欠神戒斗の青春記録   作:神座悠斗

16 / 18
お久しぶりです、神座です。
第16話どうぞ!


急襲の一幕

 力無く項垂れる先輩にどう声を掛けたら良いのか分からない。

 

 でも、そうだな、僕が先輩に言える言葉は……。

 

「……僕が思うに先輩は、最後の一線の前に立っているんだと思います」

「一線?」

「はい。引き返すことは出来るけど、一歩踏み出せばもう戻れない。そんな位置です」

 

 引き返すことは出来る。だがそれは難しく、先輩がその選択をすることはないだろう。

 

 汚れてしまった自分が引き返しても、もう本当の居場所が無いと分かっているのだ。

 

 それなら踏み出すのかと問われれば、それはまた違う。

 

 まだ頭の片隅にある思い出が、想い人への恋情が、鎖と言うには温かな拘束具となり、先輩の足を動かさない。

 

 どっちつかずの中途半端。徹底した悪になれず、善人と言うには身綺麗ではない。

 

 自分で身を置く立場を選べないが故に、最後のきっかけを待っている。それが今の先輩だ。

 

「先輩がどうするのかを選ぶことは、僕を含めて誰にも出来ないことで、最後は先輩自身の意思で決定するべきです。選んだ先に何があるのかは分かりませんが、後悔しないと思う方に進むのが1番の選択です」

「そうか……そうだな」

 

 ほんの少し上を向いた先輩の顔を見る。

 

 顔色は変わらず悪いままで迷いは消えていないが、自分のすべきことを再認識したのか、顔つきは変わった。

 

 会話の終わりが近づいてきたのを感じ、気になっていたことを問いかける。

 

「あの、質問なんですけど、なんで僕を選んだんですか?僕よりも比乃宮とかの方が適任だと思うんですけど」

「……何て言えば良いんだろうな。欠神はさ、人間と話してるって感じじゃないんだよ。あぁ、悪口として言ってるんじゃないぞ。ほんと感覚の話なんだけどさ、欠神は人間っていうか壁に近いんだよ」

「壁、ですか」

「あぁ。こっちが言った言葉を全部受けとめて聞いてくれる。そう、聞いてくれるんだ。話し相手じゃない、ただ自分の気持ちを吐き出して聞いてもらう相手として、欠神が1番合ってると思ったんだ」

 

 ただ聞いてもらうだけの相手。教会で神に自分の罪を告白するのと似たようなものか。

 

 解決することは無くても、背負っているものを軽くすることは出来るようだ。

 

「白井先輩とは話さないつもりですか?」

「しないっていうか、出来ねぇよ。魔衣には特にな」

「まぁ、そうですよね」

 

 先輩が立ち上がり、上を向いてこちらを見てくる目と視線を合わせる。

 

「今日は付き合ってくれてあんがとな。正直解決したことは何も無いけど、ちょっとは変われた気がする」

「別に、話を聞いて少し発言しただけなのでお礼はいりません。でも、どうしてもと言うなら今度何か奢ってください」

「また監視付きで良いのか?」

「まさか。ちゃんと自由になっててください。監視付きだとゆっくり出来ないですから」

「はっ、そうだな」

 

 僕の言葉に少し笑う先輩は、背を向けて手をひらひらと振りながら去っていく。

 

 きっと、あの人は戻る道を選ばない。分かっていたことだが、やはり僕では何かを変えることは出来ないようだ。

 

 デルポートスも自分たちの尻尾が見つかってしまったことは勘づいているはずだ。このまま何の手を打たずにいるだなんてことは無いだろう。

 

 天羽先輩に残された時間は僅かしかない。それまでに選択できれば良いんだが。

 

 ベンチから立ち上がり、伸びをする。

 

 これ以上何かをする気にはなれないし、今日はもう帰ろう。

 

 帰路について寮へと続く道を歩く。妙に冷えた空気が身体をなぞり、熱をするりと掬って奪っていく。

 

 今日はちゃんと湯船に浸からないといけないな。

 

 

 

 

「今日一緒に帰ろうぜ」

 

 放課後になって比乃宮が誘ってきた。

 

「珍しいな、今日は部活は無いのか?」

「無いってわけじゃないけど、最近の部活は行っても楽しくないんだよなぁ。空気がどんよりしててテンション下がるし、先輩が愚痴言うのも増えてきたしで、正直もう辞めようかなって思ってる」

「それは大変そうだな。まぁ、一緒に帰るか」

「よしきた。じゃあさ、エクスモールに行ってゲーセンで遊ぼうぜ。最近クレーンゲームでアニメとコラボした景品が入ったらしくて、それ取りたいんだよ」

 

 ニコニコとした顔で話す比乃宮の顔はとても無邪気で眩しく映る。

 

 比乃宮のこういう顔を見て思うが、比乃宮は本当に表情が豊かで子供のようにどこか幼さがある。

 

 まさか怪しい組織に謎の薬を飲まされた過去が……無いな。これ以上馬鹿なことを考えるのは止めよう。

 

 談笑しながらエクスモールに向かい、ゲームセンターで遊んでいく。こういう場所には初めて来たが、少し圧倒されてしまうな。

 

 筐体から放たれる光と、周りから絶え間なく聞こえてくる音が一体となって全身に刺さってくる。

 

「おぉあった。これこれ、このキャラが欲しいんだよ」

 

 ガラスの中を見てみると、荒々しい炎の中にカッコいいポーズを決めてるキャラのフィギュアがあった。

 

 穴から少し離れていて、正面から見てひし形に箱が立っている。この状態から落とすのにどれだけのお金を使えば良いんだろう。

 

 移動中に少し調べたが、熟練者は単純に掴むだけでなく押したり重心を傾けたりして落とすらしいのが、比乃宮もそういうことが出来るのだろうか。

 

 ポイントを消費し1回目の挑戦が始まる。箱をガッチリと掴むが、上に持っていく途中で自重によって下にズレていき穴に届く前に落ちてしまった。

 

「うーん、やっぱ1回じゃ無理だよなぁ。ま、10回くらいで終わればそれで良いや」

「1回100ポイントだから1000ポイントか。上手くいけば良いな」

 

 その後何度も挑戦し、惜しい場面はあったが景品の獲得には至っていない。

 

 比乃宮はもう引けなくなってきているのか、消費した金額が2000ポイントになってもまだガラスの中のフィギュアを見つめている。

 

「なぁ、もう止めておこう。これ以上やっても無理だろ」

「嫌だぁ、これだけやって諦めるだなんて出来ないぃ……」

「いや諦めろって……」

「くそぅ……こうなったら天井まで粘ってやるよ」

「後で景品を見た時にここまでする程の景品だったのか?って後悔するから止めるんだ」

 

 友人の凶行を何とか阻止して他のゲームをすることにした。

 

 1番楽しかったのはダーツだな。一定の動作を、一定の力を込めて投げれば良いだけだから、集中力や再現性を磨く練習に向いているのが気に入った。

 

 それなりに遊んで夕刻を迎え、お互いにお腹が空いたのでファミリーレストランで夕食を食べることにした。

 

「そういえば比乃宮、前に話していたヤバい奴は大丈夫か?危ない目に遭ってたりしないか?」

「今んとこ大丈夫。完璧安心ってわけじゃないけど、あれから何も起きてないしそこまで警戒しなくても良いかなって」

「そうか、それなら良いんだが」

 

 あの時会った奴は比乃宮の顔をよく見れていなかったのか?それならそれで良いんだが。

 

「お待たせしました、ご注文の商品をお持ちしました」

「おぉ美味そう。うし、いただきます」

 

 運ばれたハンバーグを口いっぱいに頬張る比乃宮を見て、僕も食べ始める。

 

 僕が頼んだのはチキンステーキで、肉厚な見た目と香ばしい匂いが食欲を刺激する。

 

 うん、美味しい。肉は柔らかだが程良い弾力が残っていて噛み応えがあるし、皮がパリパリとしているのも最高だ。

 

 チキンステーキを堪能していたが、前から視線を感じたので顔を上げる。

 

「どうした、食べたいのか?」

「いやいや、そういうのじゃないって。前から綺麗に食べるなぁって思ってたんだよ。こう、所作がしっかりしてる、みたいな?」

 

 比乃宮に食べ方を注目されるとはな。

 

 悪く言いたいわけじゃなく、単純に比乃宮はそういうことはあまり気にしない奴だと思っていたからな。

 

「知り合いにちょっと教わってな。教えるのが上手い人で、短い間しか教わらなかったけどすぐに上達したんだ」

「へぇ、そっか。前にも親が厳しくて娯楽に触れられなかったとか言ってたけど、ぶっちゃけ欠神って結構良い家育ちなのか?」

「そんなことはない。いたって普通の家出身だ」

「ほんとかぁ?」

 

 本当だ、前半は。

 

 僕の所作は知り合いの女性によって形成された。

 

 最初はどうでもいいと思って適当に流していたが、あまりの熱意(しつこさ)に僕が折れて最後まで指導されてしまったのだ。

 

 僕が年下で弟という存在に飢えていたとかで散々世話を焼かれたが、正直面倒くさかったな。

 

 自分をお姉ちゃんと呼んで欲しいとか言ってごねまくられたのは今でも記憶に残っており、あの時見た成人女性の醜態はこれからも忘れることは無いだろう。仕方なく1度だけ言った時の歓喜の様子も同様だ。

 

 愉快な思い出は一旦頭の片隅に置いておこう。回想に気を取られてせっかくのチキンステーキが冷めてしまってはもったいないからな。

 

 

 

 

「いやー食べた食べた。やっぱファミレスの味って良いよなぁ」

「腹を叩きながら言うな、おじさん臭いぞ」

「へへ、奢りで食べれたから満足感マシマシだぜ」

「あの時パーを出していれば……」

 

 会計の時にじゃんけんで負けた方が全額奢るというゲームを仕掛けられ、それに乗ってしまい負けてしまった。

 

 言い出しっぺの法則が通用しないだなんて、どんな手品を使ったんだ?

 

 まぁ、僕はちゃんと節約していてこの程度の出費は痛くないので、根に持つとか無い。強いて言えば次は絶対に負けないと決意することになったくらいだ。

 

「こっからどうする?どっか寄りたいとことかあるか?」

「僕は無いな。比乃宮は?」

「俺も無い。じゃあ丁度良い時間だし、今日は帰るか」

 

 帰宅することを決め、駅に向かって歩き始めたその時、

 

 

「見ーっけ」

 

 

 上からの声が耳に届いてすぐに比乃宮の襟を掴んで一緒に後ろに跳ぶ。

 

 少し遅れて先程まで僕たちがいた場所、正確には比乃宮が場所が爆発する。

 

「けほっ、こほっ。何だ、一体!?」

「随分急だな」

「ありゃりゃ、避けられちゃったや。偶然なのかそれとも……」

 

 煙の中から人影がゆらゆらと揺れて現れる。

 

 人影の腕が横に振るわれ、煙が晴れて姿が見える。

 

 中から出てきたのは予想通りあの日の夜に出会った男だった。

 

「や、僕の名前は爆動敷弥(ばくどう しきや)。気軽に”ばっくん”と呼んで良いよ」

「いや距離の詰め方エグイ過ぎるって。最初から最高速かよってかイケメンだな」

「呑気かお前」

 

 ちゃんと死にかけた奴とは思えない発言に思わずツッコんでしまう。あのクレーターを見たら大体の人は卒倒するぞ。

 

「君良い反応だったね。1年生とは思えないよ」

「……僕を知ってるのか?」

「いや知らない。でもその子は1年で一緒に仲良く行動してたから同級生なのかなって。当たってる?」

 

 ポケットに手を入れて飄々とした態度でこちらに近づいてくる爆動。

 

 軽薄で隙だらけに見える振る舞いだが、腕の立つ奴なら実際には隙が無いと分かる。前も思ったが、かなりの実力者だな。

 

 さて、警備隊が来るまでどうにか持ち応えるわけだが、それまでどうやって耐えようか。

 

 普段の僕のままだと比乃宮を守りながら戦うことは出来ない。比乃宮を守るには、本当の実力を出す必要がある。

 

 仕方ない、今まで隠してきたが友人の命と比べれば僕の秘密は軽いものだ。

 

 1歩前に出る。

 

「欠神?おまっ、止めとけって」

「おっ、君が戦う?良いよー、君に興味あるし。じゃあ―――」

 

 ポケットから左手を出して少し構え、

 

「まずはジャブから」

 

 爆動の放った拳が僕の右頬を捉え、ゴンッと硬く鈍い音が響く。だが、この程度の打撃では僕にダメージを与えることは不可能だ。

 

「おー、耐えるねぇ」

「そんなガラ空きで良いのか?」

「ん?」

 

 左腕を後ろに引いて爆動の腹にアッパー気味の拳を叩き込み、放物線を描かせる。

 

 当たる直前にちゃんと天耀力(アルナ)を固めて防御(ガード)されたな。あれじゃ大したダメージにはなってないな。

 

 空中で体勢を整えて危なげなく地面に着地した爆動は、予想通りノーダメージのようだ。

 

「いやぁ、驚いたよ。さっきも言ったけどさ、君本当に1年生?」

「あぁ、ただの1年生だ」

「ただの1年生でこのレベルなら将来有望だね」

 

 変わらず笑顔を浮かべる爆動だが、先程の打撃で僕のレベルを知ってポケットから両手を出している。

 

 お互いに同時に動き、中間で拳をぶつけ合う。

 

 そこからは体術の応酬が始まり、どちらも1歩も譲らない。

 

 殴り、蹴り、掴み、弾き、流す。洗練されたその攻防は、ある種の芸術染みた美しさが存在する。

 

 警備隊はまだ来ないのか?もう来てもおかしくないんだが。

 

 襲来した時の爆発音はかなり響いていて、まぁまぁ遠くにいても気付いていておかしくないし、誰かが通報しているはずだ。だがまだ到着しない。

 

「あーそうそう。君が待ってるであろう警備隊なんだけど、今うちの部下を使って足止めさせてもらってるから、暫くは来ないよ」

「嬉しくない報告をどうも」

 

 足止めされているのか。確かに、少し離れた場所で戦っている気配を感じる。

 

 警備隊の方に移動してこいつの相手をしてもらいたいが、向こうも大変そうだからあまり期待出来ないだろう。

 

 やはり僕が担当するのが良さそうだ。

 

 これ以上付き合う理由は無いし、ギアを上げて終わらせるか。

 

 狙いはカウンター。爆動の拳に合わせて決める。

 

 爆動の右ストレートが顔面目掛けて放たれる。が、加速しきる前の威力に欠ける拳を掴んで不発させた。

 

 距離を取ろうとして後ろに下がろうとしているが、握力で掴んだ拳を抑え込み動きを封じ、刹那、僕は弓の弦を引くように右腕を引き絞る。

 

 その拳に、致命的な量の天耀力を載せて。

 

「ッ!?」

 

 食らったらまずいと察知したのだろうが、逃がすつもりは無い。先程のお返しとして、こちらも顔面を真っすぐに殴り抜いてやろう。

 

 限界まで力を溜めた()が爆動に当たる―――

 

 

 直前、三叉槍が僕に向かって飛来してきたので、攻撃を中断し避ける。

 

 飛んできた場所を見てみると、1人の女性が立っていた。

 

「いやー助かったよ。あれ食らってたらマジでヤバかったな」

「何をやってるんですか、勝手な行動は控えてください。もう引き上げますよ」

「いやいやー、ここから楽しくなるんだから引かないよ。さっきのお返ししないとだし」

「無理です。警備隊がもうじきこちらに到着しますので」

「足止めが突破されたの?もうちょっと時間かかると思ったけど」

「才麗学園の生徒会長が加勢し、警備隊に余裕が出来たんです」

「あー、あの夜天か。じゃあ仕方ないね、うん、帰ろう」

 

 女性と話していた爆動がこちらを向く。

 

「もっとやりたいけど、時間が無いみたいだから帰るね。三度目の正直ってことで、3回目は最後までやり切ろう。全力でいくから、君も全力できてね」

 

 僕がまだ全力を出していないこと、そしてあの夜に会ったパーカー男が僕だと気付いているな。

 

 女性の掌から煙幕が発生し2人が包まれて消え、煙が晴れた場所に姿は無かった。




どうも、神座悠斗です。
最近めっちゃ熱くないですか?この段階で半袖出すことになるとは思ってませんでした……。
話は変わって、大阪の呪術廻戦展に行ったのですが、めっちゃ楽しかったです。特にQ&Aの満足感が高かったなぁ。
課題とバイトに追われながらで更新が遅くなりがちですが、今後も読んでくださると嬉しいです。
ではではー。ノシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。