インフィニット・ストラトス 平和を求める者 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
「はいはーい、それじゃなんとかここに来たみたいだねえ」
「…………(目の前にいるこの巫山戯た男はなんなんだ?)」
突然の事に驚きを隠せていない俺。何が起きてここにいるのかすらわからない。確か俺は疲れて雑魚寝してたはず…………。それなら、格納庫のところにいるはずだ。
まぁ、俺がいるのは、何もないというわけでもない。というか、逆にありすぎるほどか。多数のモニターに何かのディスプレイ、キーボード、そしてP○3。見慣れた物も多くあるが、どうしてもP○3だけがその中で不思議な空気を生み出してしまっている。場違い感が半端ない。
「あ、そっか。俺と顔を合わせるのは初めてだもんなー、驚くのも無理ないか」
「…………あんた、何者だよ」
いい加減、この怪しい人間から名前を聞き出して、ここがどこでなんなのかを吐かせなければならないな。そして、一刻も早く戻りたい。
「俺は、この複雑に別れた世界を繋ぐ神だよ、下っ端だけど」
「…………は?」
あまりにも突拍子すぎる事に、思わず間抜けな声が出てしまった。いやいや、おかしい話だろ、普通に考えても。そもそもこの男が神だって? こんな普通の高校生みたいな眼鏡男が? …………想像できないな。それに世界を繋ぐってどういう事なんだ? 世界は一つしか存在しないはずだろ。
「まぁ、下っ端でも管理できる世界は二十まで。結構あるっしょ」
「誰もそんな事聞いてねえ。とにかく、俺をここから帰らせてくれ。早いところ戻らなければ寝られなくなる」
「あ、あぁ…………その事なんだけどさ」
神(自称)はなぜかそこで言い淀む。ん? 何か言いにくい事でもあるのだろうか。それとも…………いやいや待て待て。それは考えてはいけない。その結論に至るのは早計すぎる。
「もう…………戻れないよ、二度と」
「っ‼」
それを聞いた俺は、ためらいなき動作で左手の籠手にあるスイッチを押し、ナーガを展開。右手にアサルトライフルを呼び出して神らしき者を撃った。
「ちょ、ま、やめ! 落ち着いてくれ、紅城悠助!」
「戻れないだと…………ふざけるなよ。あそこには俺が守りたい人がいるんだ…………大切な人がいるんだよ」
俺は銃口を男の頭に合わせる。銃弾は劣化ウラン弾に切り替え、外そうが重金属中毒でどのみちあの世に送ってやれる。最早怒りの矛先は銃口の一点に集まっていた。
「大切な人…………あぁ、きりちーの事?」
「…………誰だよ、それ」
「霧島ルリア、そういえばわかるかな?」
この神が言ってることは間違いない。俺が守りたい人は霧島ルリアという俺と同い年の少女だ。気弱でビビりでヘタレで、根性もほとんどない、取り柄が見つからない女の子。俺は彼女の事が好きだ。だが、そんな俺たちの世界ではテロが起きている。俺の願いは平和な世界、彼女ーールリアでも安心して暮らせる世界を作ること。そして、彼女を守る事だ。だが、この自称神がここに連れて来たせいでそれすらもできなくなってしまった。これで彼女を失ったら俺は…………どうなるかわからない。
「彼女の事なら心配いらないよ。俺の部下が代わりに守っている。限定的にだけど、夢でなら会えるかもしれないよ」
神のやつはそう答えて来た。彼女が無事でいられるならいいが、気になる事がある。
「…………一つだけ聞かせてくれ」
「何かな?」
「…………彼女の安全は絶対的なものか?」
そう、俺の代わりを務めるんだ。それくらいは答えてもらはないといけない。
「言ったでしょ、心配いらないって。俺は神だよ、彼女には怪我一つさせはしないよ。こっちのわがままにつきあってもらうんだから、それくらいはやらないといけないだろう?」
その答えを聞いた俺は、この神という男を信じる事にした。どうもこいつが言っている事は冗談のようには聞こえない。嘘をついている気配もないし、信じるには値する筈だ。突きつけていた銃口を下げるとともに、ナーガを格納、左手の籠手に収まった。
「それならいいんだ…………だが、気を付けろよ。あいつは目の前に蜘蛛が現れただけで泣き出すレベルだからな」
「いや、それ、大抵の女の子はそうだからね…………」
「夏希はそうでもなかったが?」
「あの子は人の亡骸見てもなんともないでしょ‼」
まぁ、戦況オペレーターだしな。こっちからの映像を見て戦況判断をしなきゃならんからな…………それに、俺なんてオーバーキルギリギリだから人の骸が生産されるシーンもあったろうしな…………夏希、すまん。もう会えないが、ここで謝る。
「それで、俺をここに呼び出しておいて何の用だ。用件があるなら早く言ってくれ」
「そうだそうだ。君には違う世界に飛んでもらうよ…………いろいろと問題のある世界にね」
問題のある世界? どういう世界だと俺は思った。俺がいたあの世界もテロなどの紛争や一部での代理戦争すらやっているわけだから、十分問題があると思うんだが。
「しんくん…………」
そんな感じで物思いにふけっている時だった。神の後ろから何やらこれまたヤバそうな人が出てきた。メルヘンチックなエプロンドレスにウサミミのカチューシャ、そして感じる変態技術者の匂い。俺の中で細胞達がこう口々に言っている。
ーーあれ、芝本と同類!ーー
要するに危険であるという事だ。だが、その人はやけに沈んだ顔をしている。一体何があった…………?
「紹介するよ、彼女が君の行く世界[インフィニット・ストラトス]の住人、篠ノ之束。この世界の彼女は他の並行世界の彼女と違って、様々な人と関わりを持とうと努力している珍しいパターンの彼女さ」
「その辺はどうでもいいんだが…………なぜ彼女が落ち込んだ表情をしているんだ?」
俺は気になっていた事を束という人間に聞いた。キャラに合わない事を言うが…………美人が俯いている姿は見たくないからな。相談に乗れるなら乗ってやるつもりだ。
「その前に君は誰? しんくんの知り合い…………?」
「俺は紅城悠助。この神とは知り合いでもなんでもない」
「というか、俺が呼んだんだけどね、君の世界に送る為に」
「そ、そうなの。…………わかった、話すよ。実はーー」
話を要約するとこうだ。彼女は自力で宇宙を目指すインフィニット・ストラトス(通称IS)という、俺たちの世界でいう歩兵搭乗型戦機を生み出した。しかし、その存在を否定された彼女は大規模ミサイルテロ[白騎士事件]を引き起こした。それによりISは世界に認められたが、それは本来の目的である宇宙探査ではなく、歩兵搭乗型戦機と同じ道である兵器への転用であった。核に変わる各国の抑止力となり、国防の多くを担っている。しかし、ISは女にしか反応せず、世界は女尊男卑の風潮に染まっている。
束はそれに嫌気がさし、こうなってしまったのは自分が人を理解しない人間であった事を自覚し改善しようと努力する一方、自分が生み出してしまったISが本来の使い方をされず、どうして作ってしまったのだろうと思っているらしい。…………これ、俺じゃなくて芝本向きじゃね?
「そういう事があったのか…………」
「うん…………束さんはダメだね。自分のわがままで動いて、世界を混迷に動かして…………ISなんて作るべきじゃなかったよ」
…………芝本、お前のセリフもらうぞ。お前のあの言葉しかかけられそうにない。
「なぁ、篠ノ之博士。あんたも技術者の一介なんだろ? だったら自分の作品に自信を持てよ! 俺の知り合い達にはな、世間からどんな評価をされようとも、自身の作品を『傑作だ!』と言って卑下にすることはなかった! ならお前もISに自信を持て! ISが泣いているぞ」
殆どが芝本のセリフ。かつてあいつが、新入りの技術者に言ったセリフだ。
ーー自分の作品に自信を持ってねーー
まぁ、知り合い達ってのは、開発部の変態共の事なんだがな。
「自信…………」
「ああ、ISを作りあげたとき、お前はきっと誇りに思ってたんじゃないのか? 宇宙進出の足がかりになるってな。その時の気持ちを思い出せばいいだろうさ、きっと」
俺がそう言い切ると、篠ノ之博士は少し考え込む。唸ったりしている様子から相当苦戦している模様。そうしているうちに俯いた表情が晴れて行く。
「なんだかスッキリしたよ、今まで忘れてたものも思い出させてくれたしね、ありがとう…………え、えーと」
「紅城悠助だ」
「よしっ! それならゆーくんだね!」
にこやかな笑顔になると共に、俺はアダ名までつけられてしまった。だが、これが本当の彼女なのだろうきっと。かつての姿に戻れたのならばそれでいい。
「ふふっ、どうやら一つ目の仕事は完了したようだね」
その様子を見ていた神がそんな事を言い出した。どういう事だよ?
「一つ目は彼女の性格矯正。人と関わろうとする力を得たのにこんなにテンションが低かったら元も子もないだろう? だから、昔の姿に戻して欲しかったのさ」
そういう事ね。何故だかはわからんが、妙に納得できる俺がいた。確かに人とのファーストコンタクトが暗かったら、暗いやつのレッテルを貼られてしまうからな。それだけは避けたい訳か。
「これが一つ目ってことは、まだ他にもあるのか?」
「勿論。でも、これが平和な世界への礎になるって俺は信じているよ」
そんなセリフ…………聞いてしまったらやるしかなくなってしまうじゃないか。
「了解した。その任務しっかり果たして見せる。短い間だが、世話になったな」
「長い間世話になる、じゃなくて?」
「…………そいつはそうか。ルリアの事、頼んだぞ」
「ほいきた。きりちーの事は任せて、そっちの仕事を任せたよ」
「ああ、依頼は確かに受けた。篠ノ之博士、行こうか」
「そうだねゆーくん。しんくん、ありがと。それじゃ、またね」
「達者でなー」
後ろから神に見送られ、俺と篠ノ之博士は突如として開いたゲートに入る。どうやら、こいつが篠ノ之博士の世界へと繋がっているようだ。平和な世界、俺が目指していた理想を今度こそ叶えてみせる。世界は隔ててしまうが辿り着く果てを見届けてくれ、ルリア。
「さてと、これであの世界もなんとかなるかなーーって、誰だよ、あのゲートを開いたバカは⁉ あぁまずい…………融合化したよ…………流れ着く果ては、変わる世界…………頼む、俺は君たちの力しか頼れないんだ…………」