原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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第七話まで共通ルートとなり、そこからの分岐になります。


カオスルート
コロニー落とし


 ジオン公国による地球連邦政府への宣戦布告から各サイドへの攻撃に関し、ルウム戦役に至るまでにいくつかの誤算が生じていた。

 ギレンの方針により各サイドへの攻撃を控えるよう通達されていたジオン軍だが、連邦軍の駐留艦隊との激戦の余波を受けて、いくつかのコロニーに被害が生じたこと。

 

 ジャブローの位置特定の為に最初に隕石を落とす計画から、初手からダークコロニーを落下させる計画へと変更されていたこともその一つである。

 参謀部は電撃的な速度を優先し、隕石を用意する為の手間やコストを理由にギレンを説得し、計画変更が受諾された為である。

 

 コロニー落下阻止の戦いにおいて、ティアンム艦隊が壊滅的な打撃を受けた点は、変わらない。

 そしてまたコロニー落としとコロニー降ろしの作戦成功率を比較した場合、コロニー落としの方が成功率は高く、またコロニーを改造する手間も少なく、内部に部隊を留めておくリスクもない。

 

 かくてこの世界ではコロニー落としが実行されることとなった。

 ただし、この世界のギレンの良識と戦後の統治への配慮から、コロニー落としの被害はジャブローに留まるよう厳命されるに至った。

 史上初めての作戦でそうそう上手く行くわけもないだろうに。

 そして、ジャブローを目掛けて落下してゆくダークコロニーは、ギレンやジオン参謀部の予想を覆し、落下中に砕けると地球各地へと落下。

 

 ジャブローに直撃することなく、地球各地に被害を与えてしまい、天変地異を引き起こして数億単位の被害者を生む結果に繋がってしまう。

 事前にダークコロニーに手を加えて、被害を抑え込むようにした為に原作より被害は小さくなったが、そんなことを知らないジオンや地球連邦の人々からすれば、人類史上最悪の大虐殺が行われたのに違いはない。

 

「これで、我々は人類史における最悪の虐殺者として、人類が存続する限り永遠に汚名を残すこととなった」

 

 コロニー落としの報告を受けた時、ギレンはセシリアにだけ聞こえる声でそう呟き、椅子の背もたれに体重を預けると、一分間の黙とうを捧げたという。

 その後は計画の通りにサイド5のコロニーを狙うと見せかけて、残存する地球連邦の艦隊を誘き寄せて、これを壊滅させている。

 

 ただし、このルウム戦役にも変化はあった。

 ギレンの思い付きを発端とするヨルムンガンドの改良こそそのままだったが、ソーラーシステムは用意するソーラーパネルがあまりに膨大で、その分のリソースをMSや艦隊に割くべしとされた提言がなされたのである。

 コロニー落とし同様にギレンがこの提言を受け入れた為、もう一つの世界に比べて通常兵器は充実したが、レビルを葬るのには失敗し、原作通りに『黒い三連星』によって、捕虜とすることに成功した。

 

 宇宙に残存する連邦艦隊の八割以上を壊滅させ、レビル将軍を捕虜とした戦果をもって、ジオンは休戦条約を地球連邦政府に持ちかけ、そして原作の通りに『南極条約』が締結された。

 ルナツーはジオンから正反対の位置にあること、残存戦力の小ささからこれも原作の通りに見逃される事態となる。

 ジオンの独立戦争はギレンやデギンの危惧した事態、すなわち長期戦へと突入したのであった。

 

 とはいえ対外的に見ればジオンは月の半分を支配し、各サイドを実質的に制圧し、制宙圏を我が物としている。

 対して地球連邦は宇宙にまともな戦力はなく、コロニー落としの被害を受けた地上も混乱著しく、開戦前の予想を覆したジオン有利と見るスペースノイドやアースノイドは多かった。

 

 地球連邦政府を屈服させられなかったことから、ギレンとしてはやりたくもない地球降下作戦を立案し、実行させられる事態に陥ったと知る者は少ない。

 地球降下作戦の実施が決まった時、ギレンはセシリアが見たことがないくらい、嫌そうな顔をしたという。

 

 地球侵攻作戦の立案、実施に至るまでの期間はおよそ二か月弱。三月には降下作戦が実施される見込みである。この間、親衛隊と言う名の相談窓口はギレンと根気よく付き合っていた。

 なおコロニー落としの予想外の成果を受けて、ギレンは胃痛と頭痛がデフォルトになりつつある。

 

「これが重力下での戦闘に対応したザクか」

 

 ギレンはズムシティの執務室で、すっかりと恒例となったマイからの報告を受けていた。

 マイも慣れたもので総帥を相手にしても、特に怯んだ様子はなく適度な緊張感だけがある。

 

「はっ。地球降下作戦に沿って調整し、機体の仕様も最新の研究結果を反映させたものとなります」

 

 ギレンが報告を受けているのは、いわゆるザクⅡJ型だ。

 宇宙空間での機動性よりも地上での走破性、多様な環境に対応する為の装備の変更を行った機体で、地上戦用ではない改修機としては及第点といったところ。

 ダークコロニーで精いっぱい、地球の環境を再現してテストした成果である。

 地上侵攻作戦以前、地上での運用も踏まえてザクの改修案が提出された時、ギレンはマイとこのような会話を交わしている。

 

「宇宙における右肩のシールドの有用性は聞いている。しかし地上でも役に立つのか? 地上では宇宙のように前傾姿勢による射撃体勢をとれまい」

 

 いくら現場での運用に疎いギレンだって、地球に降りればザクは二本足で立つか、膝立ちの姿勢で射撃を行うことくらいは想像できる。

 加えて言うと、ザクに限らずMSは地上では射撃する際に足を止めて、しっかりと狙いをつける場面が多い。

 宇宙に比べてあまりにも狙いやすいザクに向け、殺到する砲火に対して右肩に固定したシールドがどれほど効果を見込めるのか。ギレンには謎であった。

 

「はい、総帥のご指摘の通りです。肩を保護する最低限の装甲を施し、複合装甲によるシールドは手持ち式に変更する案を検討中です」

 

「うむ。次に左肩のスパイクだが、どうしても無くせとまでは言わん。よもやスパイクのあり無しで枯渇するほど、我がジオンの資源が乏しいわけでもなかろうからな」

 

 もっとも、このスパイク付きのショルダーアーマーも、原作においてグフでは何故か湾曲した一本のみとなり、ドムやゲルググといった主力量産機には採用されていない。

 視覚的な効果はあったかもしれないが、一年戦争の戦場では有用性が認められなかったのだろう。

 

「タックルの有用性については、私はいまだ疑問視している。地上では宇宙ほど速度を出せん。

 ザクを走らせるにせよ、跳躍させるにせよ、よほどうまく不意を突かなければ、その前に蜂の巣にされるのがオチなのではないか?

 よもや連邦の陸戦艇にでもタックルするとは言うまいな」

 

 とはいえこれはギレンの見識の不足に近い。後ろから近づいて羽交い絞めに出来るくらいに、MS戦はセンサーやレーダーの類が役に立たない場面がある。

 不意を突いてタックルを成功させるのは、決して不可能ではない筈だ。

 まあ、ヒートホークがあるのだから、わざわざ機体とパイロットに負担のかかるタックルなどするな、というギレンのかねてからの意見にもそれなりの説得力はあった。

 

「閣下の御懸念はもっともであります。実際、地球連邦の国力をもってしてもMSを戦場に投入するのは一か月や二か月では流石に不可能でしょう。開発に到る期間も戦前から研究を始めていたにせよ、同程度以上の時間が見込まれます。

 その間、ザクが相対するのは旧来の兵器となります。タックルを使用する状況には、まず陥らないかと」

 

「ふ、だろうな。地球上で運用するMSもそうだが、連邦の開発してくるザクを超えるMSを超えるMSを開発してもらわねば困るのだ。これからの健闘に期待している」

 

 こうしたギレンとのやり取りをマイが持ち帰り、そして今に至る。

 ギレンの素朴な疑問を受けた技術開発本部を始めとした歴々は、陸戦型の仕様について改めて見直す為、奔走することとなった。

 その結果をギレンは隅から隅まで目を通す。

 この陸戦型のザクⅡこそが、これからの地球──通称“重力戦線”で兵士達が命を預け、ジオンの勝利を支える礎であった。ギレンにも気合が入るのは当たり前の話である。

 

「右肩のシールドを廃止した代わりに手持ち式のシールドか。外腕部にジョイントを設け、グリップを握らずとも保持できるのは良い工夫だ。ザクはマシンガンの安定した射撃の為に、両手を使う場面が多いと聞くからな」

 

 グフの時点で手持ち式のシールドを装備していたのだから、原作と異なる流れがあればザクが装備してもそれほどおかしくはない……はずだ。

 さしずめハイザックの如き姿である。

 シールドは正面に掲げれば、ザクの左半身を覆い隠せる大きさだ。盾の裏にはヒートホークやザク・マシンガンの予備の弾倉を懸架出来るよう工夫されている。こういう工夫はギレンの好むところである。

 

「はい。大気と重力の存在だけでも、我々は手探りで始めなければなりませんが、出来得る限りを尽くしました」

 

「ふむ、諸君らの献身には感謝の言葉しかない。地上方面軍もこのような機体があれば、重力の鎖に縛られようと、勇敢に戦えるだろう」

 

 J型だけで終わりではなく高機動性を持たせたG型や、改修機だけではなく完全な陸戦機の開発も並行して行われている。

 より対MS戦を意識した機体群は、地球連邦のMSとの戦いでも大きな力となる。というか、なってくれないと負ける。ジオンの状況は楽観視などまるで出来ない。

 

「地上方面軍にキシリア少将が司令に任ぜられ、ガルマ大佐が補佐に就かれると伺いました。また、小官の立場で伺うべきではないかもしれませんが、降下作戦が二度行われると」

 

「その通りだ。ルナツーの監視はドズルと宇宙軍に任せ、今後の戦況を左右する地上はキシリアに任せる。ザビ家の人間を送り込み、決して地上の兵士達を見捨てはしないと示す必要がある。そして任せられる能力がキシリアにはある。

 ガルマについてはアレにも経験を積ませる必要がある。キシリアから学ぶことは多い。それに優秀なベテランを補佐に就ければ、危うげなくやって見せよう。

 そして降下作戦だが、オデッサを中心とした欧州の制圧を目的とする第一次降下作戦、北米大陸を目標として南米へのけん制も兼ねた第二次降下作戦を行う」

 

 予定ではオデッサ、キャリフォルニア、ニューヤークを攻略後、ベルファストなど地球連邦の軍事拠点を制圧し、相互に支援・連携可能な戦線を構築し、連邦の圧力に対抗する目論見があった。

 アフリカのキリマンジャロやインドのマドラス、極東の北京、オーストラリアのトリントンといった他の重要拠点については、戦況次第となる。ジャブロー攻略にあたっては、これらの拠点すべてを制圧したいところだが……

 

「アフリカやアジアの資源は魅力的だが、戦線の拡大は将兵に掛かる負担が大きすぎる。所詮、我々は小国なのだよ」

 

 戦線が小さく収まれば、それだけ地球連邦の投入できる戦力が大きくなる危険性は、ギレンも承知の上だ。

 それでもジオンの将兵を温存し、地球連邦のMSに対抗できるだけのMSを開発できるまで、徒に戦線を拡大するべきではないとジオン上層部は判断していた。

 

(コロニー落としの被害からどれだけの早さで連邦が立ち直るのか、それも問題だ)

 

 あるいは原作のように勝利の勢いに任せて、ユーラシア大陸のほとんどとアフリカ大陸、オーストラリア大陸、ハワイまでをも制圧できるかもしれない。

 本来のギレンならそこからの勝ち筋を見出せたかもしれないが、このギレンはジオンの国力の限界に挑む戦いを忌避した。

 

 月面からのマスドライバー攻撃は強力だが、連邦軍もいつまでも放置はしないだろう。片道玉砕覚悟の決死隊が、破壊工作を仕掛けてきてもおかしくない。ギレンでもそうさせる。

 南極条約によってコロニー落としのような大量虐殺兵器や、NBC兵器の使用は改めて固く禁じられた以上、ギレンの精神が耐えられないのも理由だが、再びのコロニー落としや隕石などの質量物を落とすのも、核ミサイルの雨を降らすのも禁じ手だ。

 

 ジャブローさえ攻略できれば地球連邦政府に勝利しうるが、下手に攻略に固執すれば戦線の破綻を招いて、敗北への道を転がり落ちるだろう。

 いっそのこと地球ではほどほどに戦い、宇宙艦隊を再建させてジオンのホームである宇宙での戦いを誘い込み、再建された艦隊を壊滅させるか? 地球連邦に勝つ為に様々な思考を巡らせる中、ギレンは次の報告書に目を通した。

 

「新型の陸戦機。グフか」

 

 J型と並行して開発の行われている新型機であった。そのデータを眺めるにつれて、ギレンの眉間にしわが寄るのを、マイはそうなるだろうなと思いつつ見守るのだった。




ちなみにドズルの宇宙攻撃軍、キシリアの突撃機動軍に分かれておらず、ジオン宇宙軍はドズルをトップとして一本化されています。

あんまり疑問点のないお話でした。
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