評価感想ありがとうございます、励みになっちゃうぜ
「───」
途切れた意識の外で、聴こえる。
「……先生、起きて下さい」
それは、声。誰かが、呼ぶ声だ。
「虎杖先生!!」
直ぐ横から響いた声に、心臓は跳ねて、目を見開き飛び上がった。自分が寝ていたであろうソファから距離を取り、一瞬の出来事に固まる悠仁と、悠仁が見せた行動に困惑する声の主。
「…虎杖先生?」
加速する鼓動をなだめながら、周囲をざっと見回す。手足は無事。記憶を探るように顔を上げると、尖った耳と天使の輪を持つ黒髪の女性が、こちらをじっと見ていた。
そして───知らない場所。会社のオフィスと云うよりも、ロビーに近い内装をした空間。
記憶を探りつつ、どう対応しようか悩む素振りを見せる女性を注視した。
記憶が曖昧…?局所的な記憶が抜け落ちてる?さっきまで女の子と対面したような……ぼんやりとした記憶のみで、他が綺麗に思い出せない。
「えっと……申し訳ございません先生。熟睡中に起こして、混乱しているご様子も無理はないですが、そう警戒しないでください」
此方の警戒を宥め、自分は危害を加える意思がないと腕を上げてアピールする。数秒と時間は流れ、ようやく意識もハッキリとしていく。
目の奥に見える、憂慮の情が伺えて敵では無いと察した途端、悠仁は警戒を解いて後頭部を掻きながら、なんとも言えない表情で頭を下げた。
「ごめん、何が何だか分かんなくて」
「…お疲れのようですね」
掛けた眼鏡のフレームを人差し指で上げる。制服の色合いやデザインが、夢で出会った女の子と少し似ているような違和感を憶えつつも、悠仁は目元を二度、三度拭い周囲を見渡す。
今この状況も、改めて夢では無いことが確認できた。頬をつねった痛みで起きることもない。困惑が加速していく中、状況の分析が必要と判断し、呼びかけた女性を見つめた後、呟いた。
「えっと───君は?」
「七神リンです……少し、状況の説明は必要そうですね、先生」
「…お、おう、マジで頼んだ…」
「もう一度、改めて今の状況をお伝えします。私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会幹部です。そして、貴方はおそらく、私たちが此処に呼び出した先生……のようですが」
悠仁の全身を縫うように見つめる。だが、推測を思わせる言葉に悠仁は首を傾げた。
「……ようですが、ってのは?」
「……あぁ、推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」
困惑は極め、疑問符が頭を埋めつくした。学生時代の頃だったら「世界線1」とか「2」とか、あの水曜日の名探偵のように訳の分からないことを言っていたに違いない。
腕を組み、脳がパンク寸前で唸る悠仁を見て「混乱されてますよね、分かります」と、苦笑を漏らして微笑んだ。
「…要は複雑ってことだよな?」
「そのような認識で構いません」
なるほど、と納得したように片手を打つ悠仁。そんな調子に、思いの外大丈夫そうな様子を見て、リンは急ぐように「ここからは移動しながらお話します、私についてきてください」と告げて歩き出す。
リンは言った、「先生にやってもらうこと、即ち学園都市の命運をかけた大事なものです」と前置きして、向かう先はロビーにあるエレベータ。ボタンを押し、中に入り込んだリンは悠仁を促す。
……先生と云う言葉を聞く度に違和感がすごいが、何とか抑えて、エレベーターに乗り込んだ。ガラス張りの街を眺めながら上層へと昇って行く。上昇音を背に、ガラスの向こう側に見える異世界の街並みを、この目に焼き付けた。
…まだ、今の状況に理解が及んだ訳じゃない。漫画のような出来事に加えて、先生役…。ずっと意味がわからない。でも、自然と強ばる手のひらと、リンの暗い表情を見てしまったら…例えこれが覚めない夢だとしても。
───先生。なんて呼ばれたら……。
『──期待してるよ、悠仁』
継ぎたい意思と夢もある、そう言って恩師は自分のことを送り出してくれた。だったら、その期待に応えたい。もし、自分の世界に戻った時……俺は先生になったんだよ!なんて語ってさ。
あの頃のように、五条先生なら笑って聞いてくれるはずだ。
硝子を見つめ、拳を握る。景色の先…情景を見据えてるような悠仁の横顔を見て、目に籠る別の感情を悟ったのか。ふっと笑みを浮かべたリンは彼に告げた。
「───きっと、先生がいらっしゃった所とは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……」
視線を移す。表情を柔らかくして、硝子に手をついたリンは悠仁と視線を交差させた。
「でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね」
■
キヴォトスは幾千もの学園が連れなって誕生した学園都市。詳しい説明はまだ貰ってないが、凡その世界観?とやらが分かった。
そうして、エレベーターは静かに停止し、悠仁が連れてこられたのは幾つもの白い席と紫のソファーが置かれた連邦生徒会のロゴが刻まれた客間……所謂レセプションルームと呼ばれる部屋で───。
デカイ部屋だな、なんて小さく呟いた悠仁の前に、その子は現れた。
「ちょっと待って、代行!見つけた、待っていたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
隣にいるリンを見つけ、声を張り上げた青髪の女性が怒り心頭と云った風に近づいて……不意に視線を横に流す。
「……うん?隣の大人の方は?」
そんな疑問はどこへやら、張り上げた声に気が付いていたのか、茶髪の女性に続いて黒髪の女性も此方に歩み寄って次々に言葉を並べると、リンへと詰め寄った。
「主席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました、風紀委員長が現在の状況について納得のいく回答を要求されています」
レセプションルームに揃う彼女たち三人以外の面々の代弁とでも言うように、言葉に頷く彼女たちもリンに目線で問いただした。ずっと対応を迫られていたのだろう、面々はようやく糸口を見つけた!という表情を浮かべている。反対に、リンは露骨に表情を歪めた。
「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」
その声はどこか冷えていて、髪を耳の後ろに梳かしながら、剣幕のギアを一段上げて言い放った。
「こんにちは。各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余した皆さん」
───え、こわ。
それが悠仁の素直な感想だった。怒らせたらダメなタイプだと、この時理解した。
「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かってます」
寸前で言い直したリンだったが、「…今、暇そうって」と小さく呟いた誰かを睨んでその先を噤ませた。
「分かっているなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!?この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しています、これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの、今すぐに会わせて!」
青髪の子、茶髪の子、黒髪の子を順に不満を口にする。その背後にいる面々からもブーイングが飛び交う。これは不満というよりも、現状を捲し立てる生徒たちに、リンは額を押さえて対応に困っていた。
……すげぇ大変そうだな。
先程のリンの急ぎようから察するに、この対応すら惜しいのだろう。自分もよくわかってないが、みんなの冷静さを取り戻すためには必要なことだと割り切って悠仁は一歩踏み出し、告げた。
「まぁ落ち着けってみんな、大変なのはわかるけどさ!もうちょいリンに優しくしてやってよ!」
「えっと、そういばこの方は…?」
「見かけない方ですね…」
一瞬の静寂の後、全員の視線を一身に浴びる虎杖は少しだけたじろぐものの、直ぐに表情を引き締めた。
驚愕や困惑、悠仁の存在によってそれらはより顕著な疑問へと昇華されている。気になる要素が次から次へと舞い込んできた彼女達は、おそるおそると言った具合に目を見合わせ、青髪の女性と黒髪の女性を筆頭にリンと──本人に問いかけた。
リンからの目配せが来る前に、勢いのまま虎杖は告げる。
「えっと、こんな状況だから簡潔に言うけど、俺虎杖悠仁!その、なんか今日から先生をやらせてもらいます!」
「「「え……!?」」」
そして、見計らったようにリンも特大の爆弾を放った。
「連邦生徒会長は行方不明になりました。ですので、この方───先生が連邦生徒会長の代理です」
「「「え!!!??」」」
驚きはこの空間を伝い、驚きの二段重ねが綺麗なハモリと合わさって、合唱団のような美しさを奏でた声色がレセプションルームを響かせた。
「え、失踪?ここの一番偉いっぽそうな人失踪したの!?」
初めて聞かされた説明に驚きを見せる悠仁に、青髪の女性は勢いよく振り向いた。
「何も知らないんですか!?先生なのに!」
「だって初めて状況聞いたから…」
仕方ないじゃん…!と心の中で弁論を広げる悠仁である。
「この大人の方は、本当に先生なんですか?」
「えぇ、間違いなく。彼は連邦生徒会長が特別に指名した方です」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名って……ますますこんがらがってきたじゃないの……」
際どい制服を着込む黒髪の女性に返した言葉で、余計に頭がパンクする青髪の女性を、リンは一顧することなく毅然と話す。
「本題に戻しましょう。結論から言うと、連邦生徒会長が失踪しサンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなった為、連邦生徒会の行政制御権が失われました」
「はっ!?」
「……!」
「…そんな」
みなが愕然とする中、悠仁はピンと来てない様子で腕を組んだ。その様子を見てた青髪の女性は駆け寄って「そんなことも教えられてないんですか…」と耳打ちする。驚きの連続で耐性がついたのか、先程の「はっ!?」なんて大きな声を出した本人とは思えない冷静さを湛えていた。
「…えと、ごめん。教えて」
「…簡単に例えると、スマホのCPUみたいなものです」
「あぁ、なるほど…ありがと!えっと…」
「早瀬ユウカです、覚えておいてくださいね」
「あぁ!ありがとうユウカ」
二人のやり取りを聴きながら説明を省きすぎたな、と思ったリンだったが、眼鏡を指先で押し上げながら問題の核心───解決の糸口となる言葉を放つ。
「認証を迂回出来る方法を探していましたが、先程解決しました───この先生が、フィクサーとなります」
「……この方が?」
「……俺が?」
黒髪の女性は虎杖を見て、悠仁自身も指先を自分に指すと確認を取るようにリンを見遣った。
「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問として、こちらに来る事になっていました」
「それは?」
「連邦捜査部、シャーレ」
彼女の言葉が鋭く響く。連邦と名が付く以上、この連邦生徒会に何らかの形で属すことは確実。しかし、彼女達の困惑はそこではなく、全く聞いたことも無ければ前例のない名称に戸惑いが隠せなかった。
「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを、制限なく加入させる事すらも可能なもので、各学園の自治区で、制約なしに戦闘行動を行うことも可能です」
重く響いた規格外な組織の概要は、先程まであった喧騒の空気を一瞬で変化させた。誰しもが考える部活というカテゴリーから逸脱した、ある種の軍隊組織のような危うさを孕んでいる。
実際、茶髪の女性が「まるで……軍の戦力のようですね」とうっかり零していたように、全員の考えを代弁していた。リン自身もこれだけの権限を与えた理由は判然としてないようだったが。
しかし、悠仁だけは違う部分に反応を示していた。戦闘行動という単語に、引っ掛かりを覚えたのだ。そして、彼女たちをよく見れば…銃器を収納するホルダーと、本物らしき銃。
───この世界は、どこか可笑しい。
なんで学生が銃なんて持ってるんだよ…と内心で突っ込みつつも、悠仁は本能的にこの場が"普通の学校"とはまるで違うと察する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。つまり俺は……その、銃持ってるような生徒たちをまとめて、しかも戦わせる部活の顧問ってこと?」
「…戦わせる訳では無いですよ。ただ、そういう資格も持っている…と云うだけです」
リンは即答した。何の迷いもなく、まるでそれが当然であるかのように。
「いやいや、無理無理無理!てか、今更だけど教員免許とか持ってないのに、先生出来んの…?」
「大丈夫です、ここでは教員免許は重要ではありません。あなたは選ばれたのですから」
「…選ばれたって言葉、便利だよなあ……!」
苦笑いを浮かべながらも、悠仁は徐々に空気を読むようになってきていた。この世界の“非常識”に順応しなきゃいけない。たとえそれが、自分がフィクサーなんてものを任される話だとしても──。
一方、ユウカや他のメンバーも、混乱しつつもどこか腑に落ちたように黙り始めていた。
「シャーレの部室は此処から約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいるので、先生をそこにお連れしなければなりません」
隠すような言い草に悠仁は問いかけた。
「あるもの……?ってのは、なんだ?」
「───そうですね。現状、先生にのみ扱うことが許された物……と言っておきます」
「ちょー大事なものってわけね」
「はい、ですので今直ぐに手配します」
何を?なんて疑問すら置いていくような速さで、リンは手元の端末を操作し何処かへと連絡を入れる。数度、コール音が鳴った後、投影されたホログラムには菓子を片手にのそりと身を揺らす少女の姿が映った。
「すっげ、めっちゃハイテクじゃん」
そんな呑気な声を上げる悠仁を他所に、少女の職務中の怠慢な姿にリンは少し眉をひそめたが、既に慣れた光景のようで、苦言を飲み込み要件を伝えた。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリを手配して」
『シャーレ?ああ、外郭地区の……そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ?」
『矯正局を脱出した停学中の生徒が暴れているの。やばいくらい戦場だよ』
「……うん?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしているみたいなの。巡航戦車までどっかからか手に入れて来たみたいだよ』
呆然と見つめる一同に加え、呑気な空気を纏う少女との温度差が激しい構図が生まれている現在。悠仁の心中は元からなかった穏やかさを殴り捨て、どうして学園都市と云う世界観で「焼け野原」だの「巡航戦車」だの、物騒な単語が飛び交うのか。
いや、銃器がある時点で薄々分かっていたが……まさかここまでミリタリー色強い世界観なのかと慄いた。技術力も元の世界より高そうな感じもあるし、俗に言うSF要素とミリタリー要素の二つがくい込んでいる可能性が高い。
どちらも有り得る……それだけだ。
全然それだけだ、じゃない。
モモカと呼ばれた少女は立て続けざまに告げる。
『なんかね、連邦生徒会所有のシャーレ部室を占拠しようとしているらしいの。まるでそこに大事なものがあるみたいな動きだけど?まぁ、どうせ元々めちゃくちゃな場所だから、別に大事な───あ、先輩。頼んでいたデリバリーが来たから、また連絡するね!』
「………」
ブツ、と通信が切れる音が響いた。訪れる沈黙、リンがプルプルと体を揺らして、怒りの影響か、手に持った端末がみしりと軋みを上げた。
悠仁を含めたここに集まる全員がスっと距離を取った。少し離れた先で、悠仁は念の為「大丈夫?」と問いかける。
距離の離れ具合にこめかみから青筋が浮かんで、この選択は失敗だったと悠仁は後悔するが、時すでに遅し。リンは不気味な笑顔を作った。
「……だ、大丈夫です、少々問題が発生しましたが大したことでは」
眼鏡を押し上げ、僅かに震えた声で告げるリン。それから彼女は悠仁と一緒になって距離を置いたユウカ達を見つめた。
何かを言いたげに。
「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」
さらに下がったユウカとリンの距離。嫌な予感でも感じたのだろうか、ユウカは身を捩りながら訝し気な表情を浮かべる。
見つめられた対象である、ユウカを含めた四人の女性はユウカ以外何もピンと来てないようで、不思議に思う表情こそすれど、事の顛末を窺っていた。
やがて、リンは満面の笑みを浮かべ、まるで何でもないかのように宣った。
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいらっしゃったので、私は心強いと思いまして」
「……えっ?」
「キヴォトスの正常化の為に、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
ついていけてない展開に、固まる。しかしユウカだけは必死に食らいつき、一人足早に向かうリンの背中越しに慌てて問いかけて──。悠仁もようやく再起して、嫌な予感が巡る脳に確実な否定材料を投下したい思いで、同時期に訊いた。
「え、ちょ、ちょっと待って!? どこ行くのよ!?」
「もしかしてだけど、リン───」
だが、笑みを浮かべたまま、彼女はいっそ爽やかな口調で告げた。
「えぇ、先生のお察しの通り。戦場に行きます」
ブルアカと呪術廻戦の親密度というかシンクロ率というか、めちゃ高いことに気が付いた。キャラもそうだし、めちゃくちゃ共通点多くない?やば、めっちゃ箸進むんだけど。
いいご飯のお供になります。早くスパイスをぶち撒けて堪能したい。生徒たちの情緒をぶっ壊してぇ……なのに理性では鬱とかシリアスはやめて!!と叫んでる自己矛盾が巡回してる