「魔剣と塔の魔女」の手記   作:上代わちき

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五ページ目「勇者の伝説」

 

 

 

◆一「魔王トロント」

 

 いよいよ、トロントとの最終決戦だ。

 準備に時間がかかったが、ようやっとトロントに宿る魔王を倒す算段が整った。

 

 

 魔王トロントは、何故か風車の丘を陣取っていた。

 馬鹿と煙は高いところが好きという言葉を聞いたことがあるけど、それは事実のようだね。

 

 もしくは、件の祭祀場の代わりかもしれないね。

 魔王顕現の余波で祭祀場は消えてしまったから、次点で気の流れの良い場所に留まっているかもしれない。

 馬鹿と煙は高いところが好きだからね。

 

 

 

 魔王トロントは、相も変わらず剣を構えていた。

 だがその迫力は段違いだ。

 

 奴の気で天候が荒れて、草木がなぎ倒されるような強風が吹いている。

 土着色の曇天だというのに、魔王や私達のいる場所だけがいやに静か。

 さながら台風の目だ。

 

 

 

 

 先に仕掛けたのは私だ。

 とにもかくにも、まずは"隙"が必要だ。

 奴に隙を作るため、闇の魔剣から闇の刃を飛ばす。

 

 

 案の定防がれたけどね。

 何なら一瞬で肉薄されて、慣れないチャンバラをさせられた。

 

 

 チャンバラの結果、私が押し負けた。

 流石に天下の魔王には勝てない。

 目にもとまらぬ弾き合いの末に鍔迫り合いとなり、そのまま魔剣ごと吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 けど、その鍔迫り合いの時間で十分だ。

 その時間で「塔」の召喚は成った。

 

 私の勝ちだ。

 

 

 

◆二「時空の鐘」

 

 私が所有する「闇の塔」には、「時空の鐘」がある。

 文字通り、時空を操る鐘だ。

 

 機能としては、時間を止めたり、私自身の時間を早くして高速化したり、逆に相手の時間を固定化したり、あるいは時を戻してやり直しを試みたりできる。

 勿論空間に対しても干渉できるから、やろうと思ったことは何でもできる。

 私自身がうっかり死んだ場合に限るけど、自己蘇生なんかも可能だね。

 

 

 じゃあなんでそんなもんを今まで出し渋っていたかといえば、それは単に魔力消費が馬鹿にならないから。

 さっき例に出した自身の蘇生を試みようものなら、魔力ポーションがいくつあっても足らなくなる。

 大赤字もいいところだ。

 

 忘れているかもしれないけど、私はあくまで酒代と遊ぶ金を稼ぐために賞金首のトロントに挑んでいるからね。

 

 

 

 一応塔の地下一階「捕食の牢」も魔力の補給手段として有用だけど、それどっちかっていうと自力で魔力を補給できるって意味だからね。

 間違っても「時空の鐘」の魔力消費に追いつかないし、とんでもなく時間がいる。

 その時間のうちに、魔王サマがこの場から逃げて街を滅ぼしてしまうかもしれない。

 というか、魔王サマは"今"が一番弱い状態の筈で、野放しにすると本当に手を付けられなくなる筈だ。

 

 

 

 

 そういうわけで、時空の鐘を用いる際はできるだけ効率よく魔力消費量が減るように工夫しなければならない。

 ましてや、今回の相手はトロントの肉体に宿った魔王サマだ。

 

 ただ時を操るだけではだめだ。

 空間に干渉して直接魔王サマに攻撃するのも、リスクがでかすぎる。

 

 

 

 だから、先人達の例にならうことにした。

 魔王を倒すのは、いつだって勇者だからね。

 

 

 

◆三「勇者ポー」

 

 村の生き残りである少年"ポー"。

 彼は勇者の血筋であり、村の地下にあった「光の聖剣」を振るえる者だ。

 

 「光の聖剣」を使えば、魔王を倒せる。

 

 

 

 だが少年は勇者として未熟だ。

 「光の聖剣」を十全には振るえない。

 

 だから私の「時空の鐘」でイカサマする。

 

 

 

 本来少年が「光の聖剣」を振るうなら、いくつかの冒険を成功させる必要がある。

 世界各地に隠された勇者由来の試練を乗り越えて、その資格を獲得しなければならない。

 

 だがその力が必要なのは"今"だ。

 一時的にでも、その工程をかっ飛ばす必要がある。

 

 

 

 私の「時空の鐘」で少年の時空に干渉して、勇者として成長した少年の状態に一時的に固定する。

 その限られた時間のうちに「光の聖剣」を振り下ろしてもらう。

 

 それが私の出した答えだ。

 

 

 

 

 

 当然魔王はそれを防ぐだろう。

 けど覚悟を決めて「時空の鐘」を出した私は無敵だ。

 魔王の時も止めて、少年の邪魔となる要因を完全に潰す。

 

 後は、すべての準備を終えた少年が「光の聖剣」を振り下ろすのみ。

 

 

 

 

 

 私は、光を見た。

 天を貫く黄金の光の刃を。

 その輝きに呼応して大地から湧き上がる黄金色の祝福を。

 

 勇者は、確かに存在する。

 

 

 

 魔王を倒す勇者の物語を、私は観測することができたのだ。

 

 

 

 

 まぁ無粋なことに、少年が「光の聖剣」を振り下ろしてなおトロントの奴は生きていたけどね。

 

 ただその身に宿った魔王は消えていたから、私だけでもなんとかなりそうな状態だ。

 だからそこからは、私の仕事だった。

 

 

 

 面倒だからその詳細は割愛する。

 適当にチャンバラした後、「闇の魔剣」から"闇の刃"を飛ばして終わりだ。

 

 

 

◆四「おわりに」

 

 魔王は消え去り、トロントも打ち倒した。

 後は彼奴の遺体をしかるべき場所へ持っていき、賞金獲得だ。

 

 「時空の鐘」で消費した分の魔力ポーション代は回収できた。

 ふっつーにおつりもあるから、黒字だ。

 頑張った甲斐があったねぇ。

 

 

 ただしこの収支は少年の助けあってのものだから、少年にも金一封を贈った。

 いいものを見せてもらったお礼だ。

 

 

 

 

 これで仕事は終わり。

 現代に蘇った"勇者伝説"を見届けたことで、ある種観測者としての私の使命を果たしたともいえるね。

 魔王と勇者の伝説は、ここで一区切りだ。

 

 

 

 

 

 だが、問題はいくつか残っている。

 

 トロントは倒れ、少年の妹の救出もできたが、村が滅んだ事実はどうしようもない。

 まぁ村の後始末は、村を治めていた領主の仕事だ。

 そこに関与することはない。

 

 

 あれ、そういえば私って領主に断りなく領民である少年達を連れ出したんだよね。

 それってつまり、私は少年を誘拐したってことになるんじゃ……。

 

 ……まぁ細かいことはいいか。

 

 

 

 ともあれ、少年は新しい生活の場が必要だった。

 あまり余人に見せたくない勇者の財産のこともある。

 

 だから少年達を「闘技と娯楽の街」まで連れ込んで、酒場「天国への扉亭」の店主"タリア"に事情を説明して、彼に任せることにした。

 彼奴なら知識と理解があるから、これで少年の生活と、何かと厄ネタな勇者の財産についてはどうにかなる筈だ。

 流石に面倒ごとを持ってきたなって顔をされちゃったけど、少なくとも後者は私の手には負えないからねぇ。

 

 

 

 最後の問題は、少年の妹について。

 この子はもともと病弱だったんだけど、村が滅んだこととトロントの儀式に巻き込まれたことでかなり消耗してしまったみたいだ。

 だから病が悪化して、その治療には高額な薬が必要ということになったんだ。

 

 少年に薬を買うための資金はない。

 私が贈った金一封ではどうにもならないだろうし、働いて地道に稼ぐのでは手遅れになるかもしれない。

 

 

 

 だけど、チャンスはある。

 

 近々、また街の闘技場で賭博闘技が開かれる。

 そこに件の金一封をぶちこんだら、あるいは大金になって戻ってくるかもしれない。

 

 

 少年は躊躇していた。

 それは、少年にギャンブルの知識がないからだ。

 

 だから私が、人生の先輩として手取り足取りギャンブルのことを教えてあげたよ。

 

 

 

 

 

 それから数日後、街に新しい伝説が刻まれることとなった。

 その詳細をここで語るのは、まぁ無粋だからやめておこうか。

 

 

 ちなみに私は大負けした。

 今日もタリアの店でやけ酒だ。

 ちくしょうめ。

 

 

 

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