インフィニット・ストラトス 平和を求める者 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
「全員集まったな?」
現在フタフタマルマル…………午後10時だ。俺を含めた今日の事件の当事者は寮長室へと集められていた。というのも始末書を書いたりだのいろいろした結果や、かなりやばい事案のため情報がもれないようにする点、などなどを考慮した結果消灯時間以降に集められることとなった。
「ええ、全員集まっています」
「そうか、なら話を始めるとしようか」
そういってちーちゃんは口を開いた。
「今日の襲撃事件について、お前達の処遇を決めるとしよう」
…………まぁ、そうなるよな。一応、軍事学校といっても学校だし、軍事系でもあるから命令違反はまずいし。処分が下されるのはある程度わかっていた。
「まずは全員に言っておく事だが、今回の件、箝口令を敷かせてもらった」
「箝口令、ですか…………」
「ああ、理由はある。お前達は当事者だから話すが、あの二機、無人機だった。一機は原型をとどめていたからデータをとっているが、もう一機は四肢が飛び散った挙句、胴体も割れていたから解析不能という事だ」
俺は無意識のうちに目をそらしていた。いや、多分それってラマーチだ。多段階アーマーピアーシング弾を撃ち込んだからそうなったのだろう。だってあれ、連続して徹甲弾が食い込んでくるようなものだし。というか、四肢が飛び散ったのかよ…………それに無人機か。スプラッタな光景を見る必要がなくなったのはそれでいいが。
俺のいた戦場では時々、千切れた腕を包んだ腕部装甲とか、脳がちょっと見えかかっている頭部装甲とかが転がっていたからな。まぁ、そういうのは口径76mm以上の火砲が直撃したくらいの時しかできない。普通は装甲と補助駆動人工筋肉、そしてその下にある
「無人機か…………」
「ああ。こんな技術、未だ世界に公表されてない。よってこれについては一切の他言を禁ずる。次に個人別に処理していくぞ。織斑弟と凰」
「は、はい!」
「お前達はよくやってくれた。もし、お前達が紅城達の突入まで持ってくれなかったら、アリーナは今頃人の血で濡れているかもしれなかっただろう」
「…………」
「だが、お前達のおかげで生徒の命を守る事が出来たのには変わりない。その点には感謝する。しかしだ、私の心境も考えては欲しかったぞ。教え子に目の前で死なれたら、私は立ち直れんぞ? だから、お前達には少し罰をやる」
そういってちーちゃんは、二人の頭を軽く小突く。本当に軽くだ。どんな罰が下されるのかわかっていなかった二人は、こんなにも軽い罰であるとは思わなかったようだ。
「お前達は以上だ。あとは部屋に戻っていいぞ。ああ、明日は臨時休校だ。ゆっくり休むといいさ」
「わかりました。失礼します」
「お休みなさい、織斑先生」
そう言って二人は寮長室を後にした。
「さて、次は織斑兄妹、有賀姉妹、紅城だ」
「あ、始末書部屋に忘れてきた…………」
「電は今のうちに提出しておくのです!」
「同じく」
「後で目を通しておくとしよう。織斑兄、お前はこの後忘れずに持ってくるように」
「あっ、はい」
「本題に戻るぞ。紅城、織斑兄妹は無人機の撃破、有賀姉妹は生徒の避難誘導。専用機持ちとしての自覚がしっかりとしているようだな。力のあるものは率先して皆を導く事が必要だ」
「そ、それで私たちの処分は?」
マドカが恐る恐ると聞く。だが、帰ってきた答えはあっけないものだった。
「ん? お前達は何もないぞ。忘れたのか? 非常時にはお前達の自由行動を認める、と」
「「「言っていたな(のです)」」」
「忘れんなよ…………」
「え、何それ? 知らない」
「お前は知らなくて当然だ」
そう、俺達の非常時における自由行動権だ。これは学園側の方で認めてもらっている、ある種の特別権限に近いものである。というのは、非常時、訓練機程度で抑えられない敵の襲撃、もしくはテロ屋による襲撃があった場合に武力を行使できるものだ。それもあって、今日の襲撃を乗り切った訳である。
「そういう事だ。お前達にお咎めはない。お前達も部屋で休め。紅城、お前は少しここで待ってていてくれ」
「了解。電、響、お前達は先に寝てていいぞ。ただし、歯はしっかり磨いて、トイレとか済ませてからな」
「わ、わかっているのです! おやすみなのです!」
「ふふっ、それじゃスパコーィナィ」
まぁ、一応言っておかなければならない気がしたんだよ。ほら、響が電は漏らした事があるとかいうからさ…………ちょっと心配になったんだ。まぁ、そんな事を高校生になってからも言われたんじゃ、恥ずかしいのは当たり前か。その証拠に、さっき電は顔を真っ赤にして退室していったからな。
というか、俺が残されたのはなぜだ? 残る処分人は…………ああ、掃除用具か。
「さて、最後に篠ノ之、お前は彼奴らと違い、罰しなければならない。何故かはわかるな?」
「わ、私が何かをしたんですか⁉」
あー、こいつ気づいてねえのかよ。全く、とんでもねえ奴かもしれないな、これは。
聞いているこっちも呆れてきたので、俺が口を開いた。
「お前の行動すべてだろ。特に今日のアレ、あの放送は何の意味があるんだ。まだ一夏の奴がビームを斬り裂いたからいいものの、直撃していたらどうする。中に残っていた生徒や避難中の生徒を危険に晒したんだぞ」
自分でもいつになく低い声を出していると思う。だが、こいつの行動には目も当てられない。何故かは知らないが俺達の誰かかにかには木刀やら真剣やらで切りかかってきた。電も襲われた。幸いにも怪我はしなかったからいいものの、その怒りは収まるところを知らない。
「わ、私は春介に活を入れようとしてだな…………」
「そんなものをして何になる。ただの邪魔か、もしくは丁度いい的のどっちかだろうが。それに白式は戦闘続行が不能に近かった。あそこで下げなければ死んでいたぞ」
「そ、そんな事、やって見なければわからないではないか⁉ そもそもだ、武士が敵に背を見せるなど恥もいいところだ‼」
「馬鹿か。さっきのは遊び半分の競技じゃねえ、命の遣り取りがある実戦だ。やってみないとわからない? そんな事しているうちに死んだら元も子もねえ。それに、死にかけてる奴を戦わせようとするな」
実際、このISがスポーツとして扱われる時点で、遊び半分じゃないかと思っている。軍関係はそうじゃないだろうが、ここは明らかに兵器を扱うところとしての自覚が無さすぎだ。まぁ、今日の一件で少しは変わると思うけどさ。
「わ、私は…………私は…………」
「もういい。篠ノ之、貴様の日頃の行動には少し身に余るものがある。とりあえず貴様には謹慎一ヶ月と反省文百枚を書いてもらう。それと、木刀や竹刀、真剣はこちらで没収する。無論拒否権はない。まぁ、今のお前が持っていたところで宝の持ち腐れだろうがな。紅城、拘束しろ」
「了解」
ちーちゃんより拘束具を渡された俺は掃除用具の両腕と両脚にそれをはめる。こんなものつけられたら脱走は不可能。ATで無理やり壊す以外ないだろう。
「な、何をする⁉ 貴様ッ‼」
「ギャーギャー喚くな。織斑先生こいつはどこへ連れて行きますか?」
「独房にしておこう。自室では、もしかすると有賀妹ーー電に危害を加えるかもしれん。マップはお前の機体にデータで送っておく」
「感謝します。では、失礼します」
「ああ。済まないなそんな役目を押し付けてしまってな…………はぁ、まだ新規採用同然だから、書類整理が終わらん…………」
俺はちーちゃんのそんな独り言を背にし、掃除用具を担いで退室した。というか、まだ新規採用だったんだ…………なんか新入りのような空気をしていたからそんな気はしていたけど。
「ところでお前に聞いておきたい事がある」
「何だ?」
「お前、何故電を執拗に狙った? 俺たちもいる中で、何故あいつだけ狙っていた?」
「そんなの決まっている。強くもないくせにヘラヘラしている、すぐに泣く、臆病者、そこが気に入らない。それに武芸もできないと見た。こんな不器用な奴、いても無駄ーーふごぉっ⁉」
俺は質問の答えを聞いた瞬間に、掃除用具の鳩尾に拳を一発入れた。その衝撃で掃除用具は意識を完全に刈り取られ、独房にぶち込んでやるまで目を覚まさなかった。はぁ…………でも、電が弱い、か…………そう思っている奴らは電の本気を知らないからな。
「お前よりは電の方が強い。その全てにおいて、お前は劣っている。特に心はな」
それに、あいつはしっかりとした信念を持って、常に悩み考えながら、努力を重ねている。それを知らずに弱いなどと言われるのは、俺でなくても腹がたつだろう。俺は鉄錆の匂いが立ち込める独房エリアを後にした。
俺が自室に戻ろうとすると、何故かは知らないが入り口に春介がいたーー土下座姿で。
「…………何やってんの?」
「今までの事、ごめんなさい‼」
「は?」
俺が話しかけると謝り出した。いやいや、こいつにどんな心境の変化が起きたんだ⁉ 今まで他人を見下すような目をして、いちゃもんつけてきたり、電を屑呼ばわりしたり…………そんな醜悪の権化みたいな奴を何がどう変えたんだよ⁉
「すまない、ここじゃなんだから、休息所のとこに行くぞ」
「…………はい」
…………調子狂う。とりあえず、春介を立たせて自販機とかがある休息所のところへと向かった。ここなら座って話もできるだろうしな。ついでに飲み物でも買っておくか。
「お前、何か飲むか?」
「…………いや、僕は別にーー」
「その様子だと、俺に何か言いたいんだろ? どうせ喉も乾くんだ。一本くらい奢ってやる」
「…………じゃ、コーラで」
「ほいよ」
俺はコーラを買い、その缶を春介に投げ渡す。さて俺は何にしようか…………冷茶でいいか。
「それで、なんでまた急に謝りになんてきたんだ? お前そんな事する奴の柄じゃないだろ?」
「僕の評価ってそうなってるのか⁉」
「俺の中ではな。それで、なんできたんだ?」
「…………僕は別に君達を敵視するつもりなんてなかったさ。ただ、そこにいる、そんな感じ。でも箒が『あの落伍者がいるぞ。邪魔だから追い出そう』なんて言い出して…………僕は昔からキャラ作りが得意だったから、人を見下すようなキャラになってしまって…………そうしたら、好きだった兄さんまでも見下してて…………気がついたら女の子まで泣かせてしまっていたんだ。気がついたのはあの試合が終わってしばらくしてから。気絶してたみたいだったしね。僕は取り返しのつかない事をしてしまったと思ったよ…………昔もそうだったし、兄さんやマドカを箒に言われるがままに貶めていたしさ」
「掃除用具に言われてか? なぜ逆らおうとはしなかった。お前の話を聞く限り、お前自身は一夏を嫌っているようでは無さそうだが…………」
「兄さんを嫌いになれるわけなんてないじゃないか! それに一度だけ逆らったさ! そうしたら木刀で頭を叩かれて…………トラウマになりかけているんだ。だから、僕は兄さんに嫌われようとした。兄さんの前では人を見下すような卑しい人を演じていたんだ」
春介は一度、コーラを飲むと再び話を始めた。
「でも、そうしたら今度は皆が兄さんを貶めてしまったんだ。兄さんは次第に荒れていって、最後には誘拐…………僕がしてしまった事が、こんな取り返しのつかない事になるなんて思ってもいなかった…………僕は兄さんに合わせる顔なんてないんだよ。兄さんは僕と違って、とても輝いていて、優しいものなんだ。僕にはその中に入る資格なんてないよ…………」
そう言い切ったら、彼は顔を俯かせた。こいつは重症だな…………だが、一夏を想う思いは伝わってきた。仲直りさせてやるか…………。
「成る程な…………ちょっとこっちを向け」
「な、なんだーーぎゃぷらんっ⁉」
「お前、一夏と一度真面目に向き合って話した事があるか? あいつ、お前が人を見下すような言動をしているのを見て、悲しそうな顔をしてたぞ。それに、今日の一件もそうだ。お前の事が心配じゃなきゃ、お前を逃がすような事はしないだろ。…………お前はまだやり直せるさ、きっと」
キャラじゃないことをしている自覚はある。だがこういう奴を見ていると手を差し伸べたくなるんだよな。
「ある男の話をしよう。そいつはかつて兵士だった。機動兵器を扱い、敵を殺すだけのな。そんな奴にも傭兵の友人がいた。大層仲が良かった。だが、ある時、二人は喧嘩し仲違いしてしまった。そして、その傭兵は二度とその兵士の前に姿を現すことはなかった…………お前はやり直せるチャンスがあるんだ、それを使え」
「…………ありがとう。許してくれたうえに、アドバイスまでくれてーー」
「は? 俺がいつ許したなんて言った? 先に電に謝れよ? じゃなければ、もう一度対装甲ナイフで雪片を砕くぞ。あと、行動は明日にしろ、ちーちゃーー織斑先生に見つかったらアウト」
「…………わかってるよ、じゃあな、え、えーと」
「紅城悠助だ、覚えておけ春介」
「じゃ紅城、また明日」
「ああ、また明日な」
そう言って春介は自室の方へと戻っていった。さて、俺も戻るとするか。
「ほう、仕事の後すぐに部屋に戻らず寛いでいるとはな、いい身分じゃないか、紅城」
「ちーお、織斑先生…………」
「やはりお前にも罰をやる、ついて来い」
「ま、マジか…………」
結局、ちーちゃんに見つかって寮長室へと拉致されるのであった。堪忍してつかぁさい…………。俺は溜まっていたちーちゃんの書類処理を手伝わされる羽目となった。…………俺、デスクワーク苦手なのに…………。
「し、死ぬかと思ったぜ…………」
実際書類整理自体はすぐに終わったのだが、ちーちゃんのブラコンシスコン談義に付き合わされるのは辛かったぜ。だって、俺一人っ子だし、孤児だし。
やっとの思いで部屋に戻ると、響だけがベッドで寝ていた。電はというと
「すぴー…………すぴー…………」
まさかの床で寝ていた。というか、ベッドから転がり落ちたもよう。流石にそのまま放置しておくわけにもいかないので、俺は電を抱き上げベッドに寝かせた。そこまではよかったんだ。
「すぅ…………すぅ…………」ぎゅっ
…………電が俺の制服の袖をつかんでいなければな。その手を外そうと試みたが、そこそこ力をいれて握っているようで、外せそうにない。
「はぁ…………仕方ねえか」
俺は腰にはめていたナイフとハンドガンのホルスターを外し、ベッドの側にあるサイドテーブルの上に置く。そして、電の寝ているベッドの中へと入らせてもらった。そういえばこうして誰かと一緒に同じ布団で寝るのは初めてかもしれない。テロで両親を失ってからは特に、な。
「すぅ…………すぅ…………」
「…………」
…………電の寝息が聞こえるものだから、よく眠ることができなかった事は言うまでもない。それでも、誰かと一緒に寝る温もりをこの歳になって感じる事が出来たのは、よかったのかもしれないな。