原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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ある日、原作よりも低能なギレンは思った。


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「ドズルよ、このムサイ級についてだが……」


 地球人類が宇宙に人造の大地を築き、そこに移り住んでからすでに半世紀以上の時が流れた。宇宙で生まれ、宇宙で育ち、宇宙で死ぬ世代も生まれる中、地球圏はじりじりと争いの気配を滲ませつつあった。

 ギレン・ザビはジオン公国の総帥である。地球連邦政府によって搾取されるスペースノイドの自由を勝ち取り、地球の重力に魂を惹かれた人々からの独立を目指し、日々を邁進している。

 国力比1:30とされる地球連邦政府を打倒する為に、水面下で独立戦争の準備を進めるギレンであるが、その為に公国軍の総帥として文字通り忙しさに殺されそうな日々を過ごしているのは、想像に難くない。

 

 宇宙空間に浮かぶ全長30kmを超えるシリンダー・スペースコロニーの群れ。

 サイド3と呼ばれるグループがジオン公国の本拠地となる。

 他のサイドを構成するスペースコロニーの人々も重税を課す地球連邦にいい感情を抱いては居ないだろうが、それでも我慢が出来るレベルの不満である。

 少なくともジオン公国のように独立戦争を仕掛ける程ではない。

 

 その日、ギレンはジオンの勝利の要となる、ミノフスキー粒子を利用した戦争を変える新兵器の説明を公国軍の上層部と共に受けていた。

 現代の戦争を、第二次世界大戦レベルの有視界戦闘にまで貶めるミノフスキー粒子を前提とした兵器は、既存の戦術の通用しない代物だ。それらを運用するジオン公国軍も研究に日夜余念がない。

 

 図面から起こされたCGモデルを眺めながら、ギレンは傍らに立つ強面の巨漢である弟のドズル・ザビに問いかけた。

 周囲では集まった人々が設計者からの説明を解釈し、意見を交わし合っている。その中でもプレゼンを行った者達は、特にギレンとドズル兄弟の発言に注目している。この場に居る、どころかジオン公国軍部のトップ達なのだが、当然だろう。

 

「ドズルよ、このムサイ級についてだが……」

 

 本来、ギレン・ザビはIQ240とも言われる人類有数の天才である。その卓越した頭脳と手腕によって、軍の指揮統制ばかりでなく公国の政治まで指導する超人である。

 しかし、なんの因果かこの世界のギレンは本来の彼よりも低能だった。はっきりと能力で劣っていた。だからなのか、劣っている分を補うようにこの世界のギレンは自分にそこまで絶対の自信を抱いておらず、有能と見込んだ者達によく相談をする。

 

「なんだ、兄貴。俺に分かる事なら答えるぞ。もっとも兄貴に分からんことが俺に分かるとも思えんが」

 

「謙遜はよせ。現場のことならお前の方が私よりも長じている。話を戻すぞ。このムサイだが、対空火器の類が少なすぎはせんか?」

 

「MSの運用が主な艦だからな。艦載機に任せる前提なのだろう。戦闘艦よりも母艦としての機能を求めた結果ではないのか。実際、地球連邦の艦隊とやり合うのに艦隊戦は無謀が過ぎる。ミノフスキー粒子とMSを前提とするなら、充分と設計した者は考えたのだろう」

 

「うむ、だがMSは連邦の艦隊と艦載機の撃墜こそ本分ではないか? であるならムサイにも最低限の自衛能力は必要に思える。

 また武装を見るにサラミス級よりも充実しているように見えるが、前面に対して集中させすぎだ。後方に回られたら反撃一つ出来んし、下方からの攻撃に対しても心許なすぎる。これでは死角ばかりだ」

 

 ギレンの指摘にドズルは改めてスクリーンの中のムサイ級を眺める。自分がこれを沈めるとするなら、やはり後方から下方からの攻撃を選択するだろう。ムサイ単独で見れば確かに死角だらけだ。

 

「艦艇ともなれば一隻沈むごとに数百もの兵の命が失われる。戦争で死者を出すなとは言わんが、ジオンにとって一人の戦死者の重みは地球連邦とは比べ物にならん」

 

「砲塔の配置の変更に対空火器の追加が必要だと兄貴は考えているのだな。設計をどれだけ変えれば実用化できるか、試算させてみるか?」

 

 兄の意見に同意を示すドズルに、ギレンは更にズバズバと思ったことを口にする。

 いつの間にか室内の人々はこの兄弟の発言に注目し、押し黙っていたがギレンは気にしない。

 まさかこの程度のことを専門家である彼らが気付いていない筈はない、と思っているからだ。

 

「またMSの母艦としてみても、なぜMSデッキが艦橋の真下にある? まだそれはいいとしてもハッチが後ろ向きにしか存在していないぞ。

 MSの発進時にムサイは敵に背を向けるのか? それともわざわざMSを後ろ向きに発進させてから、前へと回り込ませるのか?」

 

「空間戦闘機の母艦と比較すれば、有り得ん造りではあるな。MSの旋回半径は戦闘機や突撃艇よりもはるかに小さいが、それでも推進剤と時間を無駄に消費させてしまうか」

 

 顎に手をやりながら思案するドズルに対して、ギレンの口はまだ動くのを止めなかった。

 

「MSが従来の戦闘機とまるで異なるのは理解しているが、例えばカタパルトで撃ち出すのは不可能なのか? 旧世紀の空母でさえ備えていた機構だろう。MSの運用はいまだ黎明期。母艦もまた手探りであるのは理解するが……

 対空火器はなく、砲塔の配置には死角があり、艦載機は後ろ向きにしか出撃できない。またエンジンブロックが艦体と大きく離れているから、ダメージコントロールに優れているかと思えばこの資料を見る限りそうでもない。これではいささか不安にならざるを得ん。艦の懸念事項も正直に提示したのは評価するがな」

 

 自分よりもはるかに頭のいい兄の言葉に、ドズルは重々しく頷く。彼もまた現場における指揮官として多くの将兵を預かる身。戦争の勝利はもちろん大事だが、同時に一人でも多くの兵士を生かして帰すのも大事なことだ。

 なお二人の会話を聞いていたプレゼン担当者は、極刑を言い渡されたかのように顔色を青くしていた。

 これならムサイよりもコストはかかるが、チベの数を揃えた方がいいという結論にでもなったら、ムサイを設計した人々は首を括るかもしれない。

 それを思えばこの後、ムサイ級の再設計の検討が指示されたのはまだ不幸中の幸いだったろう。




こんな感じでギレンが周囲に相談しながらまったりと進んでゆく予定です。
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