仲間に死んで欲しくないから追放して一人でラスボス倒しに行く英雄vs自己犠牲を絶対に許さない仲間たち   作:宇後筍

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バトルパートむずいンゴ


虚しき玉座にて

 

「面倒くせえな——『聖レノ記(BIBLE)』ッッ!!!!」

 

 

「全員殺せ!!下らねえ冗談は聞き飽きた!!!」

 

 その言葉を言い終わるよりも先に、サティアとファティヒは駆け出していた。

 

 どういう訳かは分からないが、もしもガリアンとこの老人が同じ人物であるとするならば、クセも同じ。

 

 彼は大技を放つ前に————右腕を引き絞るように胸に寄せる。それを視認した瞬間の判断だった。

 

「——『Forsaken Order(見捨てられし世に):Pray(祈りあれ)』」

 

 狙うは指先。ファティヒが袖から投げ付けた魔力撹乱筒(マジク・チャフ)を避けた老人の指をサティアが裏拳で弾く。

 

 老人の背後で筒が爆発し、細く刻まれた吸魔石(シイラストーン)がもうもうと舞う。あの煙の中では魔術は使えない。それはいかに『恩寵武器』たる籠手に込められたものでも同じ。

 

「今ならあの『矢』も使えない!!」

 

「押し込め!!」

 

 技術はあちらが上、戦術眼もあちらが上。経験から来る勘の良さ、技の引き出し、地の利——すべてガリアンよりもあの老人が優れている。

 

 ふたつ、ガリアンが勝るものがある。

 

 

 ひとつは、膂力。

 

「ジ、ジイィイイィイイイ!!!!棺桶の中までエスコートしてやるぜ!!!!」

 

「ぐう、うううう!!!?調子に、乗るな若造ォ!!!!」

 

 剣を手放し、両の手で悪魔の王を掴む。めし、という骨が軋む音を聞きながら、ガリアンは煙立ち込める廊下の奥へと押し込んでいく。

 

 しかし、敵もさるもの。身のこなしのみでその拘束をあっさりと外し、後ろへマントを翻しながら下がる。

 

(マントで風を起こして煙を散らしながら隠れる算段か)

 

 煙の隙間から剣先が突き出る。正面から見れば点のような僅かな面積のそれが音を超えてガリアンの口内に突き刺さり、貫通して首の後ろから突き出る。

 

「ゴボッ……」

 

 命を貫く手応えがあったのだろう。煙の向こうから感じるほんの僅かな弛み。

 

 ガリアンが、首を貫かれた程度で死ぬわけもないのに。

 

 もうひとつのガリアンの勝る点。

 

「……ククク、づがまえだぞ」

 

 神の加護に頼った治癒力によるゴリ押し。

 

 口のど真ん中を貫いた剣をそのままに、ガリアンは直進する。当然首の後ろから貫通していく剣先がどんどんと伸び傷口は広がるが、それすら好機と看做して合間を詰める。

 

 血飛沫があがる。ガリアンは喉の肉をぐっと締めて剣を咥え込んだ。

 

 剣の柄がとん、と音を立ててガリアンの顎にぶつかる。

 

「テメェら!!ここが正念場だぞ!!!」

 

「!!!」

 

 悪魔の王が、大きく後ろに下がる。ガリアンの頬を裂いて剣を取り出すことが出来ぬと見るや、懐に抱いた短剣を取り出し、構える————その暇を許さず一行は距離を詰める、詰める、詰める。

 

 魔術はない。リーチも封じた。

 

 剣閃が一本の廊下を突っ切るように何度もきらめく。ガリアンと老人が斬り結び、危ういタイミングで仲間たちの援護が入る。

 

 一合、二合——三、四、五、六、七。

 

 仕留めきれぬまま、とうとうそこへ辿り着く。

 

「惜しかったな————」

 

「クソ……!!」

 

「ようこそ、我が宮殿の最奥へ」

 

 大きな扉。

 

 荘厳で、峻厳で、泣きたくなるほどに美しいその扉。

 

 開ける近衛もなく、灯される火もない。誇りも象徴も持たないただ一人の王。

 

 その老人が、扉を押し開ける。

 

「ここが俺の、玉座の間だ」

 

***

 

 薄暗く陽の射さない宮殿の奥。一本の長い長い廊下を抜けた先は、広間だった。

 

 対峙する老人と英雄たち。薄暗い影が色濃く差すそこで、人類の宿願をかけた争いが行われていた。

 

「『ヒノセ流・燕断ち』」

 

「『新ヒノセ流・鳳落とし』」

 

 ガリアンが剣技を繰り出せば、老人がそれを上回る冴えを見せる。

 

「〝ᚥᚪᚵᚪᛗᛁᚺᚪᛁᛋᛁᛣᚢᛖ〟——」

 

「詠唱だ!!」

 

「させるかよ!!」

 

 老人が見たこともない魔術を詠唱すれば、一行は死に物狂いでそれを中断させるべく猛攻を仕掛ける。

 

 場は一進一退の様相を呈している。

 

 乱れ飛ぶ斬撃と魔術の応酬で天井に穴が空き、その向こうから陽光が天使の梯子(エンジェル・ラダー)のごとく降り注ぐ。

 

 さながらそれは天からのスポットライトのように、ガリアンを浮かび上がらせ、舞台を彩るように据え置かれたインテリアもまた照らす。

 

 埃を被ったシャンデリア。壁に添えられた金の装飾は曇り、その輝きは濁っている。

 

 玉座は壊れ、打ち捨てられるようにして置かれている。

 

「く、ふふふふふ——まるで俺がこの世の救い主だ、と言わんばかりだな?ガリアン」

 

「なぜか俺がやって欲しいことを誰もやってくれなくてな。おかげでこんな霧深い田舎くんだりまで自分で来る羽目になった」

 

 ガリアンの頬にあった一筋のかすり傷が、しゅうと音を立てて治癒する。

 

 翻って悪魔の王、未だ無傷。

 

「神の加護か——くだらない。俺たちを救わなかった分際で、慈母を名乗る恥知らずめ」

 

「『お前は俺』なんだろ?だとしたらその目はどうした。治らないッてんなら——女にフラれて(加護を失って)逆恨みか?男の嫉妬ほど醜いものはないって知らねえのかよ」

 

「偉そうに人を選んで気に入った者だけを救う——そんな加護なら願い下げだ、違うか?」

 

 二人の会話にサティアが唾を飲む。それは己の心に深く根ざしたガリアンの言葉。いつか見た光。不意に見える英雄(ガリアン)の残滓のようなそれが、この男はガリアンではないと断じたはずの彼女の刃を鈍らせる。

 

 一体、この男は何者なのか。

 

「まさか女神も悪魔の王に説教されるとは思わねえだろうさ、世界中を霧で包んでしまおうなんてイカれた奴にな」

 

「これもひとつの救いだ、ガリアン。この世界は歪すぎる」

 

「うるせえよ、カスが。悪魔風情に道を説かれる筋合いはねえ」

 

「思ったことはねえのか?なんでラージルがあんな迫害に合わなくちゃいけなかった?なんでナリアの民はあんなに苦しんだ?国も教会も領主も、どうして俺たちが死にかけてる隣で金儲けをしてる?」

 

 ファティヒは冷徹に考える。攻略すべき敵として分析する。見れば見るほど、探れば探るほどにその男は己が見出した英雄(エゴイスト)であった。

 

 はっきり言って、ガリアンは幼稚だ。彼からはそう見えていた。精神の幼さから来る潔癖さが、その正義感の正体であることをファティヒは知っていた。

 

 しかし、幼稚であることは悪ではない。何よりも純粋な、本質的な祈りにも似たその思想——そこに加えてあの素質。あらゆるものを魅了し、その技術を盗み取り、そしてヒトそのものも手に入れていく。天性の才能と人たらし。

 

 それこそがガリアンの強みであり、ファティヒがかの英雄に金貨よりも強い輝きを見た部分でもある。

 

 この男にも、それと同じものが時折見える。

 

 

「さて——ようやく煙も晴れた。全く、参ったぜファティヒ。俺の知ってる魔力撹乱筒よりもずいぶん効果時間が長い」

 

「名高い悪魔の王からのお褒めの言葉とは恐悦至極ゥ。帰ったら売り文句にさせていただきますよォ」

 

「サティアも、てっきり自分諸共砂にする戦術を採るかと思ったが——暴発のコントロールが随分上手くなったな」

 

「ハッ、お前の中では呪われに産まれたものは死ぬまで呪われか?もう私は何一つ砂になどしない!!この手からもう何も零さない!!!」

 

 

 だが、己の英雄ではない。心に抱いた太陽は沈まない。世界が斜陽に暮れようと、霧が空を覆おうと、光が見えれば————迷わない。

 

 

「さあ、そろそろ数十年後の汚れた鏡を覗くのにも飽きたころだ!テメェはさっさとここでくたばれ!!——『聖レノ記(BIBLE)』“一章二節”行動開始(Wake up)!!」

 

 

「これでようやく下らない英雄譚はおしまいだ!!お前の骸は霧に沈めてやるぞガリアン!!——『聖レノ記(BIBLE)』“終章”行動開始(Wake up)!!」

 

 

『『Roger(了解)』』

 

 

 瞳の魔力が燃え上がる。

 瞳の魔力がどろりと濁る。

 

 ばち、ばち、ばち——互いの全身に漲る蒼と藍の魔力光が放電にも似た炸裂音を立ててぶつかり合う。

 

 バチッバチッバチッ——。

 炸裂音のリズムが少しずつ早くなる。

 

 

 バヂヂヂヂヂ、バヂヂヂヂヂ——。

 どんどん、早くなる。

 

 

 そして数瞬の後。

 バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!!!

 

 

 臨海に達する。

 

 

 それ以上の言葉はなく、対峙する二人は同じことを思っていた。

 

 

(この攻防が——)

(最期!)

 

 

 ガリアンが右の掌を突き出す。悪魔の王が右の人差し指を真っ直ぐに伸ばす。

 

 

 そのとき。

 頭上に影が差す。

 

 

「よう、ガリアン」

 

 

 すた、と軽い音を立て——。

 

 

「お前を、助けに来たぜ」

 

 

 誰よりも頼れるタップ(兄貴分)が悪魔の王の側に降り立った。




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