原作よりも低能なギレン・ザビ 作:スカウトマニア
※一部のキャラクターの性格に変化があります。あらかじめご承知おきください。
サイド7通称『ノア』。
独立戦争終結後、ジオンの領土となったこのサイド7には、1バンチ『グリーン・ノア』があり、かつては一万人前後の住人がいた。
彼らは戦争終結後にはそのままジオンの統治下に留まるか、地球連邦へ戻るかの二択を迫られた。
当時の住人達は地球連邦から強制的に移住させられたケースが多く、これ幸いとばかりに地球へ戻る人々が多かった。
戻った先で地球連邦にどんな扱いを受けるのかは、ジオンの知ったことではなかったが、改めて宇宙に移住させることも出来ず、かといって手厚く保護する理由もなく、あまり良い目には遭わなかったのは想像に難くない。
そうして住人の減ったグリーン・ノアは、ジオンの支配下になったルナツーに最も近いコロニーとなり、所属する軍人達の家族が住むか最寄りの憩いの場所となる。
その後、ジオン公国の手によって密閉型コロニー二基を接続した2バンチのスペースコロニー『グリプス』が建造され、ルナツーと相互に連携して地球に睨みを効かせる役目を担っている。
この世界ではグリプスといえばティターンズの本拠地ではなく、ジオン公国の軍事拠点の一つなのだった。
グリプスはジオン公国にとっては最も遠い飛び地の領地であり、そこへジオンの姫君であるノーマ・ザビは視察と慰問を兼ねて訪れていた。
宇宙はジオンの庭とはいえ厳重な警備が敷かれた上での視察だったが、よりにもよって彼女がグリーン・ノアを訪れた際に、この特大事件が勃発する。
地球連邦軍からの宣戦布告を受けて、ジオン公国がルナツー並びに地球上へ戦力を集中させる隙を突いた、地球連邦軍特殊部隊『ティターンズ』による新型機強奪事件である。
今もなお爆発に揺れるグリーン・ノアから、一筋の流星が飛び出す。
白い花びらを集めて人型にしたような、華やかで美しいソレは、とても戦争の為の道具とは思えなかった。
地球圏へ呼び戻された小惑星基地アクシズの技術を統合し、開発された最新のサイ・コミュニケーター技術を投入したMS『キュベレイ』。
なよやかな機体はともすれば観賞用の為に作られた美術品なのではないか、と誤解してしまいそうだ。
その美しい機体に向けて宇宙の闇を貫いて走ったメガ粒子の塊は、キュベレイを散らす為に無慈悲に襲い掛かってくる。
キュベレイは風に舞う花弁のようにひらりひらりとビームを避けると、両手をビームの飛来した方向へと向け、手首の内側に内蔵されたビームサーベル兼用のビームガンを連射。
旧世代のMSなら一撃で撃沈されるビームの雨の先で、瞬く光があった。撃たれる前から、避ける為に推進剤を燃やした光である。
「やっぱり撃つ前から避けられている」
パイロットスーツもなしにコックピットに座る、ギレン・ザビの息女ノーマ・ザビだ。
白みがかった水色の髪を肩にかかるまで伸ばし、鮮血を思わせる赤い瞳が目を引く十五歳の美少女である。
サイド7並びにルナツー、グリプスのジオン将兵に対する慰問の為に訪れた彼女は、式典用の装飾こそ少ないが品の良いドレスパンツ姿だった。
襲撃の現場に居合わせてしまい、たまたまキュベレイに乗り込んだノーマ・ザビは、相手が自分と同じように距離を超えて攻撃の意思を感知しているのを悟り、父親とはまるで似ていない可憐な顔立ちに焦りを浮かべる。
グリーン・ノアの守備隊も出撃準備を進めているが、奇襲の混乱から立ち直れていない上に、このレベルの敵が相手では何機落とされるか分かったものではない。
ノーマもザビ家のたしなみとしてMSの操縦を学んでいなかったら、いくらサイコミュがあるとはいえ、ここまで体の延長のようにキュベレイを扱えず、あっという間に落とされるか捕縛されていたろう。
キュベレイのカメラが敵機の姿を映し出す。髪色くらいしか父親と似ていないノーマの瞳に、手足や頭部は白く、胸は青、腹を赤く塗られた二つ目のMSが映った。
ジオンのMSのほとんどで採用されているモノアイとは対照的なツインアイが、より人間的な印象を深める。
地球連邦軍の技術者達が精魂を込めて開発した機体──ガンダムMk-Ⅱと、この時のノーマは知らない。
一カ月弱で終結した独立戦争後、MSの威力を見せつけられた連邦軍は当然、MSの研究と開発を行った。当初『V作戦』と名付けられたプロジェクトは、技術士官のテム・レイを中心として、ジオンには秘密裏に進められた。
結果としてガンタンク、ガンキャノン、そしてコストを度外視したスペシャル機ガンダムとこれらの量産タイプを生み出す成果を上げる。
しかし、ジオンもまた地球連邦との再戦を想定し、次々と新たな技術とそれを用いられたMSの開発を続け、各サイドや月面都市もまたMSを手にする状況に、地球連邦政府と連邦軍は安穏としていられる暇はなかった。
そんな時代の流れの中、地球連邦軍はジオンに反感を抱く巨大企業やスペースノイドと秘かに手を結び、新素材の開発と新機軸の技術開発に成功する。
テム・レイ、フランクリン・ビダン、ヒルダ・ビダンなどの優秀なスタッフの下、地球連邦もまた第二世代MSの開発を成し遂げていた。
それが地球連邦軍の次世代MSの象徴『ガンダムMk-Ⅱ』だ。初代ガンダムやNT-1といった後継機のデータを反映させ、より人体に近い動きを可能とし、ガンダリウムγ相当の素材を用いられている。
(見た限りバルカン、ビームサーベル、ビームライフルにシールド、それにリアスカートにバズーカ……。ギミックはない?)
ノーマがガンダムMk-Ⅱを分析しているように、ガンダムMk-Ⅱのパイロット、アムロ・レイ中尉も強奪した新型機と同じ機体をモニター越しに観察し、分析していた。
アムロは今更説明の必要もないほどの優れたパイロットであり、自身も機械に明るい青年であり、そしてなによりテム・レイの息子である。独立戦争で地球連邦が敗北した後、レイ親子は連邦政府に招かれて、MS開発に従事していた。
その過程で親子の距離は縮まったが、広く行われた適性検査においてアムロが機動兵器パイロットとして、あまりに突出した適性を示したのが、彼の運命を戦場へと招き寄せてしまった。
テムは愛する我が子を戦争に関わらせるのを断固として拒否したが、いくらガンダムの生みの親であっても、彼の意見が通るにはアムロはあまりに優秀過ぎ、そして地球連邦は敗北の屈辱にもがき苦しんでいた。
結果としてアムロは地球連邦軍最強パイロットの道を歩み、テムはそんな息子を死なせない為のMSの開発に血道を上げることとなる。
本来、一年戦争で経験するはずの戦いを知らないアムロだったが、連邦軍内での数千、数万に及ぶ模擬戦と宇宙で行われている非合法MSバトルへの参加により、その力量は円熟しつつ天井知らずに上昇している。
「殺意、敵意が薄い? 戦場を知らないで追いかけてきたのか。ゼロ、レイラの様子はどうだ?」
ティターンズ専用のパイロットスーツに身を包んだアムロは、戦場素人にしては異様なまでに正確なノーマの射撃をろくに視認もせずに避けて、母艦へと引き上げる同僚を案じる余裕すらあった。
ガンダムMk-Ⅱ試作0号機のゼロ・ムラサメと、グリーン・ノアから強奪したキュベレイ二号機に乗っているレイラ・レイモンドのことだ。
ゼロは日本にあるムラサメ研究所出身の強化人間──後天的に薬物や暗示、外科手術によってニュータイプ能力付与を目的とした兵士の青年で、レイラはゼロの研究成果を基に新たに生み出された強化人間の少女だ。
アムロに答えたのはレイラだった。声色に疲れや痛みは感じられない。ニュータイプならびサイコミュの研究は地球連邦でも行われているが、キュベレイはレイラの知るどのニュータイプ用の機体よりもフィットした。
「大丈夫です。この子のサイコミュは、パイロットに負担を掛けないように出来ているみたいです」
強奪してから一時間も経過していないが、既にレイラはキュベレイのサイコミュの“優しさ”を感覚的に理解していた。
この世界のキュベレイに搭載されたサイコミュはパイロットへの負担を、極限まで軽くすることを念頭に置かれて、開発されていたようだ。
おそらくフラナガン機関の被験者達も、使い潰されたり処分されたりするようなことはなかっただろう。
なにしろこの世界のギレンは原作よりも低能であるから、貴重な人材をドブに捨てるような真似を許すはずもない。
「アムロ、レイラをホワイトベースに届けたら、すぐに僕も戻る。追手は」
ゼロの声に応えるよりも速く、アムロは四方の宇宙から自分を貫く破壊の意思を感じ取った。
グリーン・ノアの放つ光と星の光に紛れて、高速で飛び回る小さな物体を、アムロは視認したわけではない。その物体を通して発せられるノーマの意思を、正確に受信したのである。
ガンダムMk-Ⅱのバーニアから細かな炎の噴射が連続し、更に四肢の動きによって機体を捻りMSならではの回避によって、降り注いだ四本の光線全てを回避。
「ちぃっ! オールレンジ攻撃とでもいうのか」
「ファンネルを避けた!? 知っているはずはないのに。それにあの柔らかな動き、敵はムーバブルフレームを使っている!」
キュベレイの大きく膨らんだリアスカートから飛び出した漏斗のような物体ファンネル・ビット、通称ファンネルがノーマの脳波に反応し、高速で飛翔しながらガンダムMk-Ⅱへとビームを撃ちかけていたのだ。
だが、初見殺しもいいところのファンネルの包囲射撃を、アムロは見事に新素材製の装甲にかすりもさせずに回避してのけた。
ノーマの開いた口が塞がらないのも無理はなかった。
信じがたい回避機動を目撃した衝撃と慣れないファンネルの操作にも、ノーマの集中力が揺らがないのは、彼女もまた平凡ではない証拠といえよう。
そのノーマの目の前でガンダムMk-Ⅱがシールド裏から筒状の物を発射し、周囲に白いスモークが見る間に広がって行く。
「目隠し? けれど貴方の意思は遮れなっ!?」
スモークの向こうにあるガンダムMk-Ⅱの動きを正確に把握するノーマだったが、攻撃の手は止まり、咄嗟にファンネルを動かした。そのコンマ一秒後、ファンネルの居た空間をガンダムMk-Ⅱの撃ったビームが通過する。
いわゆるニュータイプの感応能力によって、スモーク越しにも相手の位置が分かっても、視覚から得られる情報の大きさはニュータイプもオールドタイプも変わらない。
スモークを視認した瞬間、ノーマは得られた視覚情報から敵がスモークをどう利用するのか、と思考させられてしまい、反応に刹那の遅れが生じた。その遅れを突いて、アムロはファンネルを落としにかかったのだ。
ノーマはかろうじて回避の間に合ったファンネル達をリアスカートに収納し、機体操作のみに集中する道を選ぶ。
ファンネルを使い慣れていない自分が使おうとしても、機体操作に淀みが生じると、初めての実戦の間に学んだらしい。
「うあ!?」
そしてノーマをアムロの放つ攻撃の意思が貫き、目の前に迫るビームを避けた先には、いつのまにかガンダムMk-Ⅱが、シールドで隠すように左手に握っていたハイパーバズーカの砲弾が置かれていた。
キュベレイの右肩に当たるその寸前、雷鳴の如くキュベレイの右腕が閃き、手首内側にマウントしたままのビームガンの銃口からビームサーベルが伸びて、砲弾を真っ二つに斬り裂く。
割れた砲弾から伸びる紅蓮の爆炎が、白い装甲を舐めた。
「あの距離で反応するのか、手強いな」
アムロに足止めを喰らっている間にも、ゼロとレイラは後方に控えている母艦へとどんどんと近づいており、このままでは取り逃がしてしまう。
グリーン・ノアの守備隊とノーマの警備隊は襲撃を受けた際に大きな被害を受けており、今もアムロ達の同僚相手に数を減らしている。グリプスとルナツーからの増援もこのままでは間に合わない。
お互いを手強いと認識するアムロとノーマの戦場に、この状況下で双方の味方が合流する。
守備隊を蹴散らし、無人の攻撃衛星を破壊した地球連邦軍の花の名前を持つガンダムタイプ──空間戦闘仕様のゼフィランサス、ガーベラの二機だ。
地球圏を代表する超巨大企業アナハイム・エレクトロニクスの軍需部門が、原作と違ってジオニック社の技術を吸収できないまま地球連邦軍と手を結び、『ガンダム開発計画』によって生み出されたMS群である。
ムーバブルフレーム非搭載の旧世代機ではあるが、量産を想定していない高コスト高性能機であり、今もなお一線級の機体だ。当然、パイロット達も地球連邦軍の生え抜き揃い。
ゼフィランサスにはヤザン・ゲーブル、ガーベラにはユウ・カジマと、その筋の人々には知られた凄腕が乗り込んでいる。
アムロとゼロとレイラが加われば、並のパイロット相手なら五倍の数でも無傷で勝利するだろう。ひょっとしたら十倍でも蹴散らして見せるかもしれない。
さしものノーマも四対一では勝ち目がなかったが、幸いにして彼女の味方もまた精鋭揃いだった。姿を見せたのはアクシズ工廠が次期主力量産機として推しているガザC、そしてプロトタイプ・キュベレイの二機だ。
ガザCは白をベースに紫のパーソナルカラーに染められている。パイロットであるハマーン・カーンは幼少期から高いニュータイプの才能を見せた、カーン家の才女であり、キュベレイのテストパイロットの一人だった。
そして薄い緑とも水色ともつかない色合いの巨大な機体、プロトタイプ・キュベレイに乗っているのは、ハマーンと同じくキュベレイのテストパイロットを務めていたマリオン・ウェルチ中尉だ。
たまたまキュベレイに乗り込んだノーマとは違い、ファンネルの扱いにも習熟した二人の参戦は、ノーマの感じる重圧をやわらげてくれた。
「ノーマ様、なんて危ないことを。今すぐグリーン・ノアにお戻りください。御身に万が一のことがあれば、ジオンにとって大きな損失です」
キュベレイのコックピットに、ピンク色の髪をヘルメットに押し込んだハマーン十八歳の美貌が映る。
アクシズを統治する重圧が無く、シャアと知り合う事もなく、ニュータイプ研究機関の変化もあり、生来の優しさと感受性を豊かに育んだ美少女が、この世界のハマーンだった。
「大丈夫、キュベレイはいい子よ。私に合わせてくれる。それにこのまま手をこまねいていたら、二号機が奪われてしまう。
あれはジオンのもの。父上にとっても大きな力になるものを、奪われたままになんて出来ない!」
「ではせめて後方での支援に徹してください。キュベレイのサイコミュは柔和ですが、初の実戦というには相手のプレッシャーが手強い。どんな負担が加わるか」
ハマーンは直接、銃火を交えていないにも関わらずアムロを始めとした敵の力量を、プレッシャーとして感じ取っていた。
「平気よ、息一つ乱れていないでしょう。それにMS自体の操縦は慣れているわ。ハマーンだって、私と組んでクランバトルに参加したじゃない」
「あれはショーバトルですし、何年も昔の話です!」
独立戦争後、ひと時の平和を得たこの時代、各サイドにジオンからのMSが流れ始めると、合法非合法を問わず実戦データを求めるようになったのは、当然の流れであった。
あまりに早い戦争の決着はジオンにとってもMSの実戦データを集める機会を乏しくさせ、その結果、MSを用いた合法のショーバトル“アリーナ”と非合法のギャンブルでもある“クランバトル”が各サイドと月面都市で大流行している。
表向きは退役した軍人や傭兵、企業お抱えのパイロット達の参加するショーバトルによって、貴重な実戦データが収集されて、次代の機動兵器開発に役立てられているのは、誰しもが知るところであった。
ただし、そこにジオンの姫君とカーン家の姫君がバディを組んで参加していたと知るのは、ジオンのごく一部の人々だけである。
ことが発覚して珍しく怒る父を前に、内心でギレン・ザビがマジギレンと思った時には、心の中を読まれたのかと思うぐらい更に怒られたのだが、今となっては笑い話だ。
ただしノーマに限っての話であり、ハマーンは生きた心地がしなかったことから、半ばトラウマと化している。ハマーンとの会話で緊張のほぐれたノーマは、笑みさえ浮かべていた。
「ハマーン様、ノーマ様、残念ながら敵はこちらの都合を汲んではくれませんよ」
二人を嗜めたのはプロトタイプ・キュベレイのマリオンだった。機体の周囲に六基のファンネルを展開し、ユウ達を牽制しながら攻勢に出るタイミングを伺っている。
美しく健やかに成長したマリオンは運命の悪戯か、悪魔の策略か、ついぞ出会う事の無かったユウ・カジマの操るガーベラに意識を集中させていた。
生まれた時からギレンの娘なのでゲーム本編よりもいい意味で家族相手の図々しさと距離間のあるノーマです。