虎杖先生、少しお時間をいただけますか?   作:だっちゃまん

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盪く想いは黒く閃いて

 

 

──違和感に気が付いたのは、夜も老けた二十三時前の事だった。

 

「…セリカちゃん?」

 

応答がない。昼の事をまだ怒っているのだろうか、そんな心配を滲ませたアヤネはノックを繰り返す。しかし、幾ら呼び掛けても微細な音どころか扉の向こう側に、人の気配すらしない。

 

「……セリカ、ちゃん?いるの?大丈夫…?」

 

普段ならば遅くても二十一時には帰宅していたはずのセリカの部屋に灯りがなく、既に寝た可能性も僅かながらにある。だけど、彼女の端末に電話を何度掛けても音信不通……昼の件で怒っているとは云え、今まで一度たりともそんな事がなかった。

 

───おかしい。

 

アヤネは持っていたスペアキーをポケットから取り出した。鍵穴にシルバーの鍵を差し込んで、右に回す。金属の軋む音と共に扉が開いて──。

 

端末にメールの通知音が鳴り響いた。

 

「誰からだろう…あれ、先生……?」

 

"今、セリカと偶然会っちゃったんだけど……昨日の件をまだ怒ってるみたいで…蟠を解くために二人でカフェにいるよ。心配かけてると思ったから、連絡しといた!"

 

通知をタップし、トーク画面を開いた先に悠仁らしい文章が目に入る。どうせ、彼のことだ。セリカの退勤時間に合わせて待ち伏せをしていたに違いない。柴崎ラーメンでそこはかとなく退勤時間を訊いていたのも、一緒に帰るつもりだったのだろう。

 

"分かりました、なるべく遅い時間にならないようにお願いします"

 

そう、送ろうとして。送信ボタンまで向かった親指を不意に止めた。新たなメールが届く。

 

"心配しなくて大丈夫だから!"

 

その一文にアヤネの中で、何かが引っかかった。なぜ念押ししたのだろうか、と。傍から見れば違和感と思うこと自体見当違いなのかもしれない。昨日、今日と見たセリカの状態的に一方的な喧嘩を吹っかけられて悠仁の負担になると考えた自分達に向けた『もし、そうなっても大丈夫』と云う安心を与えるために送ったとも考えられる。

 

普通は、そう捉える。そう捉えるべき文章だ。でも、違うんだ。何かが間違ってる、もう一度最初に送られたメールをよく見て、アヤネの中に積もった『疑念』と『疑惑』が音を立てて崩れた。

 

───あぁ、そうだ。悠仁からの連絡で不安吹き飛んだけれど…一緒に居るならどうして電話に出ないのか?なぜ、メールを見ないのか?やはりまだ怒っているから?

 

違う、断じて違う。

 

セリカは、そんな子じゃない。怒っていても、ちゃんとしっかりした友達なのだ。着信があれば絶対に出るし、拗ねていてもきちんと返信もしてくれる。自分を心配させるような真似はどう足掻いてもしないって確信がある。

 

じゃあ、どうして?

 

柴崎ラーメンから、アビドスへの帰路は不良達も蔓延る危険な地域も含まれる。自分達も店に向かう途中に何度か不良たちの言い争う場面も目撃しているのだ。絡まれる可能性としては無くはない。

 

だとしても、セリカは強い。余っ程の物量で無ければ数人程度の束でも勝てるはず──。

しかし、それが…昨日のカタカタヘルメット団のように物資の支援を受けた形跡のある集団に、報復で襲われたとしたら…?

 

……まさか。

 

慌ててトークを閉じ、悠仁の端末に電話を掛けた。もし、本当にカフェに居るなら出るはず……コール音が数秒と流れる。しかし、幾ら待とうとも繋がることはなくて。

 

相手のスマホは電源が切られているか、電波の届かないところに居ます。そのアナウンスを最後に、アヤネは部屋を飛び出した。鍵のかけ忘れなんて事もすっ飛ばして、ホシノ達の元に向かう。

 

端末の握る力が強くなっていくのに、心はどうしても弱くて、ぽっかりと空いたようにどうしようもなく……寂しかった。

 

 

 

───どうして、一人で行くんですか。

 

 

 

地面に滴った水滴はきっと、悲哀の欠片なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───虎杖先生、セリカさんの現在位置が市街地に近づいてます!残り4分ほどで追い付けるはずです!」

 

全員にセリカとカフェに居る、と云う旨をメールで一斉送信した後、悠仁はホテルの四階から飛び出してセリカの元まで全速力で向かっていた。ただでさえ、セリカの移動速度が速いのもあり、なりふり構わず、思わず飛び出していたのだ。

 

杞憂なら、それでいい。

 

そう思っていた。だけど、セリカの反応は無くて電話を繋げても一向に出る気配がなかった。ただ、自分のことが嫌いで電話や連絡に一切反応を見せないだけなら、それでいい……でも、これは明らかにおかしかった。

 

───昼間の不良。

 

──カタカタヘルメット団。

 

──支援の形跡、第三者による命令の可能性

 

───誰かが、アビドスを狙っているかもしれない。

 

嫌なピースばかりが、散りばめられて嵌っていく。公道を走る、街灯の灯りが悠仁を捉えるよりも早く──彼は大気を駆け抜けていく。

 

「っ、報復の線をどうして考えなかったんだよ、俺はッ!!!」

 

吐き捨てた。普段らしからぬ悠仁の焦りや怒りを感じ取ったアロナは俯いて、何かに耐えるように現実から目を逸らした。

 

青の教室は外から観測が出来ない、その姿を知る由もない悠仁の感情は、強く、深く、煮え滾るような本流を迸って、下唇を噛んだ。

 

地面が窪んで、コンクリートが散る。力のコントロールすら、今の彼は視野に無い。皮肉にも、空の暗さは悠仁の心を表している。

 

───もし、喪ったら。

 

教師として、先生として導くと誓ったはずなのに。恩師のように、助けるって心に決めたはずなのに。果たすことも出来ず、みんなの想いを俺は、おれは───。

 

悔恨の記憶が、噴き出す血のように纏わりついた。

 

『渋谷で起きた、宿儺の暴走』

 

『目の前で真人に触れられ、死んでゆく七海と釘崎』

 

『悠仁の歩んだ選択で、死んだ人々』

 

『死滅回遊で、犠牲になった人々』

 

『その全てが、悠仁が指を飲み込んだ事によって引き起こされた終着点』

 

 

 

────あぁぁぁぁッ!!!!!

 

 

 

 

『俺は、ただの人殺しだ』

 

 

 

 

地獄となった渋谷で、蹲った過去は消えない。

 

 

 

 

「…っ!!」

 

 

景色が変わっていく、鼻腔に砂の匂いが香る。砂を踏む、それだけで弾丸のように舞い散る。───その時、目線の先でトラックが見えた。ナンバープレートが不自然に剥がされた、大きな車両。

 

「先生!あの車です!」

 

アロナの声で、脚に込める力が強くなった。もっと速く、あの頃よりも疾く───火花を散らした身体は豪脚を以て、車両の真ん前に躍り出た。

 

「止まれ──ッ!!」

 

その叫びと同時、拳が車体を打ち抜いた。

鉄板が潰れる音。跳ねる火花。タイヤが鳴き、トラックが前に揺れる。

 

──荷台の中から悲鳴が聞こえた気がした。

 

セリカの、声だ。

 

刹那、怒りと焦燥が混じり合う。アロナの声が遠ざかる。理性よりも速く、悠仁の本能が走る。勢いよく宙を舞う車体が地面に倒れ込む前に、素早く車体を両の手で掴んで支える。

 

手に伝わる衝撃も、慣性によって削られていく足裏も全てを切り捨てた。不要だ、要らない痛みだ、こんなの耐える以前の──どうでもいい、情報だ。

 

ぐちゃ。足元から聞こえた音が響いて、更に力を込めて踏ん張る。地面が抉れて、トランク部分がひしゃげてようやく停止。焼き切れる臭い、何mも刻んだ赤い跡にも目もくれず、アロナの声すら届かない思考のまま荷台の壁を剥がした。

 

 

 

「セリカ!!無事か!」

 

 

 

 

⬛︎

 

 

 

 

 

 

頭が、痛い。耳鳴りがする。

 

トラックの荷台をぞんざいな扱いで転がされてるせいか、ずっと逆さで吊るされてるような違和感が支配する。視界がようやく鮮明に映り、セリカは腕が後ろで縛られていることに気がついた。

 

「っ、解けない…私をどこに連れて行く気なの…ッ」

 

本結びやイアンノット結びのように解きにくいやり方ではないにしろ、ここまでキツく結ばれてしまうとセリカと云えど解くことは出来ない。そして、足元も手首同様に縛られているせいで尚更解くのは不可能。

 

どうやって脱出しようかと荷台の中を見渡すが、辺りは暗闇で物一つとして視認も出来ず…不意に目線の先で、隙間から漏れる光を見付けた。

 

思わず、体をよじって進んで隙間を覗いた。

 

「……街灯…?あれ、でも此処って…?」

 

セリカの居た場所には、砂は無かった。なのに、此処にはあちこちに砂が積もっている。街灯はあるが、全てが点灯している訳ではなく中途半端にバラけていたせいで鮮明には見えなかったが───。

 

「……もしかして、郊外に向かっている?」

 

だとすれば……連絡の手段が消える。電波が通っていない郊外では、仲間に伝える方法が無くなってしまう。徐々に血の気が引いていくセリカは慌てたように、手足を縛っているロープをちぎろうと藻掻く。

 

でも、体勢はもちろん縛られた状態では満足に動くことも出来ず終い。

 

まずい、不味い不味い…!

 

焦りとは裏腹に、現実は非情にも進んでいく。これで帰れないことになれば、心配をさせてしまう。既になん時間が経過した?普段ならもう帰ってるはずなのに。どうして、負けたんだろう。

 

このまま何処かに連れて行かれ、報復のつもりならこれからセリカの訪れる未来は……想像のし難い拷問なのかもしれない。最悪な未来が過ぎって、セリカは堪えるように俯いた。

 

「…私、埋められちゃうのかな……連絡も途絶えて、他の子のように此処を去ったって思われちゃうのかな…裏切ったって……思われ、ちゃうのかな…」

 

ポツポツと、震えた声が漏れる。

 

「誤解されたまま、皆に会えずに、死ぬのかな……」

 

 

 

 

───そんなの、ヤダよ……っ

 

 

 

その時だった。トラックの荷台が前傾に傾いて、セリカは背中を壁に打ち付けた。その拍子で頭も壁に衝突し、視界が霞む。

 

「うぐっ…!」

 

 

 

重い音。誰かの声。遠くから名前を呼ぶような──。

 

鼻の奥が焼けるように痛くて、目が開かない。薄ぼんやりと、誰かの叫ぶ声が響いた。

 

「……りかっ!」

 

 

朦朧とした意識の中で、セリカは熱い光を感じた。

 

 

(誰…?先輩…?アヤネ、ちゃん?)

 

突然の光に視界はさらにぼやけて、目の前で手を差し出す誰かを捉えた。そして、徐々に耳に声が届くように──視界もようやく晴れた先に映ったのは。

 

 

頼もしい、あの背中を見せた力に少しだけ、圧倒されていた。

 

けれど、借金問題に口出ししてきて…今更、なんだ?と思った。私達に力を貸した事は素直に有り難かったし、ありがとうって気持ちもあった。

 

でも、私たちの問題に首を突っ込んで来ることが堪らなく嫌だった。

 

だから、今朝も許さなかった。みんなと一緒に会いに来ても、認めれなかった。

 

最後の最後で喧嘩別れになって、今更自分を救いに来るなんて……思わなかった。

 

なんで、来てくれたの?

 

 

 

「───先生ッ!!」

 

 

 

そう思っていたのに。気が付けば先生が私を抱えてトラックの外に飛び出した。嫌なはずなのに、嫌いだったはずなのに。今は、すごく───安心していた。

 

 

「─セリカ、ごめん。遅くなった」

 

「…べ、別に……」

 

顔を赤らめて、抱えられたままのセリカはそっぽを向いた。悠仁はその時、額に流れる血と赤くなった目元を見た。

 

「泣かして、ごめん」

 

「な、泣いてないわよ!これは、汗だから!」

 

「……少しだけ、待ってて───」

 

セリカを下ろし、努めて優しい表情を取り繕った悠仁はセリカの頭に手を置く。背を向けて、歩き出す。

 

「少し、本気で話し合いしてくっから」

 

……トラックの運転席から数人のヘルメット姿の不良が頭を回して這い出てきているが、なんてことの無い日常を切り取ったように、何もかもが落ち着いた足取りだった。

 

あぁ、それは間違いだ。

 

悠仁が背を向けた瞬間、彼から身も竦むほどの殺気が放出されていた。セリカは一瞬だけ、その変化を見た。けれど、すぐに落ち着いたので悠仁から発せられているモノとは思わず、悠仁の背中を見入っている。

 

しかし、悠仁から目が離せないのはセリカだけでは無い。仲間を救出していた不良達は悠仁の存在を確認すると、手を止めて震え出した。それは、猛獣の檻に入ってしまった獲物のように。

 

カチカチと歯音を立てて、一人が地面にへたりこんだ。

 

「な、なんだよ…!おまえ、なんなんだよ!」

 

「くそ、なんで、足が…っ!」

 

「おい…!お前ら…!!早くアイツを撃て、来るぞっ!」

 

錯乱していた。統率すらも無くなった彼女達は捕食される寸前の小動物。そこに居るのは、不良としてセリカを攫ったとは思えない──弱者がいた。

 

 

「お前らは、一線を超えたな」

 

 

静かに、言の葉を紡ぐ。普段の悠仁からはかけ離れた重みのある声に、セリカは身を震わせた。今まで見せたことの無い、本気で怒っている姿に……少しだけ、恐怖を抱いて。まるで、別人みたいだった。

 

──いや、きっと。これが本当の先生なんだ。

 

どこかで、知っていたのかもしれない。 自分たちが、勝手に決めつけていただけで……本当は、感情を表に出す人だったんだ。

 

目の前で戦意を失って、体を引き摺って逃げようとする不良達から視線を外すことは無い。ただ、ずっと彼女たちを見つめた。それが、彼女達の恐怖心を更に煽ることだと知っていながら……悠仁が最後まで貫いていた生徒を大事にする想いを、彼女達自身の意思で切り裂いたのだ。

 

妹のように思える、大事な生徒の体に傷を付けただけではなく……攫った。

 

「ひぃ…!!?」

 

「……今すぐ消えてくれ、大事な生徒達の目の前から。二度と、顔を出すんじゃねぇ」

 

それは、悠仁が『先生』として絞り出せる──最後の猶予だった。今、彼女たちを殴ったりすれば……確信は無い。無いけれど、殺してしまう───そんな漠然とした直感を抱いていた。

 

軅て、悠仁は地面を"強く"踏み締めた。

 

バギィン、と乾いた破裂音と共に、大地が悲鳴を上げる。 硝子のように砕け散ったアスファルトが空を舞い、突風となって辺りを薙ぎ払った。セリカには被害が及ばぬよう体で破片や衝撃を受けながら彼女たちを見下ろした。

 

「ッ…!!に、逃げるぞ!!」

 

「あ、あぁー!」

 

悲鳴を上げて、トラックを捨てて逃げ去る彼女達の背中を睨むようにして眺めていた悠仁は、軅て遠くなっていく姿を後目に、足元に顔を向けて心を落ち着かせる。

 

何度も息を吐いて、吸って。繰り返していくと、頭に昇っていた血がゆっくりと降下していくのが分かる。

 

「……フゥ」

 

ずっと、前しか見えなかった視界がクリアになって周囲がくっきりと視える。だからこそ、悠仁は惨状となった公道に冷や汗を垂らして全身をぶるりと震わせた。

 

「……やべ、やり過ぎた…」

 

思わず漏れたその声に、セリカは肩の力が抜けて脱力したのか、後ろに倒れた。まるで安心するように、空を見上げた。

 

「あ、セリカ!んな事より、怪我!血、大丈夫か…!」

 

慌てて駆け寄る悠仁は、地面に大の字で寝転がるセリカに膝をついて血の流れている箇所を確認しようと額に手を置く。

 

「だ、大丈夫だから!こ、これは…急に車体が前に浮いちゃって、それで頭をぶつけただけだし────って、何してんのよ!!?」

 

起き上がって、あわあわと忙しなく悠仁から距離を取った瞬間。悠仁は、歯を食いしばって拳を握ると、迷いなく自分の頬に叩きつけた。急な自傷行動にセリカは目を剥いて驚き、咄嗟に悠仁を叱った。

 

「先生!!なんで自分を殴ってんのよ!!」

 

「…大丈夫。これは、周りがなんも見えなかった自分の罰だから」

 

そう云って、悠仁はハンカチを取りだして額から流れる血を拭った。目に籠る想いが、セリカの瞳を揺らした。それは、先程不良達に見せた怒り───だけど、今は悠仁自身に向けられた怒りだと云う事に気が付いた。

 

(…あ)

 

悠仁は、いつだって他人を優先していた。

 

いつだって、他者に優しくしていた。

 

いつだって…自分たちのことを考えてくれていた。

 

それは、いつだって変わらなかった。冷たくしたのに、変わらず接してくれて、無理に近づこうとしなかった。確かに、変なアプローチで妹だのなんだのと宣っていたが、線引きは決めていた。

 

そして、助けようとしてくれた。

 

『───済まないが、君たちの学校に支援はできない』

 

『──……そこまでは面倒見切れるわけないだろ!』

 

『───なに?借金?それなら、学校でも差し出せば良いだろう?お宅らに貸す金は無いよ』

 

不愉快だった。どいつもこいつも、耳を貸すことも無く……門前払いで誰一人として取り合ってくれなかった。なのに、彼だけはちゃんと聞いた上で、ちゃんと知ってくれた上で『一緒に頑張りたい』って言ってくれた。

 

……でも、不愉快だった。なんで今更ってずっと思ってた。なんで、もっと早く……なんでもっと苦しかった時に来てくれなかったのか。って、勝手に彼のことを悪く言って、捻くれたプライドが訴えて……吠えたのに。

 

それでも、彼は自分のことを大事な生徒だと言ってくれた。

 

 

「…その、痛むとかある?」

 

その手つきは優しくて、割れ物を扱うように柔らかくて。セリカの胸の奥に、何かが灯った。それが何なのかは、まだ分からない。けれど確かに、痛くて、温かかった。

 

 

それは、きっと───ほろ苦くて儚い、夢見心地な想いよりも…ずっと苦しくて、胸を割くような痛みが伴う呪いかもしれない。

 

 

けれど、セリカは───。少しだけ、背伸びしてみた。その気持ちはまだ、分からない。名前の知らない感情に戸惑いはあっても、これが星のように輝く、愛すべき光陰的想いに変わるはずだと。

 

確かな希望を背負った。

 

 

 

「ううん、大丈夫」

 

しばらく、二人の間に言葉はなかった。

ただ、静かに流れる風の音と、遠くで鳴く虫の声が耳を打った。今は、痛みなんてどうでも良かった。ただ、彼には伝えなければならない言葉があるから……うるさい心を抑えて、セリカは悠仁を見上げた。

 

 

そして、セリカはぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

「────ねぇ、先生……えっとね、助けてくれて……その、ありがとう」

 

 

 

 

それは、この世のどんな宝石よりも眩い輝きを湛えた、心の底からの無邪気な笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────先生、なんで独りで行ったの?ねぇ、どうして私達に一言もなく……勝手に動いたの?」

 

 

セリカを自宅に届ける帰り道、待ち伏せするように佇んでいたホシノ達対策委員会の面々に睨まれた悠仁は、星空が降る満月の下で、正座をしてホシノからの説教を受けていた。

 

 

 

 

 

 






悠仁の口調が12話行っても、自分の中で曖昧なのやだぁ…せめて最終回後の虎杖にすれば良かった…ッ!!下手に大人にしたせいで、どうやるべきか分からない…ッ!!まぁ、覚悟ガンギマリでトラウマを抱えたって部分の解像度を上げて行けばモーマンタイ……??

悠仁が辛すぎるっぴ…。

あーあ。これはシロコも作者の手をペダルにして30kmコースだわ(!?)。磯野!ツーリングしよーぜ!お前の手、ペダルな!

と云うわけで、後書きに癖の暴露大会でもしましょうか。ホシノ、セリカ、アヤネ、ノノミと来たら我らが大ヒロインのシロコ先輩だよね。あの子透き通る天然水だよ、マジでアルプスの山脈から生まれたんじゃねーの?水着のメモロビとか透明過ぎて一時狂ったように眺めてたもんね。

傍から見たら正統派美少女。でも、そんな子が銀行強盗やら戦闘狂やら…めちゃくちゃ愛おしくない?愛も重たくて、普段無表情に近い彼女の中に秘めた感情が爆発した時さ……どんな化学変化起きるんだろうなって。

「……やっぱ先生は私のモノになるべきだよ」

とか、突拍子もなく言っちゃうんだろーなぁ!シロコは!!それに対して悠仁は茶化すわけでも、真正面から否定するわけでもなく優しく諭すんだ。

「シロコには、もっとカッコイイ奴がいるって」

優しく諭した気でいるのは、本人だけ。シロコはその言葉がすごく嫌で、今すぐにでも襲ってやろうかと魔が差しても、身体能力の差で負けるし嫌われたくないから今はやめとこうって自分に蓋をするんだよね。

ずっと、その日常が続いていくんだ。

「ん、先生。この後私とホテルに行こう、海で遊んだあとは大人のムードになる、完璧」

「俺が社会的に終わりそうだから、みんなでね」

はぐらかされて、風で舞う紙のように躱される日常が当たり前になって。

「先生、昨日は熱い夜だったね」

「……え、先生…?シロコちゃんと、何したんですか?」

「いやいや!!なんもしてねぇよ!?」

不満はある。けれど、この何気ない日常が大事になってきたシロコは弁論を広げる悠仁の近くで、笑うんだ。ちょっとだけ、寂しそうな笑顔を。ホシノだけはその笑顔の正体を知っていて、普段はだらしなく怠惰な彼女はその時だけ背中を立たせて、シロコの首に腕を回すと体重を掛けて『だる絡み』のように心を少しでも軽くさせようとするんだ。

美しい友情だよね。何気ないけど、かけがえのない奇跡だよね。


──でもね、それは全て幻想だったことを突き付けられたシロコは、泣き叫ぶんだ。

目の前で、悠仁の横腹を抉って腕を噛みちぎった正体不明のモヤ。見たことも無いのに、それだけは許してはならない悪意の塊だと直感した瞬間に、シロコの目の前で悠仁の片腕が消えて、服の一部が赤黒く染め上げた。

「あ、あ……あァァァ!!先生ッ!!、し、死なないでェッ!!!」


まだ、二人で旅行してない。

まだ、二人の思い出を作ってない。

まだ───気持ちを伝えれてない。

「シロコ……ごめん、泣かせる、つもりはなかったのに……」

「は、早く手当しないと…ッ!」

「良い、それよりも後ろへ、行け…」

「で、でも!!先生の傷が…ッ!!」

「早く!!」

「…!!」

「……大丈夫、俺は───最強だから。こんなの、屁でもねェよ」

気丈に笑って、痛みを誤魔化して、辛さも弱さも、全てを彼女達に呪いとして残らないように。最強(五条)から受け継いだ想念を滲ませて、立ち上がるんだ。

その背中を見たシロコは、何も言えなくて。ずっと、隣で生きてほしい人から死の臭いが香った瞬間、彼女の瞳から溢れ出る涙となって、それが彼女の中に秘めていた想いがようやく形となって地面に滴ったんだ。

けれど、その涙は悠仁に届くことはない。

いずれ、想いの跡すらも風化していくのを知ってしまった。

そして、悠仁は一度だけシロコに振り返って、最後に笑ってみせるんだ。ごめんって。首元の衝撃でシロコの意識は一瞬で遠のく中、彼女は叫びながら虚ろになる意識に抗おうとして──好意を抱いた彼の存在すらも意識と共に闇に閉ざされた。

「生き残って」

それだけを、耳に残して。

絶対に傷付けないと誓った生徒に手を上げた罪悪感に下唇を噛むけれど、守るために必要なんだと自分に言い聞かせるんだ。そうでもしなければ、シロコは自分の事を見捨ててくれないから。

シロコの目が覚めた時。全てが終わっていて。曖昧な記憶を辿るように探った彼女は、悠仁の姿を探すんだ。取り憑かれたように、いつまでも。激しくなる動悸で息がしずらかった、喉がずっと締められる痛みが、胸を叩くような苦しみを抱えて───。

ようやく、みつけた悠仁にシロコは近寄って、抱えるんだ。



「探したよ、先生……」



焦点の定まっていない、色の抜け落ちた瞳で彼を見つめるんだ。


「……もう、疲れた。私も、先生と同じ場所に…」

落ちていた銃を拾って、銃口を加えて。悠仁の居ない世界に未練を残したまま、彼女は引き金を引いた。

でも、声が脳裏を過ぎった。

「生き残って」


それは、どんな呪いよりもシロコの胸を引き裂いた。嗚咽を漏らして、引き金を絞る手の力が抜ける。金属音の落ちる音を最後に、悠仁を抱き抱えて蹲るんだ。


────先生、目を……覚ましてよ。

届かない想いは、地面に溶けてしまった。


彼の心には、沁みることもなく……静謐の果てとなって。曇天の荒野で、慟哭が響き渡った。



やっぱり、美味いんだよ。そうめんに麺つゆが合うように、彼女もまたシリアスと良く似合うと思うんです。

あ、ちなみに今日は電車の中で四つの満月が見えました。あと数年元に戻れば月食だったのかなって思うと涙が止まりませんでしたね。

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