穢れた祈りの聖女 ~偽りの救世主と蔑まれた私が、滅びゆく王国で唯一真実の奇跡を紡ぐ~   作:うどん小町

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第4話「日課という名の監視」

「午後の、予定、ですか……」

 

 エリアーナはカイウスの問いに、少し考え込むように視線をさまよわせた。

 けれど、実際に思い浮かべるような特別な予定など、あるはずもなかった。

 

「いつも通り、です。少し休んでから、午後の祈りを捧げて……あとは、部屋で書物を読むくらいでしょうか」

「書物、ですか」

「はい。古い聖典や、歴史書などを……」

「なるほど。承知いたしました」

 

 カイウスはエリアーナの答えを、手元の小さな手帳に淡々と書き込んでいく。

 その仕草の一つ一つが、エリアーナには自分の行動が記録され、管理されていく過程のように思えた。

 

 ペンを止めると、カイウスはエリアーナに向き直った。

 

「今後のことについて、いくつかお伝えすべき事項がございます」

「……はい」

「まず、聖女様がこの神殿の敷地から外へ出られる際は、必ず私が同行いたします。単独での外出はお控えください」

 

(やはり……)

 

 予想していたことではあったけれど、改めて言葉にされると胸が詰まる。

 

「また、聖女様に面会を希望される方がいらした場合、事前に私の方で確認させていただきます。アポイントメントのない突然の来訪者については、原則として取り次ぐことはできません」

 

 それはつまり、わたくしが誰と会い、誰と話すかも、この騎士様に管理されるということ。

 

「……わかり、ました」

 

 エリアーナは、かろうじてそれだけ答えるのが精一杯だった。

 まるで、目に見えない檻に入れられたような気分だった。

 この狭い部屋と、あの古い礼拝堂が、わたくしの世界の全てになってしまうのだろうか。

 

(わたくしは、聖女なのに……)

 

 いや、「偽りの聖女」だから、こうして監視され、行動を制限されるのだ。

 自嘲の念がこみ上げてくる。

 

 カイウスは、そんなエリアーナの内心を見透かしているのか、いないのか、あくまで事務的な口調を続けた。

 

「その他、何かご要望や、警護に関してご懸念の点がございましたら、いつでもお申し付けください。可能な範囲で対応いたします」

「……いいえ、特に、ありません」

 

 要望など、言えるはずもなかった。

 言ったところで、聞き入れられるとも思えなかった。

 

「そうですか。では、私はしばらくの間、この部屋の外で待機しております。何か御用があればお呼びください」

 

 カイウスはそう言って軽く一礼すると、部屋を出て行った。

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

 

 一人になった部屋で、エリアーナは深いため息をついた。

 

(これからずっと、こうなのかしら……)

 

 カイウスという騎士は、今のところ威圧的でも、高圧的でもない。

 けれど、その常に冷静な観察眼と、職務に徹する姿勢は、エリアーナにとって重い枷のように感じられた。

 

(逃げ場なんて、どこにもない……)

 

 唯一、心が安らぐのは、祈りを捧げている時だけかもしれない。

 そう思った時、壁に掛けられた古い時計が、午後の祈りの時間になったことを告げた。

 

 エリアーナは立ち上がり、再び旧礼拝堂へと向かった。

 部屋の外に出ると、カイウスが壁に背を預けて立っていた。

 エリアーナに気づくと、彼は無言で歩き出し、エリアーナの少し後ろをついてくる。

 

 旧礼拝堂の扉を開け、中に入る。

 相変わらず、そこは静寂に包まれていた。

 埃っぽい、神聖さとは少し違う、けれどエリアーナにとっては唯一落ち着ける場所。

 

 エリアーナは祭壇の前に進み、ゆっくりと膝をついた。

 後ろには、カイウスが直立不動の姿勢で立っている気配がする。

 その視線を感じながら、エリアーナは静かに目を閉じ、祈りの言葉を紡ぎ始めた。

 

(どうか……この祈りが、誰かの救いになりますように……たとえ、穢れていたとしても……)

 

 監視の目が光る中で捧げられる、孤独な聖女の祈り。

 それが、エリアーナとカイウスの、奇妙な関係の始まりだった。

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