着ぐるみを着用して擬斗やスタントなどの演技をする俳優にしてスタントマン。言葉そのものは日本の特撮映画・テレビドラマで使われてきた和製英語で、ハリウッド映画など海外では用いられてない。
Wikipediaより
都内、某所。夕暮れの大きな公園に、2人の男がいた。
「一輝くん、今日もお疲れ様」
「こちらこそ。いつもありがとうございます」
「もう少し、お給料を用意出来たらいいんだけどね……」
「構いませんよ。では、またお願いします」
1人の男。大きなカバンを背負った青年が、向かいにいる男から封筒を渡され、その場から立ち去る。
「…………ええ。帰らせましたよ。アイツ、普通の半分ほどの金で働いてくれて、助かるんですよねぇ……。またこき使ってやりますよ。へへへ……」
その声は、立ち去ったはずの青年に、届いていた。
曲がり角にある、木に隠れるようにして立っていた青年の耳に。
「…………でも、いいんだ。夢が叶ってるんだから」
彼の名前は、瞬 一輝(マドカ カズキ)。
かつて、ヒーローに憧れて、スーツアクターを目指し、その夢を叶えた青年だ。
彼はそのまま、疲れた身体を動かして、帰路へと着く。
「今日は、1シーンか。ちょっと前から、出番も少しずつ減ってきてるなぁ……」
家に着き、今日の仕事を思い出す。
今日は先ほどいた公園で、ヒーローショーが行われていた。
彼はそのステージで、敵役である怪獣のスーツを着込み、演じた。
その出番は、登場して少し暴れ回り、現れたヒーローに退場すると言う、所謂序盤のヤラレ役だった。
「分かってる。それも大事な役だって。怪獣が悪いなんて、言えるわけがない」
とは言うものの、扱いが悪いのは、変わりない。
他のショーでは、すぐにやられる敵役であろうと、戦うシーンがあり、倒されるという役目がある。
しかし、今日演じた役は、少し噛み合いをした後、本命の敵役が現れたとこで、逃げ出すと言う役だった。
はっきり言って、わざわざ逃げさせる必要は無く、しっかりと倒されてもいい流れなのに関わらず、だ。
「……はぁ。本当に、夢が叶ったって、言えるのかな」
別に、敵役を演じたくないワケじゃない。
さっきも口にした通り、敵役だって、ショーでも大切な役だと、分かっているから。
けど、最近演じているのは、その敵役というものすら、演じ切れてるとは言えないものばかりだった。
「ヒーローに憧れて、この仕事に就いたのになぁ…」
子供の頃に父親が連れて行ってくれた、ヒーローショー。
自分を産んですぐに亡くなってしまった母の代わりに、男手1人で育ててくれた父親が、忙しい間を縫って、連れて行ってくれたもの。
その輝かしい想い出が、彼の原点で、今なお支えているもの。
『お父さん!僕、大きくなったら、あそこに立ちたい!』
その夢を語った相手も、数年前に亡くなった。
ちょうど、今の会社への内定が決まった日だった。
事切れる前には間に合い、夢が叶うと聞いた父親は、安心するように、眠りについた。
「まだ、分からないよね。まだ頑張り続けたら、きっと……」
そう言いながら、数年が経っている。
高校を卒業すると同時に職についた為、まだ20代前半ではあるが、漠然と過ごすこの日々に、何かを感じずにはいられなかった。
「…………」
壁に目を向けると、そこには、子供の頃の落書きが貼ってある。
クレヨンで描かれた、将来こうなりたいと願い、夢見た姿の、自分だけのヒーローの絵。
赤と銀という、脳にこびれついたカラーは参考にさせてもらったけど、デザインだけは、その参考元の誰にも似つかないもの。
「……もう、寝よう。また明日から、頑張らないと」
そう言った彼は、シャワーを浴びてから、眠りにつく。
この流れも、数年間続けているものだった。
だけど、この夜は、違った。
『……けて。だれ……』
「……ん?」
夢の中というのは、すぐに分かった。
何もない空間で、誰かの声だけが、響く。
『たす、けて…』
その声は段々と、ハッキリ聞こえてくる。
『だれか、たすけて……』
誰かが、助けを求めていた。
「…………」
周りに、自分しかいないのも、すぐに感じる。
この声に向けて、反応を示せるのは、自分だけだと。
その声に向けて、手を伸ばす。
「ぐっ……」
すると、眩い光に包まれる。
彼は、夢の中で、意識を失った。
「ん…?」
目が覚めると、朝になっていた。
あの夢はいったいなんだったんだろうと思いながら、活動を開始する。
顔を洗い、歯を磨き、朝食を取ろうとするが…。
「しまった…。何もないや。買いに行かないと…」
備蓄を切らしてしまい、食べるものがなかった。
コップに注いだ水道水を飲み干し、外へと出る。
「あそこのコンビニでいいか…」
住んでるアパートからすぐのコンビニを目指し、足を動かす。
店内に入り、いくらか見繕った商品を手に、レジへと向かう。
「すみません。これください」
「あっ、はい。ただい、ま…」
よく利用するコンビニだったが、今回は見かけない顔の店員だった。
女子大生ぐらいの店員が、レジに置かれた商品に気付き、対応しようとするも…。
「…………」
「………?」
驚いたような顔をして、自分の顔を見つめてくる。
その目は次第に、明るい顔になっていくが…。
「あの、買い物したくて…」
「あっ、す、すみません…!すぐに!」
ハッとした店員は、すぐにレジ対応を行う。
少し心配にはなったが、スムーズに対応してくれたので、あまり気にすることはなかった。
「あ、ありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございます」
レジ対応をしてくれた店員にはお礼を言うようにしてる一輝は、いつも通り、お礼を言った。
「……!はい!」
すると、すごく嬉しそうな顔をして、返事をした。
あまりお礼を言われないのかな?と思った一輝はあまり気にすることなく、出口へと向かった。
「初めて男の人を接客して、お礼まで言われちゃった…!」
その店員の声は、彼に届くことはなかった。
「ちょっとこの辺り、散歩しようかな」
コンビニを出た彼は、ビニール袋を片手に、散歩を始める。
朝からこうやって歩くのは、数日ぶりのことだった。
「…………」
ただ、今の一輝には、1つ違和感があった。
アパートを出て、コンビニで買い物を済まし、歩き出してから少し経つ。
当然、他の人にも出会い、すれ違うのだが…。
「やけに、女性にしか会わないな」
気のせいというレベルではなく、すれ違う人以外にも、見かける人物は全員、女性だった。
しかも全員、先ほどのコンビニ店員のように、自分のことをジッと見てくる。
こんな日もあるか、で済ませるには、大き過ぎる違和感。
「……ん?」
少し歩くと、大通りに出る。
一輝の少し前にも、女性が1人歩いているのだが、どうにも様子がおかしい。
なにやら、片足を怪我しているのか、歩きづらそうにしていた。
「…………」
どうにも嫌な予感がし、様子を見ていた。
すると、その予感が的中したのか…。
「あっ…!」
目の前の女性は、足をくじき、倒れそうになる。
「っと…!大丈夫ですか?」
完全に倒れる前に、なんとか間に合った一輝は、目の前の女性を支える。
その瞬間、目の前の女性は少しだけ、声を上げる。
「す、すみません…。ありがとう、ござい…」
自分を支えてくれた人へ向けて、お礼を言おうと、女性は一輝の方へと顔を向ける。
金色が特徴な、ロングヘアーな女性だった。
「えっ…」
「……?」
自分の顔を見るや否や、完全に固まる女性。
あまり女性の身体に触れたままなのもよくないとは思うも、この反応に、先ほどのコンビニ店員のようなものを感じる一輝。
それに、先ほど抱いた違和感通り、2人の周りで、経緯を見ている人たちも、全員女性だった。
「きゃー!」
その中の1人が、黄色い悲鳴をあげる。
その声と同時に、拍手も巻き起こり、若干の居心地の悪さを感じる一輝。
「えっと…?」
「あ、あの…!あ、ありがとう、ございます…!」
「い、いえ…。こちらこそ、危ないところとはいえ、身体に触れてしまい…」
「わぁ…!」
目の前にいる女性も、周りにいる女性も、一輝のことを見つめている。
それはまるで、憧れの光景を目にした、子供のようで。
「あの、歩けますか?」
「ちょっと、足を捻ってしまったみたいで…」
「うーん…。どこへ行こうとしていたんですか?」
「あ、あそこの公園です。まだ時間はありますので、お気遣いなく…」
「でしたら、貴女がよければですが…」
そう言う一輝は、女性に背中を向け、しゃがむ。
その意味が、一瞬理解出来なかった女性は、ポカンとする。
「運びますよ。僕も、行く場所は同じでしたから」
「えっ、えっ、えっ!?」
「もちろん、貴女がよければ、になりますけど…」
「い、いいんですか…?」
「構いませんよ。ほら、乗ってください」
「……はい!」
その声と同時に、女性は一輝の背中へと身を預ける。
立ち上がると同時に、周りの声がさらにあがる。
まるで少女漫画みたいな光景だなと、一輝は思う。
「では、いきますよ。捕まっててください」
「お、お願いします…!」
それを合図に、一輝は歩き始める。
周りの女性は、その光景を見つめ続け、送り出す。
「まさか、こんな日が来るなんて…」
背中から、女性のつぶやく声が聞こえた。
その真意に気付くのは、もう少し後になる。
執筆時BGM 空想少年
詳しいことは、次回から