原作よりも低能なギレン・ザビ 作:スカウトマニア
巨大な紫色の航空機がキャリフォルニアベースの滑走路に着陸し、そこからタラップを踏んでザビ家の貴公子が基地に降り立つ。
貴公子──ガルマ・ザビを彼の補佐を務める、ジオン公国北米方面軍ナンバー2であるウォルター・カーティス大佐が迎えた。
「新たなガウはいかがでしたかな、ガルマ“少将”」
からかうように告げるウォルターに対して、ガルマは気分を害した様子もなく気安い調子で答える。
ルウム戦役、第一次降下作戦、第二次降下作戦の成功をもってドズルは大将へ、キシリアは中将へ、ガルマは少将へとそれぞれ昇進している。
ガルマばかりは二階級昇進だが、これは佐官の下に将官を付けるわけにもいかないという事情も含まれている。
准将を飛び越して少将への昇進はザビ家の血筋だから、親の七光りと陰で言われていて、ガルマの耳にも入っているが、当のガルマはこれを苦笑一つで飲み込む器量を見せた。
ジオン軍の将官はザビ家との関係が少なからず影響する為、地球連邦における将官とはだいぶ意味合いが異なる。
軍の規模の違いもあり、数は少ないがそれでもジオンにだって将官は存在する。ユーリ・ケラーネ、ギニアス・サハリン。コンスコン、アルベルト・シャハルなどだ。
彼らがガルマの下に就く可能性は低いが、以前のガルマとウォルターのように同じ階級の者が同じ司令部でナンバー1と2を務めるような状況はあまり好ましくない。
そうなった場合、当人たちはどう思っていても、下の兵士達は将校よりもザビ家のガルマを優先するか、優先するべきではと悩むのは目に見えている。
厳正であるべき階級社会の軍隊で、歓迎するべき事態ではない。
ガルマもそれが分かっていたから陰口如きに苛ついたりはせず、若輩の身ながら将校に相応しい振る舞いを心掛けるばかりである。
さて、ザビ家の末弟と反ザビ派と目されるウォルターの組み合わせは、彼らの下に回された諸兵に不和を予感させたが、蓋を開けてみればとんだ杞憂であった。
親子ほども年の離れたウォルターに対し、ガルマは事前にギレンに言い含められたこともあるが、彼の意見によく耳を傾けて制圧した地域の統治に気を配り、兵士達の統率にも心を砕いている。
ウォルターからみてもいい意味でお坊ちゃんのガルマは好ましい甘さを有しており、また育てがいのある若者だった。
「うん、良い出来だ。地球連邦のミデア相手にメガ粒子砲は過剰火力かもしれないが、ドップとMSの両方を運用できる機能性は有用だ。後部ハッチからの降下も問題はなかった」
ガルマはギレンからの疑問を受け、再設計された新生ガウの試乗の帰りであった。
前部ハッチからのMS降下とそれに伴う航行速度の致命的な減速は、極端な話、後部ハッチから降下するようにするだけで劇的な改善が成される。
ガルマを乗せたガウから降下したザクやグフは予定通りのコースを辿って、キャリフォルニアベースへ帰途のさなかにある。
ウォルターを伴って基地内部へ向かうガルマは水を破って浮かび上がる新型MSに目を向けた。首が無く頭部と胴体が一体化しているゴッグ、巨大な頭部とずんぐりむっくりの胴体が目を引くアッガイの二種である。
装備するメガ粒子砲が38.7トンもある超重量が問題とは言えジオンMSとして初めてビーム兵器を内蔵したゴッグは、ガンダムハンマーの直撃にも耐える重装甲と重量を活かしたパワーを併せ持っている。
水中では最高速度70ノットを叩き出し、水深200mの圧にも耐えるなど、地球の海を知らないジオンが初期に開発した水陸両用MSとしてはかなりのものではなかろうか。
いや、それでもジェネレーター直結方式の為に、腹部固定式で射角が限られている上に集束率が悪いから拡散してしまうし、出力は高いが威力はそれなりな上に、砲口の直上にコックピットがあるのは、問題がないというには無理があるが。
更なる問題としては液冷式を採用している為、上陸してからはバラストタンクに溜めた冷却水を消費して行動するので、精々二時間が活動限界である事だ。
上陸してからの長距離移動など、とてもではないが出来やしない。
あくまで沿岸都市や基地への攻撃と、洋上での通商破壊作戦を目的とした機体となる。
ではアッガイはといえばジェネレーターや“フレーム”をザクと共有し、生産性の高さを獲得している。基本的にこの世代のMSは外骨格式のモノコック、セミ・モノコック構造だが、ザクには多少なりフレームがあるらしい。
ゴッグとは逆に潜航能力などはあまり高くないが、ザクのジェネレーターを二基搭載し、ザクのフレームを有することから、陸上でも高い機動性を発揮するし、歩行能力もゴッグに比べれば高い。
ゴッグとアッガイとで反対の特性を備えた機体となったわけで、図らずも互いの弱点を補える組み合わせと言えなくもない。
アッガイの武装はゴッグと同じ蛇腹状の「フレキシブル・ベロウズ・リム」構造の両腕先端に備えた、マニピュレーターそのものを武器化したアイアン・ネイル。
アイアン・ネイルと交換式の六連装ロケットランチャー、アイアン・ネイル中央部のメガ粒子砲または機関砲。なお出力の問題からメガ粒子砲は一門に限定される。
この他、茸の傘みたいに巨大な頭部前面に元々は105mm機関砲四門を装備していた。ザクⅠに採用されていたザク・マシンガンと同じ口径だが、弾薬やパーツを共有する為の措置と推測される。
これらの機体がギレンへと報告される前に、実はガルマから待ったが掛けられていた。
まず形状は違うが名前は同じなアイアン・ネイル。これらは戦車やMSの装甲相手ならば十分な威力を期待できたが潜水艦を想定した試験の結果、攻撃時にネイルの付け根部分が負荷によって歪む可能性が高く、対艦使用に問題ありと発覚。
これに対処する為、ネイルが抜けなくなった場合に備え、アイアン・ネイルそのものを着脱可能なシールドとして装備する形式に変更。
今更腕部の仕様を変更するのは開発の遅れを招くのと、外付けのアイアン・ネイルを外した後の戦闘能力を確保する為、ゴッグとアッガイの腕部構造はそのままだ。要するにラムズゴックの先取りである。
そして次の指摘が入ったのはアッガイだった。105mm機関砲四門の一斉射撃は実に強力だ。105mmザク・マシンガン四門の一斉射撃と等しいのだから、ガンダムでもない限り、ジムタイプならあっという間に穴だらけになる。
しかしだ。戦車相手にしてもMS相手にしても、強すぎるのではないか? 過剰な火力ではないか? とガルマからの疑問が出てきた。
あのでかい頭の中に四門も機関砲を仕込む必要性は? なぜ主流となった120mmマシンガンではなく廃れた105mmマシンガンを? 120mmの方が部品も弾薬も調達がしやすいのに、なぜ? リサイクル? 今後調達の難しい旧式品を使ってどうする。
開発陣に有効な反論の言葉はなかった。結果として105mm四門を120mm二門へ変更し、減らした二門分は別の武装が搭載されることとなった。
そして機関砲以前にガルマが問題視したのは、アッガイに水中用の武装が搭載されていない点だった。メガ粒子砲にしろ機関砲にしろ、水中で本領を発揮する武装ではない。
アイアン・ネイルがある、と開発陣が抗弁していたら、ガルマは正気か、と問わねばならなかったろう。魚雷一つないってどういうこと? まさにこの一言に尽きる。ゴッグにだって魚雷は搭載されているのに!
かくてアッガイの頭部には減らした105mm機関砲の代わりに、ゴッグと同じ魚雷発射管が内蔵されて、急場しのぎながらも水中用の装備を持たせるのに成功する。
黎明期故に仕方がない面もあるとはいえ、この時期のジオンのMSはどうにも目立つ欠点を抱える傾向にあった。
「アッガイとゴッグのテストは順調です。この分ならハワイ攻略や通商破壊作戦に間に合うでしょう」
ウォルターの言葉にガルマは満足げに頷く。
「ああ。地球の海でもジオンは戦えると証明できる。ただ、水陸両用のMSはあまり数を揃える予定はない。ギレン総帥に釘を刺されてね」
「ほう。それはどのような理由で? 既にコロニー落としの影響によって、地球の沿岸都市や沿岸にある基地が壊滅的な被害を受けているからですかな? あるいは連邦の海軍が立て直し困難なほど大きなダメージを受けているからでしょうか?」
「答えを分かっていて尋ねてくるのは意地が悪いぞ、ウォルター大佐。だがその通りだよ。既に壊滅している基地や海軍を相手にする兵器を、大量に生産してどうするという話さ。
ジャブロー攻略にはアッガイなどのMSは有用だが、地球の海に遍く配備するほどの数は不要だそうだよ。我々が欲しいのは地球の海ではない。シーレーンを機能不全に追い込めればそれで充分というギレン総帥のお考えには、私も同意する」
「となりますと今後、水陸両用MSはジャブロー攻略を主眼に据えた方向にシフトするのですかな?」
「ズゴックまでは開発するだろう。そこから先はダグラス大佐の言った通りに対ジャブロー用に機能を絞るか、特化させた特殊な機体になると私は考えている」
ガルマは巨体から海水を滴らせて闊歩するゴッグとアッガイから視線を外し、ふと地面に巨大な影を落としながら空を飛ぶアッザムを見た。
ギレンの疑念を受けたアッザム改である。原型のアッザムはオデッサでキシリア監修……監視の下、テストを行っている。
「アッザムですか。MSより速く移動できるもののドップやド・ダイに追従出来るほどの速さはない。航空戦力と共に行動させるのには難がありますな」
「アレでもかなり速度は増したし、飛行可能な時間も大幅に増えたが、まだ課題は多し、だな。それでもトーチカ潰しや陣地破壊には十分だ」
「対空機銃が120mmとは航空機相手にはいささか大きすぎますが、例によって部品の共有が理由でしたな」
「要するにザク・マシンガンだからな。ここでも本国でも生産しているから、つぶしが効く。ただジェネレーターやメガ粒子砲の拡散問題が解決されればアッザムにメガ粒子砲を再度搭載する価値も出てこよう」
ガルマ達の見ている先でアッザムが着地すると折り畳んでいた脚を展開し、ガシャガシャと音を立てながら歩行テストを開始する。海からはゴッグとアッガイがしとどに濡れた姿で上陸と潜航テストを繰り返し、空を見ればルッグンに増設されたクローに固定され、運ばれるザクの姿がありそのままマシンガンやバズーカの空中発射テストが行われる。
アッザムが空を舞い、地に降りては走り回るこの光景に、ガルマは目を閉じて眉間を揉みしだいた。
「珍兵器の博覧会かな?」
ウォルターは否定したかったが出来ない現実を前に沈黙するしかなかった。