原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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原作比低能なギレンは弟と妹にどう思われているのか


「ふふふ、やはり我がジオン国民は優秀ではないか」

「また兄貴が“なぜなに”をやらかしたな」

 

 ドズルはジオン宇宙軍のとある司令室にて、顔を合わせたキシリアに面白そうに話しかけた。兄のギレンがまるで小さな子供が『なんでなんで』と質問を重ねるように、周囲の者に疑念を吹っ掛けるのを揶揄っている。

 キシリアはついこの間、自分もその疑問に付き合わされたのを思い出し、はあ、とため息を漏らして巨漢の兄に同意する。世界によっては兄と姉の入れ替わる二人だが、この世界ではドズルが兄で、キシリアが妹らしい。

 

「周囲を頼っている証拠ではありますが、ギレン兄上はご自身の立場が周囲にどれだけの影響を与えるか、いささか無自覚であらせられる」

 

「子供の頃から変わらん。お陰で技術者達にはいい刺激にはなる。多少、胃を痛める結果に繋がっているのは気の毒だが、それだけ兄貴の指摘はもっともな部分もある」

 

「ですが、ギレン兄上の指摘に対応する為にある程度は進んでいた計画を見直し、リソースの再分配を行う為にタイムスケジュールが遅れている事実は問題でありましょう。ムサイも性能の向上にはつながりましたが、建造コストと建造時間の増加もまた事実です」

 

「それで兵の生存率があがるのなら許容範囲と俺もお前も認めたことだろう。兄貴としては疑問に対して納得の行く説明が返ってくると思って、口にしているだけなのだがな」

 

 ギレンへの擁護を口にしてから、ドズルはキシリア付きの秘書が用意したコーヒーを味わう。

 スペースコロニーで生産される食物は、あらゆる品が地球産に劣ると言うが、密閉式コロニーを採用しているサイド3は大気の環境が悪く、ひと際不味いとされる。

 とある世界ではウォン・リーがカイ・シデンに、パーティーの会場でコーヒー以外に口を付ける気にはなれないと語ったが、コーヒーだけはまだマシなのだった。

 

「ギレンの兄上にとって専門外の分野であるとはいえ、部下達の能力の把握が行えていないとも言えます。自分だけで完結して物事を進めないのは、我々にとっても助かる場面はありますから、一概には否定できませんが……。

 特に連邦との戦争に向けて兵器開発や作戦の提言、立案の増える昨今では“なぜなに”の頻度が増える分、悪影響が増える可能性も増しますから、手放しで歓迎は出来ません」

 

「今は“なぜなに”から“なぜなにどうして”くらいに頻度が増えているのは、俺も認める。全てが怪我の功名とばかりに良い影響を与えてくれるならいいが、悪い影響を与える可能性も増えるか。留意しておこう」

 

 ドズルはギレンの疑問に思ったことを周囲に素直に尋ねる性質を好ましく思っているが、この智謀に優れる妹の異なる視点もまた信頼し、重用していた。

 

「まあ、実際に機体を預かる兵達にしてみれば、機体の本格量産に入る前にコックピットのレイアウトや弾薬、部品の共通規格化が成されたのは幸いだったろうよ。

 280mmバズーカの砲弾が欲しいのに、現場にあったのは別の規格の砲弾だったなんてケースがあっては、笑うに笑えん」

 

「各メーカーに共同開発を命じた件ですか。我がジオンの工業力を無闇に割くわけにもいかない以上、必要なことだったでしょう。

 とはいえジオニックにしろ、ツィマットにしろ、社内での独自開発まで禁じているわけではありませんし、ある程度はコンペティション形式を認め、競争力と技術開発の促進を促す余地は残すべきです」

 

 なおツィマットだったりツィマッドだったりするメーカーだが、この世界ではツィマッ『ト』で通っている。

 キシリアの言う独自開発について、ドズルはピンと来るものがあって、太い顎を撫でながら口を開く。ちょっとしたコンクリートや石ころなら噛み砕けそうな顎だ。

 

「ツィマットのヅダか。あれもザクⅠに勝る性能は認めるところだが、一定のラインを超えたら加速を止められないエンジンとコストを改善しなければ、どうしようもあるまい」

 

 ヅダ。それはザクⅠと同時期に開発され、採用試験で鎬を削ったツィマットの機体だ。総合性能ではザクⅠを凌駕しながらも、コスト1.8倍という問題に加え、試験中にエンジンが暴走状態に陥り、機体の強度不足から機体が空中分解し、パイロットも死亡という事故を引き起こしている。

 十機のヅダで十八機のザクⅠが作れるコストもさることながら、この事故がエンジンの突発的なトラブルではなく、そもそもの仕様だったというのがひどい。

 

 この時期、既にザクⅠの後継機ザクⅡの開発が終了し、生産が始まっている。ジオニック単独ではなく各メーカーのスタッフと技術力を動員されており、ザクⅠから得られた知見を活かした主力兵器である。

 このタイミングでヅダが欠点を克服して生まれ変わったとしても、生産ラインを今から変更するのは極めて非効率的だった。

 

「それでもまだ諦めていない者達がツィマットには幾人かいるようで。ザクと同程度のコストでエンジンの問題が解決し、ザクと異なる長所があればまだ陽の目を見る機会もありましょう」

 

「予定通りジャブローを制圧出来たら、出番はなさそうだがな。しかし、戦後もMSの開発は続くだろう。

 国力ではるかに劣るジオンが地球連邦を打倒した原動力がMSと分かれば、地球連邦は勿論、他のサイドも開発を進めるのは分かり切っている。連邦に同じ土俵に立たれれば、ジオンに勝ち目はなくなる」

 

 地球連邦の国力はジオンの三十倍とされる。仮にジオンが独立戦争に勝利したとして、宇宙を制圧し、他のスペースノイド達の事実上の盟主となれば、国力差も大きく埋まるが、さて。

 

「木星と月から採掘されるヘリウム3を独占し、連邦を地球に封じ込め、MSの技術において十年、二十年先を行き続けること。そしてMS以外にも有力な兵器の開発。これらを成さねば例え独立を果たしたとて、いずれ連邦に再び屈するだけです」

 

 キシリアの冷厳な分析にドズルは腕を組んで頷く。おおむね、キシリアと同じ見解であった。独立戦争の勝利は当然だが、その後についても考えるべき立場にザビ家の人間達はある。

 地球連邦に二度と立ち上がれないほどの打撃を与え、瓦解させられれば理想的な展開だ。

 手っ取り早いのは地球連邦の宇宙軍を排除し、地球に核ミサイルや隕石などの大質量を雨あられと降らせて、住人ごと星そのものに壊滅的被害を与えること。

 

 ただし、今もスペースコロニーにとって、地球の水と酸素は重要な物資であるし、地球を神聖視するスペースノイドや月の住人ルナリアンの思想もあり、地球そのものに大打撃を与えるプランは国内でも意見が割れる劇物だ。

 実行にあたっては情報統制を含めて、慎重を期さねばならない。そしてジオンではそういったプランが複数提案され、幾通りものシミュレーションが重ねられている。

 倫理的には実行せずに済ませたいプランばかりであった。どれも実行すれば億単位の死者を出し、人類史上最大の自然破壊を引き起こすものだから。

 忌避の念が滲んだからか、ドズルは話題を変えた。

 

「MIP社のX1を発展させた機体の開発も、連邦に先んじる為の一環だったな」

 

 汎用人型兵器であるMSと違い、作業ポッドと宇宙戦闘機を融合させたかのようなX1は、原作においてザクレロ、ビグロといったモビルアーマーの始祖となる存在だ。

 MSとは異なる適性を求められるこの兵器群は、基本的にMSを上回る速度と火力を備え、対艦攻撃に特に威力を発揮する傾向にある。

 MIP-X1を始祖とする新カテゴリの兵器開発についてはキシリアも知っている。

 独立戦争が開幕した際、月のグラナダ市を始めとした月面都市の制圧もプランに含まれていて、その為の兵器開発には後にMAと呼ばれる兵器の技術も組み込まれている。

 

「MSの支援兵器としてはオッゴやガトル、ジッコがありますが、あれらは既存の兵器と大差はありません。どこまでの物が出来るかは未知数ですが」

 

「妙なものが出来上がれば、またぞろ兄貴が質問を重ねてくるぞ。兄貴と一緒に報告を受ける時は、予めカンペでも作っておくか」

 

「余計な準備の手間が増えるのも、ギレン兄上の質問癖の悪影響ですな」

 

 嘆息するキシリアに、ドズルはまあ、そう邪険にするなと笑ってフォローを入れるのだった。

 弟と妹に呆れられているとは露とも知らないギレンは、ズムシティの執務室から外を眺めていた。

 採光ミラーによって太陽光を取り入れる開放型コロニーと違って、密閉式コロニーでは人工的に再現された太陽光が市街を照らし出している。

 

 太陽光はコロニーにとって重要な電力源の一つだ。太陽の生み出すエネルギーの莫大さは、宇宙に住む人々にとって生命線の一つである。

 ギレンとしてはこの太陽光も来る地球連邦との独立戦争に活かせれば、と頭の片隅で考えていた。具体的な案はとくに浮かんではいなかったけれど。

 

「オッゴの武装案か。やはり専門家の意見は有用だな」

 

 後ろ手に手を組み、行き交うエレカ(電気自動車)の列を眺めるギレンは、先ほど、報告を受けた一件について感心していた。

 ザクとの武装共有化を行っているオッゴだが、その性能からしてザクと同じレンジでの戦闘は、大きく被害を受ける可能性が指摘され、ザクを後方から支援できるよう改善する案が出されたのである。

 

 具体的には昨今、注目の的となっていたマゼラ・トップの転用だった。

 現在、MS用の火砲として新たな道を得たマゼラ・トップだが、この175mm無反動砲をオッゴにも搭載できるようにジョイントないしはコネクターの開発が提案されている。

 モビルポッドもまた未知の新兵器ではあるが、MSよりはまだ馴染みのある方だ。

 四肢の移動によるAMBAC機動がMSほど行えるわけではないし、戦闘機に間合いに入られれば回避運動は困難である。

 またオッゴによる対艦攻撃は想定されていなかったし、MSの支援を行う上ではMS以上の長射程武器によって、後方からの支援に徹することにより、人命と戦力のいたずらな損耗を防ぐ、と報告書は締め括られていた。

 分かりやすく言うとオッゴのボール化である。

 

「ふふふ、やはり我がジオン国民は優秀ではないか」

 

 ギレンはこれまでの自国に対するちょっとした不安が払しょくされて、これからも遠慮なく質問を出来ると、一人安心するのだった。

 これから後に開発される月面戦を想定した玉ねぎ型機動砲台ルナタンク、ジャブローの早期制圧が失敗した場合に備えた地上用MS、またザクレロ、アッザム、ビグロといったMAに、ガウ攻撃空母やギャロップ、ダブデなどの陸戦艇。

 原作では存在したが、それらが果たして仕様をそのままに開発されるのか、そもそも開発自体あり得るのか。それは神ならぬギレンには分からぬことであった。




偉大な先達が多すぎて、悩ましい限りです。
あんまり長引かせてもアレなので、そろそろ開戦したいところです。

日刊ランキング1位達成! いや、本当に? 目を疑いました。
ご愛顧ありがとうございます。誤字脱字の見落としが多くて申し訳ありません。
感想と評価ありがとうございます。やる気を燃やす薪になっております。
これからもよろしくお願いします。
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