タツミと出会ってから約二週間の時間がたちました。
今、私は遅々として進まない
手元の薄荷パイプで何とか落ち着きを保っていますが気を抜くと飾付の邪魔をする両親を斬りに行きたくなります。
鼠が生きていなくては梟が来ない。そうでないならば、十一日前に行方不明にしています。
トスカーナ家の実権は手の内にありますから事故の一つや二つ簡単に。
あぁ、いけません。思考が殺す方向に向かってしまいます。
どうしましょうか。生きていなくて困るのに生きていても困ります。毒か何かで昏睡にするのは悪手ですし、かといって病に都合よくかけるには時間が足りません。
強者と戦えるのが嬉しくて舞い上がってしまいました。準備一つ満足にできない等貴族の名折れです。
しかし、何か妙手は
「……お嬢様。やっとお気づきに。先程からずっと声をかけさせてもらっていたのですが反応が御座いませんでしたのでつい語尾を強めてしまいました。どうかお許しを。」
執事長に声をかけられていたのに殺気をぶつけられるまで気付かないなんて。私はどうやら相当に余裕がないようですね。焦っていては良い考えなど浮かびません。紅茶でも頂きましょう。
「紅茶を」
「既に。それと、お嬢様は手が足りぬご様子でした故にミルクを呼び戻させていただきました。」
「ミルクを、ですか。彼女は地方の暗殺団を探っていませんでしたか。」
「当たりだよ!アリアお嬢様。貴女を笑わす百目相が得意なメイドさんだよ!!」
相も変わらず感情が振り切れたような喋り方。間違いありませんね。さて今回の姿は
「家に入りやすいのは分かりますが私の姿でその様な喋り方をされると何とも表現しがたい気持ちなのでやめてくださいませんか。ミルク。」
「えー。ま、嫌がられることは仲間にはしない主義だからすぐ戻るよ。三十秒下さいな。」
そう、ミルクが言い終わるとともにメキョ、ゴキと。関節を鳴らし。時折折り込みながら胴体の形を整え
「あまりじろじろ見られると気恥ずかしなぁ。よし!出来た。確かこんな顔だったよね。」
顔も成形して、人の手足に非常によく似た精巧な義手義足の長さを調整し終えれば、誰もが振り返る絶世の美少女の出来上がりですか。
「はぁ。口調を直しましょう。ミルク。お嬢様が寛容でなければ無礼討ちされてもおかしくないと常々。」
「はぁい。私も屋敷以外じゃわきまえるから。ねぇ、お嬢様。この顔どう思う。革命軍の幹部様がお気に入りの顔なんだよ。綺麗でしょ。」
「可愛らしさの方が表に出て、女性と言うには歳が足りてない。童顔だと思います。……幹部は幼女趣味だったのですか。」
「正解。アルミンみたいな
チョキン。とミルクは首の指差し笑う。耽美な夢を見せるのは彼女の得意とは言え、余程いい夢を見ていたのでしょうか。その幹部は。そんなことを考えながら彼女から報告書を受け取る。
「お疲れ様です。……どうやら家族の仇の居場所を。どうなさいます。」
「今更聞くまでもないでしょ。お嬢様のお願いが終えたら殺しに行く。出来ればお嬢様にご助力いただけたら嬉しいなぁ。ダメならアルミン誑かして盾に使うけど。」
「誘われたのなら私がどうするかはご存じでしょうに。後、アルミンは
「既に。」
銀盆の上に両親が乗っています。苦悶の表情もなく何が起きたかわからないといった表情。よかったです。仮にも血を分けられた身。無用の苦痛を与える不孝はしたくありませんでしたから。後でジャックには金貨を……ナイフの方が良いでしょうか。両方渡せば問題ありませんね。
「じゃあ、私はこっち。…………よし、お嬢様、お母様と呼んでもいいですよ~。髪の毛サラサラですね。羨ましいですか。ほら、胸もそこそこ。」
「人目があるところではそう呼ばせていただきます。このくせ毛についてはもう諦めています。胸は覚悟の上です。があまりそのことでいじられると手元が滑るかもしれません。」
お母様に代わったミルクに護身用の小脇差を見せる。
「愛でるべき小動物な私を睨まないでほしいなぁ~。あ、そういえば私の旦那様はエドさんのお人形かな。死臭が付くといやだなぁ。」
笑えない冗談です。死ぬこと前提ならブドー大将軍、エスデス将軍だろうと殺せるかもしれない化け物が何を言っているのでしょうか。
「馬鹿にしないでもらえますか。私の作る人形は生きてないだけで生者と変わりません。既に人形は出来ていますからご覧になりますかお嬢様。」
「執事長のお誘いは嬉しいのですが不要となった倉庫から使えるものを探してみようかと。」
「でしたら人を呼び集めて」
「倉庫を無かった事にする準備で手一杯でしょう。足軽を使えば人手もかかりません。飾付の為に人手はただでさえ足りていませんから。」
「ではお願い致します。お嬢様の手を雑事で汚さざるを得ない非才の身をお許し下さい。」
「独特な使用人を上手く使えている時点で十分に上手くやっています。エド・ゲイン執事長。」
「過分なお褒めの御言葉ありがとうございます。」
「悪いけど私はお風呂にでも入ってくるね。別段入ってきて押し倒しても構わないよ。好みの姿になってあげるから。なぁんてね。」
「死んでから誘ってもらえますか。マダム。わたくし、暖かい方を抱く気にはなれませんので。」
我が家の
「二年ぶりですか。」
死臭にむせながら一応生きている者が居ないかを探します。当たり前のように死体か間もなく死体のどちらかしかありませんが。
「よくもこれほどの手間暇を家畜にかけられるものです。限られた生を家畜苛めに費やすなど無益でしょうに。」
全く両親の趣味を理解できない。苦悩の梨なんて買うくらいなら美味しい茶葉か良く切れる刀を買う方がよほど人生に潤いをもたらすでしょうに。
死体の下腹部から出ている梨のリングを眺めながら使える道具と要らない死体を分別する作業の労を考え溜息が出る。いっそのことレイスに頼んで全部無かった事にしましょうか。それがよさそうですね。
「sa,mdx.」
か細い。本当にか細い声がその死体から聞こえました。
「何か言い残したい事があるなら聞いて差し上げますよ。家畜とは言え何かの縁です。」
とは言ったものの歯と舌がないので読唇術をするしかありませんか。
「mroongi.sk.tm」
「えっと、むらをおねがい。すき。タツミ。合っているなら口を開けて。違うなら閉じてください。」
どうやら、合っているようですね。それにしてもタツミですか。
「貴女の名はサヨ。もしくはイエヤスですか。タツミは客人として我が家に。村に対する仕送りも順調です。だから安心してお眠りなさい。」
「msnid.」
「あぁ。その様な無体な事はしませんよ。タツミの友人ですから墓くらいなら作って差し上げます。」
好きな方に窪んだ眼窩や引き伸ばされた手足等を見られるなんてそれこそ死んでも死にきれないでしょうに。
「argto」
そう最期に言ってそれきり。
気紛れに過ぎない事にお礼など要らないというのに。
……もしかしなくともこの中から見も知らぬ他人を探すのでしょうか私。
「永遠の眠りに就きたる彼らに幸いなる眠りと永遠の安息を。願わくは彼らの安息を妨げる事がないことを。」
持ち歩いている脇差で一息に墓碑銘を刻む。
『ここより見える星空に負けぬ美女が眠る。彼女は美しさから死神に好かれ、故に早く人生の幕を下ろした。』
『勇敢なるものここに眠る。彼の為に泣く事なかれ。彼は死を笑って受け入れた故に。』
本当に私には殺害以外の才能が有りませんね。
さてタツミに用事を済ましに行きましょうか
普通の倉庫にタツミは居ました。随分と多くの素材を持ってきて……。グリーンドラゴンの素材まであるのですが。最下級とは言え竜種を単独で狩りますか。本来であれば祝杯をあげるのですが。そういう気分にはならないでしょう。
「あ、アリア!見てくれよ。これだけ狩ったんだ。幾らになるかはちょっと分からないけど村の皆も楽になるよな。」
「タツミ。貴方に話すべきことが。」
「そんな真剣な顔をしてどうしたんだよ。まさか昨日の毒蛇が売れなかったとかか。」
「いえ、アスビスは市場に出すと大変なのでドクターが直接買い取りました。貴方に。遺言が。彼女から。」
「私は貴方が好きでした。村の事をお願い。もう一方は有りません。」
「サヨとイエヤスは誰が殺した。」
そこには鬼が居ました。自分の仲間が居たのかと惚けているとタツミが私の力強く肩を掴みます。
「んっ。殺したのは私の親です。ですが」
「止めるならアリアも」
「いえ、止めなんてしません。ただ、半日遅かったと。もう殺してしまいましたから。」
タツミが崩れ落ちていく。いえ、私の肩を力なく掴んで自分を支えています。
「なんて言えばいい。村長に。村の皆に。なんて言えばいいんだよ!!おい!!」
「知りません。そんなこと。ただ、喚いても死者は蘇りません。それに、貴方は保護者ではなく友。でしたら、涙を流したいのでは。暫く席をはずしますよ。」
そう言って部屋から出ようしましたが肩を掴まれたまま、
「居てくれ。アリア。頼む。」
そう言われましても。
私は貴方の恋人ではないのですが。まぁ、仕方ありませんね。
「隣に居るだけです。それでよろしければ。」
「あぁ。泣いた。もう流せないくらい泣いた。恥も外聞もなく泣いた。笑わないでいてくれてありがとな。」
「私は身内には冷血ではないので。これからどうするのですか。」
使用人に紅茶を頼む。飛び切り甘いものを。
「どうって。仇は死んでいるし、村にも仕送りしなきゃだし今のまま頑張るしか。」
「嘘吐き。タツミは割り切れるほど賢くないですから。二週間も一緒に居れば分かります。迷っているのでしょう。」
「アリアって鋭いよな。そうだ。納得なんてできるか!!サヨとイエヤスは死んだ!殺された。そんなの絶対間違っている!!あいつ等が殺される理由なんてない!何一つ!!でも、もう終わっている。アリアに八つ当たりするのも間違っている。なら、俺はどうすればいいんだよ!!」
「知りません。それは自分で決めるべき事ですから。ただ、選べる道を提示するくらいしてあげます。先延ばしにする類の決断ではないでしょうし。」
紅茶を受け取り、喉を潤す。甘い。本当に甘いですね。私も。この紅茶も。
「一つ目。もうすでに分かっているでしょうが、何事も無かったように今までのように危険種を狩る。」
「もう一つは革命軍。サヨやイエヤスを殺したこの国を変えようと足掻く道。」
「はい。分かっているのなら選ぶだけです。私に出来る事は有りません。」
そう、道は二つだけ。手元に残ったモノを理由に戦うか。零れ落ちたモノを理由に戦うか。
「でも、俺は二人がそんなことを望んでいると思えない。実際サヨはそんなこと思ってなかったみたいだしな。」
彼女は最期まで自分以外のことを思って、死にましたから。タツミは彼女の望みを叶える道を行くのですね。
「変わらぬ日々ですか。タツミが選ぶのは。」
「いや、俺は復讐をしないだけだ。人を殺すのに二人を理由にしないだけだ。俺は納得できないこの気持ちを納得させる為に殺す。そう、殺したいから殺す。」
「タツミはそんな事をせずに村を支えて。」
彼女はそう望むでしょう。だから私は彼女の代わりに語りましょう。
「でも、俺は選ぶ。この道を。悪い。サヨ。我儘言って。でもどうしても納得できない。」
「それがあなたの決断なら私からは何も。ではようこそ。この世界へ。歓迎しますよ。タツミ。」
「ああ。二度目だな。歓迎されるのは。ってなんで顔をそらし続けるんだ。」
それは、私の顔が人に見せられない顔ですから。
嬉しくて仕方がない。タツミがこちら側に来ることを心の底から喜んでいる私は。とても醜いのでしょう。どれだけ人間の皮を着ていても私は
「アリア。」
「ひゃ。はい。なんでしょうか。タツミ。」
不覚です。思考に没頭していたとはいえ情けないです。
「あ、いや。さっき言った事だけど俺は誰が悪人かを知らないから教えてくれないか。」
「私が嘘をつくとは考えないのですか。」
「アリアが死んでほしいと思う悪人を優先的に回すだけだろ。お互いに利ある取引なら。違うか。」
だいぶこの町の慣れてきたようですね。ええ、その通りですとも。
「さぁ。これからで判断してくださいな。とりあえず、6人ほど後で資料を渡します。」
「ありがとう。アリア。」
「お気になさらず。ですが貰い過ぎと思いますから武器を提供しましょうか。」
「銃とかか。扱えなくはないけど。」
「銃ならオーダーメイドも承れますが。」
自社製品ですから銃器は。ドクターに作って頂いた旋盤があればかなりの要望にお応えできると思うのですが。
「それよりも剣の方が扱えるかな」
剣となると倉庫にある王具 双刀 鎚くらいでしょうか。
「でしたら、王具の余りがありますので。それでいかがでしょう。」
「…………王具って何だ。帝具とはどう違うんだ。」
「説明しておりませんでしたか。王具とは一言で言うならば帝具の出来損ない。帝具を作る際に出来た失敗作です。あんな超兵器がいきなり出来るなどありませんから。真打に対する影打と言うと分かり易いでしょうか。」
「なるほどな。行き成りコロが出来上がるなんてありえないってことか。何で、アリアがそんなの持ってんだ。」
「何から何まで聞くのでは成長は出来ません。この機会に多少は頭を使ってはどうです。ではついて来て下さい」
と言っても答えは私の先祖が帝具開発者だっただけなのですが。帝都に異なる文化が混在しているのも千年前様々な国の技術者が集められたことが原因。地方と比べて異民族に対する差別が起こりにくい事の原因も。と着きましたか。
「ここが武器庫です。結構な量がありますので不用意に触らないように。」
「分かってる。人殺しの道具がある場所ではしゃぐほど馬鹿じゃないさ。えっ。アリア、誰かこの倉庫に居るのか。」
鍵を持っているのは執事長にミルク。後はレイス。他は事前の許可を取りに来ます。ですが、飾付用は別の場所に置いてありますから。
「居ないと思います。なぜ、そのような事を。」
「声が聞こえたんだ。こっちだよって。私はここだよって。」
「開けてみましょう。それで全てはっきりします。」
扉を開け、目の前に箱がありました。可笑しい。厳重に固定していたはずの危険物がなぜ。ともかく触れないように元の場所に
「これか。俺を呼んでるのは。」「触るな!!」「え。」
遅かった。タツミが箱に吸い殺される。せめて、私が一緒に行けば。あそこからの脱出経験もありますから何とか命だけは無事に。
「消えた。箱が消えた。いや、なんだろう。体の中に箱があるのか。いやいやどうなっているんだ。」
適合したのですか。千年間触った者を吸い殺し続けてきた箱が。タツミに。
神様っているのかもしれませんね。天が裁かぬなら自分で裁くと言ったタツミにこの箱が適合するなんて出来過ぎています。
「タツミ。それも王具の一つです。ただ、性能が悪い失敗作ではなく、触れた者を処刑する不具合から失敗とされた王具。帝具として完成していた場合の名は一罰億戒 シュレッケン。ありとあらゆる処刑器具。拷問器具。延命器具を詰め込んだとされる。全領域対応汎用拷問処刑兵器です。」
我が家に残っている資料が全面的に正しいとするならばですが。
「なんかすごいんだな。試してみていいか。」
「是非とも。千年も埃をかぶった粗悪品の性能を見てみたいです。」
「じゃあ。起動。選択。串刺し
嫌な予感がしたので横に跳ぶ。その後今までいた場所に鋭利な槍が生えてくる。次は窓から三本、躱す。
空中から七本、足刀で砕く。頭の上から二十数本内三本が金属槍、脇差で穂先を切り裂き、鞘で叩き落とす。脇差が刃毀れしだす。数打ちで斬鉄は無理がありましたか。次の舞に備えて僅かに乱れた呼吸を整え
刑。ってストップ。停止!!」
「あら、これからでしたのに。たった数秒では満足できるはずもありません。もう少し踊りませんこと。タツミ。」
折角体が温まってきたところというところで幕引きとは。随分と意地悪です。
「アリアも落ち着けって。試しただけだから。そんな笑顔でこっちを見るな。しないから。殺し合いなんてしないから!!迫ってこないで!!」
「いえ、まだまだ、斬首に絞首。鋸引き、車輪挽き。変わり種で炮烙など試すのはたくさんあるはずです。ここでは手狭ですし。庭で続きをすることにしましょう。私も普段着ではなく着飾ってきますので。」
「これって意外と精神力とか体力とか。聞いてませんよね。ああ、もう。やってやる。女の子の期待に応えられなくて何が男だ!!」
さぁ、踊りましょう。手足の一二本しか切り裂きませんのでご安心を。タツミ。
結局、私は両腕を複雑骨折、四度の火傷。全治五日の傷を。タツミは気力、体力を使い果たし三日間寝込みました。
少しやりすぎましたね。
タツミが選ばれてから二週後。いよいよ待ちに待った日が来ました。
「さあ。素敵な夜にいたしましょう。ナイトレイド様。
窓から見える