欠神戒斗の青春記録   作:神座悠斗

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第14話、どうぞ!


近づく影

 帰り道は静かなものだった。僕は話を振る程の話題(デッキ)を持っていないし、彩辻先輩もさっきのことがあって黙ったままだ。

 

 というか僕はあることが気になっていた。

 

 あの時天羽先輩から天耀力(アルナ)が漏れていた。彩辻先輩と会って動揺してしまったから制御が乱れたのだろう。その時感じた天耀力に不純物のようなものが混じっている気がしたのだ。通常の天耀力とはまた違う、中身があるようで無い張りぼての天耀力。

 

 まさか……ブーステッドドラッグ?確かあの薬物は使用すると天耀力が飛躍的に向上するというものだったはずで、天羽先輩から感じた天耀力がそれに該当する可能性が高い。

 

 僕の推測が正しいかどうかは分からないが、とりあえず天羽先輩が最近の事件に関わっている可能性がある人間、という認識は持っておくか。

 

 天羽先輩が無関係の人(シロ)であると信じていたい。これ以上はもうお腹一杯だからな。

 

 この先の厄介事の予感を感じながらそう思い、今日は終わった。

 

 

 

 

 次の日の放課後。今日も僕は1人で図書館に向かっていた。

 

「……どうも」

「……」

 

 白井先輩と出会ってしまった。風紀委員の腕章を着けているのを見るに見回り中なのだろう。

 

 会釈してそのまま図書館に行こうと思ったが、すれ違う瞬間で制服の袖を掴まれた。

 

「何か用ですか?」

 

 俯いて何も言わない白井先輩。何がしたいのだろう、と思っていたら急に引っ張られて何処かに移動することになった。

 

 途中で抵抗しても良かったが、そうすると後で面倒になりそうだから大人しく連れ去られて人気の無い場所まで着いた。

 

「で、何の用ですか?」

「……昨日、彩辻くんと訓練やってたって」

「あぁ……そういう」

 

 そう言えばこの人は彩辻先輩に思いを寄せているんだったな。彩辻先輩から聞いたのだろうか。何でも良いが、ここまで頑張れるのは何かの才能なんじゃないか?

 

 僕が連れられたのは、愛しの彩辻先輩と生意気な後輩が一緒にいるのが気に食わないから牽制しよう、という理由だろう。

 

 白井先輩が嫌でもあっちがそうじゃないから諦めてほしいんだが、僕が諦める方が良いのか?

 

「ただ訓練しただけなんで何も無いですよ。仲が深まったとかも無いですし」

「え、急に何?」

 

 思っていた反応と違うのだが、これは僕が間違っているのか。

 

「白井先輩は僕が彩辻先輩と訓練していたことに起こっているんじゃないんですか?」

「いや、それは確かにモヤっとしてるけど今回は違う。その……会ったらしいから」

「会った……もしかして天羽先輩のことですか?」

「えぇ、そうよ」

 

 白井先輩も天羽先輩のことが気になっているのか。だが、これは野次馬的な興味とは少し違う気がするな。

 

 無関係な人間が見せる表情とは思えない顔にそう思う。

 

「会いましたけど、白井先輩も気になりますか?同級生として」

「同級生としてっていうか……」

「違うんですか?」

「はぁ……。もう言っちゃうけど、私と乱摩は幼馴染なの」

 

 これはまたトンデモ情報だな。

 

 幼馴染ということはかなり深い関係にあるはずだが、今はその繋がりを感じられない。白井先輩もAA事件に関わっているのか?

 

「私と乱摩は家が隣で子供の頃からの付き合いなの。アスカーディアでも一緒にいて、遊んだり訓練したりして楽しかった。でも、彩辻くんと出会ってからそれが変わっていっちゃったの」

「彩辻先輩と出会って、ですか」

「彩辻くんが原因ってわけじゃないと思うんだけど、そうなっちゃうのかな。1年の夏休み前の決闘試験で乱摩が彩辻くんと戦って意気投合してそれから2人は友達になって、私も乱摩の連れで彩辻くんとも関わるようになって友達になったって感じ。3人で行動する時もあったりして、ご飯を食べに行ったり放課後にゲームセンターに行ったりって、仲良しグループとして同学年でそれなりに知られてたの。でも―――」

 

「彩辻先輩と天羽先輩が喧嘩して解散してしまった、ですか」

 

 こくりとうなずく白井先輩。

 

 白井先輩が思ったより関係性が高い人で少し驚いている。だから風紀委員室で話をした時にあんな反応だったのか。

 

 白井先輩も変わってしまった天羽先輩と向き合うのが怖いんだな。

 

 幼馴染として幼少期から一緒に過ごしてきた故に、彩辻先輩よりも一歩を踏み出すのが大変なのだろう。

 

「昨日は何も無かったですよ。顔を合わせましたけど何事も無く終わりました。僕から言えることは、前の関係に戻るのは難しい、ってことですね」

「……そっか。ありがとう、話に付き合ってくれて。じゃあ行くね」

 

 心のどこかで分かっていたのか、ショックを受けてはいるが予想より反応が小さい。

 

 俯いたままの白井先輩が立ち去り1人になる。

 

 僕はこの問題に関わろうと思っていない、結果だけ知りたい野次馬的なポジションでいたいのに、どうして中心人物たちが向こうから近づいてくるんだ?

 

 とりあえず図書館に行って読書をしよう。面倒なことは好きなことをして忘れるのが1番だ。

 

 閉館の時間になるまで読書をして先程まで起きたことを頭の隅に押し込み、スッキリとした気分になれた。

 

 図書館を出て寮に帰り、制服から私服に着替えてから商業エリアに向かう。今日やろうと思っていることはあそこでしかできないからだ。

 

 僕がやろうと思っていること、それは深夜の街を徘徊することだ。

 

 あの高層ビルが立ち並ぶ場所で夜中に徘徊するのはテンションが上がること間違いなしだろう。理想は誰もいない無人が良いのだが、流石に無理か。

 

 エクスモールで時間を潰し深夜まで待ち、夜の帳が下りきったタイミングで動き始める。普通に歩いても良いが今回はビルの屋上を伝っていくことにした。

 

 時刻は22時手前。比乃宮と神崎も誘ったら来るだろうか?今度機会があれば誘ってみよう。

 

 ビルの屋上を跳びまわりながら商業エリアを徘徊する。下に目を向けてみると、仕事終わりの社会人や巡回をしている警備隊、酔っぱらって千鳥足になっている人などがいる。

 

 大人と子供が入り乱れる昼間と違って、やはりこの時間帯は大人しかいないな。

 

 たったそれだけの違いなのに、別の場所に迷い込んでしまったような気分になる。

 

 人が変われば街も変わる、か。不思議なものだ。

 

 さて、今は大通り側で動いているが次は路地裏側に行ってみるか。夜の路地裏は厄介なことに巻き込まれる可能性が高くなるが、ビルの屋上を伝っているだけなら巻き込まれる心配はしなくても良いだろう。

 

 路地裏方面に来てみたが、やはり危険な匂いがする輩が多くいる。

 

 人相が悪い人たちが煙草を吸いながら下品な笑みを浮かべて話をする姿はどこか気味が悪い。

 

 路地裏方面はどこも似たような感じで、教育に悪い場面のオンパレードだった。

 

 一通り回ったし、そろそろ帰―――ん?

 

 帰宅しようと思ったが気になるものが目に入った。なんとびっくり、比乃宮が路地裏にいた。

 

 何故?大通りの光に照らされた場所ならまだしも、光の届かない路地裏(ここ)は違和感しかない。

 

 もし何かに巻き込まれているなら、僕が手助けするか。とりあえず屋上で様子見しよう。何も無いならそれに越したことはないのだし。

 

 比乃宮はビルの角に隠れて何かを見ているようだが、何を見ているんだろう。

 

 場所を少し移動し、僕も見てみるか。

 

 移動して比乃宮の視線の先にあるものを確認してみると、そこには才麗の学生とマスクで顔を覆った男がいた。何だか似たような状況が前にもあったな。

 

 というか学生の方は昨日天羽先輩の後ろにいた人だったな。

 

 観察しているとマスク男が学生に白い錠剤を渡したが、あれは間違いない、ブーステッドドラッグだ。

 

 まさか取引現場に2度も出くわすとはな。

 

 さてどうしたものか、あいつらをここで捕まえて警備隊に提出する方が良いか?

 

 対応を考えていると下から物音が聞こえ、見てみると比乃宮と少しズレたゴミ箱があった。恐らく後ずさった時にゴミ箱に当たってしまったのだろう。

 

 昼の喧騒の中なら気にならないような音だが、夜の静寂の中では話は変わる。

 

 学生とマスク男が比乃宮の方を見て姿を視界に入れてしまった。比乃宮はすぐにその場から逃げ出すが、マスク男はそれを許すわけがなく追跡を始める。

 

 行くか。パーカーのフードを深く被り顔がバレないようにする。

 

 まず学生の後ろに気付かれないように降りて首を絞めて気絶させ、持っていたブーステッドドラッグを奪う。これは後で処分しよう。

 

 次は真夜中の鬼ごっこに飛び入り参加させてもらおう。凄まじいスピードで動く2つの天耀力を感知し、最短ルートで追いつく。

 

 マスク男の手が比乃宮を掴むところで、僕が上から間に割って入り阻止する。

 

 突然の乱入者に両方驚いていたが、マスク男はすぐにこちらに攻撃をし始め、比乃宮はその隙を見て逃走を再開した。後はマスク男を再起不能にすれば良い。

 

 マスク男の攻撃を捌き、鳩尾に力を入れた重い前蹴りを入れて1発で気絶させる。やり過ぎてしまったのか、鳩尾に靴跡がくっきりと残ってしまった。

 

 僕もさっさと帰るか、と思ったがまだ無理そうだ。

 

「凄いね、無駄の無い動きで1発KOだ」

 

 上から男が降りてきて拍手をしながら話しかけてくる。見た目は若く容姿が良い好青年といった雰囲気だが、この場でそれは不気味さを演出するだけだった。

 

「強いねぇ。もしかしてなんだけど、この前も誰か殺ったりした?」

「……」

「だんまりか、まぁ良いや。君ともっとお話がしたいんだけど、良いかな?」

「断る、と言ったら?」

「申し訳ないけど、力ずくってことになるかな」

 

 天耀力を意図的に漏らしながら近づいてくる。仕方ないな。

 

 天耀力を広範囲に放出し、突然の天耀力の波動に男は驚くが、すぐに口角を上げ戦闘態勢になった。

 

「結構乗り気なのかい?僕は大歓迎だけど」

「悪いが、あんたの相手はしない」

 

 小さくはあるが複数の足音が聞こえてきて男の顔が歪む。こちらの意図に気付いたのだろう。

 

 僕は応戦の意図で天耀力を放出したわけじゃなく、警備隊に僕の存在を気付かせるためにやったのだ。

 

 警備隊がこちらに向かってきており、僕はまぁ良いが、犯罪者であろう男は警備隊にバレると面倒になるはずだ。予想通り男は戦闘の意思を失くしこの場から逃げることを選択してくれた。

 

「ここは引くけど、次はちゃんと相手をしてもらうよ」

 

 そう言って飛び上がり、男が消えた。

 

 僕の顔は見られていないと思うが、比乃宮は見られたかもしれないのが気がかりだな。

 

 足音がより近づいてきて、ライトが僕のいる場所を照らす。

 

「誰かいるか!?っおい、人が倒れてる!」

「応援要るか?」

「とりあえずこの人を運ぶぞ」

 

 到着した警備隊は僕には目もくれず倒れているマスク男の介抱をし始める。何故僕を無視するのか、その謎は僕が張った結界にある。今僕は、僕自身を囲む小規模の結界を展開しており、結界には中に入っているものを外から見えなくする透明化の効果を付与(プログラム)しているので、警備隊が僕に気付くことは無い。

 

 飛び上がってビルの屋上に移動し、十分な距離まで離れてから結界を解除する。

 

 まさか比乃宮がいるとは思わなかったな。どうしてあそこにいたかは明日さり気なく聞いてみるか。

 

 今度こそ帰ろう、ということで寄り道はせずに真っすぐ駅に向かったが、終電を逃してしまいで才麗学園に戻ることになった。

 

 おのれ犯罪者……。

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