欠神戒斗の青春記録   作:神座悠斗

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第13話どうぞ!


変わらない

 最後の天羽先輩から感じたあれは殺意と言っていいものだった。何を奪われればあれだけの殺意を抱けるのだろうか?

 

 あの彩辻先輩と仲が悪くなること自体あまり考えられないのに、さらに分からなくなってしまった。

 

 物。人。成果。金……。色々と考えられるが、何が1番当てはまるのだろう?1番当てはまっていると思うのは成果だが、どうにもしっくりこない。

 

「あっ」

「ん?あっ」

 

 顔を上げて声がした方を見ると、目の前に太刀川先輩と佐野先輩がいた。

 

 この2人はあの時決闘した仲だが、今は一緒にいる。

 

 これはあれか?河川敷で殴り合ったら最後には仲良くなってる理論か。あれはあまりにも現実味が無さ過ぎて漫画やアニメだけの理論だと思っていたが、現実でも実在するものだったのか。

 

「太刀川、知ってる奴か?」

「知ってるも何も、この1年よ。私が食べるはずだったクレープを食べてた奴」

「あぁ……あの。クレープを見る度に話していた後輩か」

「その節はどうも。先輩方が騒いでクレープを買う人がいなかったおかげで、僕がクレープを食べることが出来ました」

「何平気な顔で感謝述べてるのよっ!貴方がやったこと忘れたわけじゃないんだからね。このコソ泥1年」

「警備も置いていないのが悪いんですよ。僕に非はありません」

「うぅ……」

「とりあえず落ち着けって。それにしても度胸あるなぁお前。あの状況で買うか?普通」

「食べてみたかったんで。それよりも、先輩方はあの決闘を経て仲良くなったんですか?」

「まぁそうだな。あの後色々と話し合ってたら意気投合して、今はスイーツ巡りの仲間になっている。今日は図書館に幻のスイーツに関する本があると聞いて来てみた」

 

 そんな本があるのか。図書館に来てまでスイーツの情報を求めるとは、本当に好きなんだな。

 

 そういえば、この人たちは2年生だったな。彩辻先輩と天羽先輩の仲違い事件、2人のイニシャルをとって、略称AA事件について何か知っているか聞いてみよう。

 

「突然なんですけど、2人は彩辻先輩と天羽先輩が喧嘩したことについて何か知ってたりしますか?」

「急に何?そんなに前のことってわけではないけど、貴方が入学する前の出来事なんだけど」

「なんやかんやあって当事者2人と知り合いの関係になって、それで聞いたんです。それで、何か知ってることはありますか?」

「俺は良く知らんな。学年一の天才コンビと呼ばれる程仲が良かった奴らが急に喧嘩して、決別してしまったという事くらいしか知らないな。確か、どっちが風紀委員になるかで揉めていたんだったか?太刀川は決闘試験で天羽が相手だったよな。そっちは何か知ってるか?」

「私も別に。決闘の時はちょっと不気味だったくらいね。全くやる気を感じられなくてすぐに勝っちゃったから味気なかったわ。その後も誰かと決闘しても負けて序列を下げ続けるし、天才の落ちぶれを見てた感じだわ。今は調子が戻ってきてるらしいけど」

「そうですか。じゃあ、彩辻先輩が天羽先輩から何かを奪ったとか、そういうことは当時聞きました?」

「奪った?いや、知らないな」

「私も知らないわ」

「なるほど。聞きたいことは以上です。ありがとうございました」

 

 これ以上2人に聞いても収穫はなさそうだな。

 

 一旦天羽先輩のことは忘れよう。この疑問を解決しなくても夜はぐっすり眠れるし、僕に関係ある話ではないから問題は無いだろう。部外者は余計なことはせず、2人が仲直りすることを大人しく願っていよう。

 

「じゃあ私たちはもう行くわ。そうだ、あの時の恨みを晴らしたいから機会があれば決闘しましょ」

「機会があってもお断りさせていただきます。虐められたくないんで」

 

 太刀川先輩たちが去っていく。

 

 先輩が後輩を虐めようだなんてひどいことをするものだ。

 

 太刀川先輩との間で奇妙な因縁が生まれてしまったな。比乃宮の忠告を聞いて目の前で食べるのを止めておけば良かったか?でもあの執念深さだと買った時点で詰みそうなんだよな。

 

 店員に買った人の特徴とかを聞いて特定しそう……というかするな、あれは。

 

 でもまぁ、こういうのも悪くないのかもしれない。

 

 落ち着いた生活は悪くないが、ああいう騒がしいのも偶には良いだろう。

 

 

 

 

 天羽先輩の謎に触れてから2週間程経ったが、僕の生活で変わったことは特にない。強いて言えば比乃宮が部活に精を出していることで僕と過ごす時間が減ったことくらいだが、部活が無い日は遊んだりしてちゃんと付き合いは続いているから不満は無い。

 

 しかし、友達の頑張っている姿は何故応援したくなるのだろうか?

 

 神崎も、部活で作った料理のことを話している時のあの顔を見ていると自然と応援したくなる。

 

 アンダードッグ効果と似ているが、あれは不利な立場に置かれている側を応援したくなるというもので、比乃宮と神崎に使うには不適か。

 

 ちなみに、比乃宮も神崎も部活に行くとのことで、今日は1人で下校している。いつもと変わらない景色を視界に流しながら歩いていると、ポケットに入れていたスマホが鳴って見てみると彩辻先輩からメッセージが来ていた。

 

 今から訓練に付き合って欲しいという内容で、この後は何も予定は無かったし軽く運動したいと思っていたので承諾した。

 

 待ち合わせに決めた場所で合流し、そのまま訓練室に向かう。

 

「今日はありがとうな。とりあえず模擬戦がしたいんだが良いか?」

「最近運動していないからやらなきゃなって思っていた所なんで良いですよ。彩辻先輩ならちょうど良い相手になると思いますし」

「なら俺は、ちょうど悪くなるように頑張らないとな」

「優しめでお願いしたいんですけど」

 

 軽く雑談しながら訓練室に着き、準備運動を始めると先輩がこちらをじっと見ていることに気付く。

 

 熱のある視線には思えないが、これで薔薇(もしも)だったらどうしよう。僕に()()()の気は無いので非常に困ることになるんだが。

 

「こっちを見てますけど、どうしたんですか?」

「気を悪くしたならすまない。随分体が柔らかいのだなと思って、つい見てしまったんだ」

「そういう先輩も十分柔らかいですよ」

 

 僕は体が柔らかく、今も両足を水平に広げて開脚し身体を解している。

 

 体が柔らかければ怪我のリスクが低くなるし、可動域が広がれば攻撃範囲も広くなるから良いことばかりで、損をすることが無い。なので運動はしなくても柔軟体操は欠かさないようにしている。

 

 準備運動を終え、距離を取って向かい合う。今回は千変武創(トリビス)は無しのルールでやるのでお互いに無手で構える。

 

 前回のことがあって先輩は初手の動きを警戒しているが、同じことをやってもつまらないので先輩が動き出すのを待つ。

 

 お互いに静止のまま相手の出方を伺い合う。静寂が空間を支配して1分弱のタイミングで先輩が動き出した。

 

 まずは軽い左ジャブ。牽制程度の威力で、視界を遮り次の攻撃に繋げる為の動きだ。そして次の攻撃は右手が微かに開き、通常より前に置いていることから恐らく掴みだな。

 

 左ジャブは前に踏み込みながら頭を動かして躱し、先輩との距離を詰めつつ右手を弾いて攻撃の手を中断させる。踏み込んだ足で先輩の足を払い、同時に胸を押して姿勢を崩す。

 

 倒れる先輩に拳を振り下ろそうとしたが、ネックスプリングの要領でドロップキックを繰り出してきたので中断し、身体をのけ反らして回避する。

 

 (当て先)がいなくなったことで無防備になった先輩の足を掴み弧を描きながら壁に向かって投げつける。

 

 先輩は飛ばされながら体勢を整えて壁に着地し、衝撃を和らげるために曲げた膝をそのままバネとして利用し勢い良く飛び出し拳を突き出してくる。

 

 こちらも拳を突き出して迎え撃ち少し拮抗するが、加速して勢いが乗っていた先輩に旗が上がり、こちらが押し負けて弾かれてしまい後退する。

 

 次は先輩がこちらに追撃しようとするが、何かに気付いたのか中断した。

 

 予備動作を消したカウンターを合わせて決めようとしたんだが、勘で察知されたな。並の相手ならのこのこと突っ込んできて沈んでいるだろうが、やはり先輩レベルだと通用しないな。

 

「どうだ?少しは楽しめてるか?」

「それなりに。あそこから反撃されるとは思ってませんでしたよ」

「それなり、か。じゃあもっとギアを上げようか」

 

 そう言って先輩が最初より数段速い速度で動く。

 

 激しい拳の連撃を捌きながらこちらもカウンターを混ぜて応戦するが、こちら側が押されてジリジリと壁まで追い詰められており、このままでは負けるだろう。

 

 先輩がここまで頑張っているし、こちらもギアを上げるか。

 

 先程よりも速く鋭いカウンターが先輩の捌きをすり抜けて頬に拳が食い込み、連撃が止まったことで攻撃の主導権が変わる。タイミングを微妙にずらしながら攻めていき、先輩の防御(ガード)を崩していく。

 

 何とか対応していたが、体力を消耗し段々とこちらの速さに追いつけなくなったことで、遂にのけ反って無防備になった。その隙を見逃さずに三段蹴りを叩き込み、最後に足を引っかけながら胸倉を掴んで倒れさせる。

 

「勝負あり、ってことで良いですか?」

「あぁ、俺の負けだ。まだまだ遠いな」

「まぁ楽しかったですよ。次を楽しみにしてます」

 

 倒れた先輩の手を引いて立ち上がらせ、先輩の状態を確認する。

 

 ちゃんと手加減したし、今回は保健室に行かなくても良い程度に留めれたな。

 

 今日はここまでということで訓練室を出たが、同じタイミングで他の訓練室から人が出てきた。

 

「……乱摩」

「……賢人か。久しぶりだな」

「あぁ、そうだな」

 

 彩辻先輩と天羽先輩が鉢合ってしまい、急に剣呑とした空気になり、天羽先輩に続いて出てきた闘錬部の部員らしい奴らは緊張して顔色が悪くなっている。

 

 ここで始めるのか?そう思っていたが、天羽先輩は彩辻先輩と僕を見てそのまま何も言わずに去っていき、後ろの部員たちは驚きながら急いで天羽先輩の後を追った。

 

「行っちゃいましたね。あれだとまだ仲直りは難しそうですね」

「……そうだな」

 

 嵐と言うには静かで、さざ波と言うには穏やかではない邂逅は何事も無く終わった。未だ続く亀裂を残して。

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