インフィニット・ストラトス 平和を求める者 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
(286…………287…………288…………)
俺がこっちにきて一ヶ月程経とうとしていた。日課である早朝筋トレを行い、体が鈍らないようにする。ちなみに現在は片腕腕立て伏せ。いくらATだろうがISだろうが、本体である人間の基礎能力が低かったら意味がない。片腕でブラストライフルやアンチマテリアルライフルを扱う事の多い俺なら尚更だ。
「あー、こうじゃないし…………それでもない…………よし、これだ! って、あ、あれ〜? 適正値が合わないよ〜」
博士は博士で、蒼龍にマッチングするコアを手当たり次第に探していた。つい最近まではデータ取りやらなんやらで、蒼龍を解析したり、俺や電(少し嫌そうだったが)の戦闘データを取ったりなどとしていたんだがな。ちなみに今のところマッチングするコアはないようだ。これもまた、世の中に撒かれたコア467個から探している。ちなみに俺のは002が適合、電は074が適合してあった(博士が当時作ったコアは500。手元にあるのは33個)。おそらく俺達の機体は勝手にコアを取り込んだに違いないと思う。
「〜〜〜〜♪」
電はここにきてから二日くらい経ってだろうか。飯を作ってくれるようになった。どうやら、ただいるのも嫌だったのだろう。自分にも何かできないかと、家事全般を一人でこなしている。とてもセーラー服姿の中学生には思えない程、家庭的な奴だ。得意料理は出し巻き卵。意外にも俺の好物の一つだった。ちなみに一番の好物はカツ丼だ。
食材の多くは博士が作ったマルチプラントで生産されており、前のような備蓄がくそみたいな状態にはならなくなった。ただし肉類は俺がオーストラリアまで飛んで調達している。量子化して運べるって便利だぜ。
(341…………342…………343…………)
「これも合わな〜い! 一体どれが合うの⁉」
「ご飯ができたのです! 束さん、悠助さん、早くきてくださ〜い」
「(349…………350)よっし、今いく」
「ご飯ご飯〜♪」
飯が出来、俺は筋トレをキリのいいとこでやめ、博士もマッチングテストを切り上げ、三人が食卓に集まる。今日は、魚の干物にカブ漬け、海苔の味噌汁だった。あいつ、日に日にレパートリーが増えてる気がする。まぁ、嬉しい事ではあるんだがな。
「全員揃ったようだし食うとするか。いただきます」
「いただきま〜す」
「いただきます、なのです!」
何気無い、温もりのある家族のような日常がまた幕を開けた。うむ、今日も味噌汁が旨い。
「そう言えばさ、ふと思ったんだけどさ。今日ってモンド・グロッソ決勝戦じゃないのか?」
「にゅ?…………にゃあ"あ"あ"〜〜〜〜! そ、蒼龍に夢中で忘れてた!」
「モンド・グロッソとはなんなのです?」
「ISを使った競技会の事だ。なんでも親友が出ているんだとさ」
モンド・グロッソ。ISが表立って軍事利用ができない今、競技会と名を冠し、選ばれた代表達が争う『競争』。勝てば栄誉、負ければ国家の威信にも関わる。まるで戦争状態のようではあるが、そこまで酷いものではい。ただ、女尊男卑という柵によって平和の基盤である平等さが失われているのも現実だ。
「そうなんですか〜」
「まぁ、俺は興味ないけどな」
だってスポーツ興味ないし。あったとしても、筋力トレーニング程度か?
「そんな事言わないでよ〜。今日はちーちゃんが出るんだよ。これを見逃したら親友として名折れだよ〜」
ちーちゃんってのはこいつの親友。二人の弟がいるらしい。
「というと、博士が開発に少し手を出した暮桜か?」
「そうそう! 神速の居合で今回も優勝間違いないね!」
「わあぁ…………まるで、天龍さんや木曽さんみたいなのです!」
そんな風に何気無い会話は続く。電はまた目を輝かせて束の話に聞き入っている。そんな束もまた、親友の事をいつまでたっても話し続けている。それだけ親友の事が大切で大好きなんだろうな。その気持ちは俺にもよくわかる。
「健闘でも祈っときますか」
そう言って、俺は筋トレを再開した。
(ここはどこだ…………?)
「しかし、楽な仕事だったな。こんなガキ一人拉致るだけで、遊んで暮らせるんだろ?」
「ああ。どうだ坊主、気分はよぉ?」
「…………」
最早答える気力もない。千冬姉はともかく、弟の春介にすら一歩劣る。たったそれだけで、織斑の恥晒しとか出来損ないとかと蔑まれて今まで生きてきた。俺を認めてくれたのは千冬姉と束さんくらいか…………道場をやめた時は、師範にも残念がられたっけ。ほとんど心配してくれる人なんていなかったな。
「…………なぁ、そこにあるナイフかしてくれ。首切って死ぬ」
「そいつは無理な要望だ。クライアントからは生かしておけと言われているんだ、織斑春介」
…………は?
「…………俺は春介じゃねえ。兄の方だ」
「何を言ってんだ? お前は春介だろ?」
「…………少しは気づけよ。あいつと違って、俺の目は吊り目だぞ」
春介との違いは目が吊り目かどうかだけ。それ以外は本当に似ているものだから、よく間違えられていた。勿論、俺とわかった途端罵倒と侮蔑しかこない事はわかっているんだがな。
「うおっ…………マジだ。だが、織斑千冬は重度のブラコン。弟を拉致られて大会を放り捨てる事だってーー」
「お、おい! 織斑千冬が決勝戦に出てるぞ!」
「ダニィ⁉ あいつ、弟を見捨てたのかよ⁉」
…………はぁ、これで良かったのかもな。どうせ、千冬姉だって俺がまともにできない事を理解してたし、鬱陶しくも思っていただろう。でも、これでいいんだ。千冬姉の迷惑にはならないし、これ以上いたって意味もない。肉親にまで見捨てられたんだ。居場所もない。
まぁ、悔いがないって言ったら嘘だけどな。あのうざったるい弟に一泡吹かせてやりたいところだ。
「ふーん、それじゃもう使い物にならないわねえ。処分しなさい」
「ま、待て! こいつはまだ子供だ! 殺すなどーー」
悲観的思考に陥っていた俺を呼び覚ましたのは、乾いた音と何かが飛び散る音。銃声だ。さっきまで話していた男の肩が撃ち抜かれのたうちまわってる。
こんな様子を見てまで、俺の感情に揺らぎがないというのは凄い。というか、路地裏では喧嘩ばっかやってたし、ある時は不良を殺しかけた事だってある。それに、俺が振るっていた刀だって、殺傷武器。殺すという事に抵抗を感じなくなってきているのかもしれない。別に殺人狂とか戦闘狂ではないのであしからず。
「へぇ、男の分際で私に楯突こうとするの。でも、どのみちこいつも処分しなきゃならないからねえ」
そう言って女は俺の横に何かを投げてきた。重い音と共に微かな声。黒髪のショートカットの少女。その容姿はどこかで見た気がする。そして、その少女は口を開いた。
「…………に、兄さん?」
「…………マド、カ?」
九年前に行方不明になっていた俺の妹、織斑マドカだった。再会出来たのは嬉しいが一体なぜ、こんなところにマドカがいるんだ?
「高々空間認識能力が高いだけの小娘が…………どこがいいのかねえ。スコールとオータムが気に入ってた理由が知りたいわ」
「二人は…………二人はどうした…………!」
マドカは苦しげに言葉を紡ぐ。その目は真っ直ぐ女を向き、射抜かんとばかりに睨みつけていた。それだけ大切な人なんだろうな。マドカは少し俺より恵まれていたのかもしれない。
「消されたわよ、組織に、私にね」
「なっ…………!」
だが、女の口からきた返答は悲しい現実であった。消されたということは、殺されたのか…………。理解したマドカは言葉を失い、そして泣き崩れた。もしかすると家族のような存在。殺された悲しみは大きいはずだ。それと同時に、恨みも、怒りも。
「でも、あんたは理由を知らなくていいの。すぐあいつらのもとに送ってあげるから」
そう言うと、女の腕が光る。間違いない、あれはISだ。そして、その手には粒子が集まる。まずいーーそう気づく事が出来ても、一歩も動けない俺とマドカには絶望でしかない。構築された銃の先端は間違いなく俺たちの方を向いている。何もできずに死ぬ俺がむなしくおもえてくる。さっきまで死んだ方がマシとか考えていたが、マドカに会って百八十度思考が変わった。まだ生きたい、生きて帰りたい、そう心の内で願った。
「それじゃ、あの世で」
だが、無情にもその引鉄は引かれ、俺たちは迫り来る死の瞬間を覚悟した。せめて寂しくないようにと、かろうじて動かせた左手でマドカの手を握った。
…………。
……………………。
………………………………。
…………あれ? いつまでたっても痛みがこない。
何が起きているんだと思い、俺は目を開けた。するとそこには、海兵隊のようなISが俺たちの前に仁王立ちになって、弾を防いでいた。
これが俺の人生を変えるきっかけという事を知るのは、このあとである。
「
俺は現在ナーガを展開し、要救助者がいる倉庫の屋根をブチ破って降下、アサルトライフルの弾をシールドバリアで防ぐ。その影響でシールドエネルギーという、エネルギーフィールドの耐久値が下がるが、関係ない。
『こちらRD、了解したのです!』
電からの返答を聞くなり、俺は対装甲ナイフを腰から抜刀、イチカと呼ばれる少年とよくわからないがちーちゃんによく似た傷ついた少女を縛り付ける金鎖を砕いた。ナーガの対装甲ナイフはオリハルコニウム合金製装甲の切断を目標としており、分子結合は硬く、折れる事はまずない。
「敵は一般歩兵六に、ISが一機。殲滅しても構わないか?」
『判断は任せるよ。ただし劣化ウラン弾と爆発物は使用禁止。いっくんとまどっちに怪我させちゃうかもしれないからね』
「二人を回収したのです!」
電は今回の為だけに増設したサブアームで二人を抱えている。これならなんとかいけるか?
「よし、離脱しろ。殿は俺が引き受ける」
「すみませんが、お願いします。二人ともしっかり捕まっててください!」
電はこれまた増設したロケットブースターを点火し、一気に離脱した。さて…………久々の仕事でもしますか。
俺はナイフをしまい、視線操作でスロットを動かして両手の武装を選択する。右手にアサルトライフル、左手にガトリングガンだ。
「悪いが…………死んでくれ」
躊躇いなどせずにトリガーを引いた。激しい銃声が絶え間無く鳴り響く。
「くっ…………なんて破壊力なのよ!」
「こいつでもーー」
ISで対抗してこようにも、アサルトライフルとガトリングから放たれる弾丸を防ぐ事で精一杯の模様。すると痺れを切らした男が何かを投げてきた。
その瞬間、眩い閃光が視界を埋め尽くした。チッ、スタングレネードかよ!
「いいわね! さぁ、これでもくらいなさい!」
そして、訪れる衝撃。ナーガのシールドエネルギーは減少するも微々たる物だ。それにオリハルコニウム合金製の装甲を破壊できるのはこっちの世界に実弾兵器では存在していない。…………レーザーには紙同然なので。
「な、なんで、無傷なのよ⁉」
「手短に片付ける!」
俺はホライゾナル・スラスターを点火、一気に接近する。ISのPICという重力制御システムがあるおかげで、蹴り出し加速ができるようになった。このおかげでウ○コ座りのような体勢で加速する必要もなくなり、スラスターも自由に扱えるようになっている。特に蹴った反動を利用できるのが嬉しい。
アサルトライフルで丁重に頭だけを撃ち抜きながらガトリングでISを牽制する。アサルトライフルは連射可能なライフル銃だからな。狙撃紛いのことだってやってのけられるさ。まぁ、俺は狙撃好きじゃないけど。
「な、なんなのよ…………一体なんなのよ!」
ガトリングの取り回しがきつくなってきたため、一旦スロットをフリーにする。そして、ナイフケースを展開、対装甲ナイフを再び取り出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ‼」
男がサブマシンガンを撃ってくるが、それは対人兵器。歩兵相手には役に立ちそうだが、あくまで人間用。
男は何か言葉を放とうとするが、もはやそんな余裕すら残されてはいない。何が起きたのかわからない表情をして男は命を散らせた。残るはあの女のみ。
「くっ…………こなくそぉぉぉぉぉぉぉっ‼」
向こうがライフルを放ってくるが、フィールドに阻まれ、有効打にはならない。俺は再びガトリングを取り出し、女のIS目掛けてその弾丸を浴びせた。
声にならない悲鳴。それと共に、その装甲を破壊していく。舞い散る装甲に混じって飛び散るのは赤い液体。紛れもなく血である。
「え…………」
女はまだ気づいてはいないようだ。ISには絶対防御と呼ばれる最終防壁があるが、こいつを使うとエネルギーが大幅に削られる。加えて、リミッターも何も掛けられていないナーガの全火器類はシールドバリアを突破可能。すでに女のISはエネルギーなど残されておらず、絶対防御も張れないただの装甲の塊と化していた。こうなってしまえば、その身体を守る物は何もない。
女はダメージが蓄積しているのか、感覚が鈍っているようだ。自分のライフルを構えていた腕が消えていることを。その断面からは鮮血が噴き出していた。
「せめてもの情けだ、楽にいけ」
アサルトライフルを格納し、スロットをブラストライフルに合わせる。装填弾は粘着性特殊爆発物。目標の確保が完了した今、爆発物は使用可能。
粘着性特殊爆発物は、外見上個体ではあるが、その中身は流体爆薬。溝という溝に潜り込みナノマシンレベルまで小型化された信管と雷管によって起爆する。その破壊力は侮れない。第二世代のATなら大破は免れない。オリハルコニウム合金製装甲でも耐えられるかわからない、強力な爆薬が仕込まれた弾を放った。
ブラストライフル特有の反動が腕を襲う。ライフルと名を打っているが、小口径砲となんら変わりはない。撃ち出された砲弾は真っ直ぐ、力なく膝をついている女に飛んで行き、そしてーー着弾。その一息置いた直後、盛大に爆ぜた。爆風とともに破片やら何やらが飛び散ってくる。中には肉片のような物も。
爆風が収まり、煙が晴れるとそこには原形をとどめていないISの残骸と人だったもの、ISコアが残されていた。俺はコアを回収し、通信を掛けた。一応、仕事は完遂したんだ。報告くらいはしておく必要があるだろ。
「…………敵性目標の殲滅を確認。帰投する」
俺はB型ユニットを選択、可動スラスターを垂直にふかし、高度600の辺りでブースターを点火、それと同時に博士から渡された光学迷彩を起動、セレベス海へと向かった。…………やはり俺は、戦って殺す事しかできないのだろうかか…………? そんな考えが頭をよぎった。今まで散々殺して殺して殺して、仮初めの平和を繋いできたのにな…………。
ちなみに帰還する途中で桜色のISとすれ違ったが…………まさか、あれがちーちゃん?
「もうすぐ帰還する。カタパルトの開放を頼む」
『はいは〜い、西側のカタパルトを開放するよ〜。一応データも取らせてね』
俺は博士から指示を受けたとおり、西側にあるカタパルトデッキに入った。PICによる制御で完全停止したのち、ナーガを解除する。すでにカタパルトは閉鎖されており、これなら外から見ればただの無人島にしか見えない。
「お疲れ様です、それと…………おかえりなさい、なのです」
「ああ、ただいま」
まぁ、ある意味で一仕事終えた俺をねぎらうかのように、電がタオルとスポーツドリンクでも入っているボトルを持って出迎えてくれた。夏希の奴も危険性の高い仕事が終わった後はこうして出迎えてくれたっけ。今思うと懐かしく思えてくる。
というかさ、なんていうんだ、電ってよ俺から見て同年代というより娘もしくは妹のような存在にしか見えないんだが(主に身長や先程の行動等)…………そう思っているのは俺だけじゃないはず。
「とりあえず、これを受け取ってください」
「おう、それじゃ遠慮なく」
電からタオルを受け取って若干汗が滲んだ顔を拭く。緊張とか戦場特有のあまりよろしくないもので噴き出された汗が吸い取られ、さっぱりとした感覚がやってくる。
ペットボトルのやつも持たせ続けさせるのもなんだし、ついでに受け取っておく。水分はあとで補給するし、それに軽くシャワー浴びてえ。
「悠助さん、これからどうするのですか?」
「そうだな。博士にはなんにも言われてないし、少しシャワーを浴びてサッパリしてくるつもり」
「そうなんですか…………(流石に一緒に入るのは無理なのですぅ…………)」
「どうした?」
「い、いえ、なんでもないのです!」
…………最近よくあるんだが、電のやつ、突然顔を赤くしたり、派手に落ち込んで某弩級戦艦姉妹のような不幸オーラ放ったりと、何かとおかしい行動を取るような事が多いんだよな…………何があったのか誰か教えてくれねえかな?
とりあえず、シャワーを浴び終わり、悪い汗は全て流した。仕事終わりのシャワーは気持ちがいいものだからな。ちなみに、この水、海水を蒸留したもの。なくなったらまた水汲みである。…………いい加減パイプラインでも作ろうか、あの阿呆博士。そのうち絶対水不足に陥るぞ。
そんなこんなで、気分転換を済ませた俺は、博士から呼ばれ、いつもの広間に向かった。何やら話があるらしいんだが…………なんなんだろうか?
「それで、話ってなんなんだ?」
「いやー、せっかくだからね、いっくん達との親睦を深めたらどうかなーって」
「ああ、そういう事か。言われなくてもするつもりだったんだがな」
おそらくこの博士の事だ。引き取って一緒に暮らすとか言い出すんだろう。…………待てよ、確かいっくんはちーちゃんという姉がいたはず。元に返さなくていいのか?
「俺は紅城悠助。こっちが電だ。よろしく」
「電です。よろしくお願いします」
電はそう言っていつも通りのお辞儀をしっかりとする。こいつ本当に真面目だよな…………俺なんて、親父の前でしか礼儀なんてしたことないぞ。
「…………俺は織斑一夏。さっきは助けてくれてありがとう」
「私は織斑マドカだ。先程の事は助かった…………ありがとう」
「さーて、自己紹介も済んだし、皆でここで暮らそうか!」
「だから、てめえはなんて事を言い出すんだよ! 人権無視に戸籍の改竄、自重しろ!」
「ヒッヒィィィィィィィッ⁉ お、お願いだから、そのバズーカだけは勘弁して〜‼」
本当にふざけた事を、このアホ博士はぬかしてきたので、大型バズーカを突きつけてやった。中身は流体爆薬。カートリッジには二十発分が収まっている。独特の機械音とともに初弾が装填され、いつでも発射できるように準備できた。
「す、すげえ…………束さんをひれ伏させる人間って、千冬姉以外にもいたんだ…………」
「ゆ、悠助さん⁉ それはダメなのです‼ 束さんが死んでしまうのです‼」
「なんとも言えないカオスだな、兄さん」
電は慌てふためき、一夏は驚き、マドカは頭を抱えた。二人は初めてだからともかく、電、お前はよく見てるから慣れてるだろ。
「さ、さぁーて、いっくんにまどっち、どうする?」
「どうするって言われてもな…………マドカ?」
「私は兄さんと一緒にいられればそれで十分だ」
「…………まぁ、こっちで暮らすのも悪くないかな」
一夏はそう言って、空を仰ぐ。まぁ、ちーちゃんが助けにこなかったから、身内に見捨てられたから、心も荒れているんだろう。それでも、前に進もうとしている。しかしな…………
「なぁ、一夏。この映像を見てみろ」
俺はそう言って、ポッドから送られてきた映像データを一夏に見せた。そこには暮桜を纏い、荒れ果てた倉庫の中を必死に探し回るちーちゃんとドイツ軍の姿があった。
「お前、相当愛されてんじゃん。大方助けに来てもらえなくて、捨てられたとか思っているんだろうが、そんなことないじゃねえか」
「あ、ああ。…………千冬姉はまだ俺を見捨ててなかった…………よかった」
そう言って一夏は涙を流した。その涙は悲しみではない。おそらく、嬉しかったのだろう。よかったな、一夏。心配してくれる家族がいるって事はいい事なんだぜ。劉ヶ崎重工私兵部隊には家族を失った奴らも多いからな…………かく言う俺もDNA上の家族はいないんだが。
「…………でも、今はまだあそこには帰れない。暫くこっちで考えたいから、束さん、ここに住ませてくれますか?」
「もっちろーん! やったね、ゆーくん、電ちゃん! 家族が増えたね!」
「やったのです! 嬉しいのです!」
「兄さんのいう事には従うさ…………私も、場所がないからな」
「マドカちゃん! よろしくなのです!」
皆がそれぞれ仲睦まじそうに戯れる様子を端から眺める。…………博士が少々ふざけるが、今回くらいは見逃すか。
「今日も平和、だな」
そう呟いて、俺もその輪の中に入っていった。
「束さん、この機体は?」
「それ? いや、コアが同調しなくてさ…………」
一夏が蒼龍に興味を持ったようだ。ちなみに今はめられているコアは一番最初のコア、001。しかしそれでも起動する気配は見せず、搭載TCM・コード[ブレイド・ドラゴン]が翠色のインサニティ粒子を放っている。まるで、誰かを待っているかのように…………。
ちなみに俺のコードは影蛇時代から使われたカスタムTCM・コード[バレット・ドラゴン]から使われているのは言うまでもない。特殊な機体に搭載された本体には龍の刻印が刻まれ、TCMはその特徴とともにドラゴンと打たれる。
「そんな事もあるんですか?」
「いやー、普通はないんだけどね…………機体が特殊なものだからさ、馴染まないのかも。誰か乗ってくれないかな〜」
「た、束さん⁉ それはダメなのです‼」
「い、電⁉ いきなりどうした⁉」
「悠助さんから聞いたのです! あれは人を壊すかもしれないものだって…………!」
…………うん、そうなんだよな。高機動戦闘、近接戦闘、脳波制御独立起動兵器運用、明らかに脳を酷使するため、シナプスだの脳神経だのが焼き切れ、廃人になる…………乗れるのは先天的に高度な並立思考ができる人だけだ。
「お、おう…………またすごい機体ですね」
「そうなんだよ〜」
一夏は蒼龍が抱える欠陥を聞いて唖然とする。それはそうか。だって誰だって廃人にはなりたくないだろう?
だが、一夏はその白銀の装甲に手を伸ばそうとしていた。
「お、おい、バカやろーー」
俺が手を伸ばして止めようとさせるもすでに遅く、一夏が蒼龍の装甲に触れてしまった。廃人となる一夏を考えてか、電とマドカは状況が飲み込めず、現状を上手く理解できてない。
「ーー! だ、ダメなのです‼ すぐに離れるのです‼」
電は復帰するも、一夏の触れた装甲からはインサニティ粒子が溢れ出し、一夏の体を包み始めた。
そう思った刹那、一夏の体は光に包まれ、俺は反射的に目を閉じた。
光が収まった時、一夏は蒼龍を纏っていた。だが、特徴的な翠色の粒子を噴出させる事なく、起動したというより装備しただけの状態か…………
「いっくんがISを使える事はわかっていたけど…………それでも起動しないなんて…………」
「というか、女以外には反応しないはずじゃね? 俺も例外だが」
「白騎士のコア001が選んだならあり得るよ。IS、一応誰でも使えるようなものだし」
「だが、起動しなけりゃな…………」
「ーーなぁ、お前が俺を選んだんなら応えてくれ、蒼龍…………」
一夏が放った一言。その言葉がキーとなったのか、僅かだがインサニティ粒子が放出され始めている。
「ここには白騎士と」
粒子の放出量は高まり
「お前と」
胸部のレンズユニットに輝きが灯され
「俺がいる!」
その言葉を皮切りに、メタリックグリーンのデュアルアイが煌き、起動完了を示す。周囲にはいつの間にか蒼鱗が浮かんでおり、操作されている模様。つまり
「蒼龍が受け入れた、のか…………一夏、気分は悪くないか?」
「ん? 別になんともないぜ。どうしてそんな事を聞くんだ?」
「まぁ…………懸念材料がたくさんあるからな」
さっき説明してあるから別に問題はないだろう。だって思考制御兵装だし。それよりも、一つだけわかったことがある。
ーー龍の名を持つものは、この世界にも存在するってな。
電の追加ブースターですが、サンダーボルト版FAガンダムのバックパックを想像をしていただけるとイメージしやすいかも