原作よりも低能なギレン・ザビ 作:スカウトマニア
宇宙世紀79年4月。
オデッサ周辺と北米の攻略作戦を成功させたジオン公国軍は海洋戦力の用意を整えると、一路、ハワイ諸島攻略を目指し進撃を開始する。
ドップやルッグン、ファットアンクルといった航空機は勿論、仕様変更されたガウ、輸送能力並びにMSの搭乗姿勢を改善したド・ダイC(カスタム)、MSを固定する為のクローを追加したルッグンC(キャリア)も含まれていた。
北米方面軍には鹵獲したもの以外、水上艦艇は存在しなかったものの、地球連邦軍のU型潜水艦をベースにMS運用能力を付加したユーコン級潜水艦(諸説あり)も投入されている。
半ば強引にMS運用母艦として手を加えた代物である為、MS母艦としては決して満点の出来ではなかったが、後々まで重宝されることとなる。
ハワイ攻略作戦はこれまでの地球降下作戦に比べると、連邦軍の抵抗は弱いと予測されていた。
原作よりも被害は小さいとはいえコロニー落としによって、地球の沿岸各地は大きな被害を受けており、ハワイなどはその最たるものだったからだ。
沿岸の都市や基地はもちろんのこと連邦海軍も壊滅的な被害を受けており、ザクやグフが展開しづらいという難点がジオンにはあったものの、それ以上に連邦軍のダメージが大きい。
ジオンの予想通り連邦海軍の抵抗は弱く、投入されたゴッグ、アッガイといった水中用MSが連邦にとって未知だったこともあり、実にあっさりとハワイ諸島の制圧に成功する。
ド・ダイCとルッグンCもMS運搬に伴う重量増加によって鈍重化するなど、懸念事項が挙げられることとなるが、ガウからの空中降下もおおむね問題なく行き、ジオン軍は太平洋のシーレーンに睨みを効かせる為の拠点を確保したのだった。
キシリアの発案による潜水艦隊も迅速に創設されて、ユーコン級と更に大型のマッドアングラー級潜水母艦の建造と水陸両用MSの開発、人員の育成に資金と物資が投じられることとなる。
シーレーンの確保は重要であったが、オデッサ周辺や北米での戦いで手に入れた戦術輸送機ミデアの能力と地球連邦軍に配備されている数から、おそらく地球全域の補給をミデアによる空輸のみで賄いうる、と恐ろしい結果が予測されていた。
この為、たとえシーレーンを制覇したとしても各地の連邦軍を困窮させるのは至難の業、とジオンは結論付け、地球連邦軍の圧倒的な国力に改めて顔色を青くさせられた。
創設された潜水艦隊は必要最低限に予備分を踏まえた数を揃えるに留まり、潜水母艦とMSを作り過ぎないよう細心の注意を払う事となる。
一方でハワイ諸島攻略作戦における生きたデータは、次の攻略目標であるベルファスト基地攻略に向け、大きな価値を持つものとなった。
重力戦線の過剰な拡大を抑え戦力の消耗を抑える戦略は、今のところ、問題なく機能している。大小の戦闘回数そのものを抑え込み、地球連邦軍に対MS戦闘のノウハウを積ませない目論見も、今は機能しているだろう。
逆を言えばジオン軍も地球上における戦訓を集めにくくなっているし、地球連邦の戦力を削れていないことになるが、積極的に打って出るにせよ出ないにせよ、一長一短としか言いようがない。
ベルファストの攻略が終わればオデッサ周辺と北米大陸の間に挟まる重要拠点を排除でき、キシリアとガルマが連携を取りやすくなる。
次の課題は最終目標であるジャブローに向けて、他の地域の制圧は行うべきか? それともジャブローのみを目標とするか? 地上用、水陸両用MSの開発は紆余曲折ありつつも着実に成果を上げている。
連邦軍がMSを開発し、量産する前に一気に決着をつけるべく速攻するべきなのか。戦争の勝敗を決定づける判断は、いかにギレンとて容易に下せるものではなかった。
さて、そんなギレンはというと、サイド3首都ズムシティにて、ジャブロー攻略に向けて、機能を特化させた「特務用MS」の報告を受けていた。
開発はキャリフォルニアベースで行われていて、アッグ、アッグガイ、ジュアッグ、また特務用MSとは異なるがゾゴックという機体も含んだ機体群である。
「これはMSとは言うが実態は土木用の大型重機だな」
ギレンのアッグの資料を一通り見た後での第一声である。
アッグは歩行など出来そうもないホバークラフト内蔵の脚部、汎用性の欠片もない巨大なドリルの両腕、横に倒した樽のような胴体兼頭部にはレーザー・トーチ射出口であるクチバシと両肩口に削岩用の分厚いカッターを備える。
ゴッグやアッガイもそうだったが、とても人型とは言えない外見だ。強いて言えば異形のモグラだろうか。
広大な地下空間に存在するジャブローへ地面を掘削し、侵攻ルートを確保するのがアッグの役目だ。
ドリルやらカッターやらレーザー・トーチもその為の装備で、一応、自衛用にオプションとしてミサイルなどもある。
ギレンが眉間の皺を平時よりも少し深くしているだけで済んでいるのは、アッグが戦闘用ではなく、分類上MSになっているだけの重機だと報告する側も承知している文面だったからだ。
なるほど重機ならこんな装備で、こんな外見であってもおかしくはないのだろう。
MS自体が汎用性の高い優秀な重機としての側面を持っているから、ギレンもそこまで拒絶反応を見せなかったのである。
「これで敵軍事拠点への地下から侵攻を行う新型機として、全面的に量産を勧められようものなら却下する以外に選択肢はなかったな」
いや、まあ、はたしてこの装備で地球の地盤の掘削に適しているのかどうかまでは、さしものギレンも分かりかねるが、そこそこ期待は出来そうなドリルではあった。間違っても戦闘に駆り出していい機体でないのは、確かである。
そんなギレンの呟きを受けて答えたのはいつものオリヴァー・マイではなく、やや青白い顔色をした神経質そうな金髪の青年将校であった。
「アッグによって侵入経路を掘削し、ジュアッグによる中距離攻撃の援護を受けながらアッグガイとゾゴックによって白兵戦を行う。こう聞けば理に適っているようには聞こえますが」
「さしもの貴公でもこれらの機体でジャブロー攻略の目途は立てられんか? ギニアス」
ギニアス・サハリン技術少将。かつては名門とされたサハリン家の当主にして、技術士官とはいえ少将の位にある。
十二歳の時に事故に遭い、それ以来、病に侵されているが、その能力とサハリン家を惜しんだザビ家の配慮により、半ば強引に病院へと押し込められて、現在、病状は快復しつつある。
地球降下作戦で活躍したノリス・パッカード大佐(中佐から昇進した)は、サハリン家に大きな恩のある身で、個人的にギニアスとその妹アイナに絶大な忠誠を誓っている。
もしギニアスが前線に司令官として配属されたら、一も二もなくノリスは彼の下へと馳せ参ぜられるように嘆願してくるに違いない。
「アッグは侵入経路確保と割り切れば手を加える必要はないかと。そして他の機体、このアッグガイなどは白兵戦に特化させたとはいえ、この巨大な頭部にバルカン二門はまだしも、両手のヒートロッド四本はなにをどうしたらこうなるのか、いささかならず理解に苦しみます」
アッグガイはやはりというか、アッガイやゴッグのようにずんぐりむっくりの前傾気味の胴体と、半月型? の頭部に昆虫めいた複眼式のモノアイを持ち、両手はヒートロッド二本×2というなんとも奇妙な機体であった。
そもそも巨大な人型兵器が珍兵器だろうと言われればその通りなのだが、それにしてもこれは珍兵器と表現するしかない。
「うむ。地上のパイロット達の中にはグフの右腕をあえて以前のヒートロッド装備にする腕利きも居ると報告を受けているが。このアッグガイに至ってはヒートロッドしかない。リーチの長さと、振り回すだけで当てればいい利便性は分からなくもない」
せめて頭部にバルカンを持たせているのは、グフの際にギレンから受けた指摘を反映させたのだろうか。あるいはジュアッグとの同時運用を前提としているから、こうさせたのか。
ヒートロッドの取り扱いは難しいが、威力もまあ折り紙つきではある。一応、腕部をアイアンネイルなどに換装できるようだが、それならもう別の機体でいいだろう。
「しかしかつて総帥がグフを評価された際に懸念された、ヒートロッドによる自損の可能性はますます高まったと言えるのではないでしょうか。
またジャブローの地下司令部の詳細は不明ですが、仮に地下からの侵攻となった場合は隘路での戦闘となり、ますます自損やフレンドリーファイアの可能性が危惧されます」
ヒートロッドのリーチはヒートホークやヒートサーベルよりも長いが、振り回して使わなければならない以上、複数機が格闘戦を行うとますますフレンドリーファイアの可能性を高める。
仮に連邦軍にジムが出来上がっていたとしても、ビームサーベルの間合いの外から攻撃できるのは利点だろう。向こうからすればわざわざ格闘戦を挑む義理もないので、ビームを撃たれてデカい頭か胴体に穴をあけられて終わりになりそうだ。
「ジャブロー攻略は最重要目標ではあるが、このアッグガイはな。まだ重機として活用方法のあるアッグの方がマシだ。そして評価できる点がないわけではないのがなにやら口惜しいが、このジュアッグは中距離支援機としてはそう悪い機体ではない」
「我が軍には支援用のMSの発想がありませんでしたから、その中でジュアッグという機体を考えついたのは斬新ではあります。
両腕の三連装320mmロケット砲のみならず、本体のビーム砲四門も十分な威力があり、低下した運動性もゴッグ並みの装甲で補える範囲です。61式戦車やファンファンを相手に、撃墜される心配はほぼ皆無でありましょう」
寸足らずの胴体にどら焼きめいた頭部とそこから伸びるゾウの鼻のようなパーツ。手首から先が三連装の長い砲身となっているのがジュアッグだ。目を引く長い鼻は排熱ダクトを兼ねた可動肢となっている。
何気にビーム兵器を搭載しており、大口径のロケット砲と合わせて、これまでのジオンになかった中距離支援機として、マゼラ・トップキャノン装備のザクよりも優れた火力を発揮する。
「一応、水中での行動も可能なようだが戦闘まではこなすのは難しいか。水中での移動も可能な陸戦機といったところだな。支援機としては悪くない。悪くないが、それを認めるのは負けたような気分になるのはなぜだろうな」
歯に物の挟まったような言い方をするギレンに、ギニアスは何とも言えない表情を浮かべた。ギニアスは人づてにギレンがこれまでムサイやグワジン、MSを相手に様々な疑問を挟み、開発と実装に大きな影響を与えてきたのは耳にしている。
そのギレンの自国の開発者達との激闘を振り返ってみても、今回の特務用MSは飛びぬけて異質だ。それらに長所もあると認めるのは、ギレン的に悔しいらしい。
「まあよい。次にゾゴック。生産の始まったズゴックをベースとした機体か。陸戦性能の向上を目指した機体であるのは分かった。
分かったが、フレキシブル・ベロウズ・リムを採用したとして、なぜ腕を伸ばす? パンチだと? 手持ち武装が使えるのはせめてもの救いだが、本気で繊細なマニピュレーターで殴りつけるのを主武装にするのか?」
ゾゴックはアッグやアッグガイ、ジュアッグと比べれば人間に近い寸尺の四肢を持つが、やはり頭部と胴体の一体化した構造をしており、胸部に巨大な単眼を埋め込んだデザインだ。
頭部? 胴体上部? に十基の斬撃用武器ブーメラン・カッターを搭載し、腹部にも小型化したワイド・カッターを内蔵している。一応、これらのカッターがゾゴックの射撃武器となる。
ゾゴックはこれらのカッターを手持ち武器として使う運用も想定されており、手持ち武器が全くないというわけではない。
「カッターを使い尽くせば問答無用で素手で戦わざるを得ない点。格闘戦特化としても、ジュアッグの援護の下で戦うとしても、潔すぎる武装です」
とはいえザクマシンガンやバズーカを持てばいいのだから、ゾゴックの手持ち武装の偏り問題は致命的というほどではない。
「だがわざわざ作る意味があるのか? 陸戦能力を高めたとは言うが、ゾゴックの為に製造ラインを増やし、新しい部品を製造する必要性はあるまい。正直、ズゴックで十分だ」
ズゴックが優秀過ぎたとも言える。ギレンは溜息を吐いてから、特務用MSを映すモニターにコメントを打ち込んでゆく。
アッグは重機としてならば可。ただし量産の必要性は疑わしい。アッグガイ、ゾゴックは生産の必要性を認められず。ジュアッグは支援機のテストベッドとしての有用性を認める、とこんな具合だ。
どれも試作機は生産されるだろうが、それ以降の生産についてはアッグとジュアッグに可能性があるといったところだ。
「多様な発想は認めるが、本気でこれら四機種の組み合わせでジャブローを攻略できると信じているのか? ギニアス、貴公にとってはライバルとなるプランだが、アプサラス計画の方が見込みはあるのか?」
ギニアスはようやく本題に入れると自信のある笑みを浮かべた。本来ならデギン公王によって認可の降りる『アプサラス計画』は、この世界において直接ギレンへと上申されようとしていた。
「我がアプサラス計画ならば必ずやジオンに勝利を齎します」
アプサラス計画、MAにミノフスキークラフトによる飛行機能を与え、強力なメガ粒子砲を装備させるだけでなく、地上拠点から成層圏まで上昇させた後、ジャブロー上空より降下させてメガ粒子砲による奇襲攻撃を行うというものだ。
特務用MSと同じく実現性に乏しい夢物語めいた計画ではあったが、既にアッザムによるミノフスキークラフトとメガ粒子砲を搭載したMAという実例がある。
そのお陰もあってかギレンの中でアプサラス計画は、特務用MSによるジャブロー潜入・攻略よりは実現性が高いように思えていた。
「アプサラスの開発は地上で行わなければなるまい。アッザムはオデッサにも北米にもある。あれのデータはアプサラスにも有用だろう。必要な人員と予算は用意しよう。貴公のアプサラスが完成するのが先か、それとも地上軍がジャブローを制圧するのが先かな?」
挑発的なギレンの言葉に、ギニアスは青白い顔のまま好戦的な笑みを浮かべて答えた。
「必ずや我がアプサラスがジャブローの天蓋を撃ち抜き、愚昧なる連邦高官と軍部の者共の瞳に、ジオンの威光を焼き付かせるでしょう」
最近、ギレンの野望アクシズの脅威Vでアッグガイとジュアッグでジャブロー攻略したので、評価は甘めになっているかもしれません。ジュアッグは案外使えるなと思いました