穢れた祈りの聖女 ~偽りの救世主と蔑まれた私が、滅びゆく王国で唯一真実の奇跡を紡ぐ~   作:うどん小町

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第5話「祈りの代償」

 古い礼拝堂の静寂の中、エリアーナは意識を集中させていく。

 組んだ指先に込める力とは裏腹に、身体からは力が抜けていくような感覚。

 それでも、彼女は祈りの言葉を紡ぎ続ける。

 

(どうか……この国を蝕む災厄が、少しでも和らぎますように……)

(わたくしの力が、たとえ偽りだとしても……)

 

 背後にはカイウスの気配。

 常に監視されているという意識が、祈りの集中を妨げそうになる。

 けれど、今はそれに構っていられなかった。

 

 祈りが深まるにつれて、エリアーナの周りの空気が、わずかに変化し始めたのをカイウスは感じ取った。

 

(……ん?)

 

 気のせいではない。

 ステンドグラスから差し込む午後の光が、不安定に揺らめいているように見える。

 そして、礼拝堂の中を満たしていた穏やかな空気が、ひやりとしたものに変わっていく。

 まるで、温度が数度下がったかのような肌寒さ。

 

 カイウスは眉をひそめ、祭壇の前で祈るエリアーナの姿を凝視した。

 彼女の表情は、先ほどまでの静かなものから一変し、苦悶の色が濃く浮かんでいた。

 額には汗が滲み、組まれた指先は白くなるほど強く握りしめられている。

 

(これが……『穢れた祈り』と呼ばれるものか)

 

 カイウスは素早く手帳を取り出し、ペンを走らせた。

『祈祷中、周囲の光量変化、体感温度の低下を確認。対象には顕著な苦痛の表情あり』

 客観的な事実だけを記録する。

 だが、内心では困惑が広がっていた。

 

(明らかに、通常の祈りではない。何らかの……異常なエネルギーの干渉? まるで……)

 

 まるで、何かを無理やり捻じ曲げているような、そんな不安定さと危うさを感じさせる。

 これが、教会が「穢れ」と呼ぶ理由なのかもしれない。

 

 長い、長い時間に感じられた祈りが、ようやく終わりを告げた。

 エリアーナは深く息を吐き出すと、ゆっくりと目を開けた。

 その顔色は、先ほどよりもさらに悪く、ほとんど血の気が失せているように見えた。

 

(……終わった……)

 

 エリアーナは安堵と共に、全身を襲う強烈な倦怠感に耐えていた。

 まるで、身体中の力を全て吸い取られてしまったかのような感覚。

 視界が、少し霞んでいる。

 

(立たないと……)

 

 カイウスが見ている。

 弱っている姿を見せるわけにはいかない。

 エリアーナは震える膝に力を込め、ゆっくりと立ち上がろうとした。

 

 しかし、身体は言うことを聞かなかった。

 ぐらり、と視界が大きく傾ぎ、膝から力が抜ける。

 

「あっ……!」

 

 倒れる、と思った瞬間。

 

「――大丈夫ですか、聖女様!」

 

 鋭い声と共に、エリアーナの腕を強い力が支えた。

 驚いて顔を上げると、いつの間にかすぐそばに来ていたカイウスが、心配そうな、それでいて険しい表情でエリアーナを覗き込んでいた。

 

 その距離の近さと、予想外の彼の反応に、エリアーナはただ目を見開くことしかできなかった。

 支えられた腕から伝わる、騎士の体温がやけに熱く感じられた。

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