原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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自身を絶対視していないギレンは有能な妹に相談することにした。


なぜ、砲塔が分離するのだろうな

 MSが開発される以前からジオン公国は地球連邦政府との独立戦争を想定し、地球侵攻作戦に向けて多くの兵器を立案、試作、廃案としてきた。

 すべてがギレンに報告されるわけではないが、ひと際注目されながらも、なにかしらの欠陥によって没案となったものについては、報告させるようギレンは注文を付けていた。

 そうした採用・不採用された兵器の中には、同じスペースノイドのギレンにしても、どうしてこうなったのかと、不思議になるものもある。

 

 サイド3の執務室にて、ギレンは妹キシリア・ザビ少将との会談を終えたところであった。室内に秘書も護衛も居ない二人きりである。

 ジオン公国の諜報機関の長を務めるキシリアの情報網は有用で、地球連邦との諜報戦において彼女は欠くべからざる人材だ。

 ギレンは労いもかねて妹の為に手ずから淹れたコーヒーを飲み終えると、ほっと一息吐いた。

 

「兄上、いつまでそのコーヒーを飲まれるのです? お世辞にも健康に良いとは言えません」

 

「なに。ジオンが地球連邦から輝かしい勝利を得るまでの間だ」

 

 他人の目と耳がない場であるから、キシリアは常に着用しているマスクを降ろし、ヘルメットも外した軍服姿だ。その手元には空になったコーヒーカップが置かれている。

 キシリアは浅煎りのブラックだが、ギレンが飲んでいるのは冗談のように濃いコーヒーと等量の砂糖を入れた、真っ黒いコールタールのように粘っこいものである。

 大量のカフェインと砂糖を摂取する為のもので、エナジードリンクみたいなものだ。

 ギレン曰く脳が疲れている時には、これが一番効果的かつ健康的だと言うが、キシリアはあまり信じていない。

 ギレンはコーヒーポットを手に取って、妹に視線を向けた。

 

「二杯目は?」

 

「いえ、十分に堪能しました。……地球侵攻作戦はやはりMSを主軸に据えるものとなりましょうな」

 

 二杯目を断られて、ギレンは少しばかり残念そうに眉を下げてコーヒーポットを元の位置に戻した。こういう対応が出来るのは身内くらいのものであった。

 

「ああ。地球の重力を知らぬ我々の開発したMSを地球で運用することへの懸念はあるが、ジャブローの攻略を思えばやむを得ん。そういえばキシリアよ、地球で運用する為に開発された戦闘車両と戦闘機について、報告を受けているな?」

 

「ええ。マゼラ・アタックにドップでしたか。重力下のMSは宇宙のような機動を行えません。ただの陸戦兵器へとなり下がります。特に航空戦力相手には圧倒的に不利であると予測されていました。

 その為に我々もまた地球での運用を前提とした支援兵器の開発が必要というのは、十分に説得力のある提言でありましょう。兄上もだからこそ計画を承認され、成果も出ているのです」

 

「うむ。私も必要な計画であると認めた。そしてこれが出来上がったものだが」

 

 ギレンはアナログだからこそ安全なプリントアウトした資料を、キシリアへと差し出した。それをキシリアは手に取り、素早く目を通す。

 兄のような弟のようなドズルからも、独立戦争に向けた兵器開発において長兄の素人質問は意外と役立つから耳を傾けるといい、と連絡を受けている。

 キシリアは心持ち姿勢を正して、ギレンの意見を拝聴することとした。

 

「なぜ、砲塔が分離するのだろうな。マゼラ・トップとマゼラ・ベース。これまでの戦車の概念を覆す画期的な戦車といえば戦車だが、画期的であることが有用性を意味するわけではなかろうよ」

 

 ザクとの連携を前提として、支援する為の戦闘車両としてマゼラ・アタックは設計されている。

 地球連邦軍の陸の王者61式戦車を撃破しうる175mm砲は良い。素晴らしい威力だ。例えザクでも関節やバックパック、コックピットに直撃を受ければ、一撃で大破・撃墜もありうる。

 

「これまでに開発された戦車を調べてみたが、砲塔が旋回しないのではこれは自走砲と言うべきではないのか?

 また車高も随分と高い。13.4mもの車高は有視界戦闘での有用性はあるが、それ以上に被弾面積をあまりにも広げ過ぎているように見える。流石にザクの三分の二もの車高はな……

 ザクとの連携なしに61式と撃ち合う事になれば、マゼラ・アタックは撃ち負かされるのではないかと思えてならん」

 

 資料に記載された61式戦車との比較図を見ても、車高の差は歴然である。的が大きければ大きいほど当てやすい、とは子供でも分かる理屈だ。

 ギレンの言う通りマゼラ・アタックは主砲の口径以外、61式戦車に勝る部分はほとんど見受けられないかもしれない。

 

「分離機構の搭載により、主砲を備えたマゼラ・トップが即席のVTOL機として機能できます。戦車と航空機としての特性を併せ持つのは、利点では?」

 

「キシリアよ、自分でも疑っているのに無理に擁護するものではない。分離した後、残されたマゼラ・ベースには機関砲しかなく、マゼラ・トップにしても万全の状態での飛行時間は五分。

 この形状では空中での砲撃精度も望めまい。砲撃の反動にとても耐えられるような構造と推力ではない。これならば61式戦車をコピーした方がマシなのではないかと思えてならん」

 

 ギレンの言う事はキシリアにしても反論の難しいものであった。ギレンの危ぶんでいる場面をいとも簡単に思い描ける。

 高すぎるくらいの車高もまったく利点が無いわけではないし、マゼラ・トップもいざという時の脱出ポッド代わりにもなるのだが……

 

「飛行時間の短さは、マゼラ・トップのテストチームがコロニー内部での試験と地球での運用を同一視した結果、生じた誤算である可能性は考えられませんか?」

 

「遠心力で疑似重力を働かせているコロニーの中心部は無重力に近い。コロニーの空が地球の空とは違うのだと、まさか気付かなかったというのか? もし本当ならば……」

 

「むろん、推測に過ぎません。ですが重力下での兵器運用に必要となる知識が、我らにはあまりにも少ないのは事実。その中で多くの間違いや想定外の事態は発生しうるかと……」

 

 どうして私が擁護しているのか、とキシリアは思いながら、考え得る可能性を口にし、ある程度は納得のいったギレンは椅子に背を預けた。

 

「しかし、ツケは兵士達がその命をもって払う。そのようなツケは可能な限り防ぐべきだろう。今一度、それこそ旧世紀の資料であろうとかき集めて、再度の検討を促すか。

 マゼラ・アタックもそうだが、ドップも地球連邦の運用している航空機との形状の違いは、自分の目を疑うものだぞ。

 飛び出たコックピットと広いキャノピーは視界を確保する為だろうが、こんな姿の鳥が地球には居るのか? 航空機を作る時、空を飛ぶ為に進化した彼らの姿に似ることはあっても、かけ離れることはないと思うのだが……」

 

 ジオンにとって最良はジャブローの電撃的制圧であり、その他の地域での戦闘は可能な限り避けるべきである。

 これはジオン軍人の共通見解と言っていい。宇宙は彼らの庭だが、青く輝くあの水の星は彼らにとって未知の蠢く世界なのだ。

 

 これまで何度も繰り返し述べてきたが、この世界のギレンは自らの能力に絶対的な自信を抱いていなかった。自分が認可した作戦には全ての責任を負う覚悟はあるが、それはそれとして疑問は抱くもの。

 万が一、地球侵攻作戦が想定通りに行かず、例えば原作のような第一次~第三次地球降下作戦を実施しなければならないケースを想定し、地上用兵器の開発を命じていた。

 

 ドップは本来、開戦後の地球降下作戦の実行に際して、急遽、データの足りない状態のままコンピューターのシミュレーションデータを頼りに、宇宙世紀79年3月に完成を見る戦闘機だ。

 MSや艦艇開発のリソースを割いてしまうデメリットはあるが、このギレンの決断によってマゼラ・アタックやドップは原作と比べて早期に開発が進められていた。

 しかし、原作という比較対象を知らないギレンやキシリアからすれば、重用している技術者達から提案されたマゼラ・アタックやドップは、地球素人である彼らからしても本当に大丈夫か、と心配になってしまった。

 

「……MSは大丈夫だと思いたいが」

 

「少なくとも宇宙での運用に問題はありますまい。ミノフスキー粒子散布下で、あれほど有用な兵器が他に存在しないのは間違いありません」

 

「だが決して最強の兵器が無敵の兵器を意味するわけではない。MSの運用に関しては、やはり慎重に慎重を重ねて行うべきだろう。安易にMSさえあればあらゆる局面で地球連邦軍に勝てるなどと慢心が広まっては、要らぬ流血を兵に強いることになる」

 

「しかしMSは兵達にとって、いえ軍部にとって拠り所でもありましょう。兄上のお考えは私も理解いたしますが、戒めるにせよ加減はしなければなりますまい」

 

「悩ましいことだな。MSを妄信されては困るが、さりとて信頼を失われても困るとは」

 

 そしてそのMSを支える支援兵器は、どうにも怪しいと来ている。これではさすがのギレンもただでさえ厳つい顔の眉根を寄せて、渋面を作っても仕方なかったろう。

 




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