原作よりも低能なギレン・ザビ 作:スカウトマニア
・規格統一指示により統合整備計画を開戦数年前に実行したのと等しい効果が発生
・ムサイ級軽巡洋艦が当初から後期生産型仕様へ
・シノーペ級宇宙哨戒艇Verジオン公国の建造
・サブフライトシステムの開発(宇宙版ド・ダイ?)
・モビルポッド・オッゴの開発前倒し
今日も今日とてギレンは仕事に忙しい。この時期のギレンにとって仕事は使命であり、義務であり、生きる意味でもあったから。
仕事をしていない時間はないと言ってもいいかもしれない。
本日のギレンは弟ドズル他、評価している有能な将校らと共にグワジン級の艦橋より、演習の様子を観戦中であった。
地球連邦の目から隠れて行うものであるから、規模は決して大きくはないが、気合の入った内容である。
「現状、彼らが我がジオンの上澄みか」
「MSの教本づくりを担う連中だ。最ベテランかつ最精鋭といったところだな」
「同量の黄金よりもはるかに貴重な人材だ。十分に働かせ、十二分に休ませ、無駄に浪費するなよ、ドズル」
「分かっているとも。兄貴、いやギレン総帥こそ仕事の虫だと耳にしている。ご自愛なされよ」
部下達の手前、あまりに兄弟関係を前面に出したやり取りはよくないと、ドズルが口調を改めるのに、ギレンは特に表情を変えなかったが親しい者でないと分からないくらいに目じりを緩めた。案外、身内には情のあるタイプなのかもしれない。
「自分の限界は心得ているとも。MSと彼らがジオンに勝利と自由を齎すと期待できるものか、じっくりと見させてもらおう」
艦橋の大スクリーンに映し出されているのは、複数のザクⅠによって行われる模擬戦やMSとの連携を行うムサイ級、チベ級といった艦艇だ。
ギレンの素人意見を元に急遽介されたサブフライトシステム──平べったい円盤のような武装輸送機エン・バンのグリップを手放し、加速を上乗せしたザクⅠ達が仮想敵を務める宇宙戦闘爆撃機ガトルへと襲い掛かる。
ザクⅠの武装は120mmマシンガン、280ミリバズーカの二種がテストされていた。当初、マシンガンは円盤型のドラム・マガジンを右側面に縦に配置されていた。
これはザクⅠの肩関節の自由度の限界を考慮したものだったが、その所為でマシンガンを構えるのにマガジンを一度外さなければならないという、余計な動作を強要される課題があった。
ミノフスキー粒子で従来の誘導兵器の類が無力化されるとはいえ、地球連邦の戦闘機や艦艇との戦いは物量で劣るものとなる。
常にこちらよりも多くの敵との戦いを強要されるケースが予想される中、無駄なモーションは削るべきではないか、とギレンが疑念を抱くのはもっともであった。
280ミリバズーカにしても、この宇宙世紀時代に弾倉なしの先込式である。弾倉なしで二発目以降はどうするのだ。
実弾とビームの飛び交う戦場で弾頭をむき出しで携行するのか? 常に予備の弾を持たせた輸送機を随伴させるのか?
シミュレーター上でバズーカが弾切れした際、テストパイロット達がこれを投げつけるか鈍器代わりにして貴重な資源をスクラップにする例が複数挙げられたのも、ギレンの疑念を深めた。
その結果、バズーカは五発入りのカートリッジ式となり予備弾倉の携行も可能となった。仕様変更のしわ寄せが各メーカーに来たが、従来の仕様で本格的に製造を開始する前だったのは、せめてもの救いだったろう。
ただし核弾頭を使用する際、炸薬の反動によって肩関節に生じる負荷を軽減する為に、専用のバズーカ・ラックが必要となったのは、原作と変わらなかったが。
「そういえばドズル中将。ザクだが仮に手持ちの弾薬が尽きた時、攻撃するにせよ自衛するにせよ、無手となるのか?」
「今のところ、実戦での武器はあのマシンガンとバズーカが主なものになるでしょう。他にも試作段階のものが提案されていますが、メインとなるのはあの二つとその発展形になるかと」
現段階ではMSそのものが手探り状態というのもあり、武装が生身の歩兵のそれを参考にしたものが大多数を占めている影響だろう。
「かつて私はMSを機動歩兵と評したが、歩兵とはいえ当然、生身の人間とは違う。歩兵は艦艇を沈めはせんが、MSにはサラミスやマゼランといった艦艇の相手をしてもらわなければならん。ルナツーやジャブローといった要塞への突入を命じる場面もあろう」
「総帥は弾薬の補給が困難な場面があると考えておられるのか?」
察しが良いのは助かるが、この畏まったドズルの口調は、どうにも慣れない。ギレンは弟にいつもの口調に戻すよう伝えるか迷いながら口を開いた。本来のギレンよりも低能とはいえ、迷いながらとはギレンには珍しいことである。
「うむ。MSが作業用重機の流れを汲むと考えれば、資源採掘用の装備を転用することで開発期間を短縮し、格闘戦や接近戦用の装備を開発できるのではとな。
生身の歩兵もナイフやシャベルは扱うだろう? 単純にそれをMS用にリサイズするだけならもっと簡単だろうが、なに、ただの思い付きだ」
兄の思い付きにドズルは腕を組んで考えを巡らせた。この兄の思い付きや素人質問は的を射ていることが多い。
「いや、価値のある意見だ、です。あるいはメーカーの連中が既に開発計画をまとめている可能性もある。俺の方からも問い合わせておきます」
「よろしく頼む」
後世において、ザクの格闘用武器と言えばヒート・ホークであろう。
高温の刃で対象を叩き斬るないしは破壊するこの武器は、本来、ザクⅡの完成以降に開発終了するものだから、原作でもザクⅠがロールアウトした時点ですでに開発が進められていてもおかしくはない。
それでもギレンとドズルのジオン公国軍のトップ二人からの問い合わせとなれば、開発速度と開発優先順位は否応なしに増すというもの。実際、この後にザクⅡのロールアウト時点でヒート・ホークは完成を見ることとなる。
とはいえそれは未来の話である。現在のギレンの目には彼の素人意見を受けて設計を変更したムサイ級の姿が映っていた。
流石に大幅な船体の変更は難しかったものの、MSデッキを整備スペースに変更して、その左右に電磁リニア式カタパルト付きのMSデッキを備えた。メガ粒子砲と対空(対宙?)機関砲の増設により、武装面の死角はなくなっている。
ジェネレーターの負荷増加に対応する為、船体左右側面に放熱板が三枚ずつ追加されるなど、原作におけるムサイ級の後期生産型の仕様を先取りしたものとなった。
工程の複雑化はコストと建造時間の増加を齎したが、接近してきた対MS・対突撃艇への脆弱さを補い、撃沈に伴う戦死者増加を防ぐ為には必要なコストだとギレンは許容している。
これは開戦前の物資と人員にまだ余裕があるからこその判断だったかもしれない。実際に開戦し、地球連邦の大反抗を受けて追い詰められれば、また話は別だったろうか。
「ギレン総帥の意見を反映させたムサイ級だ。サラミスなんぞ敵ではない。マゼランは流石に荷が重いがな」
ムサイを見るギレンをどう捉えたのか、ドズルは口調をいつも通りのものへと崩し、ガハハとその外見通りの豪放磊落に笑う。口調が砕けたのは無意識なものだろう。
「やはりお前はその方がらしいな、ドズルよ」
「そういえばこのグワジンにもギレン総帥は色々と意見を出したな」
グワジン級大型戦艦。ジオンを象徴する存在であり、単なる戦闘艦ではない。地球連邦軍のマゼラン級と共に、チベ級を戦艦から重巡洋艦へと格下げさせた高性能艦でもある。
マゼラン級すら凌駕する火力、装甲、航行能力、またMS運用能力も備え現時点から数年に渡り、宇宙戦艦としては最強を誇るといっていいだろう。
優美にも感じられるこの艦はザビ家かそれに準じる人間のみに与えられ、多くても十隻前後と予定されている。
だがこのグワジンも悲しいかな、設計当初は欠点があった。三基の砲塔を備えているのだが、一番と三番の砲塔が同じ高さにある。そして二番砲塔は船体中央のくぼんだ所にある。
そう、くぼんだ所にである。これで砲身を正面に向けて撃とうものなら、艦橋を撃ち抜くのだ。このせいで真正面に向けて三基の砲塔は一斉射撃が出来ない。後ろにも撃てない。
船体下部の両側面に配置されたメガ粒子副砲にしても、上部の甲板がせり出している所為もあって、そのまま真横ないしは下方にしか撃てない。
船体側面を向けての撃ち合いが主流ならば、この配置でもいいかもしれない。しかしながら宇宙世紀における艦隊戦というものは、被弾面積の少ない正面から向かい合っての撃ち合いである。
それを分かっている筈なのに正面に向けて最大火力を叩きつけられない砲配置とは? ギレンが首を捻るのも当たり前の話であった。
一応、155mm連装機関砲を多数搭載しているので、ムサイと違って懐に潜り込まれてもまったく無力でないだけマシだった。
完成予想図を見せられた時、どこにもその連装機関砲は見当たらず、格納式なのかとギレンは不思議に思ったものだ。
むき出しのエネルギータンクといい、公国の威信をかけて設計されたはずのグワジンに、ギレンは本当に大丈夫なのかと一抹どころではない不安と疑念を抱いたのが、グワジンの建造が始まる前、かれこれ数年前の話となる。
結果としてグワジンはエネルギータンクを内蔵し、主砲と副砲を正面に全力投射できるよう配置変更を行い、大気圏突入並びに大気圏内飛行能力は不要、宇宙での運用を大前提として再設計が行われた。
結果として現在のグワジンは船体中央の窪みをなくした流線型のフォルムとなり、主砲、副砲とも配置が見直され、155mm連装機関砲も目に見える形で搭載されている。
大まかなサイズや搭載可能なMSの数に変更はないが、より戦闘艦としてブラッシュアップされたと言えよう。
それでいて赤いカラーリングと優美なシルエットは残されており。合理性と機能性を追求した艦とはまた異なる魅力が備わっていた。
ギレンは艦隊戦のプロフェッショナルではない。
艦隊指揮のエキスパートではない。歴戦の大砲屋でもない。
しかし、そんな自分でも思いつくような疑問には、きっと正当な理由があるのだろうと質問することはできる。
ギレンとしてはこれまでのムサイやザクにしても、変更を強要したつもりはなかった。
ただ疑問とそれに対する自分なりの所見を述べて、納得のゆく説明が欲しかったのである。
ところが現実には説明はなされず、ムサイもグワジンもその形を変えてしまった。
(……これからも確認を怠ってはならんな)
少なくとも傍目には満腔の自信をもった振る舞いを見せるのが、指導者としては肝要なのだが、心の内はどうしても自信満々になれないギレンである。
本当に大丈夫か? この考えが常に心の中にあるのだから、そりゃあ、不安にもなるというもの。果たしてジオン公国の未来は明るいのか暗いのか。ギレンは自分の両肩に宇宙の重みを感じるのだった。
調べてもいつ開発されたのか分からないものもあって、時系列がおかしいところもあると思います。