虎杖先生、少しお時間をいただけますか?   作:だっちゃまん

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呪いはいつしか正義に転じて

 

 

「いやぁ~、ゴチでした〜先生!」

 

「御馳走様でした、先生☆」

 

「ん、お陰様でお腹いっぱい」

 

「お、おう……」

 

食事を終え、店の外へと出た頃には昼も過ぎており、思いの外長く滞在していた事に驚く。たしか、店に到着したのが十一時半程度だろうか。少しだけ張った腹を擦りながらふらふらと歩くホシノに、同じような張り具合で満足そうに笑うシロコ。

 

ノノミとアヤネは二人と比べればまだ良心的だったのが救いで……どうにか金欠にならずに済んだ事に、悠仁は胸を撫で下ろす思いだった。

 

しかし、皆を外まで見送ったセリカは一度店の戸を閉めると忌々しそうな顔で皆を睨みつけ──特に悠仁を見て帰り道の方角を指差した。

 

「早く帰って、二度と来ないで! 仕事の邪魔だからッ!」

 

「あはは……えっと、セリカちゃん、また明日ね」

 

「ほんと嫌い! 皆死んじゃえー!!」

 

「ふはは、元気そうで何よりだ~」

 

「またお兄ちゃんが行くから泣くなよ!」

 

「もう来るな!あとお兄ちゃん云うな!!」

 

むきーっ、と憤慨するセリカの背を見送りながら、帰路へとつく面々。悠仁は最後まで怒り心頭であったセリカに少しだけやり過ぎたかな…と、申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「悪ノリし過ぎたかなぁ」

 

「大丈夫だよ。セリカちゃんなりの照れ隠しだし、それに───あのセリカちゃんがデレたんだからさ」

 

「…それ、俺から聞いたって言わないでね?てか内緒ね?」

 

言わないで!って言ったじゃん!なんで言ったの!?と詰め寄られる未来だけではなく、口の中に銃口を咥えさせられて食道一直線に発砲されかねないのだ。ホシノには再三の口止めを伝えたが…多分当てにならないだろうなぁ…。

 

「セリカちゃんはきっと、一人で頑張ってる姿を見せたくなかったんだと思います…」

 

アヤネはそう云って悠仁に視線を向ける。その瞳は優し気で、でも……誰かを想い、咎めるような口ぶりに悠仁は苦笑いで応えた。

 

「まぁ、そろそろ解散するかぁ」

 

「賛成〜、おじさん眠くなってきちゃったからさ〜」

 

「ん、私はこの後ひとっ走りする」

 

「じゃあ、私はお買い物でもしちゃおうかな〜☆」

 

「そっか、今日は自由登校の日か。じゃあ……あー良いや。またみんな揃ったら一緒に遊びに行こうぜ」

 

全員が概ね賛成と云う意見を聞きながら、出掛けるなら此処が良いよね〜なんて楽しそうに笑う生徒たちを見て、悠仁は頬を緩ませた。この何気ない日常が何時までも続くように…少しでも、危険因子になる要素を取っ払って、彼女達が伸び伸びと笑える日を───。

 

『若人から青春を奪っちゃダメなんだよ』

 

かつて、五条先生が言い聞かせるように呟いていた言葉を胸に「途中まで見送るから、行こうぜ」と、言いかけたその時だった。

 

不意に、アヤネが此方に忍び寄る。先程までホシノ達と一緒になって盛り上がっていた彼女が音もなく悠仁の隣まで歩き、そして。

 

「……先生。皆さんには、言わなくて良いんですか?」

 

その一言で、アヤネの言わんとする事を察した。呪霊の件だろう。思えば、ずっと何かを考える素振りを見せていたのも…きっとこの件をどう処理すべきか、自分で悩んでいたのかもしれない。

 

俺が何とかする。俺は最強だから。彼女を納得させるようで、ただ『大丈夫』と云う名の諦観を生徒に背負わせた…これも全て自分の未熟さが招いたことだ。だから、これは己ひとりで果たすべき宿命。ならば、悠仁の返す言葉は決まっている。安心させるように、まるで子供をあやす大人のように。

 

───優しく告げた。

 

「俺が何とかするから、俺とアヤネだけの秘密な?」

 

アヤネは小さく頷いた。けれどその表情は、どこか寂しげだった。まるでそれが、悪い事を隠す子供を想うように。悠仁はその陰に気が付いた上で、アヤネの肩に手を置た。何かを発する訳でもなくて、ただ……意味の無い行動の其れにアヤネは唇を噛み締めた。

 

「俺がなんとかするから」と言ったその声は、酷く優しくて──余りにも、残酷だった。

 

そうして、ホシノ達は話し合いを終えて各々のやりたい事をするべく一先ずは解散と云う形に相成った。満腹効果もあるのだろう、シロコは鼻息を荒く吐いて、ノノミは今にも駆け出しそうな…それな反して、ホシノは今にも眠りそうな眼を手で擦っていた。

 

「それじゃあ、解さ〜ん!」

 

ホシノが先頭を切り、腕を突きあげながら出発する。その背をぞろぞろと追う生徒達。快晴の空、煌めく太陽の光の下でそれぞれの笑顔を咲かせて歩く。存外、今の時間が楽しいらしく彼女達は嬉しそうに足を進めていた。

 

悠仁はそんな彼女達の背を見ながら、そっと端末の電源を入れた。

 

「アヤネも皆に混ざって、こっそり写真撮るからさ!」

 

「……はい、でも…先生は混ざらないんですか?」

 

「大丈夫大丈夫、ほら早く」

 

何かを言いたげなアヤネを急かし、構えた端末のレンズで生徒達を映す。アヤネだけは悠仁を真っ直ぐ見据えて──"三人"の笑顔が背中越しに瞬いた、最高のシャッターチャンスが訪れる。

 

何かを含んだ笑みを浮かべたアヤネの笑顔も収めて、シャッターを切った。

 

 

───ごめんな、アヤネ。

 

 

風に溶ける、そんな言葉を囁いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は暗く周辺は街灯に照らされ始めていた頃。

 

「お疲れ様でしたー!」

 

頭を下げ、挨拶と共に店を出る。セリカがアルバイトを終え、帰路に就く頃にはすっかり夜も更けており、周囲には人も疎らで元から少ない店も閉まり始めていた。休憩を挟むこと実働八時間、肩を回しながら疲労で溜まった凝りを解す。

 

「…冷え込むな」

 

ふーっ、と吐息を吐き出せば、もう春だというのに吐息が白く濁り、思わず手を擦り合わせる。アビドスは昼と夜の気温差が激しい、これも砂漠化の影響だった。

 

「はぁ、やっと終わった……目まぐるしい一日だったわ…」

 

昼間のことを思い返す彼女の顔は憤慨に染まった表情で空を見上げる。一週間も経てば、立ち仕事には慣れて接客もある程度は出来るように成長した。しかし、其れはそれだ。

 

人の目の前で、こっちが必死になって働いてる目線の先で仲良く食事をする悠仁……その光景を思い出すと妙な苛立ちが胸内で膨れ上がった。

 

「それにしても皆で来るなんて……騒がしいったらありゃしない、人が働いている横で先生先生って、チヤホヤしちゃってさ、何なのアレ……」

 

『…大事な妹のバ先』なんて言っちゃって…大将からも誤解されたし、他のお客さんからも注文時に訊かれて散々だった。

 

本当にそう思ってるなら、もっと……。

 

 

「ッ、何考えてんのよ…」

 

振り払い、自分らしくないとツインテールを左右に揺らす。そうだ、まだ認めたわけじゃないのだ。確かに今朝は言い過ぎた為謝罪をしたが、それは今朝の事のみで昨日の事は別件。

 

きっと、昨日自身が悠仁と半ば仲違いするような形で部室を後にしたから、要らぬ気を回したのだろう。そう考えると、突然バイト先に押しかけて来たのも理解出来る。

 

けれど、だからと云って簡単に折れるわけではない。

 

「……ふざけないで」

 

吐き捨て、帰路への一歩一歩を強く踏み出した───瞬間。

 

「──っ、何今の……」

 

ふと、街灯が一つだけ、瞬いた。まるで"何か"が通り過ぎたかのように。辺りを警戒して、人の気配を探るが人っ子一人いない。いない、はずだ。途端に全身をゾワゾワと伝う寒気に言い知れぬ冷たさを自覚する。

 

「なによ、気持ち悪いわね…」

 

歩く速度を早め、此処から逃げるように進む。早く家に帰らなければと思い、肩に掛けた鞄の紐を握りしめる。

 

 

「………」

 

そんな彼女の背中を、妙なシルエットの二人組が見ていた。

 

歩道橋の上、赤いフルフェイスヘルメットを被ったロングコートの生徒と、黒いフルフェイスヘルメットを被った中肉中背の生徒。二人は道を歩くセリカを見下ろしながら、口を開く。

 

「──あいつか」

 

「はい、そうです。アビドス対策委員会のメンバーです」

 

「準備しろ、次のブロックで捕獲するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふーっ」

 

バイト先からアビドスへの帰路の途中。何となしに吐いた息が空に登っていくのを見て、ふと足を止めた。バイトの疲労もそうだが、何よりも誰も住んでいないビルや住宅、商店がぽつぽつと見える景色にうら哀しさを覚えた。

 

人口の集中している郊外から少し離れるだけで人影はなくなり、蟲の喧騒だけが聞こえてくる。夜空を見上げると星が良く見えた。セリカは空に向かって吐息を噴き出しながら呟く。

 

「……そう云えば、この辺も結構人がいなくなったなぁ、前はここまで静かじゃなかったのに――治安も悪くなったみたいだし」

 

横を向けば、誰も管理する者が居なくなったテナントビル、その壁に描かれた落書き。治安悪化を判断する要素に落書きが挙げられるが、正にそうだろう。今朝だけで何人の不良がここら辺を彷徨いていた事か。

 

カラフルな絵を見つめながら、セリカは顔を顰める。

 

「やっぱりこのままじゃ駄目、私達がもっと頑張らないと……そして、学校を立て直すんだ」

 

これ以上好き勝手される訳にはいかない。かつてのように賑わう町に戻すためにも、アビドス高等学校の復興が最重要。そうすれば───みんなの笑顔も楽しい日常も奇跡にしなくて済む。

 

消えていった人達も、きっと……戻ってくると信じて。そう気持ちを新たに歩き出す。

 

「取り敢えずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて――」

 

「おい」

 

不意に、声を掛けられた。

 

直前まで気配も無かった、慌てて振り向くと、視界に飛び込んできたのは特徴的なヘルメット姿。つい最近までアビドスを苦しめていた──不良集団の象徴。

 

「……っ!? なによ、アンタ達」

 

状況を冷静に極め、咄嗟に鞄を足元に放り銃を構える。安全装置を弾きコッキングレバーを引く。一瞬で臨戦態勢を整えたセリカは、正面に立つ赤いヘルメットの生徒を睨みつけた。

 

「黒見セリカ──だな?」

 

その問いかけに答えず、セリカは平静を装って周囲を見る。

 

足音──そして気配。囲まれた、少なくとも自分の正面に二人、背後には──気配と伸びる影から、恐らく三人。まさか至近距離にまで接近されていたなんて……気を緩みすぎた。

 

注意力が散漫していた自分を叱咤するように、息を吐く。

 

「……あんた達、まだこの辺うろついてんの? あれだけボコボコにされて、まだ足りなかったんだ」

 

頭の中で持っていた弾倉の数を思い出しながら、危機的状態であるにも関わらず、セリカは気丈に笑って見せる。虚勢を張るのは、得意だった。

 

五人程度なら、自分だけでも何とか制圧出来る。

 

「───なら丁度良かった、今虫の居所が悪かったの、二度とこの辺りに足を踏み入れられない様にしてやるわ!」

 

セリカは犬歯を剥き出しにして叫ぶ。轟く声は夜空に反響しては消えて、正面の敵目掛けて射撃を敢行しようと素早く銃口を向け引き金に指を掛ける。

 

最悪、倒せなくとも構わない。周辺に誰か一人でも住民がいれば、アビドス高等学校なり連邦生徒会なり、通報してくれる事だろう。もしこの連中が周辺の住民まで徹底的に散らしていたのなら、その時はその時──精々派手に立ち回って、目にもの見せてやる!

 

苛立ち半分、勇み足半分。そんな心地で挑み、引き金を引いた瞬間。

 

銃声──音は、セリカの銃から放たれたものではない。一瞬早く、それは周囲に響き渡り、飛来した弾丸はセリカの腰に着弾、衝撃に思わず前につんのめった。

 

「く、ぅ…ッ!?」

 

───なんで、背後…!?まさか最初から私を…!?

 

咄嗟に射撃ポイントを割り出そうと目線を動かせば、背後にある建物の中からフラッシュが瞬く。しかも、複数の箇所からも。セリカを囲む五名のヘルメット団は微動だにしていない、まるで木偶の様に突っ立ち、見ているだけだ。

 

セリカの頭の中に、一つの可能性が浮上した。ヘルメット団の手際の良さや潜伏した敵……それらを総合的に見れば。

 

──待ち伏せされたんだ。

 

 

何度も銃声が木霊し、その度にセリカの体が左右に揺れる。肩や足に弾丸が突き刺さり、思わず呻き声が漏れた。障害物に身を隠そうにも──周辺には狙ったかのように何もない。

 

「捕らえろ」

 

続けて、赤いヘルメットの生徒が、静かに手を下ろす。左右から銃撃を受けるセリカは動けず、一拍遅れて強烈な砲撃音。聞き慣れたそれに、セリカは思考を巡らせる。

 

対空砲?──違う、この音は、Flak41改…?

 

直後、砲弾が着弾しセリカの足元が爆発する。

 

爆風に呑まれ、頭を抱えながら地面の上を転がるセリカ。混乱の最中にありながらも、セリカは努めて冷静であろうとした。

 

「ケホっ……ケホッ」

 

火力支援…?一体どこから?

 

直撃を避けたとは云え、至近距離での着弾は例えキヴォトス人であろうとも怪我───引いては流血は免れない。それこそ、今のように足元に爆撃を食らったのなら──銃を片手に出血箇所を探し彼方此方をまさぐるも、傷らしい傷はなかった。

 

負傷は……ない? 砲撃の至近弾を受けて? 

 

不意に、鼻腔を擽る甘い匂いに気付く、辺りに漂う砂塵──それに紛れ、微かに。

 

セリカは顔を顰めた、砲撃に甘い匂い? 火薬ならいざ知らず、疑問が溢れ出る。それとも、爆発に巻き込まれて甘菓子か何かが吹き飛んだ? まさか、そんな筈がない。爆撃後の臭いは鼻腔を刺す火薬と金属の焼けた匂いが来るはず。

 

──ち、違う……これは、まさか…。

 

さっと、セリカの顔色が蒼褪めた。気付き、セリカは慌てて口元を覆う。しかし、その程度で吸引を防げる筈もなく。徐々に口元が緩み、妙に気分が落ち着いて来る。先ほどまであった銃撃による痛みが消え――軈て意識も沈んでいく。

 

駄目だ、駄目だと言い聞かせても、肉体の作用は容易に精神を飲み込み、セリカの瞼が遂に落ちた。

 

散布された笑気ガス───所謂、吸入型催眠ガスが晴れた頃。そこには俯せで倒れ伏し、ピクリともしないセリカだけが残されていた。

 

「……続けますか?」

 

黒いヘルメットを被った一人が、倒れ伏したセリカの元に近付きながら銃を見せ、問いかける。言外に、「殺すのか?」と問うていた。

 

しかし赤いヘルメットの生徒は、静かに首を横に振って否定する。

 

「いや、生かしておけ。この程度で十分だ、車に乗せろ。ランデブーポイントへ向かう」

 

頷き、周囲の不良達がセリカを掴み、引き起こす。そのまま路地裏に用意されていたバンに押し込んだ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、アロナ。セリカはちゃんと帰れてる?」

 

「──虎杖先生って、本当に心配性ですよね。少々お待ちください!」

 

アビドス郊外にある、ビジネスホテル。その一室にて悠仁は寝泊まりをしていた。アビドスに居を構える訳に行かず、生徒達の世話になるのも大人として不甲斐ないと考え、こうしてホテルのお世話になっていた。

 

そんな中、悠仁はどことなく嫌な予感に胸を苛まれていた。これが何かの知らせかどうかも判断付かず…杞憂ならそれでいい。本来なら生徒のプライベートを覗く行為は断固として止めるべきことだったが───。

 

胸騒ぎが、どうしてか収まらなかった。

 

もし、本当にこれが杞憂であれば謝罪の意を込めてセリカにお菓子折りでも持っていこう。なんて座っていた椅子から立ち上がろうとした。

 

 

瞬間だった。

 

 

 

 

「──虎杖先生……セリカさんが物凄い速度で砂漠化した市街地方面に向かっています…!!」

 

 

 

 

 

 






日常の〜崩れる音〜♪まるでパチスロのトリプルセブンのようだ〜♪


あーあ。三日連続で投稿しちゃったよ。毎日投稿できる人すげぇよ!もうパンクだよパンク。ちょっとラーゲルから愛を込めて、ノノミちゃんの情緒をぶち壊したいよね。やっぱやるっきゃないっしょ。抱擁力と第三者視点でいつも公平かつ中立の立場で物事を考えるけど、やっぱり彼女も女子高生で生徒の一人に過ぎない未熟な部分があるんだ。

母親のように深い愛情で対策委員の面子を抱える彼女だからこそ、アヤネとは別のベクトルで、イデガデールの湿地遺体のように沼っていくに違いないんだ!!アヤネは縛ることを選んだけど、彼女は何処までも深くて纏わりつく献身的な愛で悠仁を支えるに違いない。絶対そうだ。

勿論、ノノミだって悠仁に対して自分の気持ちを吐露することもあるけれど…強くは言えないんだ。彼女は、自分の気持ちを優先するよりも他者を慈しむ尊重する仏の末路のような優しさを持ってるから。

譲らない気持ちだってあるけれど、悠仁が選んだ選択を蔑ろに出来ない…そうやって考え込んで、気持ちを塞ぎ込んで、私が支えなきゃ…先生が一人になる。一人で全てを背負うから、私が────。

負の連鎖だよね。報われないね。ノノミは気丈に振舞い、笑顔を振り撒いて皆と接していくのに悠仁は無理を貫いている姿を一切見せてくれない。むしろ、自分だけが重荷のように見えて落ち込んでしまう。その時から、ノノミの綿菓子のように甘くて儚い、天真爛漫な性質が恐怖に転ずる。

だって、それが私のできる……先生への寄り添い方なんだ。自己を曲げて、想いを歪ませたアヤネが選ばなかった破滅への進路を進んでいくんだ。あの結末は、寧ろ双方が報われる最善のトゥルーエンドだったんだよ、きっと。

「────先生は、今日12時にデパートでお買い物した」

「────先生は、19時28分に入浴。19時57分脱衣所で着替えを開始」

彼女は絆ストーリーでも愛の大きさを示した。それは危うくて、まだ中途半端で形成されずにいた愛憎と狂愛が歪んでしまい、行動力のある彼女の想いは呪縛の如く変化してしまう。そう、偏狭と狭矮の中で渦巻ちゃったんだ。悠仁の私生活を把握するだけじゃなくて、ふとした瞬間にノノミは微笑んで、こう云うに決まってる。

「先生…ふふ、私が支えてあげますからね」

ずっと、ずっと……近くで。貴方が傷つく度に、私も心と体に呪いが刻まれるんです。だから、一緒に───捧げましょう。

「ノノミは優しいのな、すげぇ助かるよ」

悠仁はノノミの想いを知らない。そして、ノノミは悠仁の思いを知っている。その噛み合わない歪でどうしようもない擦れ違いでも、彼女は薄ら笑みを貼り付けて、深くておぞましい感情を纏うんだ。


「はい、いつまでも」

それは、ノノミらしい向日葵のような笑顔。アビドスの聖母であり、アビドスの陽気なお姉さん。いつも仲間の事を想い、考えて───仲間の為なら。みんなが仲良く楽しく過ごせる為なら、荒事も厭わない、彼女を彼女たらしめる依存の共生。

きっと、生きて。なんて呪いすらも呑み込んでしまうんだね。尽くし、依存させたい彼女の想いは悠仁の心を確かに蝕んでいくんだ。


────たとえ、先生が死んでも、一緒にいますから。


悠仁がノノミの呪いに気が付く頃には、心の鎧だろうと砕け散る。選んだ選択肢が後悔に濡れたんだから。

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