穢れた祈りの聖女 ~偽りの救世主と蔑まれた私が、滅びゆく王国で唯一真実の奇跡を紡ぐ~   作:うどん小町

3 / 38
第3話「探りの言葉」

「……そうですか。それなら、よろしいのですが」

 

 カイウスはそれ以上、エリアーナの体調について尋ねることはなかった。

 けれど、その鳶色の瞳の奥に、納得していない光が揺らめいているのをエリアーナは見逃さなかった。

 

(疑われている……)

 

 当然かもしれない。

 わたくし自身、自分の身体に何が起きているのか、よく分かっていないのだから。

 ただ、この力の代償のようなものが、日に日に増している気がする。

 

 やがて、気まずい雰囲気の中で昼食は終わった。

 先ほどとは別の、年配の侍女が無言でやってきて、手早く食器を片付けていく。

 その手つきもどこか、エリアーナを避けるようにぎこちなかった。

 

 部屋に再び二人きりになると、エリアーナは意を決して口を開いた。

 探りを入れなければ。

 この騎士様のことを、少しでも理解しなければ。

 

「カイウス様」

「はい、何でしょうか」

「その……わたくしのような者に、騎士様が護衛として付いてくださるのは……少し、不思議に思いまして」

 

 エリアーナは慎重に言葉を選んだ。

 

「何か、特別な理由でも? たとえば……わたくしに、何か危険が迫っているとか?」

 

 カイウスは表情を変えなかった。

 まるで、この質問を予測していたかのように。

 

「聖女様のご身の安全は、教会、ひいては王国にとって最重要事項です。万が一のことがあってはなりませんから」

 

 教科書通りの答え。

 

「わたくしは、教会の方々からは……あまり、良く思われていないようですが」

 

 エリアーナはさらに食い下がった。

 少し、意地悪な言い方だったかもしれない。

 

「それでも、護衛が必要だと?」

 

「……聖女様のお立場がどうであれ、私の任務は聖女様をお守りすることです。それは教会の正式な決定であり、騎士としての私の務めです」

 

 カイウスは真っ直ぐにエリアーナを見つめ返した。

 その瞳には、やはり何の感情も浮かんでいないように見える。

 けれど、その言葉には、妙な実直さが滲んでいた。

 

(教会が決めたことだから、従うだけ……本当に、それだけ?)

 

 命令だから仕方なく、という響きではない。

 かといって、心からの忠誠を示しているようにも見えない。

 ただ、「務め」という言葉の重みだけが、そこにあった。

 

 エリアーナは、カイウスという騎士が、まだよく分からなかった。

 彼が何を考え、何を感じているのか。

 

「……監視、も任務のうちですか?」

 

 ついに、一番聞きたかったことを口にしてしまった。

 言ってから、少し後悔した。

 あまりにも直接的すぎただろうか。

 

 カイウスは、ほんの少しだけ目を見開いたように見えた。

 だが、すぐにいつもの無表情に戻った。

 

「……私の第一の任務は、聖女様の安全確保です。そのために必要なことは、全て行います」

 

 肯定も、否定もしない。

 巧みな答え方だと思った。

 この人は、手強い。

 

(そう簡単には、本心を見せてくれないわね……)

 

 エリアーナは小さくため息をついた。

 同時に、ほんの少しだけ、この騎士に興味が湧いている自分に気づいた。

 ただの教会の言いなりではない、何かを隠しているような、そんな気がしたのだ。

 

「……分かりました。カイウス様のお仕事の邪魔はいたしません」

 

 エリアーナがそう言うと、カイウスは少しだけ表情を和らげたように見えた。

 

「ご理解、感謝いたします。では、聖女様、今後のことについていくつか確認よろしいでしょうか」

「はい、なんでしょう」

「まず、本日の午後のご予定は? また、日々の祈りの時間や、定例の謁見などがございましたら、お教えいただけますでしょうか。警護計画を立てる上で必要となりますので」

 

 カイウスは懐から小さな手帳とペンを取り出した。

 その手つきは、やはりどこまでも事務的だった。

 

(警護計画……)

 

 それはつまり、わたくしの行動が、これから全てこの騎士様に把握されるということ。

 監視の日常が、いよいよ始まるのだ。

 

 エリアーナは、これから始まるであろう息の詰まる日々を思い、そっと目を伏せた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。