ダンジョンマスターだって配信してバズりたい   作:風邪と花粉症のあいだ

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第1話 死んだと思ったら……

 俺は死ぬ。ダンジョンの深層に一人取り残されて。

 

 これは仕方のないことだ。俺はそーいう役回りなのだ。人生30年で散々経験してきたことだ。

 

 今更、俺を囮にして逃げ出した冒険者達に恨み言など言うまい。

 

 こんなことは初めてではないし、なんなら慣れている。ただ、今回はA級冒険者の荷物持ちということで、深層にまで来てしまった。

 

 そこでイレギュラーに出会した。

 

 一眼見た瞬間、死を覚悟した。

 

 姿カタチだけ言えば、可憐な少女。しかし、空間を震わせるほどの圧倒的な力を感じさせる存在。

 

 A級冒険者をもってしても、俺のような荷物持ちをトカゲの尻尾のように切り捨て、逃げざるを得ないほどの存在。

 

 彼女が指先を僅かに動かしただけで、俺の左腕は吹き飛んだ。

 

 それを見て、四人のA級冒険者達は俺に自爆魔法をかけた。当然、ヘイトは俺に集まる。

 

 可憐な少女のカタチをした何かは俺をじっと見つめた。A級冒険者達はその隙に逃げ出す。一目散に。

 

 空間には俺と、彼女しかいない。

 

「はぁ」

 

 ため息の一つぐらい許されるだろう。だって俺は今から死ぬのだ。よく分からない少女のカタチをした何かが指を動かした瞬間、俺は絶命し、ダンジョンに横たわり、そのうち取り込まれる。骨一つ残さず。

 

 いや、その前に自爆魔法が発動して木っ端微塵に吹き飛ぶかもしれない。他人にかけられた自爆魔法は果たして、自爆なのかという疑問を抱きながら……。

 

「これ、何?」

 

 少女みたいな何かが中空を漂うドローンカメラを指差した。ついさっきまで、A級冒険者達がダンジョン配信に使っていたものだ。

 

「カメラ」

「ガメラ?」

「カメラ」

「ガメラ?」

「カメラだよ!」

 

 ツッコむと、少女のカタチをした何かは一瞬怯んだ。いや、拗ねた。唇を尖らせて裸足で地面をグリグリしている。

 

「そろそろ、俺、自爆するけど大丈夫?」

「む。だからイライラするのか」

「イライラ? あぁ、ヘイトね。そりゃ、今から自爆するんだから、モンスターのヘイトを買うよね」

 

 少女は更に不機嫌になる。

 

「モンスター? はぁ? 私はマスターなんだけど? モンスターに見えるの? お前殺すぞ?」

「殺されなくても、もうすぐ死ぬから。あと10秒」

 

 頭の中に数字が浮かぶ。自爆魔法ってこんな感じなんだな。5、4、3、2、1……。

 

 少女が中空に向かって指を弾く。途端、頭の中の数字が消えた。綺麗さっぱり。

 

「勝手に死ぬな。私が殺す」

「どうぞ」

 

 瞼を閉じる。ドローンカメラの羽音が響いた。

 

「これ、なんだっけ?」

 

 少女みたいな何かの声。薄目を開けると、ドローンカメラを指差している。

 

「ガメラ」

「さっかカメラって言ったじゃん!」

「いいから、早く殺せよ。もうたくさんなんだ」

「私に命令するな」

 

 意識がぼんやりしてきた。それはそうだろう。左腕の二の腕から下はなくなり、今もドバドバと赤い汁が垂れ流しなのだから。

 

「はぁ」

「ため息ムカつく」

 

 少女的な力の塊がまた、中空を指で弾いた。それを合図に俺の視界は暗転。さようなら、現世。

 

 

#

 

 

「おい。早く起きろ」

「あと、10分」

 

 もう少し寝かせてくれ。死んだんだから、ゆっくりさせてくれ。

 

「駄目、起きろ」

 

 脇腹に衝撃が走る。たぶん、骨がいったな。流石に目を開く。

 

 すぐ近くに少女的な何かの顔があった。アルビノのように真っ白な顔。髪は銀色か。ただ瞳だけが爛々と赤い。

 

「俺、死んだ?」

「いつか殺す」

 

 つまり、まだ死んでない。と言うことか。

 

「お前、何?」

「お前言うな。マスターと呼べ」

「何のマスター?」

 

 得意気な顔をする。

 

「ダンジョンマスター」

 

 へぇ。いるんだ。ダンジョンマスター。都市伝説だと思っていた。

 

「ねえ。これ何? 最近の冒険者、みんな持ってる。気になる」

 

 マスターはドローンカメラを手に持って俺に尋ねる。

 

「だから、ドローンカメラだよ。それで映像と音声を拾ってダンジョン配信するんだ。何回も言わせるな」

「初めて言ったでしょ! 何回も言わせてない! ダンジョン配信って何!?」

 

 マスターは唇を尖らせる。子供かよ。

 

「ダンジョン配信しらないの? みんな知ってるよ?」

「ム。いいから教えて」

 

 頬を膨らませる。やっぱり子供だ。

 

「仕方ないなぁ」

 

 上半身を起こす。俺はどうやらベッドに寝かされていたようだ。

 

「あれ? 血が止まってる」

「うん。汚いから血を止めた。それはいいから、ダンジョン配信教えて」

 

 ポケットからスマホを取り出して大手動画配信サイトにアクセスする。「ダンジョン配信」で検索すると、ライブ配信中のアカウントがいくつも表示された。

 

 一番接続数の多い配信をタップすると、マスターが覗き込んできた。ちょっといい匂いがした。

 

「あっ、ここ私のダンジョンじゃん! 第五階層!」

「あぁ、新宿ダンジョン攻略します! って書いてるから、ここだな」

 

 新宿ダンジョンは比較的新しい。まだ攻略が進んでないことから冒険者に人気があり、頻繁に配信されている。

 

「ねえ、この数字なに?」

 

 マスターは同時接続数の表示を指さす。

 

「視聴者の数だよ。いま、この配信を5000人が見ている」

「5000!? そんなに? ダンジョンって人気なの?」

「いや、ダンジョンが人気というか、冒険者がダンジョンを攻略するのが人気なんだよ。フロアボスを倒したりするもめちゃくちゃ盛り上がる」

 

 眉間にシワがより、マスターの瞳が険しくなる。

 

「なんかずるくない? このダンジョンを運営してるの私なんだけど、勝手に配信して人気者になるのちょっと違くない?」

 

 ……確かにそうかもしれない。もし冒険者が俺の家に勝手に上がり込んでライブ配信し、人気者になっているとしたら、むかつくかもしれない。スパチャなんて貰っていたら、「はぁ?」となる。

 

「私も配信する」

「えっ?」

「冒険者が配信するなら、私もする」

 

 えーっと。

 

「どうやって?」

「む。やり方知らない。教えて」

 

 いやまぁ、ダンジョン配信のやり方ぐらいは分かるけど……。

 

「マスターは人間じゃないよね? 配信サイトにアカウント作るには電話番号とか必要だけどあるの?」

「む……。ない。お前は電話番号もっているのか?」

 

 これは優位に立つチャンス。

 

「あるが? なんなら二つ待っているが?」

 

 ベッドの横に置かれていたバックパックから予備のスマホを取り出す。これ、マスターがここまで運んでくれたのかな? 案外いいやつ?

 

「二つも電話番号を待っているなんて……」

 

 一方、マスターは勝手に打ちひしがれている。

 

「もしダンジョン配信したいなら、一つスマホを貸してやってもいいぞ?」

「本当?」

 

 よし。ダメ元で交渉してみるか。

 

「ただし、俺の左腕を生やしてくれ。ダンジョンマスターなら出来るだろ?」

「んー。人間の腕は生やせない。モンスターの腕でいい?」

 

 モンスターの腕かぁ……。でも、ないよりはマシかもしれない。

 

「なるべく人間の腕に近いのにしてくれない?」

「わかた。善処する」

 

 と言うや否や、マスターは指を弾いた。と同時に身体が熱くなる。

 

「あっ、生えた」

「生やした」

 

 欠損していた左腕。今は黒い腕が生えている。いったい、何のモンスターの腕だろう?

 

「腕はやした。早くダンジョン配信教えて」

「わかったよ」

 

 マスターは拳を握り、期待に満ちた瞳を俺に向ける。こんな表情を向けられたのは、いつ以来だろう。

 

 ダンジョンを駆けずり回る荷物持ちの俺だぞ? ついさっき、囮に使われた。

 

「は! や! く!」

「わかったよ。じゃ、アカウント作成からやるぞ?」

「うん!」

 

 おかしな流れになってしまった。

 

 

#

 

 

 アカウント名は「ダンジョンマスター@新宿」。まんまである。捻りは一切ない。

 

「おい桐生。可愛く映っているか?」

 

 マスターが俺の名前を呼んだ。そしてドローンカメラの前でポーズを取る。初めての配信ということでドレス姿だ。おめかし。

 

 スマホでサイトにアクセスして映りを確認する。真っ白く透き通った肌。銀糸のような髪、妖しく輝く赤い瞳。人間離れした美貌である。人間ではないので当然だが。

 

「もう配信を開始してもいいのか?」

「……いいぞ?」

 

 なんで疑問系なんだ? 緊張しているのか?

 

「チャット欄のコメントは読み上げオンでいいんだよな?」

「読み上げで頼む」

 

 俺は動画配信用のアプリで「配信開始」をクリックし、コメントの読み上げ機能をオンにした。丁度ピークタイムなので、すぐに視聴者がついた。マスターの見た目が美少女というのもあるかもしれない。

 

 俺のスマホのスピーカーから視聴者のコメントが読み上げられる。

 

<こんばんは~>

<これ、初めてのダンジョン配信?>

<ダンジョン内でドレスって大丈夫?>

<名前は?>

 

「わ、私はこの新宿ダンジョンのマスター」

 

 マスターはドローンカメラに向かって話し掛けた。不慣れなので声が上ずっている。

 

<へえ~。ダンジョンマスターって設定ね。なかなか面白いじゃん>

<どこかのアイドル事務所の仕込み? ちょっと顔整いすぎじゃない?>

<整形じゃね?>

 

「セイケイ? セイケイってなに?」

 

 マスターがカメラに向かって首を傾げる。

 

<え、整形は整形だけど……>

<手術で顔を変えて美形にしたってこと>

<いきなり容赦ねえなぁwww可愛いんだからよくね? 整形でも>

 

「むぅ」と唸り、マスターは不機嫌になる。

 

「わたし、顔変えてない。最初から同じ顔」

 

<はいはいwwwそうだねwww>

<それより、新宿ダンジョンの何階層にいるの? 見慣れない感じだけど>

<確かに。新宿ダンジョンで森林みたいな階層なんてあるの?>

<絶対新宿ダンジョンじゃないでしょ。普通にどっかの森じゃね?>

<ありうる~>

 

「ここは第25階層だけど」

 

 マスターは何でもない様子で答えた。コメント欄が加速する。

 

<はぁ? 第25階層?>

<トップランカーでも第19階層までしか行ってないだろ?>

<だね。第20階層のフロアボスまで行った人はまだいない筈>

<嘘乙>

<可愛いくても嘘は駄目だからね? おじさん、そーいうの厳しいから>

 

「むぅぅ」とマスターの機嫌が更に悪くなる。爪先で地面をぐりぐりし始めた。

 

「私、嘘言ってない。ここ、本当に第25階層」

 

<じゃー証拠みせてよ!>

<第25階層ってどんなモンスターが出るの?>

<そうだよ! モンスターを見せて!>

<やめろってwww絶対普通の森だろwwwモンスターなんて出ないよwww>

 

 マスターは眉間に皺を寄せ、むすっとした表情をしたまま歩き始めた。

 

 先が見通せない茂みの前で止まり、口に手を添えて声を張り上げる。

 

「来て!」

 

 しばらく静寂が続く。視聴者が煽り始めるた。

 

<なにも来ないじゃん>

<www受けるwww>

<はいはいダンジョンマスターダンジョンマスター>

 

 俄かに地面が揺れ始めた。巨大な何かが近付いてくるような、轟音が響く。メキメキと樹々が弾け、悲鳴を上げる。来る――。

 

 GRUAAAAAAAA……!!!!

 

 ドローンカメラの前にティラノサウルスに角が生えたようなモンスターが現れた。頭部だけで三メートルはありそうだ。モンスターは鼻先をマスターの顔の前でヒクヒクさせ、甘えているように見える。

 

「これが第25階層のモンスター。どう? 信じた?」

 

 視聴者に対するマスターの反撃。ドローンカメラに向かってドやる。

 

<お、ぉう……>

<ふーん……これが第25階層のモンスターね……>

<まぁまぁ強そうだな……>

 

 この時、初めての配信にもかかわらず、同時接続数は三千を超えていた。

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