欠神戒斗の青春記録   作:神座悠斗

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第8話どうぞ


イベントへの期待

 さて、どうしたものか。

 

 とりあえず先輩は保健室に移動させて怪我を治してもらった。

 

 アスカーディアの保健室は治療室と言ってもいい程の設備が揃っており、担当の先生も腕が良い。

 

 四肢が欠損しようが身体に風穴が空こうが死んでいなければ必ず一命を取り留め、そのまま全快させれる常識外れの治療が受けれるので、大怪我をしても保健室に行けば何とかなる、というのがアスカーディアでの常識のようになっている。

 

 胸骨と肋骨が折れ、顔の骨もひびが入っていた先輩だが、たった10分で完治した。異能使い(エクストリア)は自然治癒力がとても高く、保健室での治療も合わさればこの程度で治るか。

 

 今はベッドで体を起こして座っている彩辻先輩を囲んで皆が立っている状態だ。

 

 何だろう、気まずい。心なしか風紀委員会のメンバーの1人がこっちを睨んでる気がするし。

 

 重い空気を切り裂くように先生が口を開けた。

 

「まさか欠神がここまでの実力を持っていたとは思わなかったな。そもそも彩辻に勝てるだなんて考えてすらいなかったぞ」

「えぇ、私も彩辻くんが勝つと思っていたので驚きました。まさか新入生にこれ程の逸材がいるとは……」

「自分も、正直まだ信じれません。動こうと思った次の瞬間には欠神が俺の前にいて攻撃を食らい、2発目もまったく対応出来ずにそのまま負けて、こんな経験を新入生で味わうとは……」

 

 風紀委員長と彩辻先輩がそれぞれ感想を言ったら、僕を睨んでいた女生徒が口を開いた。

 

「何かズルをしたんじゃないですか?でないと彩辻くんが入学したての新入生に負けるなんてあり得ません」

「疑う気持ちは分からんでもないが、欠神は不正行為はしていない。審判をした私が断言する」

「でもっ!」

「良いんだ、白井(しらい)。俺が欠神より弱かったから負けた、それだけだ」

 

 抗議していた先輩を制止して彩辻先輩が僕の方を向く。

 

「欠神、今回の模擬戦はお前の勝ちだ。しかし次は負けない、次に戦う時は俺が勝つ」

「そうですか、まぁ、楽しみにしてます」

「あぁ」

 

 先輩の目に炎のように揺らめく熱が見えた気がした。この人はクール系だと思ったけど意外と熱い人なんだな。

 

「ふふ、男の子の友情ってやつかしら。まぁそれは置いておいて、まだ自己紹介をしていなかったわね。私は榊千弦(さかき ちづる)、3年生で才麗学園の風紀委員長をやっているわ」

「僕は獅子宮康征(ししみや こうせい)です。えっと、2年生です」

「……2年、白井魔衣(しらい まい)です」

「欠神戒斗です、よろしくお願いします」

 

 改めて風紀委員会のメンバーを見てみる。

 

 全員彩辻先輩に近い実力を感じる。才ある三十人(ティアーズメイト)なのだろう、レベルが高いな。

 

「突然だけど、欠神くん。風紀委員会に興味はあるかしら?」

「本当に突然ですね。もしかして勧誘ですか?」

「えぇ、そうよ。風紀委員会は学園内で活動して、校則違反者や決闘場などの定められた場所以外で戦闘行為を取り締まるのが主な仕事なんだけれど、その性質上ある程度の実力が必要なの。そして、欠神くんは彩辻くんを倒せる実力を持っているし、悪い子って感じじゃないから適任だと思ったの。私がいなくなった時の穴を埋めてくれる子を探してたからちょうど良いしね」

 

 風紀委員会は実力主義の集団か。僕は才ある三十人の彩辻先輩を倒したわけだし、当然そうなるか。

 

 委員長直々の勧誘で、とてもありがたい話ではあるのだろうが、正直興味が無い。

 

「すいません、お断りします」

「断るのか?榊からの勧誘なんてそうそう無いことだぞ?」

「やる気の問題ですね。僕は風紀委員会に熱を持てない、そしてそんな奴がいて良いと僕は思えない。だからお断りします」

「そう、残念だわ。でも気が変わったら連絡して、私の連絡先を教えるから。貴方が入りたいと思うなら、私たちは貴方を歓迎するわ」

 

 榊委員長と連絡先を交換し、彩辻先輩と獅子宮先輩とも交換した。白井先輩はまだ僕を敵視していて交換出来なかった。

 

 

 

 

 その後解散し、エクスモールに行くことにした。今日は昨日よりも人がいて動きづらく、目的無しの1人で回るのはただ疲れとストレスがたまるだけだと判断し、すぐにエクスモールを出た。

 

 エクスモールのあるアスカーディアの中央区は主に商業エリアとして栄えており、アスカーディアの中でも多くの人が集まる地区だ。

 

 ビル群が視界を圧倒し、日が傾いてきたこの時間帯では影の主として街を侵食していく。

 

 中央区を見て回っていると、路地裏から小さくではあるが声が聞こえた。

 

 この時間の路地裏か。比乃宮はこういう展開では何かしらのイベントが起こると言っていたが、本当にそんなことが起きるのだろうか?

 

 疑問はあるが、気になったので声の元に行ってみることにする。

 

 少しの期待を胸に、曲がり角を曲がって着いた現場では、ガラの悪そうな大人の男とこれまたガラの悪い学生数人がいた。しかも才麗の学生じゃないか。

 

 彼らは錠剤のような物を持っていて取引をしているようだった。

 

 んー、どう考えても厄介なイベントだな。持っている物も雰囲気的にハイで幸せになれそうなやつっぽいし。

 

 まだ気付いてないみたいだし、このまま離れたいな。

 

 どうしようか考えていたら、大人が僕に気付き、大人の変化に気付いた学生どもも視線の先を追って僕に気付いた。

 

 判断が遅かった。もう逃げれそうにない。

 

 リーダーのように大人が指示を出して僕の退路を塞ぐように周りの学生たちを動かした。

 

「誰だお前?何か用か?」

「用は無いですね。とりあえず帰りたいんですけど、良いですか?」

「よくそんな暢気なこと言えるな。お前状況分かってるのか?こっちは今すぐ殺しても良いんだが」

 

 リーダー男が脅してきて、周りのモブはニヤニヤと下品な顔で笑っている。

 

 リーダー男が1番強く、その強さを知っているのだろう。もしもの事態に備えて天耀力(アルナ)を静かに身体に巡らせている。ただ笑っている馬鹿どもとは大違いだな。

 

「確認なんですけど、僕はこのまま帰ることが出来ますか?」

「残念ながらそれは出来ない。とりあえず病院送りにさせてもらう」

「そうですか、じゃあ仕方ないですね」

 

 身体強化をして、リーダー男の喉仏に中高一本拳を繰り出してダウンさせる。

 

 次、モブは4人いる。1人1人やるのは面倒なので、千変武創(トリビス)を取り出し戦鎚に変えて、その場で自転して4人一気になぎ倒した。

 

「お前……何者だ…………」

 

 

 下から声が聞こえたので見てみると、リーダー男が呻き声を上げながらよろよろと立ち上がろうとしていたので、頭を踏みつけて黙らせた。

 

 これで終わりだな。スマホを取り出して榊委員長に連絡を取った。

 

「どうしたの?早くも気が変わったのかしら」

「違いますね。実は校則違反者というか、人生脱落者かもしれない不審者たちをその場の流れで制圧したので、その後処理を頼みたいんです」

「後処理?それに制圧って、欠神くん大丈夫なの?」

「問題ないです。怪我1つありません」

「とりあえず、現在地を教えて。警備隊に行ってもらうから」

 

 榊委員長との連絡を終えその場で10分程待っていると、武装した大人たちが現れた。

 

 こいつらの仲間、ではないな。アスカーディアの警備隊だろう。

 

 この場で1番の上司らしい男が身分証明のカードが入った手帳を見せながら近づいてきた。

 

「警備隊3番隊隊長の工藤修真(くどう しゅうま)だ。榊風紀委員長からの連絡で来た。君が欠神戒斗くんで良いかな?」

「はい、制圧した不審者はあそこにまとめておきました」

 

 暇だったので山のように積み重ねた不審者たちを指差した。それを見て工藤隊長が苦笑する。

 

「あー、怪我は無いか?無いならこの後事情聴取をしたいんだが」

「問題無いです。早く終わらせましょう」

 

 警備隊とともに警備所に行き、事情聴取を受けた。

 

 当時の状況を詳しく説明し、僕が不用意に路地裏に入った時のことを話していた時は呆れたような目を向けていたが、奴らが持っていた錠剤のことを話に出したら警備隊の人たちの雰囲気が変わった。

 

 やはり違法な薬物だったのだろうか。

 

 とりあえず錠剤のことは聞かずに説明を続け、終わったら解放された。

 

 榊委員長に感謝のメッセージを送っておこう。そう思いメッセージアプリを開くと榊委員長からメッセージが来ていた。

 

『問題無ければ、明日の放課後に風紀委員会室に来てもらえるかしら。今日のことを聞いておきたいの』

 

 了承と感謝の言葉を送ってスマホをしまう。

 

 お腹が空いたし今日は家に夕飯用の材料が無いので外食で済ませ、寮へと帰った。

 

 学園都市で違法薬物か、あのリーダー男が単独でやっているとは思えないな。恐らく何らかの組織に所属しているだろう。

 

 今回の件で大人しくなるとは思えないし、錠剤の取引は何処かで続いているはずだ。

 

「面倒ごとに巻き込まれなきゃ良いんだが」

 

 日が落ちた暗闇の中でぽつりとつぶやいた言葉は力が無く、言霊になれそうになかった。

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