◆一「勇者」
この辺りでは"魔王"の存在は、それなりに知られている。
となれば、当然魔王を倒したという"勇者"の知名度もそれなりだ。
ただし例によって都市や村ごとにその詳細は違っている。
魔王と同様に、どこに勇者の真実が眠っているかは判然としないのである。
あ、今更だけど私の水晶玉に正確性は求めないでね。
あれ、"元の用途が観測用"ってだけで、今は娯楽用だから。
そういうわけで、私の考える"正確な情報"を以下に記す。
大陸半島にて魔王が台頭し、奴が恐怖を以て支配地を拡大した頃。
どこからか若者が現れて、魔王の軍勢に支配される地を次々と解放していった。
それはいずれ魔王の悪行を阻むものであり、最終的に魔王と勇者は雌雄を決することとなる。
最後に勝ったのは、勇者であった。
これが勇者についての情報だ。
また、勇者は光の聖剣を振るったとも言われているが、これが真実だとわかったのは後のこと。
村を訪れた時点の私はまだ半信半疑だった。
それから、魔王を倒した後の勇者がどこにいったかも曖昧だ。
時の権力者に地位を与えられたとか、新たな冒険へ出かけたとか、はたまた恋人と共に隠居したとか、色々と説がある。
結論を言おう。
勇者は、私が訪れた「豊穣と風車の村」に血筋と財産を遺していった。
意外なところに、意外な答えがあったのさ。
◆二「邸宅の地下」
改めて、この時点の私達について語ろう。
魔王顕現の余波で谷に落ちて、けれども谷に隠された道を見つけて村に戻ることができた。
その際にたどり着いたのが、村長邸宅の地下だ。
村長はここに財宝を隠していた。
その財宝こそが、"勇者"にまつわるものだ。
おそらく勇者はこの地を隠居先にした。
それは件の土地神が理由なのか、それともこここそが故郷だったからなのかもしれない。
真実は判然としないが、村長はその勇者の財産を今日まで受け継いできたのは事実。
それと驚くべき情報はもう一つ。
勇者の血筋はこの「豊穣と風車の村」に広まっている。
勇者やその子孫の血筋を受け入れ、世代を重ねる過程で村中に広まった。
つまり、この時の私と行動を共にしている少年"ポー"。
そして魔物トロントに狙われ、一時は儀式に組み込まれてしまった妹。
この二人もまた、勇者の子孫だ。
少年の妹が儀式の贄としてトロントに攫われたのは、血筋としての質が高いから。
おそらくトロントはそれを探る術があったから、彼女だけ生かした。
その結果私と少年に救われて命は助かったんだから、何が功を奏するかわかったものじゃないね。
◆三「勇者の財産」
さて、改めて探索の時間だ。
村長邸宅地下には勇者の財産が眠っている。
事態が事態だ。
ぜひともかっぱらわないとね。
ここに眠る品は色々だ。
村長が代々受け継いで、護ってきたんだろうねぇ。
腐敗の可能性がある王国や教会を信用せず、勇者の財産がもたらすだろう利益にも屈せず、時が満ちるまで耐え続けてきたんだ。
村は滅んだが、その気高い役目は確かに果たされた。
具体的に言うと、かつての資料などが遺されていた。
厄介なことにかつての言語を用いているようで、私には解読できなかった。
この辺りは街に持ち帰って、タリアの奴に委ねてしまった方が世のためかもしんないね。
あいつならその辺は間違いない。
それ以外にもいろいろあるけど……。
そうだね、後の話だけどこのまま「財産の行き先」についてつづろうか。
基本は村の生き残りである少年に委ねることとなる。
いくら私でもこの状態で盗掘はできないから、正当な所有者に渡すしかない。
ただ少年にその辺りの知識はないから、当面は知識のある大人が財産を保管することとなる。
まぁつまり、資料同様にタリアの奴に全部渡したよ。
その後のことは、少年とタリアが話し合うこととなるだろう。
※追記
勇者が遺した資料の中には、まさかのえっちな本があった。
つまり、勇者の性癖がわかるってことだ!!!
いやぁすごくわくわくする。
厳格な資料はぶっちゃけやる気ないけど、大昔のえっちな本なら一人で解読を試みるのも悪くない。
これは大切に保管したいところだ。
まぁでも少年に見つかっちゃったんだけどね。
渋々共有せざるを得なかった。
……これ少年の教育によくない奴だなって気づいた時には、まぁ色々手遅れだったよ。
後々記述するけど、こんなのが可愛くなるぐらいのことも少年に教えちゃったし。
私にまともな教育とかは期待しないでくれたまえ。
◆四「光の聖剣」
埃っぽくて薄暗い地下室には、勇者の財産が遺されていた。
それは大抵資料の類であったりしたけど、力ある遺産も一つ遺されていた。
魔王が顕現した今だからこそ役に立つものだ。
それは「光の聖剣」だ。
なんとなしに私の持つ「闇の魔剣」とどこか似ているが、しかしその性能は段違いだ。
この聖剣は、資格ある者が持てば黄金の刃を現す。
その刃を振り下ろせば、その輝きを以て敵を圧倒できる。
その威力は「闇の魔剣」の比ではない。
これがあれば、魔王となったトロントを倒せる筈だ。
ただし、この「光の聖剣」の真価を発揮させるにはいくつか条件があるようだ。
前提として、まず勇者の血筋が振るわなければならない。
そして、未熟な者ではその力を十全に発揮することはできない。
つまり。
勇者の子孫である少年であっても、今すぐに黄金の刃を振るうことはできないというわけだね。
でも、私にとってはこれで十分だ。
赤字のリスクがあるが、お誂え向きの切り札がある。
そいつでイカサマして、魔王を吹っ飛ばす。
それなりの賭けにはなるけど、むしろその方が私らしいや。
そのギャンブルの結末は、次回にて綴ろう。