さてはて、五代家の方々が揃いました。
授業中だというのに、お姉さまの事がよほど重要だと伺えますね。
当然でしょう。正直、学業なんて我々良家の人間にとって復習以外の役割はありませんもの。
「それじゃあ、急遽集めた理由を改めて聞こうかな。不知火」
一見すると爽やかで知的に見えますが、実は女癖が悪いことで有名。万が一お姉さまを預けるにしても、この人だけはあり得ないと断言できる相手ですね。
「わかりきったことを聞くな。水無瀬、お前の悪い癖だ」
この方に関してはあまりわたくしが知っていることはありませんね。謎に包まれた人物、と言えば聞こえは良いでしょうが、目立った実績がないとも言い換えられます。
「まあまあ、そう突っかからないで。最近僕たちも衝突しがちだったからね。むしろ、ありがたいことなんじゃないかなって思うんだ」
温和な見た目に惑わされることなかれ。上手いこと状況を自分有利に運ぶことが得意な、政治寄りの人材。この場で最も注意するべき人物でしょう。
なにせ、わたくしが恐れるべきは実力行使ではなく、そのような場を作られることなのですから。
「何にしても。問題はこの場所をご存じの方が増えることですわ。不知火は何を考えてますの?」
この方を知らない方は学園内にいないでしょう。学園の顔役として、既に退魔士として一線級の活躍している方です。既に一級退魔士の位を得ており、単純な戦闘能力では雅人様と並んで突出していることでしょう。
既にこの場での立ち居振る舞いから強者の余裕が滲み出ております。
五代家の方々が揃い踏み。各々好き勝手な席に座ってますね。一定の距離を取っているあたり、決して仲が良いわけではないのでしょう。
それと、お姉さまはそろそろわたくしを離してくださいませんか? 手をつなぐだけ? それならば、まあ……。
「しょうがないだろ。そこらの雑多な家ならともかく、生明は名家だ。更に言えば――」
雅人様は頭を掻きながらこちらを見てきます。
何でしょうか? 微笑んで差し上げれば苦虫を嚙み潰したような顔をされたではありませんか。失礼な。
「この中で、一年次から準一級の認定を受けてたやつはいたか?」
雅人様の発言により、ある程度緩んでいた場の空気が一気に引き締まります。
ああ、そうなりますのね。確かに、そうなりますか。
わたくしがお姉さまの裁定を求めた場に口出しするということは、生明家はある程度お姉さまの行く末に興味があるという事。即ち、現在退魔士界にて有望株として名が挙がるわたくし、生明紫月もその趨勢に関わるのだと。
因みに学園の一年次に準一級認定を受けた退魔士は過去に三名しかおりません。もちろん、わたくし含めてです。
彼らからすれば、ただでさえ大きかった得物がさらに大きくなった状況。リスクは上がりましたが、リターンも相応以上に上がったと。
笑わせてくれますね。
「この中で最も早い段階で準一級の認定をされたのは私ですわ。ですが、二年次の頭でしたわね」
「ああ、そうだ。つまり、生明家は決して俺たちの一存でどうにかできる相手じゃないってことだ」
視線が一瞬にてわたくしたち二人に注がれます。
あらあら、先輩方揃ってそんな険しい表情をなさって。実に愉快ですこと。
持たざるものの嫉妬ですか? 五代家ともあろう方々が、随分器の小さいことですね。
「……えっと、生明さんでいいのかな? あっ、でもそれだとお姉さんと混ざっちゃうか、それじゃあ紫月さんでいいかな?」
「紫月で結構です、蒼真様」
「ありがとう。僕も蒼真でいいよ」
「いえいえ、五代家の方、それも先輩を呼び捨てだなんてできません」
「なら、蒼真先輩で。どうかな?」
「では、僭越ながらそう呼ばせていただきます。蒼真先輩」
軽いジャブを交わしながら、やはり最初に声をかけてくださるのはこの方でしたわね。榊原蒼真。
さあ、あなたは一体何を見せてくださるのでしょうか?
「紫月ちゃんは、どうしてこの場に来ようと思ったのかな?」
「……それ私の呼び方なのに」
お姉さま? 小声でしたが聞こえてましたよ?
「生明家の治癒術師が、我が家の意向を抜きにして今後の趨勢を左右されようとしている。これに口を出さないことがあるとお思いですか?」
「いや、ね。生明家では生明さん――あー、日和さんは冷遇されているっていう噂があるぐらいでさ」
――ふむ。
「初耳だな」
「鋼条さんが知らなくても仕方がないよ。結構内々の事で、外には知られないようにしていたみたいだから」
それぞれの様子を見るに、この話をご存じだったのは榊原家と、磐城家。生明家は水の家系ですので、水無瀬家も当然存じていた様子ですね。
雅人様はまあ驚いた表情をなさって。お可愛らしいこと。
「根も葉もない噂話ですね」
「それにしては……知ってた人が多いみたいだけれど?」
なるほど。まずはわたくしとお姉さまの繋がりを断とうという試みですか。
状況から見て、腹の底がわからぬわたくしを一旦外に追いやるために。
面白い。面白いですね。
「では、当人にお聞きしてみましょうか。お姉さま? 如何でしょう?」
私の返す手は単純です。あら、意外でしたか? そんな顔をなさって、らしくないですよ?
お姉さまは少し上を見上げて、考える様子。
結論が出るのはそこまで時間はかかりませんでした。
「――ううん、そんなことはないかな」
「そんなっ! 本当に? 脅されてるとかなら、幾らでも手助けを――」
「そんなのじゃないって。蒼真君、心配してくれてありがとう」
彼の中では、裏打ちされた情報に基づく確信ある行動だったのでしょう。
でも、お姉さまがそもそも家族に認められたいという欲求を持っていることを軽視してましたね。
もしここで頷けば、わたくしたちと引きはがされることは畢竟。そんな選択肢をお姉さまが選ぶはずがございませんもの。
「どうやら、誤解だと理解していただけたようですね」
「そのようですわね」
「だな。蒼真、お前らしくもない」
「……そうだね。ごめん、浅慮だったよ」
大人しく引くこともできると。偉い偉い。
さて、そろそろずっと黙っている尚次様のお相手をしましょうか。
「ずっと黙ってらっしゃる尚次様は何かご意見はございませんの?」
「僕かい?」
「ええ。ずっと何か言いたげな表情で黙ってらっしゃるので。何かあれば、是非伺いたいなと存じまして」
この男であれば、何か物的証拠を用意することも可能でしょう。先ほどのお姉さまの言葉が強がりの嘘であることも証明できたはず。
ですのに、沈黙を保っている。何か企みがあると思うべきです。
顎に手を当てて、わざとらしく考えて見せるのは何のポーズなのでしょう。
もしかして、格好いいと思ってやってらっしゃるのでしょうか。だとすれば、思った以上に痛々しい方ですね。
「んー、そうだね。僕は紫月ちゃんの言うことはもっともだと思うよ?」
「ほう」
「将来有望な妹がいて、治癒術師が近くにいる。うん、他の家に簡単に渡すわけにはいかないよね。駆け引きに使うとしても、自分の家で活躍させた方が遥かに利益が勝る」
一見すると、わたくしの主張を肯定するだけの言葉。
ただ、それだけではないのでしょう? その眼が物語ってくださってます。
「でもさ」
――ほら。
「本当に一年次の子が準一級なんてあり得るのかなぁ。それも、姉が治癒術師だなんて、できすぎていると思わない?」
ああ、本当に。
水のように染みわたる言葉ですね。
「では、水無瀬は紫月さんの認定が偽りのものであると主張なさるの? それは無理があるのではなくて」
「というと?」
「退魔士の位の認定は、公式の機関が行うものです。生明家と言えど、五代家ですらない。位の偽りなどできるはずがありませんわ」
真砂様のご指摘はもっとも。
ですが、それすらもこの男は捻じ曲げるでしょう。
「でもさ、冷静に考えてみて? 一年次だよ?」
ほら、止まらない。
「真っ当な実績も積む余地もない、その猶予もない。ああ、確か人型の式神を従えてるんだっけ。それで潜在能力を買われたのかな?」
「潜在能力だけで認定されるほどその位は軽くは――」
「そうかな? 少なくとも、治癒術師の隠ぺいをする家ではあるんだ」
そこを突かれると痛いですね。実際のことですから。
「なんかしら他人の成果を、ちょっと有望な娘に与えて見栄えを良くする。なんて、あり得るんじゃないかなぁ」
演説をするように、五代家の方々に呼びかけて、満足げに笑う。
いい、実にいいですね貴方。その心は、格下の家、それも女風情が持てはやされていて気に食わないといったところでしょうか。
実に――そそられる。
「紫月ちゃんはそんな――」
堪らず言い返そうとしたお姉さまを、片手をあげて制します。
文句を言いたげな表情。ですが、ここはお姉さまに差し上げるわけにはいきません。
だって、久しぶりなんですもの。一年には、もはやこういう方はいらっしゃいませんから。
「では、どうかご教授いただけませんか?」
「――なんだって?」
あら、言い返されるとは思ってなかったご様子。それとも、本心で仰っていたのでしょうか。
だとすれば、なおの事素晴らしい演説でしたと褒めたたえて差し上げましょう。
「僭称者たるわたくしに、
わたくし、あまり気が長い方ではございませんのよ。