インフィニット・ストラトス 平和を求める者   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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012.平和な日常

翌日、臨時休校の日だ。そういうわけで学校自体はやすみなんだが、筋トレだけはサボりたくはない。それで、起きようとしたわけだが、何やら腕が重い。ふと横に視線を向けると、穏やかな表情で眠っている電の姿が。そういや、昨日一緒に寝たんだな…………というか、こんな表情見せられたら起こそうにも起こせないじゃないか。

 

「…………何をしているんだい?」

「…………響、俺は間違いを犯してはいないからな?」

「…………添い寝?」

「…………まぁ、そうなるな」

 

響に見つかってしまったが、まぁ問題ないだろう。こいつはちゃんと理解してくれたし、そうそう情報を漏らすような奴じゃない。ここ最近共に暮らすようになってから、大体響の事は理解してきたしな。

 

「よ、悠助〜、起こしにきた…………ぞ?」

 

…………でもな、予想外な事はよく起きる。それが戦場とか緊迫した状況ならなおさらだ。そう、たとえば今のような時はな。

というか一夏、鍵をかけ忘れた俺にも非があるが、ノックの一つや二つしてから入って来い。次からセントリーガンをセットしなければならなくったぞ。

 

「す、すまん…………ゆっくりしていてくれ」

「誤解するな。あと、お前どんなイメージをしやがった?」

「い、いや、だって、男と女がベッドの中でする事といったらーー」

「待てコラ、そこから先のセリフをしゃべった瞬間、R-15がR-18に跳ね上がる危険性があるぞ。あと、こんな気持ち良さそうに寝てる奴にするか」

「だよな…………じゃなかったらガチでロリコーー」

「ーー厳しい訓練するか? 素手での近接格闘戦だが」

「スミマセンデシタッ‼」

 

とりあえず一夏に近接格闘戦(という名のCQCや関節技を極める地獄)で土下座させてひれ伏せさせる。というか、俺も正直あの時はやりすぎたと思っている。一本背負いで投げ飛ばしてからのアルゼンチンバックブリーカーは過剰だったような気がするな。

 

「とりあえず、電を起こして飯食いに行くから、響連れて食堂の席でも確保しておいてくれ」

「お、おう。わかった」

「行くよ、一夏」

 

そういって一夏と響は部屋を後にし食堂の方へと向かった。さて、電を起こすとするか。だが…………やっぱり起こせそうにない。ただでさえ涙の絶えない思いを幾度もしてきた彼女が、いまこうして安らかな顔でいる。どうしてもそう考えてしまうとな、もう少しだけでもその安らかさの中にいさせてあげたいと思うんだ。そう言う俺も少し笑みがこぼれているのがわかる。

 

「…………ふみゅ?」

「電、おはよう」

 

どうやら目覚めてしまったようだな。電は少し寝ぼけているのか、二三回瞬きすると、

 

「は、はわわわわっ⁉ ゆ、悠助さん⁉ なんでここにーーふにゃっ⁉」

 

どうやら俺がここで寝ていた事に驚いたのか、一気に飛びのいて壁に後頭部をぶつけた。うおぉ…………痛そうだな。

 

「はにゃっ⁉」

 

…………挙げ句の果てに、壁にかけてあったデフォルト装飾品の額縁が落ち、先ほど強打した後頭部に角で急降下爆撃した。つ、追撃かよ…………呪われてんのか? 電の後頭部にはたんこぶが見える。あぁ…………また目でも疲れてきたのだろうか。

 

「…………うぅっ…………ひっぐ…………痛い、のですぅ…………」

 

最終的には泣き出した。だろうな、そりゃ泣きたくもなる。うっ…………いかん、犯罪臭がプンプンしているぜ。ある意味、電の涙目は一種の破壊兵器に等しい。何の破壊兵器だって? 野郎の理性のタガに決まっている。

 

「あー…………大丈夫か?」

 

とりあえず直撃部位を優しくさすってやる。なんとなくだが、こうしてやると痛みが引くんだよな。何故だろう?

 

「…………もう、朝から困難じゃ、扶桑さんや山城さん並の不幸っぷりなのです…………」

「え? 扶桑型の一番艦と二番艦?」

「あの人たちの不幸っぷりと比べたら電はマシな方ですが…………痛いものは痛いのです」

「だろうな…………後でまたさすってやるから、とりあえず準備して来い。飯食いに行くぞ」

「わかったのです」

「髪のセットは後ででもいいからな」

 

電はベッドの中から出ると一旦洗面所の方に向かった。まぁ、顔でも洗うんだろうな。というか、そろそろ食堂に行かないと時間がやばい。

 

「電、着替えは済んだか?」

「大丈夫なのです。いつでも行けるのです」

「よし、食堂へ向かうぞ」

 

俺も制服の上着を羽織り、食堂の方へ向かう事にした。

 

「そういえば、なんで悠助さんが電のベッドの中に入っていたのですか?」

「あー、お前がベッドから落ちていたのを拾い上げたら袖をつかんでな、離してくれそうにもなかったからそのまま寝た。悪かったな…………その、一緒のベッドで寝てよ」

「い、いや、別に怒ってなんてはいないのです!…………というか寧ろよかったとか…………」

「ん? どうした?」

「な、なんでもないのです!」

 

…………何故か昨日の事を言ったら電が顔を赤くして、頭をブンブンと振り始めた。あ、あかん、今の電は髪をアップに纏めてないから、ムチのように当たる、俺に!

 

 

と、まぁ、なんやかんやあって食堂に着いた俺ら。時間帯としてはそろそろ混み始める頃合いだ。そういうわけで、朝から行列作って並ぶのも嫌なので、さっさと食券買って一夏のところにでも行くとしよう。

 

「俺、本日の超弩級飯一つ!」

「電は和定食にいつものをお願いするのです!」

「アイヨォ! 今日ノ弩級ハカツ丼ネ! ホイ、イッチョアガリィ!」

「おう! あれ? 電、お前、今日はコーヒー牛乳?」

「たまには違うのもいいかと思って…………というか、その丼はなんなのですか⁉ それは赤城さんか加賀さんのどっちかが食べる量なのですよ⁉」

「いいんだよ、というかどっちも空母かよ…………」

 

超弩級飯。それは最早丼飯の領域を超えている。総重量は最低でも三キロ、最大となるとどうなるのやら…………。そしてその種類は毎日毎日変わっている、日替わりだ。今日はカツ丼の日だったが、この間は海鮮丼だった。飽きる事がないから悩む必要もなくていいしな。

 

「お、悠助、こっちだ!」

 

そうこう考えていると、一夏の奴が席をうまく確保していたようだ。マドカと簪、響も同席している。

 

「おう、上手く席を確保出来たようだな」

「まあな…………というか、その飯の量…………いや、もう何も言わねえ」

「空母か戦艦並の食料くらい消費しているな、これは…………」

「…………朝から、胸やけする」

「電、プリン食べるか? あげるぞ」

「ありがとうなのです、マドカちゃん!」

 

まぁ、毎朝恒例の俺の飯に驚くが発生したわけだが。あと、マドカは電に餌付けしていた。もう既にマドカの立ち位置が電や響の姉貴分になっているな。

 

「チィーッス、今日もいつものをメンツが揃っているのね」

「あ、鈴か。どうする、こっちに座るか?」

「まぁ、それもいいんだけど…………その前にね。ほら、前に出なさいって」

 

そう言って鈴が自分の背中側に隠れていた奴を俺たちの前に出した。

 

「や、やぁ、みんな。お、おはよう」

 

いろんな意味で俺たちと関係のある、春介であった。その目はどこにも濁りが見られないし、態度からも見下しているようなものは感じられない。昨晩のあれで元に戻れたのかもな。

だけどな、一夏と事情を知っている俺以外は一触即発の状況だ。マドカは今にも噛みつきそうな植えた狼状態だし、簪は箸を構えて、響に至っては碇を取り出して構えている。おいおい、飯の時くらい抑えていろって。

 

「まあまあ落ちつけって。それよりも、何の用なんだ、春介?」

 

それを制止したのは一夏であった。さてどうなるんだろうな…………鈴の方へ視線を向けると、向こうもどうなるのやらといった顔をしていた。

 

「に、兄さん…………その、ごめん、今までひどい事言って…………人のせいにするつもりはないんだけど、やっぱり箒が怖くて、それで…………」

「…………春介。もういいんだ。別に俺は何とも思ってなかった、といえば嘘になるけど。でもさ、マドカと千冬姉、そしてお前は俺の家族なんだ。今までの事は消えはしないけど、これからやり直せば何とかなるさ」

「兄さん…………ありがとう」

「昔のお前に戻ったみたいだな」

 

頭を垂れる春介に一夏は優しい言葉をかけていた。あそこまで罵倒されていたのにな…………やはり彼奴の優しさってやつがそれに起因してるんだろう。

 

「どうやら、なんとかいったみたいね」

「鈴が後押ししてくれたのもあるけど。でも、一番は紅城君だね」

「俺はそこまでの事をしてはいねえよ。それよりも、約束忘れてんじゃねえだろうな?」

 

普通に好感の持てる姿になった春介に、俺はそう言う。まぁ、条件付きで手助けしたわけだしな。

 

「忘れてないよ…………有賀さん」

「はい?」

「その…………ごめんなさい。知らなかったとはいえ、君の事を傷つけるような事を言ってしまって…………許してくれとは言わないけど、謝らせてくれないか? 本当にごめん」

 

その条件は電に謝ってもらうこと。知らずのうちに電のブロックワードに触れていたわけだからな。一応ケリだけはつけてもらいたかったんだ。

突然の事に電は驚いたような表情をしていたが、しばらくして朗らかな笑顔を浮かべた。

 

「いいのですよ。もう過去の事ですしね。それに、電は誰とも喧嘩なんてものはしたくないのです。平和が一番ですから」

 

そう言って電は春介に手を伸ばした。

 

「はい、仲直りの握手なのです」

「あ、うん…………ごめん、それとありがとう、有賀さん」

「電、でいいのです。よろしくなのです、春介さん」

「よろしくね、電」

 

…………なんとかこっちは大事にならずに済んだようだな。電も電で平和的に解決出来たようだし、春介にも友達としての存在が出来たみたいだしな。

 

「よかったな、春介」

「ああ、紅城君のお陰だ。君には感謝しきれないね」

「よせ、俺は手助けを少ししただけだ。あと俺は名前で呼んでくれて構わねえぞ」

「そうかい? それじゃ、悠助と呼ばせてもらうよ」

「兄さんの弟か…………まぁ、何かとあるんだ、よろしく頼むぞ」

「そうだね、電のお姉さんとしても気になるし、よろしく頼むよ」

「…………血縁関係者なら仕方ないよね、まぁよろしく」

「よろしくね。ところで更識さん「簪でいい」簪さんの事は義姉さんと呼んだ方がいいのか、兄さん?」

「「ぶおぅへっ⁉」」

 

春介の唐突な発言によって吹き出される二本の噴水。その被害の矛先は鈴だった。

 

「あ、あんたらねぇ…………!」

「いやいや、気が早いぞ⁉ まだ俺は結婚できる年じゃ…………あ、俺今自由国籍だったんだ…………」

「…………じゃ、じゃあ! すぐに結婚できるの⁉」

「簪がちょうど迎えてないから無理じゃね? まだ15だろ?」

「…………あと数ヶ月だから問題ないよ?」

「いやいや、そこ守れって」

「朝から人の前でイチャコラしてんじゃないわよ! このバカ夫婦が‼」

 

軽快な音と共に振り抜かれるハリセンは、暴走し出している二人の頭をしばいていった。

 

「というか、あんたらの所為で何人かが砂糖はいているわよ⁉ 中学の頃より悪化してない⁉」

「大丈夫だ、問題ない」

「はい、思いっきりフラグー‼」

 

鈴はどこからともなく取り出したタオルで顔を拭いてから、ドカッと椅子に座った。さて、飯もそろそろ食い終わるし、俺は抜けるとしますか。

 

「ごっそさん、俺は先に戻るぞ」

「おう、了解したぜ」

「それじゃ私も」

「ま、待ってなのです! まだ食べ終わってないのです‼」

 

結局、出ようと思った時に出れる事なんてないんだよね。てか、電の食うスピード遅え。一口が小さい上によく噛んでからじゃないと飲み込めない人。しかも今日は髪を結ってないから少し気になって、もたついている模様。…………なにこの可愛い生き物は。

 

「…………電が天然であざとさ全開になってる、ハラショー」

「…………なにこの保護欲の塊は、反則よ」

「…………僕は、こんな子を泣かせてしまったのか」

「…………少し空気が甘い」

「…………いい加減くっつけっての」

「…………兄さん、ブラックコーヒーとってくる」

 

大半がその光景で轟沈した。は、破壊力半端ねえなおい。しかも、周りでは砂糖を吐き出している連中もいる。シャレになってねえ。…………というか電よ、その牛乳とかを飲む時、くぴくぴ音を立てるのやめてくれ。じゃないと

 

「「「「ブッシャァーッ‼」」」」

 

…………鼻血を出して死にかける奴らがいるからさ。ほら、春介を見てみろ、何故か自己嫌悪のスパイラルに入ってしまってるぞ。

こんな感じで今朝もカオスな日常が過ぎて行こうとしていたのであった。

 

 

「さて、買い物に行くとするか」

「はい!」

「ウラー」

 

休日を利用して駅前のショッピングモールの方へ足を伸ばしていた。というのもだ、響が私服を一着も持ってないから、電が見繕うとか言い出したもので…………財布は俺持ちなんだろうけどさ。ちなみに俺は黒のレザージャケットとグレーを基調としたボトムスを着用、電と響はセーラー服をそれぞれ着ている。姉妹だからなのか服装が似ているけど、『Ⅲ』の文字をあしらったバッジをつけている位置が違う。電が服の裾、響が帽子にそれぞれ付けている。

 

「それでは、早速響ちゃんの服を選びに行くのです!」

「あ、ちょ、電! ひ、引っ張らないでくれ」

「…………元気だなー、お前ら」

 

仲睦まじい姉妹の光景を眺めながら、俺は二人のあとを着いて行く事にした。その方が行動もしやすいだろうしさ。

 

「ところで響ちゃんはどんな服がいいのですか?」

「そうだね…………シンプルな感じがいいかな」

「何気選択難しくないか? シンプルな感じなんて、無地以外ないぞ?」

「…………私は電といられればそれで十分だから、あまり欲がないんだ」

「ここでシリアスになるなよ…………」

 

響は時々シリアスなムードになる事がある。まぁ、仕方ないといったら仕方がないんだろうけど…………どうも俺はこっちにきてからというものの、シリアスが苦手みたいな感じになってきている。戦闘は除くけどさ。日常くらいは明るく過ごしたいものだ。

 

「あ、こんなのはどうです? 割とシンプルですよ?」

 

そう言って電が見せてきたのは黒地で袖のあたりにラインの入った半袖のシャツ。確かにシンプルなのだろうが、響はあまり好まなそうだな。色合い的に。

 

「黒は少しな…………他にはないのかい?」

 

ほらな。黒は避けたようだ。しかし響のイメージカラーか…………なんだろうな、白とかそんな感じか?

 

「それじゃ、こっちはどうですか?」

 

次に出してきたのは青地でバイナルパターンが描かれているポロシャツ。左胸のところには『I-401』と文字が入ってる。

 

「うーん…………他のはあるかな? 401って見ると、どうしても、ね」

「あ、しおいちゃんですか」

「あの酸素魚雷発射管をフリーガーハマーみたいに使って怒られたのがトラウマに…………」

「何を言っているかわからないが、自滅じゃねえか…………」

「何をやっているんですか…………それにしても、これもダメですか…………一番服が多いって言われてる『ブルー・スティール』にないとするなら…………」

 

まてよ、響のイメージカラー、一つだけあった。まぁ、あれだ、髪の色とかそんな感じのもので判断しちゃったものだし。あまりあてにはならないか。でも、この色は響にあっていると思うんだよな。

 

「…………アイスブルーとか」

「アイスブルー…………わかったのです! ちょっと探してきます!」

 

電はそう言うとこの店内の隅から隅まで観察し始めた。すげえ躍起になっているな。だが、アイスブルーなんて色、そうそうあるわけ

 

「見つけたのです!」

 

…………あったわ。電が持ってきたのはアイスブルーを基調とし、右胸の方に黄色の三連星が描かれている七分袖のVネックシャツ。

 

「ほぅ、これはいいな。スパスィーバ」

「やっと決まったのです…………」

「他は何を買うつもりだ?」

「普通にスカートとかそういうのものなのです」

「いや電、私はこれがいいんだが」

 

響が手にとったのはダメージジーンズと呼ばれるものだった。俺の場合はさらにダメージがでかくなりそうだから避けているが、響とかの場合はそんなに派手に動きまわることも無いだろうし、いいんじゃないのだろうか。割と似合っていると思うし。

 

「ならば、早速試着してくるのです。ほらほら、早く早く」

「わ、わかったから押さないでくれ」

 

電に急かされるような形で試着室へと連れ込まれる響。電ってさ、いつも自分を主張できずに引っ込み思案なことになるけど、こういう時は積極的になるんだよな。まぁ、そのギャップもいいんだが…………って、このセリフ聞かれたら完全にロリコンじゃねえか⁉

 

「どうだい? 変じゃないかな?」

 

試着室から出てきた響の姿を見て息を飲む俺。アイスブルーのシャツが無骨なダメージジーンズとうまく組み合って、大人の女性の雰囲気を出している。そしてジーンズの左ポケットにあしらわれている不死鳥のエンブレムが、これまたいいアクセントになってる。

 

「ああ…………似合っているぞ」

「カメラは⁉ カメラはどこなのです⁉」

「撮影するな」

「はにゃっ⁉」

 

…………ぶっ壊れるなよ、電。確かに姉の綺麗な姿を見たら思うかもしれないが、ここは公共の施設だ。自重くらいはしろ。

 

「よーし、購入するぞ。響、それ渡して。会計済ませてくるから」

「わかった。頼むね」

「ありがとうなのです」

 

響から服を受け取り会計の方へと向かった。まぁ、財布の中には何故かブラックカードが入っているものだから、最初は焦った。おそらく博士が仕込んだのだと思う。国籍も今は自由国籍。俺としてはこのままでいいんだがな。平和のために世界から紛争やテロを無くすには国家間を飛ばなければならない。だったら、定住の巣を持たない放浪者(ノーマッド)でいた方がいい。

 

「合計で9720円になります」

「あっ、支払いはこいつで」

「わかりましーーって、ブラックカードォォォォォッ⁉ スゲー、マジもんだわ、コレ‼ ちょっと衣緒奈姉様〜‼」

日向(ひなた)さん、うるさい。業務に集中して」

「はぁ〜い! それではお客様、まず先にカードのお返しと、こちらが品物になります。またのお越しを」

 

…………大丈夫なのか、この店。というか、あのメガネでうずまき髪の店員。明らかに百合百合しい空気を感じてしまった。

まぁ、ひとまずものを受け取ったから彼奴らのところに向かうか。

 

「買ってきたぞ。それと、この後はどうするつもりなんだ?」

「そうですね…………響ちゃんはどこかいってみたいところってありますか?」

「うーん。そもそも私はここにくるのが初めてだから、よくわからないし」

「そうでしたね…………だとしたらどこに行きます?」

「甘味処でも行くか?」

「まぁ、いいんじゃないかな? 電はどう?」

「電はそれでいいのです」

「じゃ、行くか」

 

そういうわけで、甘味処に向かうこととなった。まぁ、所謂喫茶店みたいなところだ。俺はコーヒーでも飲めれば十分だし。

 

「とはいったものの、中々ないもんだな…………」

「なのです…………全然見つからないのです」

「ふ、二人ともそこまでマジにならなくても…………」

「意地でも探すぞ! 電ァ!」

「はい! マップは用意してあるのです!」

「…………だめだ、聞いてない」

 

響が何かを言っているが関係ない。

俺はこいつらの笑顔が見たいだけなんだよ!

 

 

…………結局のところを言おう。見つからなかった。というか、もともとショッピングモールなだけで、そんな喫茶店みたいなものは全然存在していなかった。だが、このモールの外部に一つだけ甘味を売っているところを思い出したため、俺は二人をそこへと連れていっている。

 

「お、今日もやってるやってる」

「ここは何の店なんだい? 香ばしい香りがするようだけど」

「あれ? この香り、何処かで…………」

 

電はわかるだろう、だってお前の好物だし。さて、ちゃちゃっと買ってきますか。僅かな小銭も用意しておいてっと。

 

「おやっさん、小倉二つ頼む」

「毎度〜。そういえば、兄ちゃんここよく来るねえ」

「そうか? あ、焼きたてでお願い」

「はいよ。まぁ、あの時は何だっけ? 妹さん? 連れてきていたんだっけ?」

 

電が俺の妹として認識されてしまっている件について。

 

「それに今日は銀髪のお友達まで連れてきて…………自然と人が集まるひとなんだねえ、兄ちゃんは。ほい、焼き上がったよ。注文通りの二つ」

「ありがとさん。それじゃ、また」

 

どうやら俺の顔はあの店の店主に覚えられてしまったようだな。まぁ、特に支障があるというわけでもないし、別に問題はないだろう。さて、冷める前に二人に渡すとするか。

 

「ほらよ、買ってきたぞ。冷めないうちに食っとけよ」

「これは…………たい焼き?」

「たい焼きなのです!」

 

電は予想通りの反応をしてくれた。めっちゃ喜んでる。あの満面の笑みを見ているとほっこりするなぁ…………。対して響の反応は少し驚いている模様。

 

「たい焼きなんて間宮さんのところでも手に入りにくかったもの…………高かったんじゃない?」

「そっちの金銭感覚がわからないが、それ一個百円だぞ」

「あ、普通に手頃な値段…………だとしたらやっぱり赤城さんたちが原因か」

「響ちゃん、早く食べましょう! 冷めたら勿体無いですよ」

 

そう言って一口、また一口とたい焼きをかじっていく二人。その度に幸せそうな顔をしている。あぁ、何故だろうか、とても癒される感じがするぜ…………。

 

「ところで、悠助さんの分はどうしたのですか? 何も無いようですけど…………」

 

電が俺の分のたい焼きが無いことに疑問を持った。いや、だって小銭がそれしかなかったし。クレジットカード出そうにも、少し腰が引ける。よって、俺の分はいらないという結果になった。

 

「俺の分はいいから、お前達で食っておけ。お前達の幸せそうな顔で、俺は十分だからよ」

 

俺がそう言うが、電は納得してくれない様子だ。どうしろっていうんだ…………

電は一旦自分のたい焼きに目を落とした後、少し考えるような素ぶりをしてからいい笑顔でこう言った。

 

「じゃあ、電の分を一口分けてあげるのです!」

 

…………特大の爆弾じゃねえかぁぁぁぁぁぁっ⁉ 電⁉ おまっ、自分の言っていることの意味わかっているのか⁉ 下手すりゃ、いや下手しなくてもか、間接キスになるんだぞそれ‼ 彼女いない歴15年の俺には核弾頭クラスの破壊力を持っていた。

次第に電も自分の言ったことの意味を理解したようで、少々顔を赤らめていた。だが、極度に羞恥する事を、そんな軽く抑える事ができるのか?

 

「い、いいのか?」

「は、はい。ど、どうぞ」

「お、おう。そ、それじゃ…………」

 

ここまできたら流れに身を任せた方が楽かと思い、たい焼きを一口分けてもらう事になった。ただし、本当に一口だからな、それも少しだけかじり取るような。だが、凄い恥ずかしい気分になったのは言うまでもない。あのたい焼きの味は完全に感じられなくなっていた。

 

「見てるこっちの気分にもなってよ、電…………甘過ぎて胸焼けしてきたよ」

 

響の一言を受けて我に返る俺ら。実装周りを見渡すと、自販機に詰め寄ってブラックコーヒーを我先にと買い求める人々の姿が。別のところでは苦〜いお茶なるものを買い求めた者もいるとか。おう…………だが、原因の半分は電にもあるだろう。そもそも電があんな事を言わなきゃ良かったーーいや、そう考えるのはよそう。後から面倒な事になる気がする。

 

「は、はわわわっ!」

「お、落ち着け! こういう時は弾薬の口径を数えればいいんだ!」

「落ち着きなさい」

 

軽い音と共に頭へと走る衝撃。響…………お前、今ハリセンでツッコミでもしたか?

 

「おおぅ…………とりあえず落ち着いたぜ」

「はわわわわわ…………」

「お前も落ち着け」

「ぴゃん⁉」

 

とりあえず未だに慌てている電の眉間へとデコピンをする。そういやこんな事前もしたな。というか、今の悲鳴はなんだよ…………思わず死ぬかと思ったわ。

 

 

まぁ、何とか落ち着きを取り戻した俺たちは現在寮の方へと戻るべく、モノレールの中にいる。到着まであと二駅くらいか。

 

「それにしても、今日はドタバタした日になったね」

「ああ、そうだな。主に電が暴走しかけていたようだが」

「君もそうじゃないのかい?」

「…………返す言葉がねえよ」

 

まぁ、実際俺も関係してるからな、電の暴走。普段大人しいやつなのに、何でこんな時に限ってはしゃぐんだろうな。いや、こんな日だからはしゃぎたかったのか。何もない平和な時間だったみたいだしな。

 

「今日はありがとうね。電と出かけた事なんてあまりなかったから、いい思いをさせてもらったよ」

「礼は言わなくてもいい。俺も楽しむ事が出来たしな。とりあえず今は…………」

「…………すぅ…………すぅ…………」

「…………こいつ、どうする?」

 

現在、あと一駅というところなのだが、電が眠っちまった。丁度俺に寄りかかるような形で寝ているんだが、どうしたらいいものなのだろうか。しかも、当分は起きそうにない。

 

「着いたよ」

「そうか。仕方ね、おぶっていくか」

 

俺は響に手荷物を預け、電を背中に背負う。寝息が首に少し当たっているが、まあいいか。

 

「本当、家族みたいな感じだね。お父さんってこんな感じなのかな?」

「…………さぁな? 俺の実親は死んだし、そういう事はあまりわからねえ」

「…………ごめん、唐突に聞いたけど、あまり突かれたくないところを着いてしまったみたいだね」

「気にすんな、今更な話だ。悲しみなんてものは薄れてきてるしよ」

 

実際そうだから、自分でもそういうしかないんだよな。だが、親達がテロで死んだ事だけは忘れたくない。俺のような子供を増やさないためにも俺が戦わなきゃならないんだ。

 

「さ、早い所帰ろう。少し暗くなってきたしよ」

「そうだね…………空だけじゃなくて君の心も暗い、か…………」

「何か言ったか?」

「いいや、何でもないよ」

 

そう言うと響は俺の腕を空いている方の手でつかんできた。意外な事に俺は驚いたが、そんな事もたまにはあるだろうと思いそのままスルーした。だが、何故なんだろうか。少しだけ、心の一部分が温まった気がする。唯一機械の心になっていない部分、響の小さな手はそこに何かを訴えてきているようだ。それが、攻撃性を持ったものなのかはわからない。ただ、優しさがある事には間違いはない。

 

「お、一番星みっけ」

「綺麗なものだね、まだ少しだけ明るいのに」

 

共に歩いた暮れの街での一コマ。俺はこの日の温もりを忘れまいと決意すると共に、この平和を守り抜いてみせると改めて心に誓うのだった。

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