原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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原作よりも自分にそこまで自信のないギレンは、専門家を前に素人質問をした。


「時にあのザクだが」

 その日もギレンは分刻みのスケジュールをこなしながら、独立戦争勝利の要となるMSについての報告を受けていた。

 モビルワーカーと呼ばれる重機や作業ポッドから発展したMSは、人型機動兵器という前例のない存在であり、軍事的な運用をはじめありとあらゆる面で手探り状態にある。

 

 ミノフスキー粒子散布下での有視界戦闘に最も威力を発揮する兵器として、多くの期待を集めるMSの開発にあたり、ギレンはジオン公国の軍需企業に共同開発を依頼している。

 ジオニック、ツィマット、MIPを始めとした各メーカーにコンペティションを行わせる案も出たが、ジオン公国の存亡を賭す戦いにコンペなどする余裕があるのか、とギレンが軍上層部に問いかけると、コンペは中止となった。

 

「MS開発における本体のパーツ並びに武装の規格統一、MSを補助する支援兵器ならびにMIP社の提案する非人型機動兵器の開発。おおむね順調と報告を受けている」

 

 今、ギレンが足を運んでいるのは地球連邦政府には秘密裏に建設されたダークコロニーの一基だ。開発の進んだMSが選抜されたパイロット達の手によって命を吹き込まれ、今後の戦争の為に必要となる各種データの収集に勤しんでいる。

 機体の脱出機構の完備ならびに人命優先をドズルと連名で命じてはいるが、それでもテスト中の不幸な事故は起きており、貴重な人材の損耗をギレンは秘かに嘆いていた。

 

「は! ザクならびにモビルポッド・オッゴは既に実戦に耐え得る機体として完成しております」

 

 ギレンのエスコートと解説を任された技術士官が、各メーカーの技術者達を背後に緊張した様子で、ギレンの呟きに答える。緊張のあまりそのまま卒倒してしまいそうな様子に、ギレンはわずかばかり憐れみを覚える。

 自分が初めて建国の父であるジオン・ズム・ダイクンと言葉を交わした時よりも、輪をかけてひどく緊張している様子だ。

 

 ギレンの目の前では宇宙空間を自由に飛ぶ数機のザク──後にザクⅠ、旧ザクと呼ばれる機体と、それをフォローするように飛ぶオッゴの姿があった。

 ジオン公国はMSを主戦力と定めているが、兵士の誰もがMSに適性があるわけではない。従来の戦闘機や突撃艇も重要な戦力には変わりなく、また作業ポッドの軍事転用としてMSとは別のプランとして提案されたのがオッゴだった。

 

 本来であれば追い詰められたジオンの技術本部が、決戦兵器などと称して緊急開発した機体だが、こちらではMSばかりに偏重する危険性をギレンがドズルやジオンの高級将校達に尋ねたのをきっかけに誕生が速まっている。

 そうしてMSに適性が無く、戦闘機や突撃艇乗員への転向にも難が見られた者達を活用し、作業ポッドへの搭乗経験がある者を即戦力化する為の機体として、モビルポッド・オッゴは設計された。

 

「武装だけでなくパーツの一部もザクと共有することで従来の生産ラインを活かす、か。MSと共に各種作業にも従事できると聞いている。難しい注文だったろうが、よく応えてくれた」

 

 オッゴの共有するパーツがザクⅡJ型ではなく、現時点で完成しているザクⅠであるのも、この世界ならではの変更点になる。ついでに世界初のモビルポッドの称号もオッゴのものだ。

 

「ははっ! ギレン閣下からそのようなお言葉を賜るとは、光栄であります」

 

「うむ。これからも諸君らの尽力を期待する」

 

 ジオン国内の各メーカーが協力して開発したザクは、ギレンの身びいきはあったかもしれないが、新たな時代を作り出すに相応しい力強さを兼ね備えているように見えた。

 神話において単眼の巨人“サイクロプス”は英雄に退治される怪物でしかなかったが、ジオンがこの宇宙世紀に作り出した人造のサイクロプスは、地球連邦という名の肥大化しすぎたあまり、末端を腐らせた旧世紀の異物を排除する力となるに違いない。

 

「時にあのザクだが」

 

「はっ」

 

「来る地球連邦との戦いでは宇宙での初戦が大きなカギを握る。各サイドの駐留艦隊と連邦宇宙軍本体を撃滅し、地球上を封鎖すれば愚昧なる連邦政府の高官共を地球に封じ込めるのは容易い」

 

「ギレン閣下の言われる通りかと」

 

 おべっかじみた追従ではあったが、万事うまくいけばその通りになるのが、目下のジオンの戦争計画なのは間違いない。

 

「だが戦争とは思った通りには行かないものだ。なにしろ相手が居るのだ。こちらの都合ばかりで物事は進まん。場合によっては宇宙での戦いが長引くこともあろう。またあるいは連邦軍の残党がゲリラ戦を仕掛けてくる可能性もある」

 

 ギレンの言う事は分かるが、では何を求めているのかと案内役の士官は思案を巡らせ、おそるおそる意見を述べた。これだけでも度胸があると褒められるべきだろう。

 

「MSの行動可能な範囲を広げるような装備、あるいは艦艇が必要になるとお考えで?」

 

 ギレンは満足げに頷いた。正解を口にした生徒を見る教師のような仕草だった。

 

「そうだ。なにもムサイのようにMSの運用が可能なレベルを求めずともよい。MSを搭載でき、足代わりになれば充分であろう。MSを搭載できる宇宙哨戒艇といったところか。またそれとは別にMSを戦場まで運搬する為の足も試す価値はある」

 

 宇宙哨戒艇については想像が付きやすく、周囲のメーカー社員達も声を潜めて意見を交わし合っていたが、次なるギレンの提案には口を閉ざして耳を傾ける。

 

「古来、人類の経験してきた戦争を思い起こせば、戦場に兵を運ぶ為の足は常にあった。馬然り、車然り、飛行機然り、船舶然り。MSはこの新時代における歩兵、機動歩兵だ。歩兵を徒歩で戦場に送り込むのは非効率的に思える」

 

 この時、ギレンの意見を受けて士官を始めとした人々は、生身の歩兵が用いているホバー・カーやホバー・バイク、あるいはホモ・アビスやハングライダーなどを思い浮かべていた。

 

「宇宙を戦場とする限り、常に遭難には気を配らなければなるまい。機体は無事でも推進剤が切れ、永遠に宇宙を漂流するような不幸を、私は兵に与えたくはない。少しでもその危険性を遠ざけられるのは、今、このタイミングが重要なのだ。

 もっとも私の如き現場を知らぬ人間の思い付きなど、ジオンの中でも生え抜きの諸君らならば、既に考えついていてもおかしくはないか。ふっ」

 

 ギレン自身が、素人の思い付きと考えている提案だが、それらは少しでもMSの推進剤の消耗やパイロットの負担を減らし、戦場からの未帰還を減らす為にと考えたものだった。

 仮に独立戦争に勝ったとしても、戦死者の数が膨大なものとなれば、戦後のジオン社会は歪な人口ピラミッドを築くこととなる。

 戦争に勝ちましたが、社会は破綻しました、など笑い話にもならない。

 

 この場に居合わせた人々がギレンの考えをそこまで理解できていたかは分からないが、少なくともこの後、ジオン公国はMS二機を搭載できるフィッシュボーン級宇宙哨戒艇、MSを戦場まで運ぶ輸送機“サブフライトシステム”の実用化に成功するのだった。

 これによりムサイ級やパプア級といった艦艇がなくとも、MSの行動範囲は大幅に広がり、宇宙での運用に更なる幅と選択肢を与えることに成功する。




少し時空が乱れたかもしれません。

フィッシュボーン = 魚の骨 = シノーペ級宇宙哨戒艇

もちろんフィッシュボーンは一年戦争以前の技術で建造されているので、ザンスカール帝国と比べてはいけません。
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