原作よりも低能なギレン・ザビ   作:スカウトマニア

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ギレンの質問に答える為、わざわざ新たな部署が用意された。


なぜ急に北欧神話の怪物の名前が?

 人類の歴史を振り返れば素人の浅知恵が、時に有識者達の知的盲点を突き、思わぬ結果をもたらすことをギレンは知っている。

 とはいえ、そんな博打が毎回成功するわけもないと、自分の閃きについては毛筋程度の期待しかしていないけれど。

 この時、ギレンが目を通していたのは全長二百メートル超の砲身をもって、核融合炉を利用してプラズマビームを発射する試作艦隊決戦兵器『ヨルムンガンド』。

 

 ミノフスキー粒子散布下で有効射程300kmを誇り、地球連邦の主力戦艦、武力の象徴たるマゼラン級を一撃で撃沈せしめる大火力兵器だ。

 ただその長射程に相応しい観測機器を持たない為、長距離射撃を有効に用いる為には友軍からの座標伝達を必要とし、あまりの巨体ゆえ複数のブロックに分解後、戦場に輸送してから組み立て直すなど欠点もある。

 

 MSでも撃沈は容易ではないマゼラン級を射程外から一方的に叩ける破壊力は魅力的であるから、前述の欠点も許容範囲とギレンは考える。

 しかしそれに続く欠点がヨルムンガンドを試作の域から出さず、半ば倉庫の肥やしと変えていた。

 砲撃ごとに砲身が加熱してしまい、冷却に手間がかかって連射が出来ない。これはまだいい。流石に交換に一日、半日と時間がかかるわけではないからだ。

 

 MSに見込まれる有用性により、その価値を大きく下げたヨルムンガンドだが、なにより問題視されたのは一発ごとにザク三機分のコストがかかる点にあった。

 一発、一発につきだ。ヨルムンガンド一機を製造するのにザク三機分だったらむしろ安いがそうではない。

 

 長距離射撃しか出来ないヨルムンガンドに対して、ザクは艦隊戦によし、要塞戦によし、パトロールをさせてよし、なんなら重機として作業させてもよしと用途は多岐に渡る。地上でだって使えるのだ。

 MSの有用性が謳われる以前の代物とはいえ、よくも製造まで行ったものである。ギレンはヨルムンガンドの各種データを灰色の脳細胞に刻みながら、ふとした疑問を口にした。

 

「ザク、チベ、ムサイ、グワジン、パプア、パゾク、ガトル……。なぜ急に北欧神話の怪物の名前が?」

 

 これまでのジオン公国のネーミングセンスとは明らかに異なる。開発チームに北欧系のスペースノイドが居たのだろうか?

 世界を飲み込む大蛇の名前を冠するに相応しい破壊力ではあるが、現在の状況と照らし合わせれば戦場にすら立てない。

 

「射程300kmか。ミノフスキー粒子散布下では破格の射程だが……マゼラン級を一撃で沈めるだけでは、コストと釣り合わん。艦隊決戦よりも固定目標、ルナツーへの攻撃に用いるか。熱核融合炉を砲弾代わりにする以外の方法が見つかればよいのだが」

 

 核融合炉をプラズマ化させる、という方法が高コスト化の原因である。

 ならば他の艦艇のように二百メートルの砲身からメガ粒子の砲弾を撃ち出す、巨大砲艦にでもした方がいいのではないか? なんなら旧式化したパプア級あたりを数隻接続させて、複数の熱核融合炉の大出力で撃ち出すメガ粒子砲はいかにも強力そうだ。

 ヨルムンガンド開発の過程で培われたプラズマ化とプラズマビーム技術は、他の兵器の開発に貢献しており、全てが無駄となっているわけではないが、これはお蔵入りするのも納得の仕上がりだった。

 

 ギレンは窓の向こうに降り注ぐ人工の太陽光を見ながら、なにか妙案はないものかと一人、頭を悩ませた。

 結局、その日、良い答えの出なかったギレンは詰め込みに詰め込んだ政務と軍務を片付けた後、親衛隊の技術職からザクⅡの正式採用モデルの報告を受けて、一日の締めとすることとした。

 

 原作においてジオンの親衛隊というと、キシリア管轄のジオン公国にとっての親衛隊と、ギレン総帥の親衛隊としての本国防空隊が存在している。親衛隊が二つあるという、問題しかない構造である。

 ではこの世界ではと言うと、公的にはジオン公国親衛隊のみが存在し、本国防空隊の中のごく一部がギレン付きの親衛隊扱いとして機能している状態にあった。

 ただでさえ地球連邦軍に数で劣っているのに、指揮系統を複雑化させて、軍内部の相互連携を阻害する真似はよくないと考えるのが、この世界のギレンだからだ。

 

 この世界のギレン親衛隊の内情は、ギレンの疑問に迅速に応える為の部署であり、原作のエギーユ・デラーズが隊長を務めた親衛隊と比較すると、極小規模のいわば総帥専用相談窓口である。

 窓際部署に近いが総帥と直接やり取りする部署でもあるので、一応、エリートと言えばエリートなのだが、断言はできかねる何とも中途半端な部署だった。

 

 人間の持つ能力を数値化したなら、この世界のギレンは原作のギレンよりも確実に下回る能力しか持たない。

 弁舌の巧みさや人心掌握術、カリスマ性においてこの世界の彼が原作のギレンに勝る点はまずない。

 

 そんなギレンであるから、原作ほどギレン個人に対して心酔、あるいは妄信する人々はほとんど存在していない。

 とはいえ相手はジオン公国軍総帥である。対応するジオン軍人にとって極めて名誉な職務であるのも、一応は事実である。

 その名誉とこの世界のギレンの能力値が合いまった結果、なんちゃって親衛隊の隊員は国家と軍、ギレンに対する忠誠心をほどよく併せ持っている。

 

 運が良いのか悪いのか、親衛隊所属の若き技術士官オリヴァー・マイは、緊張に身を浸しながら机を挟んでギレンの前に立つ。

 本来ならマイの上司、総司令部技術本部長のアルベルト・シャハト少将あたりが対応するべきなのだろうが、ギレンの疑念に即座に対応する為には現場を知る人間の方が効率はよく、ギレンの快諾もあって技術中尉でしかないマイが直に対応する事態となった

 

 ギレンの操作する端末の画面に完成したザクⅡC型の姿が映っている。

 ザクⅠに見られた問題点を改良し、右肩に固定式のシールド、左肩にスパイク付きのショルダーアーマーを装備。

 ザクⅠでは機体内部に収納していたパイプが機体各部に露出しているのは、防御力の低下や破損時の悪影響が心配になるものの、機体内部に余裕が増えたことで拡張性の向上につながっている。

 

「マイ中尉、新型ザクの右肩と左肩についてはキシリアからの提言による改良だったな?」

 

「はい。キシリア大佐より地球連邦軍がMSを開発した場合を想定し、格闘戦を考慮した結果の装備となります」

 

「右肩のシールドは固定式では然したる効果も望めないのではないか? また左肩のアーマーにしてもそうだ。MSとの格闘戦で使用するとなると、タックルするのか?

 MSという繊細な電子部品の塊で将来、出現するだろうMSを相手に加速をつけて左肩からぶつかってゆくのか? 機体もそうだがパイロットも無事では済まないように思える」

 

 マイはドズルやキシリアがそうしているように、ギレンからの質問を想定してあらかじめ用意していた答えを思い出しながら、持ち込んだタブレットを起動してギレンに画面を示しながら説明をはじめる。

 

「はっ。右肩のシールドですが宇宙空間で最適な射撃姿勢を取った場合、ザクは斜め前方に傾いだ姿勢となります。この姿勢ですとシールドの角が前に回り、傾斜をとることで跳弾による被害の軽減を目的としています」

 

 マイの持つタブレットの中で、姿勢を変えたザクに向けて戦闘機や艦艇からの機銃が放たれ、それを右肩のシールドが弾く予想図が映し出される。

 

「ふむ。シールドごと吹き飛ばされないのを祈るばかりだな」

 

「続きまして左肩のショルダーアーマーですが、ザクⅠ並びにザクⅡの実機を用いたテストでは数度であれば、機体に不具合は発生せず、パイロットへの負荷も許容範囲と結果が出ています。タックルにつきましてはあくまで他に手段の無い場合の非常手段とするべきかと」

 

「ふむ。ヒート・ホークが完成した以上、格闘戦におけるメインウェポンではないのなら、まだ納得は出来る。武装についても改良が見られるな。それにジオニック、ツィマット、MIPなど各社もよくやってくれたようだ」

 

 ギレンのザクⅡに対する率直な疑問は、とりあえずはコレくらいであった。ザク・マシンガンもドラムマガジンの縦付けから銃身上部へ横づけにする方式に変わっているし、280mmバズーカのマガジンの改良、マゼラ・トップ砲ならびにヒート・ホークも開発が終了している。

 ザクの開発元であるジオニック社、ヅダからも分かる推進技術に優れたツィマット社、後のMAの礎を築くMIP社、ザクの熱核融合炉を開発したZAS社、モノアイシステム開発に貢献したカノム精機やフェリペ社などなど。

 

 これらジオン国内の軍需企業がギレンの号令一下、機体開発を進めた結果、ザクⅡC型は原作よりも性能の向上が進み、放射能対策に施された複合装甲の除去などを行ったF型に至っては、原作における後期生産型F2型に近いスペックを持つまでになる。

 これは本来の時間軸よりも早く『統合整備計画』相当の影響が発生したためで、ギレンの質問が良い方向に作用した一例であった。

 

「時にマイ技術中尉。仮に設備の大きさやコストを問わないものとして、熱核融合炉の代替となりうるエネルギー源は何が思いつくかね」

 

「はい……総帥の言われる通りサイズなどを考慮しないのであれば、やはり太陽光発電かと。今もスペースコロニーを始め地球圏のエネルギーを賄う生命線です。密閉式コロニーである我々ジオンのコロニーにとっても、太陽光発電は命綱に変わりありません」

 

「君もそう思うかね。私の思い付きで君らに付き合わせるのはいささか気の毒だが、大昔にアルキメデスという人物がだな……」

 

 ギレンは学生の時分に見知った過去の偉人のエピソードを思い出しながら、目の前の哀れな子羊に自分の素人考えを相談し始めた。

 その成果をお披露目することとなる、ジオン公国が地球連邦政府に宣戦布告するまで、後……




突っ込みどころだらけだろうなあと思いつつ書いております。ソコも含めて楽しんでもらえたら幸いです。

この世界のギレンの親衛隊はショボいです。
IGLOOの第603技術試験隊よりは大きな部隊ですが、原作ほどの勢力は持たないイメージです。

ザクの左肩はどこまで有用なんでしょうね?
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