原作よりも低能なギレン・ザビ 作:スカウトマニア
宇宙世紀79年3月1日。
ジオン公国による第一次地球降下作戦が実施された。
キシリア・ザビ少将を指揮官とするジオン公国地上方面軍はHLVとコムサイに、この日の為に開発し量産した兵器と人員を山ほど乗せて、地球の重力に身を委ねた。
目標は欧州のオデッサ周辺ならびにバイコヌール宇宙基地。
その地に眠る鉱物資源、旧世紀の核兵器、スペースコロニーでは入手の難しい地球圏内の環境や旧式兵器の資料などなど。
小型改良化されたマゼラ・アタック、従来の戦闘機に近付いたデザインに改修されたドップ、原点帰りしたヒルドルブが投入され、ヒルドルブ隊はデメジエール・ソンネン少佐が率い、その熟練の技術を思う存分、砲弾と共にオデッサの天地に轟かせた。
MSはザクⅡF型を中心に改修の間に合ったJ型、少数のプロトタイプグフで編成されていた。
降り立ったHLVから、一つ目の巨人達が次々と吐き出される光景は、対峙する地球連邦兵からすれば悪夢が現実になったようなものだろう。
ルウムの大敗による連邦軍全体の混乱。
宇宙軍とはいえ名だたる将校の戦死による指揮系統の空白化。
上級将校の一斉消滅による軍内の派閥間勢力のバランス崩壊。
コロニー落としによる全地球規模の大災害。
想像もしなかったジオンの戦力に対する連邦政府の弱腰。
いまだミノフスキー粒子に対応できず、MSに有効な兵器・戦術を確立できていない連邦軍。
これら多くの要素が合わさった結果、オデッサ周辺に配備されていた連邦軍は圧倒的な地の利がありながらも、ジオンの攻勢の前に敗退を重ねてあっという間にオデッサ周辺の支配権を奪われることとなる。
この時、降下部隊には『真紅の稲妻』ジョニー・ライデン、『黒い三連星』ガイア・オルテガ・マッシュ、『青い巨星』ランバ・ラル、『赤い彗星』キャスバル・レム・ダイクンなど、後に二つ名と共に畏れられるエースが参戦し、地球でも多大な戦果を挙げた。
MSはジオンの予想以上に地球上では不自由であったが、マゼラ・アタックやヒルドルブ、ドップらとの連携により、地球連邦軍の従来兵器を蹂躙する戦闘能力を発揮した。
そしてオデッサの鉱山基地にジオン公国の旗が翻ってから間もなく、北米大陸の制圧を目標とする第二次地球降下作戦が実施される。
第二次降下作戦の指揮官にはガルマ・ザビ大佐が任じられ、補佐としてザビ家独裁を問題視するウォルター・カーティス大佐が就いた。
ウォルターをガルマの補佐に就ける判断には少なからず波風が立ったが、ザビ家の人間ではあるが、良くも悪くも箱入りのお坊ちゃんであるガルマの甘さが、ウォルターにも受け入れやすかろうという真意が隠されている。
デギンやギレンなどはウォルターの危惧するザビ家の権化だが、ガルマはザビ家色の薄い若者だ。他のザビ家の人間とは違う、と思わせるのにガルマは最適の人材なのである。
そのガルマと人望の篤いウォルターの組み合わせは、ダグラスとランバ・ラル、キャスバルの組み合わせと同じく、ダイクン派並びに反ザビ派との妥協点探りと融和を目論んだ遠大な一手であった。
吉と出るか凶と出るかは、まだギレンにも分からないのが玉に瑕だったけれども。
北米大陸中央部に降下したガルマ率いるジオン軍は、キャリフォルニアベースとニューヤークを目標とし、恐るべき速さで地球連邦軍を駆逐していった。
キャリフォルニアベースを無血占領し、脱出の間に合わなかった潜水艦を始めとした貴重な兵器と資料の確保に成功し、すぐさまMSを始めとしたジオン製兵器の製造ラインの敷設に勤しむ。
ニューヤークを始めとした都市群については、ガルマがアースノイドとはいえ非戦闘員に被害を出すのを嫌ったのと、人道を重んじるウォルターの姿勢が噛み合った。
その結果として、連邦兵の捕虜に対する人道的な扱いを厳しく命じた成果もあり、市街地と市民に大きな被害を出さずに支配下に組み込むことに成功する。
本来あるべき流れに比べて、ニューヤークの制圧には遅れが見られたものの、オデッサの制圧とキャリフォルニアベースの占領が数日早まった分とで、帳尻を整える結果となった。
具体的に言うとキャリフォルニアベースの無血占領が成ったのは、原作と一日の誤差も無かったのである。
さて第二次降下作戦をもって、ジオンの地球における快進撃はいったん、決められた通りに停滞する。
二度の降下作戦で得られた実戦データや教訓を徹底的に洗い出し、ジャブロー攻略に向けた戦略と兵器の開発ルートの見通しを図る為だ。
近~中距離を得意とする白兵戦用陸戦MSといった具合に仕上がったグフの生産を進めつつ、南米にあるジャブロー攻略とそこに至るまでに必要な兵器の開発にキャリフォルニアベースはうってつけの拠点となった。
オデッサとニューヤークの間に挟まる邪魔なベルファスト攻略も視野に入れて、水中用MSの開発や鹵獲した潜水艦を手本としたジオン製潜水艦の開発、建造をキャリフォルニアベース主体に行われている。
繰り返しになるがMSはジオンにしてもまだ黎明期となる、まったく新しい兵器だ。
ホームグランドだった宇宙ではなく、多様な環境である地球での運用となると、これはもう手本にするべき物もなく、頭を悩ませながら行ってゆくしかない。
さてそんなわけでキシリア、ガルマ、ドズルの三人が通信画面越しに顔を合わせて、作戦の成功を祝っていた。
ガルマはキャリフォルニアベース、キシリアはオデッサ、ドズルは竣工の進むソロモンの司令部からだ。
『キシリア、ガルマ、よくやってくれた。お前達のお陰で俺達も兵達も一息つける。オデッサの鉱物資源にジャブローを牽制する北米の制圧は、大きな意味を持つからな!』
誰にはばかることなく満面の笑みを浮かべるドズルからの賞賛に、マスクを降ろして素顔を晒しているキシリアと、いつもの癖で前髪をいじっていたガルマも柔らかく笑った。
降下作戦の成功をもって、各サイドでの戦いとルウム戦役で戦果を挙げたドズルに、ようやく並べたと肩の荷が下りたのかもしれない。
『予定通りに作戦が成功したのは喜ばしいですが、問題はこれからですよ。そう遠からず連邦軍は統制を取り戻し、MSへの対抗手段を必ずや見出すでしょうから』
「ふっ、姉さんは心配性ですね……とは言えませんか。指揮系統の混乱に加えて、我々に不意を突かれたにもかかわらず、連邦兵の士気は極めて高いものでした。
コロニー落としの被害を受けて故郷を壊される恐怖と怒り、そしてジオンに対する憎しみが、彼らの目に宿っていましたよ」
第二次降下作戦に当たってはガルマもまたザクⅡFS型に乗り込み、一時、前線で戦いもした。
ウォルターに宥められて──半分叱責されて──後方に下がり、指揮を執ったが連邦兵の粘り強い戦いぶりは、自分達の掲げる正義と大義が血に塗れ、屍の上にあるのだと、ガルマに思い知らせるには十分だった。
『そうか。宇宙でも似たようなものだ。残存の宇宙艦隊はほとんどがルナツーに立て籠もっているが、ゲリラ戦を仕掛ける連中や補給線にちょっかいを掛けてくる奴らは後を絶たん。自分の命を捨ててでもジオンに一矢報いる。そういう気概の奴らよ』
ドズルは追い込まれた敵の恐ろしさを噛み締めるように苦渋の色を浮かべた。ジオンも地球連邦もどちらもまともに戦争をした事のない国であり、軍隊だ。
あらかじめ予想は出来る。想像も出来る。だが実際に戦場でぶつけられる怨嗟は、憎しみは、怒りは、見えない筈なのに確かに存在しているとハッキリ分かる。
そこまでの感情を抱かせたのは、自分達ジオンなのだ。その事実が兄弟の心に重くのしかかっている。
兄と弟が感傷に耽るのを、キシリアはしばしの沈黙で見逃した。キシリアもまたこうして地上に降りてアースノイドと一括りにしていた人々の実態を垣間見、思うところはある。
『……ですが我々もジオン国民、そしてスペースノイドの未来を背負っています。地球圏からの独立と解放。それを達成し、この
『キシリアの言う通りだ。まずはこの戦争に勝たねばな。厳しい事を言うようだが、第一次降下作戦も第二次降下作戦も言ってしまえば通過点だ。
ジャブローを落とし、地球連邦政府に正式に敗北を認めさせるためのな。場合によってはジャブローを落としても戦争が終わらん可能性も考慮しておかねばならんぞ』
「ドズル兄さんも姉さんも、あまり兵達に厳しい現実を突きつけないでください。彼らは慣れない環境で得た勝利の余韻に浸っているのですから。
今はまだ士気の高い彼らですが、戦いが長引けばコロニーとはあまりに違う環境に、心身が疲弊するのは目に見えています」
『その点は俺はもちろん、ギレン兄貴も承知の上だ。交代要員と物資の補充計画に遅延はない。兵達にもよく伝えておいてくれ』
ガルマが兵達をよく見ている、とドズルは内心で感心していた。ガルマ自身、功名心に奔るきらいがあり、勝利の美酒に酔いしれているかと思ったが、そうではないらしい。
第二次降下作戦では『白狼』シン・マツナガや『荒野の迅雷』ヴィッシュ・ドナヒュー、アナベル・ガトー、ノリス・パッカードら手練れが参加し、猛威を振るったが彼らに助けられたという実感がガルマにあるのと、やはり戦場の現実が彼の認識を変えたのだろう。
『連邦の動きも警戒しなければなりませんが、アフリカと中東に根付く反連邦勢力との接触も進めています。
コロニーを落とした我らが憎いでしょうが、世代を超えて継承した連邦への反感も捨てられはしないでしょう。我らを利用するつもりで連邦に反抗するよう、こちらから誘導しますよ』
キシリアの言う通り地球上のすべての旧国家、旧勢力が賛同して地球連邦が成り立ったわけではない。強制的な宇宙移民も含めて、連邦政府へ不満を溜め込んでいる人々は決して少なくはないのだ。だからといってジオンに好意的なわけもないけれど。
『お前のその手の手腕を疑ったことはない。さて、そろそろ本題に入るぞ。ギレン兄貴に伝えられる予定の開発計画。これをお互いに付き合わせておけば、兄貴の疑問を少しは減らせるだろう』
宇宙とオデッサとキャリフォルニアの三拠点で進められている開発計画について、ギレンとサスロを除いたザビ家兄弟で確認し合う。それが今回の顔合わせの主題であった。
ギレンの疑問とそれに応える親衛隊の努力には頭の下がる思いだが、その度に発案元であるメーカーや工廠の技術者達が渋い顔をするし、報告を受けるこちらも居た堪れなくなる。
キシリア達も自分のところの部下に同じ轍を踏まれたくない、と恥を避けようとする気持ちがあった。
「ソロモンやグラナダではMAの……ザクレロですか、それにザクの高機動型の開発が進んでいるのですね。ザクレロの見た目はずいぶんとインパクトのある……」
言葉を濁すガルマにドズルは気分を害した様子もなく、彼なりの考えを伝える。
『戦場では一瞬の隙が命取りだからな。ザクレロの見た目に呆気にとられる者が、百人に一人でも居れば上出来だろう?』
まあ、見た目一つで救われる兵士の命があるなら、ドズルの言う通り儲けものだ。それでもガルマは今一つ納得しかねるという顔のままだった。
ガルマが口をつぐむ代わりに今度はキシリアが口を開く。
『キャリフォルニアでは潜水艦と攻撃空母に輸送機、それとザクのバリエーションか。ザクキャノン、ザク・デザートタイプ、ザク・マリンタイプ。我々はどうしてもザクから始まるな』
キシリアは、理解は出来るが……と言わんばかりの微妙に不満そうな表情だ。
支援用MSに砂漠地帯での運用と水中対応機のベースにザクが選ばれるのは分かるがこれではいつまで経っても、ザクを使い倒す未来しか見えず、それはそれで問題を招きそうな予感がしてならないのだ。
攻撃空母ガウや輸送機ファット・アンクルは地球上でMSを運用する以上、必要不可欠な代物だろう。開発計画が提案されてしかるべきと、キシリアもドズルも思う。
『まあ、そう言うな。得られたデータからより有用な機体を開発すればいいだけの話だ。口で言うほど簡単だったら、兄貴があそこまでなぜ? なぜ? と繰り返したりはしなかったんだがな……』
「そうですね。ああ、姉さんのところでは陸戦艇に、それからこれは……ルナタンクの改修機ですか?」
ガルマの柳眉が真ん中によって、眉間にしわを刻む。目つきの鋭さばかりはザビ家共通だが、それでも端正な美形の表情は不安げなものだった。
足の生えた空飛ぶ玉ねぎか壺のような物体の名前を、キシリアは喉に魚の骨でも刺さっているような、微妙な声で口にする。
『アッザムだ。一応、MAになるか……。ルナタンクをなぜ地上で使おうとしたのかは分からんが、あくまで試験用の機体だ。試験用』
試験用と繰り返すあたり、キシリアも問題があると分かってはいるらしい。これをそのまま持っていったら、またギレンの疑問が生まれ出るのは間違いなしだった。
アッザムの画像とデータを共有した三人の兄弟の間に、気まずい沈黙が生まれたのは言うまでもなかった。
時間軸としては原作第一話の半年くらい前ですね。
ジオニックらに共同開発をさせているので、開発時系列は多少変化してもいいことにしています。