穢れた祈りの聖女 ~偽りの救世主と蔑まれた私が、滅びゆく王国で唯一真実の奇跡を紡ぐ~   作:うどん小町

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第6話「騎士の問い」

 カイウスの腕に支えられたまま、エリアーナは一瞬、思考が停止した。

 間近で見る鳶色の瞳は、先ほどよりも強く、何かを探るようにエリアーナを射抜いていた。

 

「っ……!」

 

 はっとして、エリアーナは慌ててカイウスの手を振りほどき、よろめきながら一歩後ずさった。

 触れられた腕が、まだ熱い。

 

「だ、大丈夫ですから! 少し、立ちくらみがしただけです……!」

 

 早口で言い訳をする。

 顔が熱いのは、体調のせいか、それとも動揺のせいか。

 カイウスに弱みを見せてしまったことが、ひどく恥ずかしかった。

 

 だが、カイウスはエリアーナの言葉を鵜呑みにする様子はなかった。

 彼は支えようとした手をゆっくりと下ろすと、厳しい表情のまま、エリアーナを見据えた。

 

「……聖女様」

 

 低く、静かな声で、カイウスは言った。

 

「先ほどの祈り。あれは、貴女に大きな負担を強いているのではありませんか?」

 

 核心を突く問い。

 エリアーナは息を呑んだ。

 心臓が早鐘のように鳴る。

 

(気づかれていた……やっぱり……)

 

 どう答えるべきか。

 本当のことを言えば、この騎士はどう反応するだろうか。

 ますます警戒されるだけかもしれない。

 あるいは、教会に報告され、さらに酷い扱いを受けることになるかもしれない。

 

「……そ、そんなことは……ありません」

 

 声が、わずかに震えた。

 

「聖女としての、当然の務めを果たしただけです。お気になさらないでください」

 

 精一杯の虚勢だった。

 俯いて、カイウスの視線から逃れる。

 

 しばらくの沈黙。

 カイウスが何を考えているのか、エリアーナには分からなかった。

 ただ、彼の疑念が晴れていないことだけは、痛いほど感じられた。

 

(この人は……怖い)

 

 ただ命令に従うだけの、無機質な監視役だと思っていた。

 けれど、彼は鋭い。

 そして、もしかしたら……。

 

 エリアーナが顔を上げられないでいると、やがてカイウスが静かに息を吐く気配がした。

 

「……そうですか」

 

 彼の声には、それ以上の追及の色はなかった。

 けれど、納得したわけではないことも明らかだった。

 

(聖女の務め、か……)

 

 カイウスは内心でエリアーナの言葉を反芻していた。

 あの祈りの後の消耗ぶりは、尋常ではない。

 務めのために、あそこまで自身を削ることを、本当に教会は「当然」としているのだろうか。

 それとも、この聖女の力が、本人にも制御できないほど危険なものだと知っていて、半ば放置しているのだろうか。

 

(いずれにせよ、この件は詳細に報告する必要があるな……)

 

 カイウスは自身の職務を再確認した。

 だが、報告の後、このか弱い聖女がどうなるのかを考えると、わずかながら胸に引っかかるものを感じずにはいられなかった。

 

「……部屋へ戻りましょう、聖女様。少しお休みになられた方がよろしいでしょう」

 

 カイウスは努めて事務的な口調で言った。

 

「……はい」

 

 エリアーナは小さく頷き、カイウスに促されるまま、旧礼拝堂を後にした。

 先ほどまでとは違う、重く、気まずい空気が二人の間に流れていた。

 互いの腹を探り合うような、それでいて、何か予期せぬものに触れてしまったような、奇妙な緊張感。

 

 私室へ戻る短い廊下が、やけに長く感じられた。

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