原作よりも低能なギレン・ザビ 作:スカウトマニア
「支援用のMSの開発はいい。まさかジュアッグを正式に採用するわけにもいかん。あれの火力は素晴らしい。水陸の場所を問わないのも利点として認めよう。しかし、地球の戦場のほとんどは陸地だ。陸に上がったジュアッグの機動性は蛙にも劣る。
故にこのザクをベースとした支援用MSザクキャノンの開発を、私は否定しないし、むしろ支援したいくらいだ。
しかしだ。180mmキャノンは良しとしよう。いつまでもマゼラ・トップ砲ばかり使っていても、それに耐える装甲のMSを連邦が開発する可能性を考慮すれば、より威力の高い武装は必須だからな」
キャリフォルニアベースの司令室で淡々と工廠の技術者達を問い詰めているのは、誰あろうガルマ・ザビ少将である。
ガルマの言うザクキャノンは当初、対空用に開発されるも、連邦があまり航空戦力を使用しなかった為に、一時、開発が凍結された機体である。
原作ではその後、ガンキャノンという支援用MSの存在に衝撃を受けたジオン開発陣が、目から鱗の落ちる思いで直接支援タイプとして再開発され、陽の目を見たとされている。
この世界ではガンキャノンではなく自軍のジュアッグをきっかけとして、開発される運びとなったわけだ。
バックパックに搭載した180mmキャノン、ビッグガンというミサイル兼ロケットランチャーが基本武装で、バックパックに武装を依存している。
ニューヤークが原作ほど崩壊してない事もあり、ガルマは北米の有力者との親交こそ深めているが、本来、恋人となるはずのイセリナは軽く顔合わせをした程度で、この世界ではキャリフォルニアベースに腰を据えている。
さて、そんなガルマは兄ギレンに報告を上げる前に、自分の下へと挙げられてきたザクキャノンについて、一言、開発陣に物申したいことがあるらしい。
「武装をすべてバックパックに依存しているのは気になるが、他の機体の携行武装を使用できるのであれば、大きな問題ではない。
またザクキャノンのバックパックを通常のザクに装備し、ザクハーフキャノンとして即席の支援用MSに仕立て上げられるのも、評価したい。
流石に専用センサーやFCSを積んだザクキャノンには及ばないとしても、バックパックの交換によるMSの特性変化は、一考に値するだろう」
例えばそれは原作で後年、開発されるハイザックのトランスパックシステムや、宇宙世紀に限らず、異世界のストライカー、シルエット、ウィザードなどと呼ばれる各種システムなどに共通される概念のひな型が、生まれた瞬間であった。
まあ、戦時中に新しい概念を組み込んだMSを開発する余裕がジオンにあるのか? と言われると返答に困るが、サイコミュを組み込んだブラウ・ブロやエルメス、ジオングを開発しているのだし、やって出来ない事はないのだろう。
「しかしだ。弾薬補充を他の機体に委ねなければならないのは、どういうわけだ?」
「はい。恐れながらザクキャノンは中~遠距離、ならびに遮蔽物越しでの砲撃を主な戦闘方法として想定しております。この前提があれば弾薬補充を他の機体に委ねても問題はないと、我々は判断いたしました」
「ふむ、ではMSもパイロットもいまだ貴重な我々が、ザクキャノンの弾薬を補充する為だけに、数少ないMSを戦闘に参加させずに後方に置いておかなければならないのは、問題ないと、本当にそう思うのかね?」
「はい、いいえ。それは……」
「もっともザクキャノン同士で弾薬を補充すればいいわけだが、それでもザクキャノンが単機で孤立した場合、予備の弾薬があるにもかかわらず補充できない状況に置かれては目も当てられん。
兵達には常に万全の状況で戦えるよう差配するのが、指揮官の役目の一つではあるが、現実は想定通りにいかない場面も多い。不利な状況で戦わなければならないこともあるだろう。そんな時、私は兵達の味わう絶望を一つでも減らしたいのだよ」
「も、申し訳ありません。もう一度、設計を見直します」
「よろしく頼む。繰り返しになるがザクキャノンは有意義なMSだ。連邦の濃密な砲弾の雨に晒されるザクや歩兵達を支援する機体の存在は、大きなものなのだから」
こうして弾薬の補充を自分で行えるように改良を施されたザクキャノンが、重力戦線各地に出没するようになるのは、この少し後のことである。
キャリフォルニアベースでガルマの言葉の鉈が振るわれていた頃、オデッサ基地では地上方面軍総司令であるキシリアが、配下のゲラート・シュマイザー少佐から報告を受けていた。
ゲラートは本隊に先行した偵察、奇襲、強襲作戦の他、音響や熱紋など各種センサーといった新装備の試験、検証を目的としたMSの少数編成部隊創設をキシリアに訴え、認められている。
北米制圧を目的とした第二次降下作戦を初陣とする特殊部隊は、陸上戦艦ビッグ・トレーの撃沈など多くの活躍を見せ、見事、キシリアの期待に応えている。
「ゲラート少佐、貴様の“闇夜のフェンリル隊”、まずは順調な滑り出しのようだな。ガルマからもお前達を高く評価する報告が届いている」
室内に居るのはキシリアとゲラートだけとあり、この時のキシリアはボディスーツと一体になったマスクを降ろし、ヘルメットも外した出で立ちであった。
「はっ。キャリフォルニアベース制圧戦では、ガルマ様には良くしていただきました」
「貴様と貴様の部下達の実力あってこその結果であろう。フェンリル隊の目的を考慮すれば、これからも過酷な任務に赴いてもらうことになるが、私の期待に応えて見せろよ」
「はい。我ら闇夜のフェンリル隊はこれからもジオンの勝利の一助となり続けましょう」
「ふ、そうであることを祈るとしよう。下がれ。次の任務までは充分に休んでおけ」
ゲラートが退出した後、キシリアはついに口にできなかった疑問を、彼女だけとなった部屋でポロリと零した。
「なぜ、『闇夜のフェンリル隊』なのだ? フェンリル隊だけでいいだろうに。『闇夜の』は本当に必要なのか、ゲラート?」
開戦以前、キシリアは複数の特殊部隊の創設を思案していた。
ジオン国内での権威向上を目論む彼女としては、本国は長兄ギレンの庭であり、宇宙軍はドズルの手の内、となると月や地上を我が物とするしかなかった。
今は地上方面軍の総司令として、原作とは異なる展開を迎えているが、月はいまだに彼女の影響力が強く、NT研究を目的とするフラナガン機関の設立もキシリアの提案によって行われている。
「次にゲラートらに任せるとなれば、中東かアフリカか」
現在、ジオン軍の戦線は原作と比してゆったりとしたペースで進んでいる。
ジャブローを落とす決定的な要素がないのも理由の一つだが、MSの生産と人員の育成速度を考慮し、十分な状態で戦闘を行う為に拙速は第二次降下作戦までとあらかじめ決めていたのが大きい。
ベルファストを落として北米とヨーロッパ間の連携を強固なものとした現状で、中東とアフリカに目を向けられたのは、資源だけが目的ではなく、この二つの地域に根差した反地球連邦の意識が理由だった。
中東とアフリカに複数存在する反地球連邦組織を焚きつけて、中東とアフリカの連邦勢力排除に協力させようというのが、キシリアの策謀であった。
彼らにザクを始めとしたMSの提供はないが、占拠した連邦の施設を利用した連邦製の61式戦車やファンファン、フライマンタ、TINコッドなどを供与する予定だ。
ジオンにとっては旧世代の古臭い兵器だが、現地の彼らにとってはにっくき地球連邦の現役兵器であり、これまでは入手など困難を極めた品であるから不満は小さい。
現地の統治などという面倒ごとは現地の反連邦勢力に任せて、ジオンは資源や軍事拠点など美味しいところだけを抑える、というのが理想図だ。
実行前の今では絵に描いた餅でしかないが、それを成功させる為にキシリアは打てる手は何でも打つつもりであった。
さて、原作よりも低能なギレンの影響によってか、この世界のキシリアの行動にも多少の変化があった。成果を上げられるのなら犠牲を許容しすぎるくらいに許容してしまう彼女だが、この世界ではその気質がいくらか控えめになっていた、
キシリアが創設したとされる特殊部隊は、なにかにつけて──一年戦争を舞台とする外伝作品が生まれる度に──ポコポコと生まれるが、その多くが誕生していなかったのである。
最も有名なキマイラ隊はまだメンバーの多くが頭角を現していない為、未創設。
「装備は一流、腕前は二流、人間は三流」と評されたマッチモニード隊は、人員の質が低すぎて、むしろ自身の評判を下げる可能性が高いと判断した為、未創設。
グール隊については、「他人に共感する能力を失った兵士は、強力な兵士となる」という事実に基づいて、部隊創設が考えられていた。
しかし、候補となったメンバーが戦場では“兵士”ですらない、自己満足の為に暴れる犯罪者になる可能性が高く、共感性がない以上はキシリアへの忠誠心も見込めないと、むしろ汚点になるとして見送られている。
原作に比べると手駒の少ない本世界のキシリアだが、潜水艦隊の創設が認められ、地球での勢力拡大、権威の確保が順調に行っていること、そしてギレンが技術者達から届けられる開発プランに、毎度、しかめ面を浮かべているのを知っているからか、ギレンに対する対抗心こそあるものの、叛意はずいぶんと小さかった。
ジオン軍が面白枠や珍兵器、奇天烈ではない新兵器群を投入し、手堅く勢力拡大の一手を取り、派閥争いを極力抑え込んで現場の兵士達への負担を抑え込む方針を取っている間、地球連邦軍は地球の約三分の一弱を支配された事実とMSの破壊力に慄きながら、必死に反抗の目を探っていた。
当然、それはジオンと同じ土俵に立つ為の新兵器、MSである。地球と宇宙の双方で研究、開発の行われている連邦の新兵器開発計画は数か月に渡り、結実の時を迎えていた。
同時にその果実の発する芳香をかぎ取り、簒奪せんとする赤い彗星の影もまた、着実に忍び寄っていた。
宇宙世紀79年9月時点において、ジオンの地上支配地域は北米、ベルファスト、ヨーロッパ西部、中東、アフリカまで拡大し、そこから戦力の充溢と人員の交代による休息をメインとしていた。
ここに至るまでドズル率いる宇宙軍に大きな動きはなく、連邦宇宙軍のゲリラ部隊の撃滅や地球軌道上の封鎖、ルナツーの監視、新型MSとMAの開発などに留まる。
この動きに異変が生じたのは、地上での軍功を認められて昇格の上、部隊を預けられたキャスバル・レム・ダイクンが、サイド7に入港する地球連邦軍の新型艦をキャッチし、追跡を行ったことである。
戦争の影響によって建設途中で止まったサイド7唯一のコロニーへと、キャスバルの赤いザクⅡS型と三名の部下が乗り込むザクⅡF2型が潜入するべく向かっていたのを、サイド7の人々も軍人達も知らなかった。
後にこの独立戦争の命運を分けたと、歴史家の一部が断言する小さな戦いが起きようとしていたのである。
本作の秘密……実は、原作よりもザビ家の仲が良い。
本当になんで”闇夜の”がついているんでしょうね?