出来事に紐づけながら記し上げます。この家で最も情報が漏出しにくいのはわたくしの部屋ですからね。他のものにやらせるのではなく、わたくしの手でやることが最も確実な手段なのです。

 

 ないとは思いますけれども、万が一に裏切られたときのことも考えれば、なおのこと。妥協できない、失敗が許されないところはより確実な手段を選ぶのが世の常というものでしょう?

 

「雪女、資料を開いて待機しなさい」

「はいな」

「手前の棚、上段から二つ目、右から三つ目の資料の七十九ページを」

「わかりましたよーっと。えーと、ここかな?」

 

 ちょうど使える手があるのを忘れていました。たまには有効活用するとしましょう。

 この雪女、普段あまり手伝いはさせないのですが、今は効率の方が優先されます。

 なぜ手伝いさせないのかってですって? それはまあ……単純に不器用だからですよ。

 

 ページを開かせて立たせてるぐらいならよいですが、まあ、今わたくしが行っているような書類の作成作業なんかは到底任せられませんね。

 今のところ困っていませんが、将来的に手先となる式を増やそうかは常々考えていることです。

 そのような形で、目立った邪魔もなく、スムーズに作業が進みました。改めて出来上がった書類の束を見ると、我が肉親ながらよくもここまで堕落したものだと、感心すらしてしまいますね。

 

「やれやれ。これらが無策なまま世に出れば我が家も終わりですね」

「改めてみると凄い量ですね。この短時間にこれだけ手書きする紫月様も凄いですが」

「淑女の嗜みですよ。お姉さまを思えばこの程度労力にすら入りません」

 

 電子機器を用いないのは、単純に呪力による改ざんにあまりに無力だからです。

 直筆で、呪力を込めながら書いた文字には筆者特有の証が残る。筆跡だけならず呪力も込みなので、非常に高い信用性を担保できます。まあ、その分匿名性は皆無ですけれども。

 文字を動かすだなんて術もありますからね。今回は匿名性よりも、身内からの告発ということで心証を買いに行くとしましょう。

 

 さて、次は記した内容の確認をしましょうか。万が一にでも無実の罪が混じっていれば、一気に全体の信ぴょう性が薄くなってしまいますので。

 ここは手を加えるだけ得というものです。それに、見直してる最中にも呪力でコーティングしておきましょう。二重の防壁ということで。

 

「紫月様」

「……作業中ですよ」

 

 そうやって資料を見直している最中、珍しく雪女から話しかけてきました。

 私が作業中に邪魔されることを嫌っていると知らないとは思いません。知っていてなお、話しかけてきたと思うべきでしょう。

 ですので、猶予は上げましょう。

 

「ええ、わかってます。でも、言いたいことがありまして」

「……いいでしょう。休憩にしてあげます。それで、何ですか」

 

 ふと時計を見てみれば、既に結構な時間が経っていました。

 ふむ。大した用事でなければ、ご褒美にならない程度でわからせておこうと思いましたが、キリが良かったと思うことにいたしますか。

 

「はっきりと聞きます。今、紫月様は無理をされてますよね? あまりに呪力の使い過ぎです」

「何を――」

「私に隠せるとお思いですか。憑依霊装が術者にどれほどの負荷がかかるのか、理解できないはずないじゃないですか」

「…………」

「一週間。それ、調子が戻りきるまで様子を見るのも含めてなんですよね。それほどまでに、今の紫月様は消耗していらっしゃる」

 

 ……普段は馬鹿みたいに見える癖に、こういう時ばかり鋭いんですから。参ったものですね。

 確かに、憑依霊装は通常の術に比べて術者に多大な負荷をもたらします。かといって、わたくしほどであれば大した影響はありません。万全を期したいというのは事実ですが。

 

「あなたが思っているほどではありませんよ」

「生明日和のためですよね」

「……雪女。口を慎みなさい」

「私の主は紫月様で、それ以上に優先するべきことはありません。もしも彼女のために紫月様が無茶をするのならば、私は彼女をころ――」

 

 その場で、即座に立ち上がり、わたくしは雪女の首に手をかける。

 首を絞めた程度で妖たる雪女は死なない。だから、呪力を腕に込める。それこそ、この場で祓うぐらいの呪力を込めて。

 雪女は強い妖です。ですが、わたくしの式ということは、調伏したことがあるということ。即ち、わたくしよりも直接戦闘は劣っているという事実に他なりません。

 

「口を慎めと言いましたね?」

「うっ、ぐっ……。なら、教えてくださいよ。私にも教えてくれてないですよね。紫月様が、日和様にそこまで執着する理由を」

「お前の納得に、何の価値がある」

 

 ギリギリと、この手で雪女の首を絞める。雪女も必死に抵抗しようとしますが、式である以上本気で逆らうことは許されない。そういう契約で縛られていますから。

 

「はぁ。今回は許して差し上げましょう。次はありませんからね」

「ゲホッ、ゴホッ」

「ああ、ついでに一つだけ教えてあげます。二度も同じことをするのは手間ですからね。光栄に思いなさい」

 

 毎回式に下らない反逆をされるのも不愉快です。釘を刺しておきますとしますか。

 

「もしも人が生きるのに理由が必要だとするのならば――わたくしにとってのそれは、お姉さまです。それを肝に銘じなさい」

「それは、つまり、日和さまがもしも死ぬようなことがあれば――」

「――極めて不愉快な仮定ですが、答えて差し上げましょう」

 

 雪女の首を絞めたことで軽く強張った手をほぐすように軽く手を振りながら、地面に崩れ落ちた雪女を見下ろして宣言します。

 

「そんな世界、さっさと滅んでしまえばいい」

 

 わたくしだけの、あのキラキラがない世界の存在を、わたくしは許容しない。

 それが、わたくしの生きる意味であり、生きている理由なのですから。

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