インフィニット・ストラトス 平和を求める者   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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09.日常

「ハラショー、これは美味しいな」

「なのです、ここの食堂のご飯はとても美味しいのです!」

 

というわけで、現在昼休み。響と会えて喜んでいる電は、とてもご機嫌な様子。そんな姉妹の仲睦まじい光景を、俺と一夏、マドカは一緒の席で飯を食いながら見ていた。ちなみに俺は豚骨焼豚麺(特大盛り)、一夏は海鮮天丼、マドカは日替わりパスタ、電がカレー(甘口)、響がサバ味噌定食である。

 

「電、少し食べてみるかい?」

「いいのですか?」

「もちろんさ」

「それじゃ、こっちも一口どうぞなのです」

「スパスィーバ」

(((和むなぁ〜)))

 

この二人、何度もいうけど本当に会えてよかったなと思っている。悲しみを越えようだなんて、こんな齢十五歳の少女達には重すぎる。ん? 俺? 俺は心があれだからね、あまり感情の爆発とかはないし、仲間の死とか普通にあるような戦場に身をおいていたしな。って、それは電達もそうか。

喜ばしく思う反面、俺はそんな二人を少し羨ましく思う。俺は元の世界に戻れない上、戻ったとしても一番に会いたいやつとはもう会えない。こっちに来てからもまだ心の片隅ではそんな事を思い続けている。

 

「はい、あーん、なのです」

「ちょっと恥ずかしいな…………」

 

でも、そんな感情もいつかは消え去ってしまうのかもしれない。あの時の夢でルリアが俺に告げた事、電を愛してやれ、と。もしかしてルリアは俺の感情の傾きに気づいていたのだろうか…………知らず知らずのうち、電へとその感情が向いていた事に。

 

「なぁ、悠助、どうしたんだ?」

「いや、少し考え事をしていただけだ」

 

まぁ、今はそんな事は別にいいか。考えたってどうしようもないことだし、それに今が平和で幸せならそれでいい。

 

「あ、一夏、ここにいたのね。同席していい?」

「鈴か。別にいいよな、みんな?」

「俺は構わない」

「私もいいぞ」

「どうぞなのです」

「私も構わないよ」

「ありがとね」

 

そして、俺達の席に来たのは今朝宣戦布告(?)をしてきた中国の代表候補生、凰鈴音。やはり様子を察するに一夏とは知り合いであるようだ。

 

「そういえば紹介してなかったな。こいつは凰鈴音、俺の幼馴染だ」

「鈴でいいわよ。よろしくね」

「そうか。俺は紅城悠助、よろしく」

「私は織斑マドカだ」

「有賀電なのです」

「有賀響だよ」

 

様子を見る限り悪いやつではなさそうだ。快活そうな笑顔がなんとも清々しさを表している。こういう手の奴は嫌いじゃない。

 

「…………ごめん、遅れた」

「あら、簪じゃない。お久〜」

「…………久し振り」

 

少し遅れて簪も俺達の輪の中に入る。どうせまた、打鉄の建造の方に行っていたんだろうさ。完成のメドがたったから早く作り上げて乗りたいんだろうよ。

 

「ーーって、簪、あんたねぇ…………」

「…………な、なに?」

「なんで私がいない間に飛行甲板組を抜けてんのよ‼ 嫌味か‼ いつまで立っても飛行甲板な私に対する嫌味か‼」

「「ブフッ!」」

 

鈴が何かを言い出したかと思えば、胸部装甲の事かよ! まぁ確かに丁度いい膨らみ具合にはなっているんだとは思うけどさ。…………そういや、ルリアも夏希もそんなに胸部装甲は大きくなかったような気がするな。

 

「そういえば私達よりも大きいよな、簪って…………」

「なのですぅ…………羨ましいのですぅ…………」

「ハラショー…………」

「…………俺たちってこの会話に参加できねえよな?」

「…………当たり前だろ」

 

何故女子というものはこんなに胸部装甲の話で会話する事ができるんだろうか? というか、野郎がここにいるとどうしてもアウェーな感じがしてやまない。結構に息苦しく感じるものだ。

 

「というか、一夏、アンタこの二年間なにしてたわけ? 突然いなくなるし…………」

「ああ、それはだな、俺誘拐されたんだわ」

「へぇー、誘拐ねえーーって、えぇっ⁉」

「そして、妹のマドカ見つけて、悠助と電に助けられた。そんで束さんのところで暮らしてた」

「…………アンタって時々ブッとんだ事するわよね」

「そうか?」

「ビット四十基の中を突破なんて余裕でするからだろ」

「そう言うお前はそのビットの中を無傷で全基無力化する化け物だろ」

「どちらにせよ、異常なんだがな…………」

「電は開幕三秒で終わったのです…………」

「中々エグい事をしていたんだな…………」

「…………なんででしょうね、代表候補生が霞んで見えてきたわ」

 

というか、一夏が異常なだけだ。IPビームをブレードで切り飛ばすし、大剣二本使わなくとも仮想大型標的要塞級をぶっ潰したからな…………こいつ、ちーちゃんの遺伝子がかなり入っているんじゃねえの?

 

「あら、皆様此方においででしたのね」

「あ、セシリアさんなのです」

「こっちに座るか?」

「ええ、是非同席させていただきますわ」

 

と言うわけで、セシリアが参加。あの代表決定戦以降、謝罪して上手く打ち解けており、こうして俺達と一緒に行動する機会が増えた。また、一夏・マドカとは同じビット使いとして共に訓練している。最も、マドカの物量と、一夏の精密操作には勝てた事が一度もないらしいが。

 

「アンタ、セシリアっていうの?」

「? そうですが?」

「あたしは凰鈴音、よろしくね」

「存じていますわよ。私はセシリア・オルコット、よろしくお願いしますわ」

「代表候補生って、打ち解けるとき早いよなー」

「だね」

「なのです」

 

打ち解けて、仲間となる。まぁ、だからと言って特別な事はあまりないとは思うんだが。

 

「そういえば、一夏」

「なんだ?」

「アンタ、春介の事どう思ってる?」

「どうって…………面倒な弟?」

「そう…………これさ、アンタがいなくなってからの事なんだけどね、あいつ泣いてたわよ」

「…………マジ?」

「マジよ」

「想像できねえ…………」

 

…………なんか、すごい事を聞いてしまったような気がする。あの他人を見下すような奴が、その対象である兄を想って泣いていた? 想像がつかねえ。

 

「ま、それについてからはあいつに聞いた方が早いんじゃない?」

「そうかもな…………一度彼奴と話をしてみるよ」

「それよりも皆さん、あれは止めなくてもよろしいのですか?」

「あー…………悠助なら放っておくしかないぞ」

「ん? 呼んだか?」

「ち、ちなみにそれは何杯目なんだい?」

「四杯目なのです」

「アンビリーバボー‼」

 

結局、どんなシリアスムードになっても、俺達の空気は平常運行であった。

 

 

 

 

 

(彼奴と話をするのは久し振りか…………)

 

放課後、(一夏)はいつもの訓練をせずに、春介の部屋へと向かっていた。というのも、今日の昼に鈴から聞かされた事が頭に強く残っているからだ。いつも比べられ続けていた兄と弟。だが、その栄光を得たのは弟。そうした事があり、話をまともにした事がないのだ。

 

(けど、彼奴が俺を心配していた…………? うーん、やっぱり想像できねえ)

「そこで何をしているんだ?」

「その声…………春介か?」

 

それで寮の廊下をうろついていたわけだが、意外にも早く目的の奴と出会う事が出来た。しかし、相変わらずの目だな、自分の事が上だと思っているぜ。

 

「愚兄か。僕に何の用だ?」

「いや、なんだ。お前とは話をまともにした事ねえなって思ったからよ」

「僕にとっては話す事は特にないね」

 

やはり根本的に無理か。こんな調子だし、多分鈴の言っていたような事はないだろう。まぁ、俺としてはこんな調子な奴でも、俺の弟であり、織斑の数少ない家族の一人。この間の電に関してはちょっとムカついたけど、悠助がぶちのめしたから、何故か怒りは引っ込んだし。…………それに、俺はこいつとの仲を良くしたいと思っているんだ。プライドの塊みたいな奴だが、それでも俺は受け入れる。まだ、彼奴には変われる希望があるから。

 

「特にないなら僕は部屋に戻らせてもらうよ。お前に構ってる時間はないんだ」

「そうか…………そいつは済まなかったな。それじゃあな」

 

そうとだけ言って立ち去ろうとしたが、一つ言い忘れていた事があった。

 

「クラス対抗戦、頑張れよ」

 

その一言を言い忘れていた。クラス代表だからってのもあるが、それ以前に身内には頑張ってもらいたいからな。誰だって思う事だろ?

 

「…………そっちこそ、勝手に誰かに負けたりするな。次に勝つのは僕と決まっているんだからな」

 

その言葉を背に聞きながら俺は寮を後にし、悠助達がいるであろう第四格納庫に向かった。そういや、二式完成したんだっけな。簪の訓練にも付き合ってやらないといけないぜ。

 

 

 

 

 

「…………はぁ、なんであんな態度しかできなくなったんだろうな、僕は」

 

一夏が去った後、春介は寮の廊下の壁に背を預け、天井を仰いでいた。その表情はいつものような人を見下すようなものではない。どこか悲しげなものであった。

 

(僕はダメだ…………兄さんの優しさを受け取ってちゃダメなんだ…………あの優しさは僕にとっては眩しすぎる…………それに、知らずのうちに女の子を傷つけていたなんて…………僕はやっぱりダメなんだよ…………兄さんのような人望も無い…………どんなに頑張っても、兄さんには勝てそうに無いな…………)

 

ため息とともに、何か重いものまではきでてくる。

 

(…………でも、兄さんが無事でよかった)

 

それでも、彼はまだ織斑一夏の弟である。そして彼は兄を嫌ってはいない。無事だったことを思ってか、その表情は悲しげなものから、少しだけ笑みを見せていた。それもいつものような濁った笑みではなく、少し優しげな笑みを。

 

 

 

 

 

『はろはろ〜、ゆーくん聞こえる〜?』

「博士、どうした?」

『いやー、大変なものがゆーくんのナーガから出てきたんだよー』

 

夜、電と響が丁度風呂に行った頃だ。俺は博士からの電話に応答していた。電話というか、ナーガの回線に通信してきただけなんだがな。

 

「何が入っていたんだ? また設計図関連か?」

『ぴんぽーん! それもね、量産機のデータだよ。型式番号RGAT2-69と言えばわかるかな?』

「影蛇…………」

 

これまた懐かしいものが出てきたなと俺は思う。影蛇…………俺が中学生の頃に使っていた、陸戦型歩兵搭乗型戦機。特徴という特徴が無いのが特徴、という汎用性を突き詰めた機体だ。腕部には固定式バックラーアーマーがあり、中には跳ね起き式ナイフシースが収まっている。また、各搭乗者の戦闘スタイルに応えるため多くの派生機が生まれた機体でもある。俺が使っていたのは、影蛇の強襲前衛装備。たまに換装して火力支援装備。

ちなみにロールアウトは俺の世界で2079年。劉ヶ崎重工は西暦下二桁から10引いた数字を型式番号に採用する癖がある。

 

『うん。組み上げて、今は束さんの助手がわりに使っているよ』

「無人機化した⁉」

『まぁね〜。擬似人格もいい子だしさ。それと、言っておかなきゃならないことがあるんだよ』

 

そう言うと、博士の空気が変わった。通信越しでもそれは感づくことが出来る。それだけ変化が大きいってことだ。

 

『もしかすると、対抗戦の時に何かが乱入してくるかもしれない。その時はーー』

「ーー撃破する。あの兵装も使わせてもらう。それでいいんだな?」

 

あの兵装とは、まだ説明することは出来ない。あれを使うと街が焼けてしまうか、更地になるかのどちらかに必ずなってしまう。それだけ、あの兵装の使い方は難しいんだ。

だが、それ以前に敵が攻めてくるのかもしれない。その数量がいくらかはわからない。数の暴力というものはいつの時代でも恐ろしいものだ。そうなったら形振り構ってられない。守るためには、それくらいしなければならない。

 

『うん。ゆーくんの自由にする。でもね、死んじゃダメだよ?』

「俺はまだ死ねない。平和で平等な世界を目指すまではな」

 

未だに燻ってる俺の願い。その理想を叶えるまで、戦いも殺しもやめない。そして死ぬことはするわけにいかない。例え血に濡れた平和でも、戦争で作られたかりそめの平和でもいい。大切なものが無事でいるなら…………それで十分だ。

 

「報告は以上か?」

『そうだねー。あ、そうそう、今新しいもの二つ作ってるんだー、それくらいかな』

「そうかい。それじゃ、またな博士」

『じゃあね〜、ばいびー』

 

通信は切れた。まぁ、これが普通だからいいんじゃないか? てか、新しいものって何を作っているんだよ…………また面倒ごとに巻き込まれそうな気がするぞ。芝本も大概だが、博士はそれよりもやばい。というか、暇つぶしに現行のパソコンの数段高いOSを組み上げるな。あと、飯を自炊出来るようになれ。って、もはや愚痴か。

 

(どれ、シャワーでも浴びるか)

 

俺はシャワー室に向かう。電達がくる前にさっさと終わすか。身体中にある細かい傷を見られたくねえし。特に左肩の銃創痕。いやー、一般歩兵用アサルトライフルの5.56mmAP弾だからよかった。これがAT用36mmクラスだったら左腕が吹っ飛んでいたぜ。

とりあえず、この後は特に何もなかった。しいて言えば、俺が二日続けて雑魚寝したくらいか。ベッドの搬入は三日後らしい。まぁ、特に意味もないがな。

 

 

 

 

 

そして時は流れ、クラス対抗戦の日を迎えた。一組の対戦カードは二組であった。

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