原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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これを前線に出す? はは、冗談を言うな

 その日、ギレン・ザビは地球連邦への捕虜返還で得られた資金を見て、このまま捕虜を取り続けて地球連邦政府の財政を圧迫できないものか、と狸の皮算用をしていた。

 本人もそんなに都合よく行くものかと分かってはいるが、地球連邦とて各サイドと月面都市から搾取が上手くいっていない状況にある。

 コロニー落としからの復興と壊滅した宇宙軍の再建も考えれば、地球連邦とて余裕があるわけではない。

 

 ジオンは苦しいが連邦も苦しい。

 少なくとも原作世界よりもジオンには余裕があるのは事実だ。

 原作世界など知りようもないギレンからすれば、何の救いにもなりはしないけれども。

 ギレンの下へと報告が届けられる前に、ドズルとキシリアとガルマが手を結んで先に問題点の洗い出しなどが出来るのは、原作よりもジオンに余裕がありザビ家内部の人間関係も良好であるからだった。

 

「ほう、アッザム。ルナタンクをベースにした地上用のMAか。ルナタンクを、ベースに、か」

 

 一言一言区切るように口にするギレンを前に、オリヴァー・マイは怯える様子もなく、仕方がないとむしろギレンに同情する余裕すらあった。

 傍らのセシリアはこの青年技官がすっかり逞しくなったと、しみじみ感心している。天然さんかな?

 

「はい。ルナタンクはペイロードの二十五パーセント超を推進剤に充ててなお、不足を叫ばれていましたが、アッザムにおいてはミノフスキークラフトを搭載することで、推進剤の問題を解決しています」

 

 ルナタンクの問題を解決した方法がアッザムの問題点と繋がっているのだが、それはマイも承知の上での発言である。

 ルナタンクは月面戦車、移動砲台、自走砲とも表現されるカテゴライズに困る兵器だ。玉ねぎ型の巨体にキャタピラを持つが、メインの移動方法はロケットエンジンだ。

 

 ロケットエンジンで飛行し、実弾砲をぶっ放すのが主な戦闘方法だが、マイが口にした通り膨大なプロペラントを要求し、その上で一時間程度しか飛行できなかった。

 マイの言う通りミノフスキークラフトの搭載によって、このプロペラント問題が解決したのは間違いのない事実である。嘘ではない。言い方の妙というものだ。

 

「アッザムの移動速度は時速16km、最大飛行時間は五十分か。16km移動する前に飛行が出来なくなるのは問題以外のなにものでも、いや、笑い話にはなるか?

 ルナタンクは飛べなくなってもキャタピラで移動できたが、アッザムは接地用ダンパーで歩き回れるわけでも、飛び跳ねるわけでもない。移動手段の観点から見ると劣化したようだ」

 

 ギレンは大して苛立ちや怒りはないようだった。

 ソレを通り越して呆れているようにも見えるし、あるいは開戦前にはあった自国の技術者達に対する期待がなくなったのかもしれない。

 最大の理由はアッザムを試験用MAとして認識しているので、問題点を洗い出す段階の兵器として認識している為だった。これを前線に出す? はは、冗談を言うな、という心境なのである。

 

 アッザムが試験機なら問題が多いのは構わない。しかし、改善を行った上でこの性能でお出しされていたら、周囲の目も憚らずに溜息を零しただろう。

 地球の重力圏内でミノフスキークラフトによる飛行試験とメガ粒子砲の実装試験が、非常に有意義なものであるのは事実だ。

 アッザムによって、地上用MA開発の道が開ける可能性は充分にあるし、そうでなくとも大気圏内のビーム兵器の開発、運用と活かせる方向はいくらでもある。

 

「4000度で蒸し焼きにし、電子機器や敵パイロットを殺傷するアッザム・リーダーか。固定目標か足回りの故障した相手なら有効だろうが、動き回る戦車やMSを相手にどこまで有効なものかな。

 触媒を散布し、その上で対象を檻状のワイヤーで囲い込む手間は、戦場において致命的な時間のロスにしか思えん。グフの時にはクロスレンジでの動作の手間を惜しんでおいて、アッザムではこの様か」

 

 MAはMS以上に研究の進んでいない兵器だ。ましてやジオンにとってデータの足りない地球上での運用を前提としたアッザムなどは、問題点で溢れていてもおかしくはない。

 ギレンはそのように自分に言い聞かせて、アッザムの資料に目を通し続ける。

 

「メガ粒子砲もこの配置なら死角はないが、出力は大したものではないな。ザクやグフのシールドでも十分に防げるレベルのようだ」

 

 ちなみにアッザムのメガ粒子砲はガンダムのシールドに、何発も防がれる程度の出力しかない。直撃しても一撃ではガンダムはおろか、ザクでも撃破できるか怪しい。

 

「アッザムの用途としてはトーチカなど、歩兵や戦車に脅威となる対象の破壊ですから、この出力でも条件を満たしているとオデッサ工廠では判断された模様です」

 

 なんとも苦しい擁護を口にするマイだったが、アッザムを移動砲台として割り切り、対MS戦などを考慮しなければ、今の仕様でもまあ、活躍の場面がごくまれには巡ってくると認めるところである。

 

「ふん、まさかこの仕様で前線に出すわけもないか。もし出すのならば、移動速度のあまりの低さ、メガ粒子砲の出力の低さもさることながら、対空火器が足りんだろう。先んじて制空権を掌握するか、ドップの護衛は欠かせないのではないかな?」

 

「はい。残念ながらギレン総帥のおっしゃる通りです。現状のアッザムは試験機としては有用なれども、実戦での投入は多々の問題を抱えております」

 

「試験機を戦場に出すなど末期の軍隊だからな。我がジオンがそうならぬよう励まねばならん」

 

 原作でのアッザムの戦闘は、ホワイトベースを家出したアムロが、たまたま見つけた鉱山基地に襲い掛かった為に発生したものであって、積極的に前線に投入されたわけではない。

 当然、アッザムの報告を一番に送られたキシリアにしても先日の家族会議で問題点を理解しているので、改良と改善を部下に厳しく命じて、一定の成果を上げている。

 

「現地でも多くの点が問題視され、現在、いくつかの改善案が検討されております。こちらをご覧ください」

 

 マイが手にしていたリモコンを操作し、壁に内蔵されているモニターが起動して、アッザムの改良案が映し出される。

 あの玉ねぎ型というか壺のような形状は、より円盤に近いリフティングボディへと大胆なシルエット変更が行われている。

 

 接地用ダンパーは歩行可能な折り畳み式の脚部へと変更され、飛行時間が限界を超えた場合は多脚砲台として移動できるように改良されていた。

 八基あるメガ粒子砲の内、下半分に配置されている四基は実弾砲へと変更され、上半分の四基はフライマンタやTINコッド対策の120mm連装機銃に置き換えられている。

 

 アッザム・リーダーについても現状では有効な使い道がないとして、多連装ミサイルへ変更されるなど、信頼のおける枯れた技術を中心としたラインナップだ。

 見る者が見たなら、アッザムとアッシマーの間に生まれたキメラかなにか? あるいは丸っこいザムザザー? と疑問に思うような見た目と、地に足の着いた武装を手に入れたのがこのアッザムだった。

 

「メガ粒子砲を撤去し、その分の出力をミノフスキークラフトに回す事で移動速度並びに飛行時間の拡大に成功しています。

 またロケットエンジンの搭載も予定し、戦闘機ほどではないにせよ、飛行速度も大幅に向上しました。実戦に投入する場合には、こちらでの仕様を前提に生産されるとのことです」

 

「ふむ、従来のアッザムはデータ取りの為に製造か。確かに大気圏内でのミノフスキークラフトとメガ粒子砲のデータは有用だ。試験機の製造は理解できる。

 再設計後のアッザムについても、今回の改良案を見る限り敵陣地や機動兵器との戦闘を前提としているようだが、前線に投入するのならば、よくよく吟味した上でより洗練させることを期待しよう」

 

 一息ついたギレンはいつものカフェインと糖分たっぷりのコーヒーに口を付け、次の“なぜなに”を口にした。

 

「それと輸送機のファット・アンクルと攻撃空母のガウだが、ファット・アンクルには特になにも言うまい。鹵獲した連邦のミデアやガンペリーと合わせ、現場の者達が上手く使ってくれればいい。

 しかし、このガウ。前部にハッチがあるのは、後部のハッチと合わせて物資の搬入に利便性があるとして、空中からMSを降下させる際に前部ハッチから行うというのは、本気か?」

 

 ドズルとキシリアとガルマはアッザムという見え過ぎた地雷に気を取られて、その他の機体の確認が足りていなかったのだ。それがここで露呈した形である。

 

「ドップだけでなくMSを最大三機搭載可能な点は評価しよう。航続距離の長さや火力の高さも認めるが、前部のハッチから降下する方式ではガウの速度を殺すことになろう。

 宇宙でなら前方にハッチがあっても構わんが、地球ではそうも行くまい。このままではMSの降下に合わせて速度を落とさねばならず、ガウは対空砲火の餌食になるだけではないか?」

 

 ガウに地球連邦のミサイルや実弾砲を弾き返すほどの装甲はない。ギレンの指摘の通り、ドップを両翼から発進させるのはまだしも、MSの降下についてはせっかくの速度を殺さざるを得ない。時速100km弱にまで速度が落ちるというのだから、致命的な問題である。

 もしジャブローの攻略にガウが駆り出されたとしても、速度を落としたガウは対空砲火の良い的になり、希少な機体と貴重な人材を密林に無駄にばら撒いて環境を汚染するだけに終わるだろう。

 

「連装メガ粒子砲などの艦艇並みの重武装は良いが、せっかく地上で生きた資料が手に入ったのだ。ドップ同様、地球の実情に沿ったものとなるように努力して欲しいものだ」

 

「はっ。技術本部とキャリフォルニアベースの技術者達は、必ずやギレン閣下のご期待に沿うべく全力を尽くすでしょう。報告を続けさせていただきます。地上方面軍よりド・ダイ並びにルッグンの改良案が提出されております」

 

 ド・ダイは爆撃機としてだけでなく、ザクやグフを乗せSFSとしても機能するが、その乗り方がド・ダイの上に直立するという、的はでかいわ、航空力学に喧嘩を売っているわ、特に固定もされていないわ、と問題点が次々と挙げられた。

 ド・ダイを大型化させ、MSを直立ではなく寝そべる形で搭乗して、新たに設置予定のグリップを握り、搭乗時の安定性を増す。

 そして爆撃機のまま中途半端に運用するくらいなら、完全に輸送機として仕上げ、航行速度と航続距離の延長を図る、という案だ。ド・ダイⅡとド・ダイ改の中間のような仕様となる。

 

 またルッグンは特徴的な外見の戦術偵察機である。大型の偵察機ながら宙返りが可能な機動性を持ち、コア・ファイターの機銃になら耐える耐久性を備える中々の代物だ。

 そしてなによりザクⅡ一機程度なら問題なく牽引? 輸送? 可能な推力とペイロードを持つのが特徴だ。強いて言えば問題はその輸送方法だ。

 

 なんとザクがそのまま両手でルッグンにぶら下がるのである。両手でルッグンの機体をがっしりと掴み、ぶら下がったまま運ばれるのだ。

 ジオン公国の皆さんは、MSがどんな高度からでも無事に着地できると思っているのか、手足を使って輸送機にしがみつけば振り落とされたりはしない、と信じているらしい。

 そんな馬鹿な。

 

 さてそんなルッグンだが、これもザクⅡの両腕に恐ろしい負荷をかける輸送方法の見直しが図られて、MSの肩というか胴体上部あたりを掴むクローを増設する案が出ていた。

 地球連邦軍のコルベット・ブースターはMSがブースターを背負うように装着するが、こちらはルッグンに掴まれる形式となる。巨大な鳥に攫われる人間みたいな構図だが、MS側の関節などに掛かる負担は大きく軽減される見込みだ。

 

「うむ。早期に実用化が叶えばMSの運用を大きく広げられる。キシリアからのハワイ攻略戦ならびに潜水艦隊の創設案も踏まえ、水中用MSの開発も必須だ。マリンタイプのザクに続く機体の開発も期待していると、キャリフォルニアのスタッフにはよく伝えてくれ」

 

「はっ!」




ルッグンがザクを運んでいるのを見たときは、ええ、それでいいの? と心配になったものです。
いっそのことガウをベースにしたMAを作った方が、アッザムよりも良いのでは? と少し悩みました。
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