穢れた祈りの聖女 ~偽りの救世主と蔑まれた私が、滅びゆく王国で唯一真実の奇跡を紡ぐ~ 作:うどん小町
「……そうですか。それなら、よろしいのですが」
カイウスはそれ以上、エリアーナの体調について尋ねることはなかった。
けれど、その鳶色の瞳の奥に、納得していない光が揺らめいているのをエリアーナは見逃さなかった。
(疑われている……)
当然かもしれない。
わたくし自身、自分の身体に何が起きているのか、よく分かっていないのだから。
ただ、この力の代償のようなものが、日に日に増している気がする。
やがて、気まずい雰囲気の中で昼食は終わった。
先ほどとは別の、年配の侍女が無言でやってきて、手早く食器を片付けていく。
その手つきもどこか、エリアーナを避けるようにぎこちなかった。
部屋に再び二人きりになると、エリアーナは意を決して口を開いた。
探りを入れなければ。
この騎士様のことを、少しでも理解しなければ。
「カイウス様」
「はい、何でしょうか」
「その……わたくしのような者に、騎士様が護衛として付いてくださるのは……少し、不思議に思いまして」
エリアーナは慎重に言葉を選んだ。
「何か、特別な理由でも? たとえば……わたくしに、何か危険が迫っているとか?」
カイウスは表情を変えなかった。
まるで、この質問を予測していたかのように。
「聖女様のご身の安全は、教会、ひいては王国にとって最重要事項です。万が一のことがあってはなりませんから」
教科書通りの答え。
「わたくしは、教会の方々からは……あまり、良く思われていないようですが」
エリアーナはさらに食い下がった。
少し、意地悪な言い方だったかもしれない。
「それでも、護衛が必要だと?」
「……聖女様のお立場がどうであれ、私の任務は聖女様をお守りすることです。それは教会の正式な決定であり、騎士としての私の務めです」
カイウスは真っ直ぐにエリアーナを見つめ返した。
その瞳には、やはり何の感情も浮かんでいないように見える。
けれど、その言葉には、妙な実直さが滲んでいた。
(教会が決めたことだから、従うだけ……本当に、それだけ?)
命令だから仕方なく、という響きではない。
かといって、心からの忠誠を示しているようにも見えない。
ただ、「務め」という言葉の重みだけが、そこにあった。
エリアーナは、カイウスという騎士が、まだよく分からなかった。
彼が何を考え、何を感じているのか。
「……監視、も任務のうちですか?」
ついに、一番聞きたかったことを口にしてしまった。
言ってから、少し後悔した。
あまりにも直接的すぎただろうか。
カイウスは、ほんの少しだけ目を見開いたように見えた。
だが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「……私の第一の任務は、聖女様の安全確保です。そのために必要なことは、全て行います」
肯定も、否定もしない。
巧みな答え方だと思った。
この人は、手強い。
(そう簡単には、本心を見せてくれないわね……)
エリアーナは小さくため息をついた。
同時に、ほんの少しだけ、この騎士に興味が湧いている自分に気づいた。
ただの教会の言いなりではない、何かを隠しているような、そんな気がしたのだ。
「……分かりました。カイウス様のお仕事の邪魔はいたしません」
エリアーナがそう言うと、カイウスは少しだけ表情を和らげたように見えた。
「ご理解、感謝いたします。では、聖女様、今後のことについていくつか確認よろしいでしょうか」
「はい、なんでしょう」
「まず、本日の午後のご予定は? また、日々の祈りの時間や、定例の謁見などがございましたら、お教えいただけますでしょうか。警護計画を立てる上で必要となりますので」
カイウスは懐から小さな手帳とペンを取り出した。
その手つきは、やはりどこまでも事務的だった。
(警護計画……)
それはつまり、わたくしの行動が、これから全てこの騎士様に把握されるということ。
監視の日常が、いよいよ始まるのだ。
エリアーナは、これから始まるであろう息の詰まる日々を思い、そっと目を伏せた。