穢れた祈りの聖女 ~偽りの救世主と蔑まれた私が、滅びゆく王国で唯一真実の奇跡を紡ぐ~   作:うどん小町

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第12話「戻るべき場所」

 庭園に漂うぎこちない沈黙は、どちらからともなく破られることはなかった。

 エリアーナは俯き加減に足元の小石を見つめ、カイウスは静かに周囲の気配を探っている。

 美しい庭園のはずなのに、今はただ、居心地の悪い場所にしか感じられなかった。

 

 カイウスは、エリアーナの様子を観察していた。

 先ほど見せた僅かな表情の和らぎは消え、再び影が差している。

 これ以上ここにいても、彼女の消耗を増やすだけかもしれない。

 そして、今の彼女の状態から新たな情報を引き出すのも難しいだろう。

 

「聖女様」

 

 カイウスは静かに声をかけた。

 

「そろそろお部屋へ戻りましょうか。あまり長く外におられるのも、お身体に障ります」

 

 その言葉に、エリアーナはびくりと肩を揺らして顔を上げた。

 その表情は、安堵したようにも、少しだけ残念そうにも見えた。

 複雑な感情が、その空色の瞳の中で揺らめいている。

 

「……はい。そう、ですね」

 

 エリアーナは小さな声で答え、頷いた。

 

 二人は再び無言で歩き出した。

 来た時と同じように、エリアーナが前、カイウスが後ろ。

 神殿の廊下に戻ると、やはり冷たい視線がいくつも向けられたが、エリアーナはもうそれに反応する気力も残っていないようだった。

 

 やがて、古びた私室の扉の前に着く。

 カイウスは扉を開け、エリアーナが中に入るのを待った。

 

「何かあればお呼びください。私は外におりますので」

 

 カイウスはそう告げると、エリアーナが返事をする前に静かに扉を閉めた。

 

 パタン、という軽い音が響き、エリアーナはようやく一人になった。

 ふぅ、と長い息を吐き出すと、そのままベッドに倒れ込む。

 

(戻ってきてしまった……)

 

 短い散策だった。

 ほんの少しだけ、外の空気に触れて、心が軽くなった瞬間もあった。

 けれど、すぐに現実に引き戻された。

 花にさえ触れることのできない、自分の力の忌々しさ。

 そして、あの騎士――カイウス様の、底の見えない瞳。

 

(あの人は、やっぱりただの監視役じゃない……)

 

 わたくしの力のことも、きっと何か気づいている。

 これから、どうなってしまうのだろう。

 不安と疲労が、エリアーナの意識を再び重く沈ませていった。

 

 

 扉の外で、カイウスは今日の観察結果を頭の中で整理していた。

 

(祈りの際の異常現象、顕著な消耗、そして自身の力への強い恐怖と穢れの認識……)

 

 得られた情報は少なくない。

 だが、核心には程遠い。

 なぜ彼女の祈りは「穢れている」のか。その力の正体は?

 なぜ教会は彼女を放置しているのか?

 

(このまま監視を続けるだけでは、何も解明できん)

 

 カイウスは結論付けた。

 侍女から話が聞けなかった以上、別の情報源に当たる必要がある。

 

(エルダー司祭……古代文献に詳しいという、あの老司祭か)

 

 彼ならば、何か知っているかもしれない。

 あるいは、少なくとも、エリアーナの力の異質性について、何らかの見解を持っている可能性がある。

 

 カイウスは決意を固めた。

 この「偽りの聖女」を取り巻く謎と、神殿が隠しているであろう真実を、自らの手で探り出す必要がある、と。

 それは騎士としての任務を超えた行為になるかもしれない。

 だが、カイウスの直感が、そして心の奥底で芽生え始めた何かが、それを求めていた。

 

 監視の目は、より深く、鋭く。

 そして、その目的もまた、少しずつ変化し始めていた。

 偽りの聖女と監視の騎士。

 二人の物語は、まだ始まったばかりだった。

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