原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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本作の低能なギレンの思想についての説明回です。


いい加減、我々人類は地球から巣立たねばな

 キャスバル隊によるV作戦の成果物奪取の報はジオン本国へと伝えられ、もっとも警戒する地球連邦のMSの実物が手に入ったことに、にわかに沸き立った。

 パオロ・カシアスらホワイトベースのクルーらは、投降する前に数多くのデータを破棄しており、得られたのは実機と優先度の低いデータだったことだけが玉に瑕だったが、ガンダムらと比べればささやかなものである。

 

 そして宇宙世紀79年9月中旬、ジオン本国へと輸送されたホワイトベースならびにMSは、ジオン技術陣の総力を挙げて調査、分析された。

 この上ない功を上げたキャスバルは大いに労われた後、一時的に休息を与えられて母アストライア、妹アルテイシアの下へと顔を出し、久しぶりに家族団らんの時を過ごすこととなる。

 

 一方、ギレン親衛隊こと相談窓口の皆さんは、実際にホワイトベース隊と交戦したキャスバル隊のデータを受け取りつつ、V作戦の実態に迫るべく日夜、奮闘した。

 そうして彼らは、地球連邦軍の作り上げた恐るべきMSの実態に触れることに成功したのである。

 地球連邦軍侮りがたし──オリヴァー・マイを始めとした親衛隊の面々と、協力したジオニック社などのトップメカニックらは、そろって冷や汗を流すこととなる。

 

 その日、ギレン・ザビはV作戦の調査結果を受けるべく、サイド3にあるコロニーの一つに居た。更に厳重な警備の成される中、ギレンは今回の功労者であるキャスバルと二人で向き合っているという状況である。

 お互いソファに腰かけ、他者の目と耳がないこともあって、キャスバルはジオン軍少佐ではなくダイクンの遺児としての振る舞いをしている。

 

「サイド7のこと、ご苦労だった、キャスバル。死者を出さずに成果を上げたこともそうだが、コロニー内部で仕掛けず、民間人に被害を出さなかった点を特に評価している」

 

「仮にも父の名を冠する国に、これ以上、悪評を加えたくなかった。それだけの話です、ギレン総帥」

 

「稼働前のMSを破壊する方がよほど楽だったろうに、貴様の思い付きに付き合わされた部下達も苦労したろう。とはいえ、戦果は戦果だ。ますますダイクン派の連中が鼻息を荒くして、貴様を神輿にしようとするぞ?」

 

 この厳めしい顔つきの総帥には珍しく、からかうような口ぶりに、キャスバルは小さく肩を竦めてみせた。様になっているのはキャスバルの生まれ持った美貌と育まれた気品の成果であった。

 大抵の佐官、いや将官でも言動一つにこれでもかと緊張を込める相手に対し、ずいぶんと気楽というか、大胆な振る舞いだ。

 

「いい加減、私に政治の場に立つつもりがないのを理解してほしいものです。ああして現場に出てMSを乗り回す方がよほど私の性に合うというのに。ところで、総帥。

 連邦はこうしてMSの開発を成功させたわけですが、あれらが前線に配備されるよりも先にジャブローを攻めはしないのですか?」

 

「ジャブローについては概ね位置は把握している。加えて、各地で連邦のMSらしきものの目撃情報も受けている。サイド7以外でも開発と生産がおこなわれているのは間違いない。となればジャブローの防備を固めるよりも連中が次に考えるのは……」

 

 キャスバルは間を置かず、ギレンの言いたい事を自分から口にする。誰でも想像の着く話ではあるのだ。

 

「大規模な反攻でしょう。北米、いえ、オデッサを狙うでしょうね。我が軍は現在、中東方面や東アジアへ圧力をかけている。その大元となっているのはオデッサだ。鉱物資源の供給を断つ意味も含めて、反攻作戦の標的とするのにはちょうどいい」

 

「そういうことだ。未だ地球連邦に残る従来の通常戦力に加え、量産したMSによる大部隊でもってオデッサを攻めるつもりで間違いない」

 

 断言するギレンにキャスバルはかすかな違和感を抱く。連邦のオデッサ攻めはキャスバル自身が口にした事だが、ジャブローを牽制する北米も目障りなのもまた事実。

 キャリフォルニアベースを陥落させれば、ハワイ諸島を孤立させて鬱陶しいジオン潜水艦隊の拠点機能を低下させる結果にもなる。

 

(地球連邦の内通者からの情報か? 軍部か政治家連中か。いずれにせよ、かなりの地位に居る人物からのリークがあるようだな)

 

 流石のキャスバルもまさか地球連邦からの内通者が、レビル将軍の腹心クラスの将官とは分からない。

 正史よりも地球上の支配地域が少ないジオンであるが、その分、各戦線では余裕をもって戦えており、連邦の敗北を恐れたとある将官は、この世界でも内通者となっていた。

 

「オデッサを攻める地球連邦軍を退け、返す刃でジャブローを叩く。大まかに言えばそれが今後のジオンの戦略だ。貴様にはまだ働いてもらうぞ、キャスバル」

 

「軍人としての責務は全霊をもってあたります。私にとっても故郷の母と妹の未来が掛かる戦いなのですから。しかし……ギレン総帥、いや、ギレン・ザビ、貴方は地球連邦に勝利した後、ジオンをどう導くつもりなのだ?」

 

 口調を改めるキャスバルにギレンはふむ、と一つ間を置いてから淀みなく答える。かつては彼も尊敬したジオン・ズム・ダイクンの遺児へ、彼なりに通すべき筋だと判断していた。

 

「地球から離れられない古い人々はそのまま、地球の大地と海に還ってもらう。ただし彼らが存在しない者として扱っている不法居住者達については、宇宙に上げさせるべきだ。アースノイドの特権階級にとって、スペースノイドのみならず地球の不法居住者達もまた搾取の対象であり、富の源泉となっている。まずはそれを取り上げる」

 

「宇宙に上げた人々は損傷したサイドに?」

 

 今回の戦争で各サイドは正史に比べればはるかに軽微だが被害を受けており、人手を求められているのは事実だ。

 だからといってこれまで地球の環境で生まれ育った人々が、すぐに宇宙での暮らしに適応できるかは難しい。

 扱いを間違えれば余計な火種となるだろう。不法居住者を地球から追い出した連邦と移住先の各サイドの間で不和を起こすのが、ギレンの狙いかどうかまではキャスバルにも確信は抱けていない。

 

「サイドもそうだが火星や木星といった他天体にも希望者を募って送る。私としては金星と水星、土星についても半世紀以内に開発に着手したいと考えているのだ。

 地球が支えられないほどに人類が増えたのなら、人類は地球の外に版図を広げるべきだというのが、私の持論だ。そうでなければ我々の知恵や知識、技術になんの意味がある?」

 

「では地球そのものについて貴方はどう考えている。スペースノイドは神聖なものとして見るか、遠く離れた水と空気の供給源としてしか見ていないか、大別すればこの二つだ」

 

 キャスバルとしては前者よりの思想がある。年齢的なこともあって、父ジオンの薫陶を強く受けたわけではないが、人類が宇宙という新しい環境に飛び出し、適応した新たな人類へと進化する、という思想自体には共感するところが多い。

 実際、ジオン公国でもキシリア主導で、戦場でビームを避けるなど不可解な動きを見せた者達や孤児を集め、宇宙環境に適応した人類の研究を進めているとキャスバルの耳に届いている。

 

 それが父ジオンの提唱した新人類“ニュータイプ”とは限らないが、人類の新たな未来と可能性は宇宙にある、とキャスバルは考えている。

 そうして人類を宇宙に上げれば、アースノイドとスペースノイドの垣根を取り除き、ニュータイプの生まれる土壌を豊かに出来る。

 そして地球はニュータイプの時代を支える礎となり、人類の歴史の標となる、とそこまでが現時点でのキャスバルの考えである。幸い、現時点では地球に住む人類の粛清までは辿り着いていないらしい。

 

「地球には休んでもらいたいと考えているよ。私も貴様も今日に至るまで吸ってきた空気も、口にしてきた水も、元をただせば地球から持ち出したものだ。

 そうして地球の外に運び出して、地球に還元されない空気と水を、我々は随分と無駄にした。特に今回の戦争では、目も当てられん量が宇宙の虚空に散じて無となっている。いい加減、我々人類は地球から巣立たねばな」

 

「地球と宇宙のパワーバランスを逆転させて、いずれは地球の全ての人々を宇宙へ上げると?」

 

「すべてとは言わんよ。歴史的遺産や地球環境の管理を行う者達、それに原始的な暮らしを維持する者達は地球に残してよい。私は地球に住まう連邦市民を散々、愚昧、愚かなと蔑んではきたが、別に根絶やしにしたいわけではない。

 人間一人を育てるのにもどれだけのコストがかかることか。人間という資材もまた有効に活用すべきだ。地球を再生させ、人類の生存領域を広げるには、現在の人口でも人手は足りないくらいなのだよ。そうは思わないか?」

 

「なるほど、それがギレン・ザビの思想か。スペースノイドの独立やザビ家による地球圏の支配も、最終的な目的ではない。人類をさらにその先へと進ませる為の手段に過ぎないとは」

 

 キャスバルに対し、これで満足かと言おうとしたギレンは部屋の外から届いたオリヴァー・マイの言葉に、プライベートな対話の終わりを意識した。

 ここまでだ、と手を振ってキャスバルに伝えれば、キャスバルもまた同意して、再びジオン軍人へと意識を切り替える。

 キャスバルが入手してきたV作戦の成果に対する評価について、これからギレンに報告が成されるのだ。




次回、V作戦への突っ込み。
正直、ガンタンク以外はコストが高いくらいしか思いつかないです……

追記
三機共通のコア・ブロック・システムと運用に専用母艦が必要となる運用コストと、うーん、後は、うーん、といった感じです。なんとかひねり出そうと思います。
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