可哀そうなお姉さまを愛でたいだけですのに!   作:パンデュ郞

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 その日の夜。わたくしは自室にて雪女を待ちます。

 お姉さまはとっくに帰ってきているというのに。あの式とくれば、何とお姉さまと一緒にいないではありませんか。お姉さまの一挙一動を全て記憶して報告するように厳命したのにも関わらずですよ?

 これは折檻。折檻をしなければなりませんね。

 

 っと、来ましたか。

 さらりと雪の粉を散らしながらに、彼女は部屋の一角に姿を現しました。

 僅かに驚きで眉を上げてしまいます。何があったのか、雪女の服は所々焦げ、髪もちりりと痛んでいるのが見て取れるではありませんか。

 

「遅いですよ雪女」

 

 まあ、心配はしないのですけれども。わたくしの式なので。

 

「許してくださいよ紫月さまぁ。こっちは酷い目に遭ったんですからぁ」

 

 雪女も心配されるだなんてさらさら思ってない様子ですね。大変よろしいこと。

 酷い目、ですか。見ればなんとなく察しられますが、お姉さまを追うだけでそんなことが?

 仮にもわたくしの式である雪女が言うほどとは。これは聞かねばならないでしょう。

 

「詳しく話してもらえますか?」

「わかりましたよぉ」

 

 そうして語られる話は、これまた驚きに溢れたものでした。

 

「まずは、屋上で日和様と二人っきりになったんですよ」

「お姉さまはあの後何を?」

「紫月様の心配をしながら、落ちたご飯食べてました」

 

 流石はお姉さま。食材を無駄にしないという気概を感じます。

 素晴らしい心がけです。わたくしも見習いませんと。

 ……落ちているものを食べるのに慣れ過ぎているのは、そろそろ何か対策を考え始めなければなりませんね。

 今後はそのようなことがないように家の者に注意しましょう。

 

「その後は、『あの人にも教えてあげなきゃ』って仰って、旧校舎に向かったんです」

「旧校舎へ?」

「はい」

 

 おかしいですね。旧校舎は基本的に立ち入り禁止。お姉さまもそのことはご存じのはず。

 お姉さまが積極的に校則を破るはずがありません。会いに行った相手に何か唆されたと考えるのが自然でしょう。

 よくもお姉さまを悪の道に……っ!

 

「その怒りはちょっと理不尽だと思いますよ?」

「何か、仰って?」

「失礼しました。続けますね」

 

 最初から黙ってればいいものを。雪女は一言いつも多いのですから。

 

「で、私も後ろからついて言って旧校舎に向かったんですよ」

「当然ですね。そこで何を?」

「私だけ入れませんでした」

「はい?」

「日和様だけ中に入って、私は中に入れませんでしたぁ!」

 

 入れなかった? お姉さまは入れたのに、雪女は弾かれたですって?

 それはつまり……。

 

「結界、ですね?」

「はい。他に入れそうなところ探したんですが、どうにも旧校舎全域に結界が張られてたみたいでして……」

 

 雪女を弾くとなると、相当高位の結界。それを旧校舎全体に?

 そんなことができる退魔士は非常に限られています。もちろんわたくしはできましてよ。

 

「それで、おめおめ逃げ帰ってきたと?」

 

 ですが、高々それだけのことで逃げ帰るようでは、わたくしの式としては不合格と言わざるを得ません。

 

「いやいやいやいや! それだけじゃないんですって!」

 

 睨みつけてやると、雪女は両手を小刻みに振って必死に否定の姿勢を見せるではありませんか。

 そこまでするなら続きを聞いて差し上げましょう。

 

「私だってただ逃げ帰ったら紫月様が怖いですもの」

 

 本当に、一言多いですねぇ。

 でも、まだ手は出しません。話を聞き終えてからです。事を行うのは、それからでも遅くはありません。

 

「結界を破ろうとしたんですよ、そしたら雷を纏った狐が現れて、襲い掛かってきたんです」

雷狐(らいこ)が現れたのですか」

 

 雷狐。それは妖の一種で、雷を操る能力を持っております。

 能力も酷似していることから雷獣の一種とされ、その位の高さがわかります。

 妖としては上級に相当し、退治するならば一級の退魔士が二人は招集される相手になります。

 

「それで、逃げ出したと?」

「勘弁してくださいよぉ。私に学園内で戦えって言うんですかぁ?」

「なるほど、それは賢明でしたね」

 

 わたくしの式であるならば、雷狐相手と言えど負けることは許しません。が、学園内で式が戦ったと知られれば立場が不利になるのはわたくしの方。

 せっかく築き上げた優等生のイメージが崩れてしまうのは、中々困ってしまいます。

 学園内では、学業以外での式を用いた争いや、情報収集は表向きには禁じられておりますの。

 雪女はわたくしの式として有名ですので、騒ぎにしなかったのは良い判断です。目撃されれば、違反行為としてわたくしのキャラクター像に罅が入ってしまいます。

 まだ評価を下げるわけにはいきませんもの。

 

「で、今に至るということでよろしくて?」

「はい。散々逃げ回った結果、撒くのに時間がかかって……」

「同情を誘うような素振りをしても無駄ですよ」

「うぅ、うちの主人は血も涙もない……」

 

 別に雪女相手だからであって、仮にお姉さま相手でしたら……興奮するだけかもしれませんね。

 あら、そこまで否定しきれてないかもしれませんわね。

 それはそれとして、主人に対しての物言いではないので雪女は折檻する必要がありますけれども。

 

「内容はわかりました。雪女、そこに四つん這いにおなりなさい」

「えぇ! こんなボロボロになっても言いつけを守ろうと頑張った式に対して、言う事がそれですか!?」

「ええ、四つん這いに、おなりなさい」

 

 有無を言わさぬよう、ゆっくりと言い直せば、雪女はその場にしな垂れるように倒れこんで見せました。

 

「よよよ……、主人の要望を達しようと頑張ってみればこの仕打ち」

「雪女」

「はい」

「早くしなさい」

「はい」

 

 二度は言いません。

 嘘泣きも即座に止め、四つん這いになる雪女。眼が死んでる気がしますが、まあ良いでしょう。問題は何一つとしてございません。

 椅子から腰を上げ、雪女の上に腰を掛けなおします。

 こら、雪女。わざとらしく喘ぎ声をあげるものではありませんよ。

 

「えへ、えへへへ……」

「まったく。わざとではないでしょうね」

「わざとな訳ないじゃないですか! 私の忠誠心を疑うんですか!」

 

 ため息を一つ。大変調子のよろしいことで。

 

 ええ、雪女は中々に困った気質があります。

 それは被虐性愛。なんと困ったことか、私に虐げられることに興奮する性質なのです。

 別に私はお姉さま以外が苦しんでいても何一つとしていい気はしないので、これは完全にご褒美目的です。

 

 え? 口では嫌がってた様子だったと?

 あれはその方が興奮するとかで、自発的にやっているのです。付き合わされるこっちの身になれば、滑稽なお芝居だことと言わざるを得ません。

 

 ですので、私が雪女に行う折檻というのは、俗に言う放置プレイというものですね。雪女は寂しがりやでもあるので、構ってあげないと大変嫌がるのです。外聞が悪いですし、気分も悪いのであまり積極的にやりたいわけではありませんけれど。

 式は式。主人は主人。調子に乗らせるわけにもいきませんので。

 

「わたくしのお姉さまに対する仕打ちを趣味が悪いと言っておきながら……」

「それは、だって嫌がってるのに可哀そうじゃないですか!」

「あなたは喜ぶから良いのだと?」

「ええ! その分もっともっと私にお願いします!」

 

 ため息をもう一つ。まったく、どうしてこんなものを式にしてしまったのでしょう。

 

 他の式を作りましょうか? いいえ、あまり式を作りすぎるのも、わたくしの力の分散となるのでよろしくありません。

 雪女も決して不出来ではありませんし……。

 妥協が肝要、ということでしょうか。本当に、どうしてこうなってしまったのでしょうか。

 

「ただまあ、よくやりました。おかげで、お姉さまに手を出してる悪漢の正体がつかめました」 

「え? わかったんですか?」

「ええ。選択肢として、他にはいないでしょう」

 

 相手としては厄介な相手ですね。

 旧校舎全体を包む雪女を阻むほどの結界を作れ、雷狐を式として持つ退魔士。学園関係者で、そんな人はたった一人しかいませんもの。

 だとすると、本当に厄介なことになりましたね。これは、明日学園で直々に話に行く必要があるでしょう。

 

 ああ、何か策や状況を整えてからにするべきでしょうか? けれども、時間が経てば外堀を埋められてしまう可能性もあるでしょう。

 現状、生明家の当主は愚物。外堀を埋められれば、今のわたくしの立場では決定を覆すのは難しいのは事実ですもの。

 

 

「で、一体誰なんですか?」

「それはですね――」

 

 退魔士五大家の一角、不知火(しらぬい)家の一人息子。

 不知火雅人(まさひと)。その人に違いないでしょう。




お嬢様言葉に苦戦させられてます。
お嬢様らしい言葉遣いとか、雰囲気壊さないようにする単語とか難しいよ……
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