どうして先生は最後に僕の方を見たのだろう?目立つようなことはしていなかったと思うのだが。まさか僕が知らないだけでやらかしてしまったとか?あり得るな。
「なぁ比乃宮、さっきの授業で僕は目立つようなことをしたか?」
「急にどうした?まぁ、俺が見てた限りでは目立つようなことはしてなかったと思うぜ。俺や皆と同じで苦戦してるなぁ、って感じだった」
「そうか……そうなのか」
比乃宮が言うなら大丈夫か?いや、もう1人聞こう。聞く人の数は多い方が良い、そう思い神崎にメッセージを送る。
『神崎、深い意味は無いんだがさっきの授業で僕は目立った行動をしていたか?』
送ったらすぐに既読がついて返信された。
『急にどうしたって感じだし、深い意味は無いとか言われると逆に考えちゃうよ。えっと、欠神くんは目立ったことはしてなかったと思うよ』
自信無さげな雰囲気の犬のスタンプと共に返ってきた。心配しなくてもいい旨を伝えて感謝を述べておく。神崎も大丈夫だと言っているので一安心といったところだが、そうなると余計に先生がこちらを見ていた理由が分からないな。あの目はこちらを探る目だった。
先生の視線の理由をもっと考えても良いのだが、危害を加えようとする意志を感じなかったので、比乃宮との話の方を優先することにした。まぁ、いずれ分かるだろう。
この日は授業が無いということで、アスカーディアにあるショッピングモールにでも寄って帰るかと提案しようとしたら比乃宮が話し出した。
「なぁ、今から訓練室に行って
「やる気があるのは良いが、それを言うならもっと早く言ってほしかったな。訓練室を出て結構歩いたぞ」
「それは悪い。いやさ、神崎に負けないように頑張りたいなって思ってたら今日からやるしかないと思ったんだよ」
「付き合うのは構わないが、訓練室に空きはあるのか?もう埋まっていたら使えないぞ」
「それなら大丈夫だ。データベースで確認して、まだ空いてたから予約しといた」
データベースは本当に便利だな。練習することが決まったので、180度方向転換して訓練室に向かう。
1
訓練室に着き、受付を済ませて指定された訓練室に入る。
比乃宮は千変武創を取り出し、授業の時と同じように武器を作ろうとしている。形からして片手剣だろうな。授業よりは形が良くなっているがそれは少しであり、完成形には程遠い。先はまだ長そうだ。暫く比乃宮を見ていたら、こちらを向いて話しかけてきた。
「何か見つかったか?」
「え、何が?」
「いや、改善点だよ。2人でやってるんだからお互いに見合って指摘していくもんだろ」
「あぁ、そういう……でもそういうのは先生に指摘してもらうのが1番じゃないか?間違った方向に進んで、そのまま癖がついてしまう可能性がある」
「確かにそれが1番だとは思う。でも、友達とこういうことをやるのに憧れてたんだ。放課後の秘密の特訓ってやつ?何か楽しそうじゃん」
ニカッと笑って言う。なるほど、そういうものなのか。成長する上で効率で劣ると分かっていても憧れがそれを上回る、覚えておこう。勉強になったし、比乃宮の求めに応じてアドバイスをするか。
「じゃあ僕が見ていて思ったことを言おう。まず、
「意識が向きすぎてる?それはどういうことなんだ?」
「千変武創で武器を作る時は天耀力で形作るから天耀力の操作に意識が向くのは自然だ。だが、やるべきことは武器の形成であって天耀力の操作はその過程だ。ゴールじゃない。なら武器を作る時は何を意識するのか?僕が思うに、それはイメージだ」
「イメージ?」
「つまりだ、自分が作りたい武器のイメージが足りていないから不完全な形になる、ということだ。構造、形状、質感……その他諸々の要素を考えて作っていたか?」
僕の問いかけに首を横に振って答える。
「材料だけ揃えた素人が設計図も無しに、雰囲気だけで家を一から作ろうとして上手くいくか?考えるまでもなく失敗するだろう。授業の時にやっていたのはそういうことだ。だからまずはイメージを固めるんだ。形成に必要な
「なるほど。確かに、操作に夢中になってただ剣を作ればいいって思ってた。そうか、そういう考え方があるのか」
口に手を当ててうなずく比乃宮。あまり教えすぎても怪しまれるので、とりあえずこれだけにしておこう。
「さっき言ったことは、中学の時に担当の先生が教えてくれたことを言っただけなんだが、役に立ったか?」
「あぁ、めっちゃ役に立つ。俺はやらなきゃいけないことを飛ばしてるって訳だな。まずは操作よりイメージを固める、か」
目を閉じて集中し、千変武創を構え天耀力を注ぐ。素体が具現化して次第に片手剣が出来上がっていき、今回の形成が終わる。
出来上がったのはまだ歪なところが多く、完成形ではないが今日1番の出来だった。
イメージはそれなりに固まったようだが、操作技術が追い付いていない。それでも進歩は進歩だ。
「おぉ、めっちゃ良くね!」
「あぁ、良いと思う。このままいけば夏休み前には完成させられるだろう」
目をキラキラとさせて喜ぶ比乃宮を見ると何だか微笑ましくなる。癒し系というやつなのだろうか。気分が落ち込んだら比乃宮セラピーでも受けよう。
「じゃあ次は欠神だな。まぁ、さっきの説明聞いたら俺から言えることなんて無いと思うけど」
「比乃宮の意見も欲しいから、遠慮なく言ってくれ。じゃあやってみる」
僕も千変武創を持ち武器を作っていく。授業より少しだけ上達したくらいの完成度で終了させた。
「授業の時も思ったけど、欠神の武器は何て言うかイメージに合わないんだよなぁ……。ギャップってやつなのか?」
比乃宮が眉を寄せながらつぶやく。
僕の武器は両手持ちの長柄の戦鎚で、頭は少し縦長の角丸長方形になっている。確かに、僕のような死んだ目と顔をした奴が持つ武器ではないな。だがこれが僕に1番合っていたのだから仕方ない。
「うーん、さっきも言ったけど言えることは無いな。欠神が言ったみたいにイメージを固めるのが最初にやるべきことだと思う」
「中学の時に言われたから多少は出来るだろうと思っていたんだが、そう上手くはいかないな」
「あーそれと……」
「まだ気づいたことがあるか?」
「いや、これは直すとかってやつじゃないから、気にしなくても良いぞ。よし、もうちょっと練習するか!」
比乃宮の雰囲気的に本当に些細なことだったのだろう。僕の勘は追及することを勧めたが、止めておく。僕らはまた形成の練習を始め、1時間程練習して終わりにした。
2
空はまだ青いが、少しだけ赤が滲み出てきていた。良い時間だな。
最初に提案しようとしたショッピングモールに寄りたいことを伝え、比乃宮はそれを了承し、《エクスモール》に行くことになった。非常に人気なショッピングモールらしく、データベースで見た時から気になっていたのだ。
エクスモールはアスカーディアの中心に位置しており、少し遠いので電車を使い最寄り駅まで移動する。エクスモールに着くと、まず人の多さに圧倒された。学生が1番多いが、大人もたくさんいるな。
アスカーディアの中心にある巨大な人気ショッピングモールということで、才麗学園以外の生徒もいる。
「おっ、あの子はレクシア学園じゃないか?可愛いなぁ」
「あー、レクシア学園ってどんな学園何だ?」
「知らないのか、超有名どこだぜ?えっと、レクシア学園はアスカーディア内でもトップクラスのマンモス校だな。ちなみに、
アスカーディアの学園はどれも国が運営をしていて、運営している国の人がその学園の生徒の大部分を占めている。確かにレクシアの生徒は皆アメリカ人風の顔をしているな。
それにしてもレイファ=アスレットか、その名前は知っている。昔、とある犯罪シンジゲートの掃討作戦で活躍した
レクシアの生徒を見ていると、ある女生徒と目が合った。その生徒は友達と談笑していたが、僕と目が合ったら驚いた顔をしてこちらを凝視し始めた。
「なぁ、お前めちゃくちゃ見られてないか?知り合いか何かだったら挨拶でもするか?」
「いや違う。僕は彼女を知らないし、彼女も僕を知らないはずだ。それに……」
彼女と目が合った時は確かに僕を見ていた。今もこちらを見ているが、僕を見ているというより僕の後ろにある何かを見ているといった感じだ。100人に聞けば100人が美少女と答えるだろう女の子に見られているというのに、その表情からトキメキを感じられないのが残念だ。
少しの間彼女は足を止めて観察していたが、友達に声を掛けられ我に返った。友達も彼女が僕の方を見ていたことに気付き、色恋のそれだと勘違いしたのかニヤニヤしながら問い詰めていく。彼女は焦ったように誤魔化そうとするが、その姿は逆に燃料を与えてしまったようで状況は悪化していた。
暫くの間攻防を続けていたが、一旦終わりにしたようだ。彼女らはすぐに歩き始め、こちらに会釈をして去っていった。去る時に友達が僕に向かって満面の笑みでサムズアップしてきた所から、誤解が解けていないことを悟る。
「何だったんだろうな。まさか本当にあの子の一目惚れか?」
「それは無いだろ。さっきも言ったが、僕と彼女はお互いに何も知らないし、彼女のような美少女が僕みたいな普通の男に惚れる訳がない」
「いやいや、恋愛ってのはそんな単純なモノじゃないぞ。恋愛は時に理論とかで説明出来ない力が働くことがあるらしいしな。それに欠神は顔良いと思うぜ、クール系かつ不思議系って感じだ。で?どうするんだよ。欠神からアタックするのか?」
彼女の友達と同じようにニヤニヤとしてからかってくる。憎たらしさを感じさせるイイ笑顔に思わず一発殴って黙らせようか考えたが、やめておくことにする。
「今すぐやめるなら明日の昼飯を奢るんだがな」
「にしても大きいなぁ、早速見て回ろうぜ」
僕の友達は本当にイイ性格してるな。あまりに早い切り替えに心の中で拍手を送る。
その後はエクスモールを見て回り、ある程度見終わった所で今日の夕飯と明日の朝食の材料を買って、寮に帰った。
3
夕飯と風呂を済ませもう寝ようと思ったが、今日の出来事を整理しようと思い椅子に座り、机に両肘をつき手を組む。出来事の整理は何かの発見に繋がることがあるので偶にやるようにしている。
まずは佐々宮先生だな。授業の最後に僕に探るような視線を向けてきたが、理由が分からない。
僕は上手く周りに馴染んでいたはずだ。千変武創も天耀力も1年生の最初と同じレベルにしたから大丈夫だと思ったのだが、やはり何かミスをしてしまったのだろう。
原因は不明だが佐々宮先生の様子からして致命的なミスではないと思うが、懸念点であることに変わりはない。気を緩めることは出来ないな。
次にレクシアの女子。彼女と僕に面識は無い、これは確かだ。恐らくだが、彼女が驚いた顔で僕を見てきたのは
天耀術式は異能使いの超能力的なもので、天耀力を消費して発動出来る異能のことだ。天耀術式は基本的に後天的に手に入れたりすることは出来ず、生まれつき持っている必要がある。なので天耀術式を持たずに生まれた異能使いは一生使えないとされている。
天耀術式の能力は人によって様々で、単純だったり複雑だったり、役に立ったり役に立たなかったりと色々ある。
炎を出す、物を操る、一定の条件を満たしたら爆発する、自分の血中酸素濃度を変化させる、といった感じだ。
彼女が過去視の天耀術式を持っているのなら、まだ制御出来ていなくて勝手に発動してしまったのだろう。規模がデカすぎて個人で制御するには負荷があり過ぎる力だから、当然と言えば当然だ。
しかし、これはあくまで仮定だ。彼女が本当に天耀術式を持っているかは分からないし、あり得ないとは思うが、比乃宮が言ったように彼女が僕に一目惚れをしたのかもしれない。まぁ、注意しておこう。
今日の整理をやめて僕はベッドに身を預け、そのまま眠った。
4
3日目が始まる。今日はバタートーストとコーヒーを朝食にした。簡単なものだが、自分で用意した食事だと思うと特別性を感じられるな。
朝食を食べ終わり、昨日と同じ準備をして学校に向かう。
学校に着き、教室に入ると昨日と同じように神崎が席に座っていた。今日は本を読んでいるようだ。しかも僕と同じく紙媒体の小説を読んでいる。これは良い話題になりそうだ。
「おはよう、昨日は困らせてしまったみたいで悪かったな」
「おはよう、別に気にしなくて良いよ。でも悪いって思ってるなら何かお詫びしてもらおっかなぁ?」
意地の悪そうな笑顔で言ってくるが、本気で言っていないことがよく分かる。雰囲気で思っていたが、比乃宮と同じで神崎も良い人のようだ。それにしても可愛い、無条件で尽くしたくなる可愛さだ。
「そういえば、神崎も本が好きなのか?」
「好きだよ。も、ってことは欠神くんも?」
「あぁ、僕も好きだし神崎と同じで紙媒体だ」
昨日のうちに机の中に入れていた小説を取り出す。それを見て神崎のテンションが上がった。
「これ《楽園の囚人》だよね!マイナーだけど凄く面白い作品だよね」
「これを知っているだなんて神崎はかなりの小説好きみたいだな」
「うん、お母さんに影響されて小さい頃からずっと読んできたから。欠神くんはどうして本を好きになったの?」
「僕は……」
僕は小説で世界を知った。いや、広げたという表現の方が正しいか。
僕が生きていたあの世界は狭く、息が詰まりそうだった。だから現実だろうが
まぁこの話は神崎に話しても微妙な雰囲気になるだけなので誤魔化しておく。
「僕も似たようなものだな。小さい時から読み続けて好きになっていたっていう感じだ」
「そっか、じゃあさ今度図書館に行って色んな本を見てみない?きっと楽しいよ、蔵書数多いみたいだし」
「良いな、それ。来週の月曜日の放課後はどうだ?僕は予定入ってないけど」
「私も大丈夫。じゃあ来週の月曜日ね!楽しみだなー」
笑顔で話す神崎を見ていたらいつの間にか多くのクラスメイトが教室に入ってきていた。ホームルームの時間が近くなってきたな。神崎はもっと話したそうだったが、切り上げてホームルームの時間まで待った。
比乃宮がギリギリの時間で来た。寝坊でもしたのだろうか?
「今日は昨日より遅かったな。寝坊か?」
「正解。昨日は夜遅くまで千変武創の練習してたからあんまり寝れてないんだ」
「悪影響が出ない程度にしておくんだぞ」
「分かってるって、次から気を付けるよ」
矢吹先生が入ってきて昨日と同じ仕事をする。その後の1日は特別なことは何も無く進んだ。
佐々宮先生に呼び出されたこと以外は。