仲間に死んで欲しくないから追放して一人でラスボス倒しに行く英雄vs自己犠牲を絶対に許さない仲間たち   作:宇後筍

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その呪いの名は愛

 

 ナリアの民が救われることなどないと知っていた。骨の髄まで思い知っている。自分たちは血の一滴まで、髪の一本まで『呪われ』だ。

 

 サティアは森を駆けながら自嘲する。今も耳に木霊するのは年端もいかない小僧の声だ。びりびりと震えるような大声で怒るあの少年は、きちんと逃げているだろうか。

 

「……追いかけてきているのだろうな」

 

 速く。もっと疾く。あの純朴な、我が身の呪われも知らぬ腹立たしい小僧が諦めるほどに迅く。

 

 サティアはもう諦めたのだ。いいや、残り少ないナリアの民の全てが諦めている。生まれてこの方呪われていないときなどない。いっそ安心するくらいだ。呪われていれば、己が疎まれていることにもすべて納得がいく。

 

 背から得物を抜き放つ。『真榊の剣』の力で邪悪な気配を感じる方へ進み続ける。

 

 霧に侵された魔獣が一匹現れる。斬り伏せる。霧から生まれたモンスターが二匹現れる。斬り伏せる。三、四、五——どんどん増えるが、ものともせずに進んでいく。

 

「ふ、ふふふふ。あは、あはははははは!!!!」

 

 数刻も経たぬうちに軍勢の只中に突入したサティアは、その神より授けられた大剣で雑兵を撫で斬りにしながら懺悔する。

 

 認めよう、己の罪深きを。嬉しいのだ。やっと死ねる。きっとガリアンやタップはこの死を悼むだろう。

 

 この世の絶望など見たこともないという顔をしたあの甘ったれは、この呪われの死に祈りをくれるだろう。

 

——ああ、そのためになら。誰かの心の片端にこのような人間がいたと、そう残してもらえるのなら。

 

 死ねる。

 

 ここで死ぬ。

 

 ここが我が人生の終着点。

 

 斬り捨てた魔獣の血が跳ね返り頬を伝う。穢れをおびたそれが、じゅっと音を立てて浄化される。

 

 『恩寵装備(ブラスファマス)』。遺跡などで見つかるその神秘を帯びた武具は、人を選ぶ。資格のない者が触れるとその体は拒否反応を起こす。一度身に付けようとすると、場合によっては重篤な反応により死に至ることもある。

 

 なぜ人を選ぶのか、どこからその装備が来たのか——学者はあれこれと説を唱えては遺跡の発掘や調査に執心しているが、その貴重な適合者のサティアにとってはそんなことに興味はない。

 

 この武器は霧を祓う。この武器はよく斬れる。この武器は刃こぼれしない。この武器を持っていると疲れない。

 

「〝かけまくもかしこき さうらのおおかみ〟」

 

 この祝詞の意味など知らない。なぜ身に付けると脳裏に浮かぶのか、それを唱えるとなぜ強力な力が与えられるのか。そんなこともどうでもいい。

 

 百は斬った。未だ意気軒昂。

 

 とうとう辿り着いた、軍勢の真ん中。

 

 目測で全長八メートル。翼を持ち、石のように硬く、邪悪に吊り上がった相貌には赤い石が瞳代わりに嵌っている。手足には鋭い爪があり、その一本一本がサティアの持つ大剣と同じだけの大きさを持つ。

 

 悪魔——樋嘴(ガーゴイル)

 

 

「〝もろもろのまがごと・つみ・けがれあらむをば〟」

 

「ギ、グググ、人間ダ。マダイタノカ」

 

石造りの口が臼が擦れ合うような音を立てる。その瞳が、お気に入りの遊び道具を壊す幼子のような残酷な色を宿す。

 

「〝はらへたまひ きよめたまへ〟——『真榊の剣』!!」

 

 緑玉の煌めきが森を照らす。自ずから発光するその剣は喜ぶように瞬いた。

 

「さあ、さあ、さあ!私を殺せ!殺してみせろ!!」

 

 夜霧に覆われた森が沈黙を破る。素振りの一つで清冽な風切り音が空を裂いた。緑玉の輝きを帯びたその剣は、まるで星明かりを纏ったかのように淡く光りを放ち、暗闇に包まれた森を一瞬鮮やかに染め上げる。

 

「行ケ」

 

 獣の咆哮が夜を震わせる。無数の魔獣が闇の奥から目をぎらつかせながら迫り来る。霧に侵され歪んだかたちをした醜悪な生き物たちは爪を振り上げ、牙を剥き出し、狂ったようにサティア目掛けて突進してきた。

 

 サティアは大地を蹴った。銀鎧が金属音を立て彼女の姿が一瞬で数歩分前進する。『真榊の剣』を持つその腕が優雅な弧を描くと、一匹目の魔獣の首があっけなく宙を舞った。赤黒い血が噴き出しその生暖かい滴がサティアの頬を撫でる。悪臭が鼻をつくが気にも留めず、彼女は次の敵へと向かう。

 

 また一匹が襲いかかる。サティアは体を沈め、相手の爪が空を切った直後に低く踏み込み、その胴体を深く裂いた。返す刃で背後から忍び寄った別の魔獣の頭を叩き割り、息つく間もなく次々と湧き出す敵を迎え撃つ。

 

 樋嘴(ガーゴイル)は翼をはためかせると中空で停止した。軍勢とともに急襲するような様子はない。まるでショーを愉しむようにサティアを眺めている。

 

「サッキ殺シタ連中ヨリモ強イナ」

 

「そうか、貴様もそこらの石ころよりは強そうだ」

 

「ククク……オ前ヲ落トシタラドンナ顔ヲスルカ愉シミダ」

 

 数が多すぎる。殺しても殺しても新手が現れ、彼女を取り囲む。その視界は血と汗で霞んでいくが、サティアの呼吸は逆に整っていた。心の底から浮かび上がる一つの覚悟が彼女の意識を研ぎ澄ませている。

 

「……来い。全部まとめて、私が終わらせてやる」

 

 淡々と呟くその声には感情がない。ただあるのは、凍えるような決意だけだ。やがて敵の数が十を超え、二十を超え、そして三十に及ぶ頃には、彼女の周囲は魔獣の骸が築いた山のようになっていた。

 

 その時だった。

 

 空気が重く震え、一帯の闇がさらに深くなっていく。次の瞬間、巨大な影が上空から舞い降り大地を揺るがして着地した。樋嘴だ。

 

「ニンゲン……モウ疲レタカ?」

 

「いいや?貴様の弱兵では肩慣らしにもならん」

 

 その擦れ合う石臼のように耳障りな声には冷笑が混じっているように聞こえた。だがサティアはそれを冷たく笑い、剣の切っ先を正確に悪魔に向ける。

 

 樋嘴はその態度に気を悪くしたのか、怒りを孕んだ唸り声を上げ巨体を前傾させた。サティアは低く身構え、敵の動きを冷徹に待つ。やがて樋嘴が咆哮を上げ、巨体を弾丸のごとく突進させてきた。

 

 大地が揺れる。サティアは横に飛んで辛うじてその攻撃を回避すると、鋭く一撃を繰り出した。剣の切っ先が悪魔の表皮を擦り、火花が飛び散った。樋嘴が苛立ったように翼を振り、鋭利な風圧が彼女を襲う。サティアはその衝撃に耐えながら、なおも剣を掲げる。

 

「こんなものか——?」

 

 死ぬ。

 

 おそらく勝てない。

 

 サティアは挑発的に笑む。しかしそれが虚勢に過ぎないことを、彼女自身が一番よく分かっている。

 

 再び大地を蹴り、風を切って悪魔に挑む。目まぐるしい攻防の中で、樋嘴の翼が彼女の頭上を掠め、長大な爪がギリギリのところで鎧を引っ掻く。簡単に鎧は裂け、血が飛び散る。

 

(こちらの攻撃はまるで通じず、あちらからは掠っただけで痛手を与えられる)

 

 悪魔と人間。残酷なまでの性能(スペック)の差が厳然と横たわっている。

 

 しかし、それでも。傷を負いながらサティアは反撃の機会を伺い続けた。

 

 二十分、この攻防は続く。サティアの鎧はもはや身を守る機能を失い、出血のない場所など一つもないほどの満身創痍であった。

 

「シツコイナ……イイ加減、死ネ」

 

 やがて一瞬の隙を見つける。苛立った樋嘴が再び翼を広げ、大きく旋回しようとした瞬間——サティアは深く息を吸い込み、全ての力を足に込めて跳躍した。

 

「はああああッ!」

 

 狙うは翼。ただ斬るのではなく、継ぎ目を断つ。

 

 上空へと跳び上がったサティアは、頭上から振り下ろす一撃で悪魔の翼を深く切り裂いた。黒い血が霧のように舞い、樋嘴が苦痛の絶叫を上げる。

 

(殺っ——まだだ!!)

 

 着地したサティアはすぐさま追撃の構えを取る。痛みに呻く悪魔はすぐさま体を起こし、憎悪を込めて彼女を睨みつける。赤い瞳が邪悪に輝き、魔力が爆発的に膨れ上がっていく。

 

「GrrrrruuuAAAaaaaa!!!!」

 

 次の瞬間、想定を超える速さで悪魔が巨大な翼を振るい、サティアの予測を超えた軌道で彼女を打ち据えた。

 

 石壁が迫る。衝撃が全身を襲い、彼女の身体は無慈悲に吹き飛ばされる。鎧が悲鳴を上げてへしゃげ、激痛が彼女の意識を白く染め上げた。サティアは地面を転がりながらも歯を食いしばって立ち上がろうとするが、意識が朦朧として体が言うことを聞かない。

 

 焦点が合わない。石のようなものが見える。あれは——何だっけ?

 

 森、見張り、パン、副団長、任務、全滅——悪魔。

 

 消失しかけていた意識が復元し、目の前にいる巨大な石の塊が悪魔であることを認識した瞬間、それは眼前にあった。

 

 槍——否、爪。

 

 死————。

 

 避けようもない距離。朦朧とした意識から覚醒した直後の、全くの無防備な状態。指の一本を動かす前に死ぬ。加速した思考の中、サティアには何の手も遺されていない。

 

(ここで終わりか——片翼を断てたのは良かったな)

 

 どん、と音がした。そのあとにぐちゃり、と取り返しのつかない何かが貫かれて潰れる音がした。

 

 痛みは来ない。なぜか。サティアの眼前に答えはある。思考が追いつく前に絶叫が喉が迸った。

 

 

「あ、あああ——あああッ!!ああああああああッッ!!!!」

 

 

 ガリアンが、胸を貫かれている。

 

 

 長槍にも見紛うような巨大な爪がまだ年若い男の体を貫通している。胸からは今気付いたように血が溢れ出し、あっという間に森を血で染める。

 

 

 そこから、サティアは超人的な動きで樋嘴を仕留めた。石を砕き、悲鳴を上げるそれの首に大剣を叩きつけたことをぼんやり覚えているのみで、そのときどう体を動かしたのか、何を見てどうしたのか、それをサティアは覚えていない。

 

 悪魔を、それも言葉を話すような上位のそれを討伐するなど、騎士としての誉れであろう。蔑まれていたナリアの民の地位向上すらも夢ではない偉業である。

 

 しかし、サティアはそれについて今何の感慨も覚えていない。

 

 他人事のように覚えているのは、喉よ枯れろと獣のように叫ぶ己の声と、顔から血が引いていく冷たさ、そこに伝う何か温かいもの。ガリアンの血のにおい。

 

 ガリアンが死ぬ、という恐怖。

 

 そして一拍。脳髄に閃いたひとつのアイデア。そして己を見下さず、恐れず、己の境遇に憤ってくれた少年に生涯恨まれることとなる、その覚悟。

 

 

「砂にする」

 

 

「何を言って——?そうか!」 

 

 独り言のつもりだったが、タップもそこにいたらしい。サティアには最早周囲の状況に気を配る余裕はない。

 

「臓は潰れていない。しかしこの傷だ。このままでは血が失せて死ぬ」

 

「ガリアンを救えると、患部だけを砂に変えることが出来れば出血を止められると、そう言うんだな?」

 

「そんなことはやったことがない。だが、出来ねばこいつが死ぬ」

 

「やってくれ、頼む!」

 

 悍ましいと恐れるがいい。人でなしと蔑むがいい。ナリアの民は人喰いであると、そう喧伝されて構わない。

 

 この目の前で死にかけている、世界で一番気に食わないこの男を救えるのであれば、この世すべてが敵になってもいい。

 

 穴の空いた胸に口を近付ける。騎士の誓いには程遠い、獣のような四つ這いだ。

 

——ああ、我が身は罪深い。

——だが、この呪われにどうかこの一時、赦しを。神よ。

 

——この男を死なせ給うな。

 

 この男を今から喰う。血を啜り、肉を喰らう。

 

 産まれてからずっと抑えてきた飢えを、はじめて意識して解き放つ。

 

 静かに血が砂になっていく。次に傷口が砂になっていく。

 

(ここで——止まれ!!)

 

 欲を抑える。傷はすべて砂に変えた。初めての試みで上手くいった自信などどこにもない。

 

 しかし——それでも。

 

(生きてくれ——ガリアン)

 

 願う。サティアはこれほどに真摯に祈ったことがない。神に赦されたいと思ったことはない。

 

 

 

「ああ、ああ……嘘だ。そんな……そんな…………」

 

 

 しかし。

 

 現実は無情である。

 

 ガリアンが砂になっていくことは止められなかった。胸に留まらず、腹も砂になっていく。その速度はゆったりとしたものであったが、しかし彼の消失を決定づけるものだった。

 

「駄目か……」

 

 タップが唇を噛み切りながら悔しげに瞑目する。サティアは滂沱の涙を流しながら絶望した。

 

「やはり——私が何かを望むべきではなかった。私が、私のような呪われが関わったから彼を殺したのだ。か、彼が私に笑いかけるから——勘違いをしてしまった。笑ったり、喜んだり、楽しんでもいいのかもしれないなんて思ったから——ガリアンを殺してしまった……」

 

 サティアは地に頭を叩きつける。何度も、何度も。

 

「死ね!死ね!!死ね!!この呪われが!!《渇き》が満たされようなど、癒されようなど片腹痛い!!」

 

「おい、やめろ!!」

 

 タップが駆け寄り、身体を掴んで辞めさせる。それでもサティアは額から血をしとどに垂らし、悪鬼の如き形相で叫ぶ。

 

「死なせろ!!何が恩寵!!何が騎士か!!今すぐ頭を割って死ぬ!!!」

 

 恐るべきは、その膂力。奥歯が砕ける音を聞きながらサティアは抑え込んだタップごと身体を持ち上げ、近場の木へと走り出す。頭からぶつかって頚椎を折る。それでおしまいだ。

 

「やめろ!ガリアンの死を無駄にするのか!!」

 

「ガリアンは私のせいで死んだのだ!!最早この世にこのような呪われは存在するべきではない!!」

 

 サティアもタップも必死だった。声を荒げながら全力で互いの行動を阻害していた。だからその声が聞こえたとき、二人は思わずバランスを崩して派手に転がった。

 

 

 

「おい、うるせえよ……おちおち眠れもしねえ」

 

 

 光が射した。

 

 真夜中のことである。まるで空からその存在を照らすためだけの明かりが降って来たように、ガリアン一人が照らし出されている。

 

 しかし、それよりも。サティアの目には不可思議なものが映った。

 

 砂になった肉体が、時を巻き戻すように血肉へと代わり——そして傷もまた塞がっていく。まるで何事もなかったかのように。

 

「ガリ……アン……?」

 

 信じがたい。信じたい。その両天秤がどんどんと後者に傾いていくのをサティアは自覚した。

 

「おう。なんだこれ」

 

「……神の寵愛だ」

 

 タップが目を見開いて呟く。わなわなと唇を震わせ、頬が紅潮していく。爆発しそうな喜びを必死に抑えているようだ。

 

「神の寵愛?何だそれ兄貴」

 

「神は地上をご照覧なさっている。時々、お前みたいに特別な加護をいただく人間がいるんだよ。歴史書の中には英雄や傑物が神に見出され、強力な治癒力を得たという記述もある。お前のもそれだろう」

 

「ああ……ああ!ああ、神よ!!感謝します!!!」

 

 サティアは膝を地につけ、その場で祈りを捧げた。涙は顔を覆わんとするほどに溢れ出し、しゃくり上げて全身で歓喜を露わにしている。

 

「神はいた!慈悲を持って三界をご覧になっている!!ああ、ああ!!良かった……本当に——ありがとうございます……」

 

 救いである。サティアにとって魂の救済と言っていい。己の罪により死なせてしまった少年が神の加護により救われたのだ。これほどの喜びはない。

 

 何と都合の良い展開であろうか。まるでご都合主義の演劇のように綺麗に纏まった。誰も死なず、悪魔を倒し、国を救った。三人は英雄となり、その身の栄達は思うがままだ。めでたし、めでたしと括っても良いくらいである。

 

 

 

 

「全ッ然よくねえよ」

 

 

 

 ガリアンは激怒した。ガリアンには学がない。徳のある人物が持ち合わせる遠慮や深謀とは縁遠い。短慮で気が短く、気に入らないことがあれば大声で喚き立てる、品性のない貧民である。

 

 

 しかし、彼は誰よりも優しく、そして誰よりも我儘だった。

 

 

「この世界を見てるってんなら……気に入ったやつ助ける力があんなら……なんでナリアの民に呪いをかけた——!!!!」

 

「気に入らねえ——」

 

 ガリアンは腰に差した剣を抜く。空を睨み、剣を握る拳は震えている。

 そしてその剣を——己の胸に突き刺した。

 

「ッぐゥ——アあァあああアッッっ!!!!!」

 

「ヒッ、何をしてる!!!」

「ガリアンッ!馬鹿野郎!!!」

 

「決まってんだろ——この心臓抉り出すんだよ」

 

 血が溢れ出る。光が溢れる。その光がガリアンを癒そうと集まり——ガリアン自身がそれを拒むように剣で抉る。

 

 光る、抉る。血が噴き出てまた光る。それを七度繰り返して、傷口を無理やりに広げたガリアンは己の胸に腕を突っ込んだ。

 

 森の中に夥しい量の血が散らばる。それが光り、傷口へと戻ってくる前にガリアンは胸の中からぶちぶちと管を千切り、それを露わにする。

 

 心臓だ。

 

「いいか、神サマとやら。今すぐナリアの民の呪いを解け。じゃなきゃあこんな加護だか寵愛だか——すぐにでも投げ捨てて死んでやる」

 

 真っ直ぐに空へ眼差すそこには最早サティアやタップのことは映っていない。ガリアンは己の信じる頑迷なまでの心に従っている。早くもその心臓が光り始めるのを留めるように思い切り握りしめる。呼吸は乱れ、目線は定まらない。

 

 このままでは本当に死んでしまう。サティアとタップは血の気が失せながら何事か言葉にならない絶叫をしているがガリアンにはまるで聞こえていなかった。

 

 

「いいかッ!テメェが偉そうにヒトを選ぶなら、俺はテメェなんぞの寵愛はいらねえ!!さっさと答えろッ!!俺の気は短ェぞ!!!!」

 

 

——応えはなかった。ひとつため息を吐いたガリアンが剣の柄を両の手で思い切り握り、それを心臓へ向け振り抜こうとした——そのとき。

 

 静かに小さな光が空から降りる。それはまるで雪のように夜を埋め尽くし、ほのかに照らすと散り散りに飛んでいく。そのうちの一つがサティアの元へとやってくると、すっと溶け込むようにして胸の中へと入っていった。

 

 

「あ、あ、あ——」

 

 

 驚愕するサティア。何の説明もなくただの光が己に射しただけだったが、彼女はそれだけで全てを理解した。

 

 すぐ近くに生えた藪。その中で自生している小さなベリーを摘み上げると、口へとゆっくりと運ぶ。

 

 ガリアンもタップも、何も言わずにじっとそれを見ている。

 

 手が震えて、上手く口に入れることが出来ない。幾粒か摘んだものを、地面に落としてしまう。

 

「口、開けろ」

 

 ガリアンが剣を胸から抜くと放り捨て、手ずからベリーを摘んでサティアの口へと運ぶ。

 

 サティアはもう枯れたと思っていた涙がまだ溢れるように流れるのを感じながら、ただガリアンの指のあたたかさを感じていた。

 

「ふふ、なんだ、これ。みんな本当にこんなの食べてるのか?」

 

 はじめて食べたベリーは渋くて酸っぱくて、そして涙が(から)いのだということを知った。

 

 サティアが人を愛することを知った、その日のことだった。

 





こんなことしておいて自分を置いてひとりで死地へと向かった奴がいるらしい
許せまへんなあ

サティアのご先祖様が大暴れする?こっちの話も良かったら読んでください

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