仲間に死んで欲しくないから追放して一人でラスボス倒しに行く英雄vs自己犠牲を絶対に許さない仲間たち   作:宇後筍

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感想くれって言うわりに返事を書かないのは、もし返信すると嬉しすぎて歯茎剥き出して長文で話しかけてしまうからです。普通に朝夜見返してニヤニヤしてるのでもっとください

これを書き終わったら次に書くやつの一話目がリンクから読めるので良かったらそっちも読んでください


渇きのサティア

 

 《紋切り型(シール・スタンプ)》サティア・ナリア・ハ・ザハール。聖泉の守護者、正義を体現する騎士団の長。その名の意味は『ナリアの誇りと誓いを守る誠実なるもの』。

 

 もはや泉枯れて久しいナリアの末裔は嘘を嫌う。古の碑文にはナリアの聖泉が枯れ、霧が満ちたのは民が神との誓いを破ったからだという。

 

 それはサティアの祖父の祖父の、そのまた父の代の話であったが、年寄りたち皆が口を揃えて言い伝えてきた一句がある。

 

「我らに罪ありき。ゆえに砂に呪われた」

 

 そこは元は美しい森だったという。聖なる泉の加護を受け、霧を阻み繁栄を誇ったエルフの都市がそこにはあったのだという。雲を突き抜けて世界樹が聳え、毎日祭のように灯りを焚いて歌を唄い、宴に耽る。この世の春のような都市であった。

 

 だが、それも昔。今では宴などする者はいない。歌を唄う者もいない。灯りどころか、それを焚くための木々すらもない。全ての命が死に果てた終わりの砂漠。砂海と呼ばれるようになった、その始まりの場所。それがナリア。

 

 かの民は呪われている。砂の呪いである。今や名前すらも忘れ去られた古の神の怒りを買い、彼らは「飲むこと」と「食べること」を奪われた。

 

 水を飲むことはおろか触れることすら許されない。肉も、果実も、触れれば砂となり指の股から零れ落ちる。それがナリアの受けた罰。口さがない連中がナリアの末裔を『砂エルフ』などと呼ぶその由来である。

 

 彼らはどんなに渇こうと死なず、どんなに飢えようと死ぬことはない。食べようとしなければ、飲もうとさえしなければ砂になることはない。しかし常に飢え渇いた人間が、目の前に食べ物があって「口に入れたい」と思わずにいられるだろうか?

 

 豚を締めて食べようとした。砂になった。

 果実を獲り食べようとした。砂になった。

 水を汲み喉を潤そうとした。砂になった。

 頬を噛み切って血を飲んだ。砂になった。

 

 無尽にも思えた食べ物も飲み物も、その全てを砂にしたあと彼らは世界樹に齧り付いた。砂になった。虫も、家も、土も、木も、石も、音楽も芸術も何もかも砂になった。

 

 ヒトとしての尊厳をすべて失い自死した仲間の肉を喰もうと四つん這いになり——砂になった。

 

 

 彼らは己の都市の全てを砂に変えてしまった。そして砂以外何もなくなったその荒涼とした景色の中、砂を食べようとして砂にした。そうやって砂を増やし続けて、アンサドレアの砂海と呼ばれる場所は出来上がった。

 

 サティアの代の若者にとっては、それは昔話。彼らにとって飢えとはあって当然の感覚であり、渇きなど慣れ親しんだものだ。呪われた我が身にとって何かを欲するというのは罪であると、サティアは自覚していた。

 

 確かに、ナリアの民と知らずに差し出された食べ物を思い余って砂にしてしまうことは時たまある。しかし他所の人間から恐れ蔑まれるような「触れた人を砂に変える」だの、「歩いた土地には二度と実りがない」だのということはあり得ない。

 

 現に彼女は王国の誉れ、泉の聖騎士団への入団を許された。けして周囲から好意的に接してもらえてはいないが、ナリアの民などどこへ行っても同じことだ。表立って排斥されないだけ上等だろう。

 

 故に誰よりも規律を守り騎士たる務めを果たさねばならない。それがいつかナリアの民への強い忌避感を取り払うに違いない。抑制されなければならない。節制に努め、祈り続ける我らをいつか神は赦すはずだ。いつか、いつか——。

 

 サティアはずっとそう思っていた。だから彼女にとってその男(ガリアン)は、到底受け入れ難い存在だったのだ。

 

 

***

 

 ガリアンとサティアが初めて出会ったのはまだ《厄介払い》の名が知れ渡る前——タップと二人でやるドブ攫いが彼らの収入源だったころである。

 

 サティアがようやく100歳となり、ナリアの民として成人を迎えていた——泉の聖騎士団の新人騎士であり、《紋切り型》ではなく《渇き》の二つ名で呼ばれていたころのことだ。

 

 王国西方は危機に瀕していた。軍団を率いて現れた悪魔は村々を蹂躙し、火をつけた。老いも若きも区別なく殺した。人々の体を投げて遊んだり、畑に植えて弄んだ。ただ殺されるに留まらず、考えつく限りの尊厳の破壊と陵辱がなされた。

 

 数百年に渡る悪魔との戦いの中、決まって悪魔は北方から襲来した。ゆえに精鋭は北方へ集まり、人類の生存圏を保つために防衛線を敷いていたのだ。しかし突如西からやってきた悪魔に人々はただ恐れ、惑い、そして殺された。

 

 悪魔討伐を命じられた泉の聖騎士団は王都から西方へ向かう道すがら近隣の都市や村を回り、募兵を行った。西方の生まれであるガリアンとタップにとっては苦い思いはあれど故郷である。一も二もなくこれに応じる。

 

 《厄介払い》の名を知らしめる最初の出来事である。

 

 ぱち、と焚き木が炎に炙られてはじける音がする。走行性の羽虫や毒虫がふらふらと篝火に誘き寄せられ、自ら燃料と化している。森の中での夜警は虫との戦いと言っていい。サティアはほんの少しもたじろかず、指定された場所に立っていた。

 

「よーぅ、アンタいつも見張りしてるな。飯はいつ食ってんだ?」

 

「食わん。規則だ」

 

 サティアはいつでも規範に従っている。彼女が入団するにあたり、騎士団則の一文に「ナリアの民の団員は野営の間、歩哨に立つこと」というものが追加された。つまりここで見張りをしていることも規則に従った結果だった。

 

「おいおい、飯を食うなと規則にあるのか?騎士団ってのは窮屈なもんだなあ」

 

 いっそ哀れなほど無学である。ナリアの民のことなど、王都であれば幼な子でも知っている。しかし、それをこの男は無遠慮に突いてくる。悪人ではないが気に入らない。

 

「口の利き方に気を付けろ、破落戸(ごろつき)め」

 

「おーこわ。ま、丁度いいや。他のやつらよりはアンタのがとっつき易そうだ。ここで食わせてもらうぜ」

 

「私を女だからと侮っているのか?」

 

「してねえって。というか女なのかよ。全身鎧で顔を覆ってるし、声も籠ってて判別つかねえって」

 

「どうだかな」

 

 それきり、沈黙が下りる。サティアは取り立ててこの目の前の無礼な男と親しく話をする気はなく、ガリアンもそんな彼女の様子を見て黙々と食事を口に運んでいる。

 

 

 しばらくの間の無言を経て、ガリアンが口を開く。

 

「なあ、あんたはなんでこの仕事に?」

 

「辞令だ。西方にて悪魔の出現が確認されたためこれを討伐せよと王命が下った」

 

「あー、いやそうじゃなくてよ、なんだ……」

 

「チッ、歯切れの悪い男だ。何の情報を求めている。我らのお零れに預かって生存率を上げたいのだろう。話してやるからさっさと知りたいことを言え」

 

「うーん、まあそうだな。それ()目的だけどな……」

 

「——なぜ私だけが歩哨に立っているのか、不思議か」

 

「……ああ。騎士サマからすりゃ一緒にするなと思うかもしれねえけど俺もメシはガキのころから満足に食えなかったんで妙に気になってよ」

 

 サティアはガリアンのその吐露を黙殺した。ぎゅ、と強く拳を握ると伝わるガントレットの冷たさがやけにクリアに感じられる。

 

(満足に————?満足など、したことがない)

 

 けして出してはならない言葉だ。サティアは心に蓋をする。傲慢、不遜。ナリアはそれゆえに呪われたのだから。

 

「いやー、ずぅーっと木の根とか齧ってると一瞬『美味いかも?』って勘違いするんだけど、普通に気のせいなんだよなあ!」

 

「騎士サマって普段は何食うんだ?貴族もいるって聞いたからきっと豪華なのが出るんだろうなあ……羨ましいぜ」

 

「でもよ、最近体動かしてから食うメシってうめえんだって気付いたんだよ!ま、身体中ドブ臭えんだけどよ!!」

 

 しかし碌に返事もしていないのに何やら話しかけ続ける男に、こう思うくらいは赦されるだろう。サティアは静かに思う。

 

(私はきっと、この男のことが嫌いなのだ)

 

 




ランキング載っててうきうきした

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