インフィニット・ストラトス 平和を求める者 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
「…………よぉ、久しぶりだな」
「そう、だね」
「あの日の夢以来か…………そっちでは元気にやってるか?」
「それなんだけどさ…………この間は言いそびれちゃったけど…………私、死んじゃったよ」
「…………冗談はよせ」
「ううん、嘘じゃないよ。私、隠してたけど、心臓にあまり負荷はかけられなかったんだ。部活もそれなり以下にしかさせてもらえなかったしね。医者からは十歳までは生きられないと言われたよ」
「…………」
「そして、急に病状が悪化、心臓はすぐに停止しちゃって、生き返る事はできなかったよ」
「…………」
「だからまあこうして今この空間にいるわけだけどね。別に悪い気持ちはしないよ。心臓が弱る恐怖と戦う必要がないからね」
「…………そうか」
「うん。それと、あの約束忘れないでよ? 私を愛するのもいいけど、"電"を愛してあげてね。あの子、私と同じ感じのする子だから」
「…………了解した、"ルリア"」
「ふふっ、それならいいよ。それに、電の事好きになっちゃったんでしょ? "悠助"」
「…………否定、できないかもな」
「そろそろ時間みたい。また今度ね」
「ああ、また今度な」
…………ふぅ、俺は夢を見ていたようだ。あいつに会うのは久しぶりだったな。あの神は夢で会えるといっていたが、まさか本当に会えるとは思ってもいなかった。
それにしても、今日の夢は訃報だったな…………まさか、ルリアが亡くなっていたとは。神は守ると言っていたが、それは外的要因だけ。ルリア自身が抱えていた病まで変えることはできなかったようだ。だが、それはそれで仕方ないのかもしれない。運命を受け入れた結果がそれなのなら、俺は納得するしかない。…………それでも俺は、彼女の事を忘れる事はない。俺が、初めて恋をした奴を。
「…………少し、起きるの早かったな」
時刻はまだ四時半を回っていない。その証拠に電が幸せそうな顔をして眠っている。こいつは六時をすぎない限り目を覚ます事はない。
(少し筋トレでもしてくるか)
夢の事を考えたら、とりあえず体を動かしたくなった。何故なのかはわからないが、とにかく運動をしたい。
俺は電を起こさないように、静かに部屋を出た。さて、トレーニングルームでも行ってくるか。
(34…………35…………36…………)
「朝から随分とやっているようだな、紅城」
「38…………そうですかね? 39…………俺はそう思わないんですが」
バーベル50キロを使った筋トレ中にちーちゃんがきた。ジャージを着たうえに、若干汗をかいてるところを見ると、おそらく同じく運動してきたのだろう。ちなみに俺はこいつを70回上げるのが基本トレーニングだ。
「42…………てか、話はそれだけじゃないんですよね? 43…………他にも何かありますよね」
「ああ、あの愚弟ーー春介の事だ」
ちょっと中途半端な回数だが、ちーちゃんがなにやら神妙な顔つきをして話し出したから、一度バーベルをおろした。春介か…………とりあえず、俺の手でぶちのめしたからいいんだが。それに、電も何とか復帰でしたし。あまり掘り起こさない方がいいような気もするんだよな。
「すまなかった。昔から他人を見下す癖があるのは知っていたが、こんな事になるとは思わなかったんだ…………」
…………なるほどな。姉だから責任感じてしまっているのか。一夏の言うとおりだ。責任感が強い、言動からそれはすごくわかる。
「…………いや、ちーちゃん、そっちが謝る事はないんですよ? 実際にやらかしたのは春介の方。向こうに責任があるんですから。ちーちゃんは頭を上げて下さい」
だが、この人に責任はない。大元の原因はあの天才笑なんだから。それでも頭を下げて謝るというんだから…………こういう人柄だから、皆が慕っているんだと思う。カリスマ的な存在である事もあるんだと思うが、それでもこの人の優しさとかが皆の心をつかんでいるんだろう。
「そう言ってもらえると、ありがたいな。その前にだ」
「手刀は堪忍してつかぁさい」
「だったら、学園でちーちゃんなどと呼ぶな。あのあだ名は意外に恥ずかしいんだぞ…………」
そうか? まだマシな方だと思うが。中東戦線に放り込まれた時なんて、[放送禁止用語]とか[検閲]とか、やばいあだ名をつけられてた奴らもいるから、そこまで恥ずかしくはないと思う。
「とにかくだ、学校では織斑先生と呼べ。いいな?」
「イエス、マム」
「人を上官呼ばわりするな」
「冗談ですよ。俺は筋トレの方を再開させてもらいますよ?」
「ん、わかった。邪魔してすまなかったな…………それと、一夏とマドカを助けてくれてありがとう」
そう言ってちーちゃんはトレーニングルームを後にした。最後の方は小さくなって聞き取りにくかったが、何を言っていたのかはわかる。その事に対して俺はこう答えるかもしれない、『無防備な民間人と仲間は見殺しにできない』と。一昔はあまり考えてなかったな。テロリストを片っ端から潰す毎日だったし。
俺は残りのノルマをクリアし、軽くクールダウンをしてから部屋へと一旦戻った。時刻は六時二十七分。電もそろそろ起きているだろう。食堂も同じ頃に開くから丁度いいな。
部屋に戻ると、電は起きていた。時間帯が時間帯だから起きていてもおかしくはないか。
「おはようございます。悠助さん、筋トレでもしていたんですか?」
「まぁ軽くな。それと電、飯食いに行きたいんだが、準備早くすませてくれ」
「了解なのです」
電は一度洗面所の方へ向かった。おそらく髪を整えていつもの髪型にセットするんだろう。あの髪型はなんて名前なんだろうか? こういう事については殆どわからないからな。にしても、電の髪の毛長かったな…………。いつも後ろでアップにしてまとめているから気づかなかったけど。
「うぅ〜…………やはり癖っ毛だけは治らないのです〜」
(ゴブファアッ⁉)
「ゆ、悠助さん? い、今、悲鳴のようなものがーー」
「知らんな。空耳じゃないのか?」
い、いかん。台詞の一言一言が戦術兵器クラスの破壊力を示していやがる。あ、あぶねー、意識刈り取られそうになったぜ。
「あ、準備終わりましたよ」
電はいつの間にか制服に着替え終わっていたようだ。ちなみにこの学園は制服の改造が自由である。なんでも十代の乙女がおしゃれしたい気持ちがわかるからせめて改造くらいは…………との事。ちなみに俺は腰にハンドガンとナイフのホルスターがついているくらいで、上着には殆ど改造していない。予備マガジンが二個とスタングレネードが入ってるくらいだ。電はリボンの部分をネクタイに変えたくらい。あとはほぼ無改造に等しい。というか、セーラー服の時と似たような服装。
「了解。それじゃ、いくか」
「はいなのです」
準備を終えた俺たちは食堂の方へ向かった。さて、混んでいないといいんだがな…………。
「おばちゃん! いつもの奴頼む!」
「電は和定食でお願いするのです」
「ハイヨォ! 牛丼特盛ニカツ三枚ト和定食、イッチョアガリィ!」
食堂はまだ席が空いていた。俺たちはいつもの飯を受け取ると、海の見える窓側の席を確保した。セレベス海の方で生活していた時は、海が周りにあるのが当たり前だったからな。いざ、海から離れるとなると何かもの寂しく感じる。電も同じだ。元が艦娘なんだから、海とは深く関わっていたはずだ。それこそ、一番慣れ親しんでいるに違いない。海を眺める電の表情はどこか懐かしそうな感じがした。
そういえば、どうでもいい事かもしれないが、今日の給仕の人、黒髪にブルーの瞳、色白の肌だったな…………誰かににているんだが、俺にはわからん。電が「るきゅうさん…………?」と呟いてはいたが。
だが、今は飯を食う事を優先的に考えよう。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます、なのです」
アジトでの生活の時も必ずしていた挨拶をしてから、飯に箸をつけた。牛丼は重さ一キロ近い上に、豚カツは厚さ二センチ近い奴が二杯だ。これだけ食っても、昼まで持つかわからない。凶悪なまでに燃費の悪い俺の身体である。
「それにしても、お前、毎日飲んでるよな、牛乳。何か理由でもあるのか?」
俺としては電が毎日牛乳を飲んでいる事が非常に気になる。無人島の方での生活でも欠かさず飲んでいたし、こっちでも毎朝飲んでいる。何か理由でもあるとは思うのだが。
「理由、ですか?」
「ああ、そうだ」
「そうですね。電は、もう少し大きくなりたいのです…………その…………胸とか」
最後の方はもじもじとして聞き取りにくかったが、俺の耳にはがっちりと聞こえてきた。しかし、胸を大きくするためとか…………
「…………悠助さん? 何かやましい考えをしていませんでしたか?」
「するわけないだろ。というか、足の小指をピンポイントで蹴るな。かなり痛いぞ」
あのな…………いくらナノマシンで痛覚を鈍らせているとはいえ、小指は痛いぞ、小指は。特に絶対動かないたんすにぶつけた時は悶絶する。下手してしまえば最悪骨折だってある。…………というか、心読まれた?
「あの…………悠助さん」
「なんだ?」
「その、お願いというか、頼みというか…………いいでしょうか?」
なにやら電が箸を止めてそんな事を言い出した。俺もそれに聞き入るべく、箸を止めた。ちなみに牛丼は半分近くがすでに腹へ消えていった。
「その、訓練に付き合って欲しいのです」
「訓練? 何の?」
「戦闘ですよ…………」
…………なんだと? あの戦う事を好まない電が、戦闘訓練したいだと⁉ な、何が起きたんだ⁉ 何がこいつの心理を変えたんだ⁉ お、俺には皆目見当がつかないぞ…………
「悠助さんは、電が皆を助けたいって事は知っていますよね?」
「味方も、敵もだろ?」
「はい。ですが今の電にはそんな力はないです。こんなんじゃ、誰かを助ける前に、自分がやられてしまうのです…………」
「まぁ、弱かったら話にならないしな…………砲身、向けられないんだろ?」
「はい…………でも、直ぐに手を差し伸べられる接近戦なら、と思ったのです」
接近戦か…………俺はあまり得意じゃないんだよな。ナーガが汎用機であっても、基本俺は射撃・砲撃戦だ。それに近接武器も対装甲ナイフとバスターナックルくらいしか…………あ、あれは武器として使えるのか? なら、いけるかもしれないな。
「わかった。放課後でいいんなら付き合ってやるよ」
「本当ですか⁉」
「ただし、途中で諦めるなよ?」
「わかったのです!」
電は嬉しそうな顔をしている。まぁ、これで良かったのかもしれないな。ついでに、砲身を向けさせる訓練もさせて見るか。ある程度までは矯正できるかもしれない。
ちなみに先ほどの電の声を聞いた数人の女子が鼻血を噴き出して轟沈していた。まぁ、そうなるか。俺も、表面上はなんでもないが、その心中はぶっ壊れていたからな。
俺は残った牛丼を一気に平らげ、朝飯を終了する。
「おい、そろそろ行くぞ」
「ま、待ってなのです! まだ、食べ終わってないのです!」
そういいながら、くぴくぴと音を立てて牛乳を飲む電。相変わらずだが、遅いな…………。
これにより、朝から食堂では赤い噴水が発生してしまうのだった。
「さて、クラス代表の件だが、織斑春介に決定した」
朝のSHR、ちーちゃんよりクラスの全員へとそう伝えられた。まぁ、そりゃあな、俺たちは辞退したし、オルコットの奴も辞退したらしいしな。自然とあいつがなるしかないんだよ。
「どうしてですか⁉ 僕は負けたはずですよ‼」
「それはだなーー」
「俺たちが辞退したからだ」
一夏が俺たちを代表して春介にそういう。すると奴と篠ノ之は俺たちを睨みつけてきやがった。なにやら殺気のようなものを出しているようだが、俺にとってはどこ吹く風だ。あんなもの殺気のうちに入らん。最も、電はちょっと泣きそうになっているが。
「まぁ、もとよりやる気もなかったし、試合の後で止められたからな、代表にだけはならないでくれって」
「上層部の判断だ。紅城、織斑兄妹のいずれかが代表になると、対抗戦でのパワーバランスが崩れるからな」
それを聞いた春介は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「そ、それじゃ、有賀は⁉ あ、あいつは模擬戦すらしてないですよ‼」
「それは今は関係ない。有賀はそもそも候補から外している。織斑弟、いい加減腹を括ったらどうだ」
「くっ…………! わかり、ました…………」
「よし、クラス代表は織斑春介とする、いいな?」
「「「はい!」」」
こうして、完全に春介が代表として決まったのだった。だが、何が気に入らないのか知らないが、授業が始まるまで、春介と篠ノ之は俺たちを睨み続けていた。うぜぇ…………。
「せやぁぁぁぁぁっ!」
響き渡る激しい金属音。放課後の第二アリーナにて、俺と電はそれぞれの近接武器を打ち合っていた。電は破壊力のあるイカリハンマー。対する俺の武器は
「というか、その大きな斧はなんなのですか⁉」
そう斧だ、作業用の。
「別に問題ないだろ? そこ、ガラ空きだぞ!」
「くうっ…………! そもそもなんで持っているんですか⁉」
「元々
実際、ナーガにも工具がいろいろ積んである。斧や鉈、トーチまでいろいろだ。なんで積んであるのかはわからない。
「そらあぁっ‼」
「きゃあっ!」
俺は横薙ぎに斧を振るう。電はイカリをうまく当てて防御するも、弾き飛ばされてしまう。
「どうした? もう、終わりか?」
「まだ、まだ、なのです…………‼」
電はイカリを構えて全速力で突っ込んでくるが、動きが直線的な上、威嚇射撃もないから、隙だらけだ。
「おらよっ」
俺は斧の腹を電に当てて倒す。そして、その切っ先を電の顔へと突き付けた。
「…………負け、ですね」
「ああ。それよりも、射撃必要かもしれないな」
「そ、それだけは無理なのです…………どうしても、怖いのです…………」
そうだよな、人に銃を向けて平然としていられる方が普通じゃないんだ。特に俺に至っては、なんの躊躇いもなく引き金を引く。電のように、怖い、といった感情を持つのが正常だ。
「そうか。…………その感情があるなら、俺に撃て」
「え…………?」
「お前の主兵装は12.7cm連装砲と10cm連装高角砲、61cm三連装魚雷発射管二基だったな?」
「そ、そうですが…………」
「内、右腕に取り付けられている12.7cm連装砲を俺に撃て」
「そ、そんな事、できるはずないのです! そんな事をしたら、電は悠助さんを傷つける事になるのです…………電にはできないです」
本当に心優しい奴だ。シールドバリアに守られているのに、怪我の心配か…………まあ、絶対に防ぐ事はできないからな。する時はするか。
「大丈夫、俺は射撃戦は得意だから、回避も余裕だ。俺にシールドを使わせるまで、撃たせ続けるからな」
俺は左腕のハードポイントにシールドを装備する。160mmレールキャノンの直撃にも耐えられるシールドだ。127mm砲弾程度、どうってことはない。
「ほら、始めるぞ」
俺はホライゾナル・スラスターを点火、電から距離を取る。接近するにも、レーザーCIWSを使うしな。攻撃力はないに等しいが、牽制程度にはなる。
「ほら、早く撃て!」
「もう…………やけくそなのです‼」
電は俺に向かって連装砲を放ってくるが、殆どが俺を掠めもせず、アリーナの地面へと着弾していく。弾道がブレているな、これは。
「どこを狙っている、俺はここだぞ!」
「当てようにも…………当たらないのですよ!」
そういいつつも、電が撃つ弾は次第に俺に近くなってきている。よしよし、だいぶ良くなってきたじゃないか。
「当たって下さい…………!」
そして、その放たれた弾は、俺のシールドに当たって弾かれた。なんだ、撃てるんじゃないか。
「よし、ここまでだ。よく当てたな」
「い、電が当てたのですか?」
「ああ、そうだ。及第点だが、よく苦手を克服したな。それと…………当てたことを後悔するな、事実を受け止めることも必要だぞ」
「…………はい、なのです」
こうして、電の訓練一日目は幕を閉じた。この日だけでも、こいつは大きく成長している。最後の一発、あの時の砲身は俺を完全に捉えていた。よし、なんとか克服はできてきているな。
「よし、とりあえず第七格納庫に行くぞ。頼まれていたこと、忘れてないよな?」
「勿論、忘れてなんていませんよ。早くいきましょう」
「そうだな」
俺たちはアリーナを後にし、第七格納庫へと向かった。
「…………で、どう?」
「フレームは問題ない。駆動系にも異常なし。本当に一人で組んだのか?」
「…………うん」
第七格納庫にきた理由だが、簪の機体、打鉄弍式の組み立て作業の手伝い。なんでも、春介の白式を優先して開発、この機体を開発凍結にしたらしい。それで、ブチ切れた楯無さん(簪の姉、生徒会長)と更識家が機体を受け取って開発。受領から半月でここまできたらしい。
「な? 俺の彼女、すげえだろ?」
「凄すぎて、言葉が出ないのです…………」
「メカニックの天才だな、これは」
口々にいろいろ言っているようだが、俺もそう思わずにはいられない。どんなスキル持ちなんだよ。
「…………でも、まだ武装面が終わってない…………荷電粒子砲とか、マルチロックオンシステムとか」
「荷電粒子砲か…………IP兵器のデータは使えないのか?」
「あのなマドカ、TCM積んでない機体ではIP兵器使えないんだ。それに、そうそう出していいものじゃない」
「でも、そうなると渡せるものはないですよ。マルチロックオンシステムなんて誰も…………」
「俺、あるぞ」
「「「「え?」」」」
いや、なんで驚くんだよ。まぁ、G型ユニット使用時しか使えないんだがな。一応、データとしてはある。
「ほら、これでいいんだろ?」
「…………56機同時ロック…………凄すぎる…………」
「これで、完成に近づけたな、簪!」
「…………うん! 紅城君、ありがとう…………」
「どうってことない。てか、マドカのにはマルチロックオンないのか? ビットとか」
「いや、全て思考制御しているから必要ないんだ…………」
「…………マドカって、とんでもない奴だったりする?」
「いや、昔からあんな感じ。両手で同時に違うことを書いてたりしたし」
…………俺の周りには人外しかいない。
「荷電粒子砲はどうする?」
「…………打鉄の砲撃戦パックにある物を改装して使ってみる」
「速射型だったけ?」
「…………そう、弾幕が命だから」
「トリガーハッピー、なのです?」
「…………弾幕はパワーだから」
「ガトリング積もうぜ」
「…………荷電粒子砲が無理だったらそうする」
簪は弾幕が大好きなようだ。ちなみに俺はそこまで弾幕は好きじゃない。どうも私兵をしていた頃、弾薬費が自腹だったから、あまりかけたくなかったというのがある。それに、オーバーキルとか俺の趣味じゃない。やるときは、焦土に変える時もあるけど。
「…………今日は遅いから解散。また、明日お願い…………」
「ん? 了解した」
「わかったのです」
「はいよ」
「ああ、帰るとするか」
第七格納庫を後にし、俺たちは寮へと戻った。すでに日は傾き始めており、西の空は赤くなっている。
途中で一夏達とは別れ、俺と電の二人で先に寮へと向かった、
「…………ちょっと、海の方へ行きませんか?」
電が唐突にそう言い出す。まぁ、別に悪いことではなさそうだしな、いって見るとするか。
「ああ、別にいいぞ」
気分転換にも良さそうだから、電の提案にのり、海岸方面へと向かうことにした。
海岸方面は柵で囲まれてはいるものの、海を一望できる場所らしい。
「やっぱり潮風が一番気持ちいいのです」
海岸方面に到着した電は柵から身を乗り出して、潮風を浴びていた。艦娘だった頃の名残なのかは知らないが、電は海が好きらしい。ーー争いも何もない、平和な海が。
「そうだな。確かに気持ちがいいな」
「…………電は、かつて海にいたものですから、落ち着くし、懐かしい感じがするのです」
「そういや、お前、艦娘の前は…………」
「…………はい、旧帝国海軍の特Ⅲ型駆逐艦、暁型四番艦です。南方海域を転戦しました。おそらく、今もセレベス海には電がいると思うのです」
電は艦娘の前、生まれ変わる前は本当の戦闘艦として存在していた。それこそ、第二次世界大戦の真っ只中にだ。そういや、博士が言っていたな。無人島作るとき、船体の折れた艦が一隻沈んでいたと。おそらくそれが、特Ⅲ型駆逐艦電なのだろう。だが、彼女には会わせたい艦がある。俺たちの時代では六代目になっていたが、こっちではまだ四代目で顕在しているはずだ。むらさめ型護衛艦いなずまが。もし互いが会ったならどんな反応をするのだろうか。同じ、守りたい意志を持つもの同士で。
「だが、電。お前は今こうして俺の隣にいるじゃないか」
俺は彼女の頭にぽんと手を置いた。やはりちょうどいい高さに手が置ける。
「悠助さん?」
「艦でもない、艦娘でもない、人として生きているお前は、昔を思い出すよりも、今を楽しんで生きろ、ってことだ」
俺は少し髪がくしゃっとなるくらい軽くなでた。
「…………ですね♪」
彼女は、その優しげな微笑みを見せてくれた。その微笑みは、夕陽にも劣らず綺麗で輝いていたように見えたのは気のせいではないと思いたい。
「大分日が傾いてきたな…………寮に戻るか」
「はい、なのです♪」
少し上機嫌になった電と共に寮へと歩みを進める俺であった。だが、その前に沈みゆく夕陽に向かって、電がこう呟いていた。
「…………暁の水平線に勝利を刻め、なのです」
その言葉には、彼女の決意が現れていたのかもしれない。艦娘である頃の記憶がそうさせているのかわからないが、それが彼女なりの志を奮い立たせてくれた。おそらく彼女は今まで通りの優しい少女のままであるだろう。だが、反面、相手を傷つける事に恐れを抱く儚い存在でもある。海は彼女に何を与えたのだろうか、俺はそう思わずにはいられなかった。
「…………あと、時間的に今は黄昏だぞ」
「…………そこはつっこまないお約束なのです」
「…………ふぅ、なんとか海域を越えたみたいだけど…………」
一人の少女がIS学園のある人工島東部海岸にたどり着いていた。雪のように白い髪にアイスブルーの瞳、そして目を引くのが帽子につけられているⅢの文字をモチーフとしたバッジ。そして何より一番目を引くのは背中につけられたユニットであろう。右肩からは二連装の砲塔が見える。
彼女は表情には出してはいないものの、ある事に気づき、困惑していた。
「ここは、どこなんだ…………?」
自分の今いる座標がわからないということに。