虎杖先生、少しお時間をいただけますか?   作:だっちゃまん

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マジで誤字脱字報告助かってるよ!!


あなたに込めた、想い

 

「シャーレの部室はもう目の前よ!」

 

ユウカが告げ、駆け足のまま全員が前を見据える。公道の向こう側、大通りを一つ挟んだ先に聳え立つ白い棟───連邦捜査部シャーレ。向かう道中の至る所に破壊痕が刻まれていたが、幸いにして進路が寸断されていたり、封鎖される事もなくシャーレ付近へと到達出来た。

 

丁度その時、悠仁の手元、握った端末が不意に震えた。名前を確認し応答ボタンを押し込めば、リンのホログラムが目前に表示される。

 

『今回の騒動を起こした生徒の正体が判明しました』

 

重々しい口調だった。走りながらホログラムを視認する悠仁は、「これが生徒絡み…?すげぇな」と呑気な言葉を漏らす。眼鏡を指先で押し上げながら、彼女はその主犯となる人物の名を告げた。

 

『ワカモ───百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です、似たような前科が幾つもある危険な人物。気を付けて下さい、先生』

 

矯正局の詳細は知らない悠仁だが、リンの言い草や脱獄という物々しい言葉を照らし合わせれば、意味がハッキリしてなくとも刑務所のような施設から脱獄した囚人だろう、程度の意味合いは取れた。

 

しかし、もしそうであれば…今のところ男性?らしき人は見てない。もしかして初めての同性が犯罪者とは思いたくなかったが、頭の中ではガチムチのプロレスラーを想像していた。

 

一瞬だけ、東堂の顔が過ぎったが…流石に失礼だろうと首を振る。

 

その時だった。

 

「──先生!前方に敵影です!」

 

チナツが叫び、悠仁達は足を止めた。進路上、まるで立ち塞がるかのように展開した不良達、その奥にいる明らかな"ボス"格と思われる、女性まで捉えた。白い狐面を付けた異様な存在感を放つ───あの子も、生徒なのだろう。

 

姿を認めたと同時期、緊張を滲ませながらハスミは告げた。

 

「先生───彼女が騒動の主犯、ワカモです」

 

悠仁が想起した姿とは違い、可憐であるものの…白い狐面の奥、冷ややかな殺意を孕んだ視線が一瞬だけ交錯する。背筋を撫でるような寒気が、この場の空気を割いた。

 

「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフ、まぁ構いません」

 

「結構…強そーじゃん」

 

緊張が孕んだこの空間において、悠仁の声を拾ったものはいない。相対するのは銃を肩に乗せ、両手を絡ませるようにして持つ狐面を被った和装の少女。

 

しかし、その実態は。

 

「彼女はこのキヴォトスに於いて、最悪と称される指名手配犯───七囚人の一人です」

 

チナツが、重々しく告げる。今も冷や汗を垂らして、警戒を行う姿を見るに…余程厄介な手合いだと推測できる。そんな彼女が不良を引き連れシャーレ前に陣取り、迎撃の姿勢を見せている。堂々と直立するその姿をじっと見つめ、悠仁は呟いた。

 

「みんな、俺が合図したら走って」

 

「え…先生、何をするつもりですか?」

 

「強すぎて忘れてましたが、貴方は護衛対象…危ないことは控えてくださると…」

 

「大丈夫。俺…こう見えて強いから」

 

かつての恩師を思い出すように、強く宣言する。ワカモは一人、大破炎上した車両の上に陣取って迫り来る四人を見据えているが、特に行動に移す様子は見られない。

 

警戒してるのは、悠仁を除いた四名のみ。ステゴロは非常識、銃を持って一人前。そんな認識の片鱗を垣間見たのだ、銃を持たなければ舐められたりするのだろう。

 

それとも、別の思惑があるのか不明だが今すぐ動く訳では無さそうだ。

 

「あの建物に何があるか分かりませんが、連邦生徒会が大事にしている物と聞いてしまうと……壊さないと気が済みませんね」

 

仮面越し、素顔も表情も分からないのに舌を舐め回す仕草が見て取れる。カチャリ、と担いだ銃の口を下に向けて、邪魔者を相手するように軽く手を振り払った。

 

「久々に楽しめそうです。ウフフ───さぁ、暴れなさい」

 

解き放たれた暴徒達は、奇声や雄叫びを吠えながら、有らん限りの暴力を刻んだ。迫り来る不良達を目前にしても、ユウカ達に憂いは無し。視界の先で幾つものマズルフラッシュが瞬き、甲高い金属音が木霊しようと──相手ではない。

 

「───走れ!」

 

悠仁の合図を機に、ユウカ達は走る。それぞれの獲物を手に、弾丸を避けながら最高速で駆け巡る。彼女たちとて鉛に当たれば傷も付くだろうに、悠仁の言葉を信じ、短い期間ながらも背を預けるに値する相手だと、殊更に告げていた。

 

彼女達の本音は分からない、それでも今こうして悠仁の言葉を信じてくれる姿に、嬉しく思うと同時に、かつての気持ちが蘇った。

 

───俺はもう、喪うわけにはいかない。

 

「ハスミは右側の物陰に、スズミはユウカと一緒に身を隠して遊撃、チナツは三人のサポートを!」

 

「「「はい!」」」

 

各々が散開して、位置につく。身を隠し、障害物越しに射撃を開始する。弾丸が交差し、金属の跳ねる音があちこちに響く。

 

此方は所属する部活が部活なだけに、全員が全員射撃の名手───数は向こうが上、しかし質では此方が勝る。余程の量さえ無ければ、真正面からの撃ち合いだろうと負けない事を、悠仁は先の一戦で確信していた。

 

そして、悠仁の役割はそんな四人が戦いやすいように戦場を乱すこと。被弾による怪我の恐れ?そんなのは無い、宿儺に走る方が恐怖があった。目の前で恩師が死にゆく様を見る方が幾倍も身が竦んだ。誰かが傷付くよりも、死ぬ事よりも。

 

───彼女達の体に傷を付けるより、この方が手っ取り早い。

 

「……先生、あなたの身に何かあれば、自警団としてのプライドが許しません」

 

「え、なんで戻ってきたの!?」

 

「そーですよ!先生!ここは私たちの専売特許なんですからね!」

 

肩を預けるようにして、戻ってきたユウカとスズミは悠仁の左右を陣取った。心配からなのか、後方に視線を向ける悠仁に、スズミは優しくも力強く告げる。

 

「大丈夫ですよ、ハスミさんが後衛狙撃を担当しますから。あそこにはチナツさんもいますからね、余程のことがない限り二人を崩すことは出来ません」

 

「まったく……先生ってば、無茶ばっかり」

 

ユウカが小声で呟きながらも、しっかりとスズミを庇うようにして撃ち返す。スズミその背中を頼もしく感じつつ、遮蔽物から機を見ては正確に撃ち抜いていく。遊撃としての役割を果たす二人の息は、すでに見事なまでに噛み合っていた。

 

一方で、チナツの立ち位置は後衛全体を見渡せる高所。後衛狙撃担当のハスミに向けて迅速な指示を出しつつ、回復や支援の準備も怠らない。

 

「ハスミさん、右斜め前、三番目の遮蔽の影に移動中の敵、射線通りますか?」

 

「──見えました。狙い撃ちます」

 

冷静な声と共に、乾いた発砲音が響く。次の瞬間、敵の一人が崩れ落ちた。悠仁はといえば、前線に躍り出て敵の注意を一身に集めていた。飛び交う弾丸を紙一重で避け、飛び出してきた不良の一人を拳で地面に叩き伏せる。

 

(ああ、懐かしいな。この感じ)

 

悠仁はふと、昔の記憶を思い出す。あの頃、自分が「教師」になる前、ただ拳を振るっていた時代の感覚が蘇ってくる。

 

(だけど今は違う。呪術師じゃない。俺は────)

 

「先生!!前っ!」

 

ユウカの声が飛ぶ。咄嗟に屈んだ悠仁の頭上を、爆発物が通り過ぎた。ドォン!と爆発音が響き、土煙が戦場を覆う。

 

「……あいつら、爆弾まで持ち出すのか」

 

土煙の中、悠仁はなおも前へ踏み込む。拳を構え、視界の悪さを逆に利用して敵を一人、また一人と沈めていく。この男にとって、銃火器の有無は関係ない。そう思わせるほどの闘気と殺気。そして何より───。

 

「俺には、守らなきゃならない生徒がいるんだよ」

 

たとえ、過去の力がなくても。今度こそ護るために悠仁は再び走った。それに続いてスズミとユウカも遮蔽物を縫うように走っていく。ハスミはその背をライフル越しに捉え、邪魔になりうる敵を一人、また一人と正確に頭を弾いていく。

 

「……これは、なるほど」

 

後方で控えるワカモも、小さく驚きの気配を漂わせながら五人の連携を見遣る。狙撃の腕前もさる事ながら、遊撃の役割を持つ二人ともう一人…否、大人へと視線を向けた。

 

「フフ…随分とまぁ……」

 

呟き、狐面の奥で目を細める。知らぬ人物だった、連邦生徒会の制服を着込んだ戦闘員…しかし、そんな噂話もとい人物が居ることなんて聞いたことがない。距離があるため顔までは視認できないが、体格的に恐らくは───男性。そして遠目からでもヘイローが確認出来ない。となると……外部の人間の可能性が高い。

 

……もしそうであれば、非常に脆い存在のはず。

 

目の前で不良を殴って気絶させたかと思えば、岩を砕き、弾丸を躱す。まるで縄張りを駆け巡る猿のような動きで、確かとも不確かとも捉えれる目の前の情報を口の中で転がす。なぜ、キヴォトス外の人間があそこまで強いのだろうか。極めつけは、時折その大人の男性が身振り手振りで何やら口を開き、その度に生徒達の動きが更に洗練されていく様は、正に───戦闘も兼ねた万能型の指揮官。

 

ワカモはものの十秒足らずで、悠仁の役割を悟った。彼女達の動き、部隊のような完成されし動きではないが、確実に動きが良くなっている。SRTの特殊部隊程では無いにしろ、ワカモの推測を裏付ける光景であることは間違いない。

 

一言で言えば、厄介。

 

キヴォトスで最悪の犯罪者として逃げ続けた彼女の野生の勘は、今まで外れたことがない。これ以上長引いてしまえば…己であってもまた捕まる可能性がある事に気付き、顔を顰める。

 

───ここは、戦略的撤退ですね。

 

生き残る術、それは戦局を冷静に見極めること。──そうしてワカモは、このキヴォトスで何度も死を潜り抜けてきた。何度捕まろうとその度に脱獄を繰り返し、死さえ遠のく生き様をこの背中に宿しているのだ。数こそ不良たちが上でも、所詮は寄せ集めの素人。──こちらとの格差は月と鼈。自身が加勢した所で膠着状態に持ち込むのが精々、そして時間を掛ければ掛ける程、状況は相手方に有利となる。

 

加えてあの指揮官、何なら自身が加勢した所で意味はないだろう。むしろ、捕らえかねない。

 

……もう、ここにいる理由はない。彼らは“正義”という錘をぶら下げている。その分、足は遅くなる。追いかけることはしないだろう。立っていた自動車のルーフから飛び降りると、ワカモは近場の不良に向け云った。

 

「───私はここまで。後は任せます」

 

「え、そんな!?」

 

それだけ告げ、一方的に戦線を離脱するワカモ。その行動は余りにも素早く、止める暇もない。そして彼女の行き先は──シャーレ。悠仁は、思わず飛び出しそうになるも、その足がすんでの所で止まった。

 

「逃げられてるじゃない!?追うわよ!」

 

「いや、大丈夫。まずは掃討しよう」

 

「先生の言う通りです。生半可な行動よりも、まずはシャーレ前制圧と奪還が最優先です」

 

ハスミに諭され、浮き足立って追いかけようとするユウカは何とか気持ちを飲み込んで納得を見せる。逃げられる事は何となく予測済み、追いかけたい思いも悠仁とて無い訳じゃないが、本来の目的を見失ってはいけない。

 

だが、何かしら打開する策を講じるだろうと推測を立てつつ、警戒を怠らない方がいいだろう。

 

「ワカモだっけな?アイツ、何の策もなしに逃走を図るなんて考えづらい、罠の可能性も視野に進もう」

 

「彼女の謀略は底なしですからね」

 

ゲヘナ学園、風紀委員会に所属するチナツもワカモのことをよく知っている。もっと正確に伝えるなら、危険人物となり得る生徒の情報は例外なく、把握済みだ。もちろん、彼女が捕まる要因となったSRTの特殊部隊も資料として残されている。

 

スズミは顔を顰め、ハスミは小さく息を吐く。チナツも心做しか先ほど以上に肩に力を入れて緊張を滲ませてる。反してユウカはいつも通り。

 

スズミやハスミの気持ちは痛いほどわかる、悠仁とてその手の戦術に散々手を焼かされた側なのだから。逃げると見せかけてトラップ、伏兵、囮攻撃。本当に碌な記憶が存在しない。

 

何にせよ、敵の主格が消えた今が好機であるのには違いない。攻めるなら、今だ。トップが不在になってバラバラになった不良達を横目に、号令を発した。

 

「チナツ、スズミ、ハスミ、ユウカ。頼りにしてる、このまま突っ走るぞ」

 

「「「はい!」」」

 

それからというもの、司令塔を失った途端に統率が無くなり、数を減らした不良達の抵抗も虚しく、あっという間に制圧を完了した。ユウカ達に傷は一つもなく、今日一と言っても良いほどには快勝できただろう。皆に負傷が無い事を確認した後、目前となったシャーレの入口付近でチナツに尋ねる。

 

「ほかに残党はいそう?」

 

「いえ、目視で視れる範囲内には残敵はいません。狙撃の警戒は必要ですが、連邦生徒会からの情報を参照する限り、この周辺で展開していた兵力は今ので最後の様です」

 

「おっけ、じゃあこの子達を路肩に移動させてもいい?」

 

「え、あ、はい。もちろんそのつもりです」

 

意表を突かれたようなチナツを横目に、シャーレの方角で固まるユウカ達に聞こえるよう、声を大にして云った。

 

「ごめんー!路肩にこの子達移動させたいから、手伝ってー!」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

「轢かれたら可哀想ですし…仕方ないですね」

 

ユウカはそう呟きながらも、真っ先に足を運ぶ。やれやれに近いその顔にも、どこか安堵の色が滲んでいた。表情こそ固いものの、ユウカも彼女達同様に心優しい生徒なんだな、と。昔の仲間を思い浮かべながら笑みを深める悠仁。

 

(釘崎なら。はぁ?めんどくさい、なんで私がコイツらをとか言うんだろーな)

 

容易に想像できるその悪態は、やっぱりどこか懐かしかった。

 

役割を分担させ、ハスミはライフルを抱えたまま周辺を警戒に、スズミとチナツは悠仁とユウカ同様に不良達を担いで路肩に積んでいる。山の様に積まれた不良達の姿を見ながら、ユウカは一息ついた。

 

「ふぅ……よし!ようやく入口まで到着!」

 

ユウカが銃を担いで、高々と聳え立つシャーレを見上げる。釣られるように悠仁達も建物を視界に捉え、長きに渡る任務に終わりが見え始めた────その時だった。

 

その言葉を掻き消すように、傍から妙な金属音が鳴り響いた。まるで鎖を引き摺るような、いや、重々しい金属が地面を擦る様な轟音と振動が段々と近づいて来ていた。

 

音に気付いたユウカ達が顔を顰め、各々が背中を合わせるように、円になって集合し、音の出所を探って───それは、現れた。

 

「───みなさん、気をつけてください!!巡航戦車です!」

 

チナツが叫ぶと同時、横合いの建物、その壁をぶち抜いて巨大な鉄の塊――戦車が恐ろしい勢いで突貫して来た。

 

破片や砂埃を撒き散らし、威圧感を湛えた姿は正に鉄の王。それぞれが瞬時に反応を示し、その場から退散。直ぐ目と鼻の先を重々しい重低音を響かせながら戦車が通過し、そのまま火花を散らして、砲塔を回転させた。

 

もう数秒退くのが遅ければ、あの重厚戦車の踏み場となって、今頃血を吹き出しながら死んでいただろう。降り注ぐ破片と粉塵を払い、ハスミが驚愕の表情で叫んだ。

 

「…!!やはりこの音、巡航戦車クルセイダー1型!? トリニティの制式戦車と同じです!」

 

「それってヤベーってこと!?」

 

「簡単に言ったら、ちょーやばいです!」

 

「サンキュー!すっげー分かり易い、そんで、なんで持ってんの!?」

 

「不正に流通された物でしょう、PMCに流れた戦車などが不良達の手に渡ることも、屡々ありますから!」

 

スズミのすかさず云ったフォローを口の中で転がし、これも、もしかしたらサンクトゥムタワーが関係しているのだろうかと思索する。だが、悠長に考え耽る時間は無いようで、砲塔が此方に標準を定める。

 

「――俺が引き付ける!ユウカ、スズミは俺と来い!他は退散!」

 

砲撃されるよりも早く、ユウカとスズミを連れて戦車の後方へと迂回。ハスミとチナツは近場の建物に駆け込んでいく。本来なら、全員を退散させたいが…今の悠仁では重厚戦車の装甲を拳一つでぶち抜けるか分からないのだ。

 

なるべく、標準が自分に定まるよう動きつつ……二人への警戒を散漫化させる。

 

そんな悠仁の思いは露知らず、ユウカとスズミは脚力に物を言わせて戦車の背後に回り込み、比較的装甲の薄い背面装甲目掛けて銃弾を放つ。反動で腕がピリピリと軽い電気が走っても尚、放たれた弾丸の悉くが甲高い音を立て、無情にも弾かれ地面に転がる。

 

連撃の嵐に見舞われても、傷一つない装甲に苦言が漏れる。

 

「流石に無理があるわよね……!!」

 

スズミも同様に、背面装甲を打ち続けるものの……効果はいまひとつ。苦虫を噛み潰したような表情で射撃を止めた。その同時期、砲塔が回っている事に気付き慌てて距離を取る、その背後で、砲塔を誘い出した悠仁は一瞬、直立不動を保ち───。

 

「ちょ、先生何してるんですか!?」

 

爆音が鳴った瞬間にその場から消え失せる。砲撃が悠仁の立っていた場所を抉った。砕けたアスファルト片が飛び散り、ユウカは道路の上を転がりながら演算を開始、シールドを展開する。

 

同じくして、スズミは物陰に飛び込んだ英断によって衝撃や破片から身を守った。爆炎を裂き、砂塵と共に飛び出したユウカは砲塔に捕捉されない様、戦車の周辺を駆け巡りながら、悠仁の元に向かう。

 

そして、涙声で訴えた。

 

「先生!!危険なことはしないでください!すごく、し、心配したんですから!!」

 

「え、ちょ!ごめん!わるかった!!もうやらないから!だから泣かないで!」

 

「泣いてないです!!」

 

「───先生!ハスミさんからです!」

 

スズミが悠仁に向けて投げ込んだ小型の無線機を受け取り、建物の陰に移動したタイミングで、見計らったように無線機越しにハスミの声が響く。

 

「先生、チャンスは一度だけ……。クルセイダーを撃ち抜く秘策があります」

 

「マジ!?」

 

「そのためには……先生のお力と、お二人の協力が必要です」

 

「…そーなるよな」

 

戦車は悠仁たちを見失い、砲塔を回転させながら辺りを撃ち続けて探し回ってる。あまり長居はしていられない。

 

「先生は、私たちが戦うことに少し忌避感があるのは分かってます」

 

「……うん」

 

「信じてください。私たちは、負けません」

 

分かっているつもりだ。ユウカ達の実力は高い、それは先の戦闘で思い知らされたばかりだ。でも、やはりどこか彼女たちが傷付くことに、恐れてる自分がいる。

 

平和になった日本のぬるま湯に浸りすぎた弊害とでも言うように、人の死に敏感になって、傷付く誰かを見るといても経ってもいられなくなる。

 

「先生、私たちは大丈夫です」

 

「そうです、先生だけが危険を晒すぐらいなら、一緒に行きましょう」

 

……本当に。だせーな、俺。

 

覚悟を決めていたと思っていたのに。

 

「分かった……やろう。俺も、信じるよ」

 

無線機を強く握りしめた悠仁の声に、ユウカとスズミも頷いた。その眼にはもう、迷いはなかった。

 

「三人とも、今から伝える場所に戦車を誘導してください。先生は、なるべく視認装置と後方部分をぶち抜いて頂けると助かります、私たちは──後方の建物屋上に、即席の対戦車装備を設置します」

 

「了解。ユウカ、スズミ、ついて来てくれるか」

 

「もちろんです!」

 

「全力で援護します!」

 

三人は瓦礫の影から飛び出し、陽動を開始。砲塔が再び動き出し、彼らの姿を追って吠えるように発砲した。頑丈とはいえ彼女たちも、人間。至近弾ならまだしも、直撃となれば一撃と持たないだろう。短期決戦、早めに決着を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声と砲撃が交錯する中、屋上に身を伏せたハスミは、静かに息を整える。

 

「……風、なし。照準、完了」

 

クルセイダー1型。詳細はエンジンの寿命が短い。後退速度も遅く、被弾による搭載弾薬の装薬が誘爆・炎上しやすい。そして、不正に流通されたものなら遠慮は無用。

 

隣ではチナツが即席の簡易兵装――対戦車用の高初速ライフルの調整を終えている。残弾は一発。試作段階の兵装に過ぎないが、信じるしかない。

 

「先生達が敵を引きつけてくれてる……今しかない」

 

砲塔が完全に後方を向いた瞬間を狙い、ハスミはトリガーに指をかける。オイル漏れ等の難がある可能性がある1型は、トリニティの万全の整備を持ってしても、起きて得てしまう曲者。

 

車体の見た目こそ整ってはいるが、クルセイダー1型が通った道にはうっすらと濡れた痕跡がある。それを見た瞬間に、ハスミはこの作戦を考えるに至ったのだ。よって、狙う場所は後方部に搭載された、エンジン。爆発を誘引させるために。

 

『───中の子は、死なないんだよな?』

 

本当に、先生は優しい方だと思う。

 

爆発が原因で傷付くことはあれど、悠仁が考えるような最悪の結果を招くことは無い。と、説明してこの作戦の決行を許諾してくれた、ついさっきまでの会話を思い出した。

 

これが所謂、目からウロコ…とでも言うのか。この一度たりとも、誘爆によって負傷する搭乗者に対して心配と云う気持ちを抱いたことがなかった。相手は敵であり制圧すべき存在と、心の中で思っていたから。

 

『……まぁ、不良って言っても、生徒なんだろ?だったら良いって訳じゃないし…』

 

(そんな、貴方だからこそ。私は力を貸したいと思ったのかもしれませんね)

 

目線の奥で、ユウカはシールドを再展開し、背中を晒す形で無防備となった。ユウカ目掛けて砲撃を放つように砲塔を向けるも、スズミが戦車の装甲に射撃を加える。それに気付き、緩慢な動作で砲塔を回すクルセイダー1型。

 

まるで相手を小馬鹿にするような砲塔の動きに、ハスミは苛立ちを覚えた。だが――むしろ好都合。悠仁たちにとって、最高の隙だった。搭乗者は自身が絶対的な優位に立っていると疑っていない、その行動の裏で───終わりが近づいているとも知らずに。

 

キューポラ、視認装置、スプロケット、ターレットリング辺りはどう頑張っても装甲が張れないが、場所を選べば、貫通自体は可能。でも、貫通するよりも勝率を著しく上げる戦術の要は、悠仁を置いて他にいない。

 

そうこうしている間にも、ユウカとスズミは戦車の周囲を駆け回り、砲撃を掻い潜りながら挑発射撃を繰り返す。ユウカ達に気を取られてる間に、周辺を縫うように悠仁も動きを開始して戦車の後方部分を殴った。

 

人の拳が当たったとは思えない重厚で腹の底から響くような轟音を鳴らし、一瞬だけ車体が地面から浮き上がって、傾いた。その光景に、ハスミは単独でクルセイダー1型を大破出来るのでは……と思ったが流石に現実的ではないと思い直す。

 

クルセイダーは慌てて動き出すが、その足取りは重く、明らかに損傷が深い。弾切れを嫌ってか、砲撃の頻度そのものが最初よりも少なくなっているとは云え、それでも砲撃の威力は抑止力としてこれ以上ない程に機能しており、砲塔を向けられただけで、全力の回避を強いられる。

 

既にユウカとスズミの制服には、大小の汚れが目立っていた。悠仁に至っては砂塵や砂埃でしか汚れている異常な姿ではあるものの…ハスミはもう考えないようにした。

 

そして、悠仁の合図と共に戦車の視認装置目掛けてスズミが閃光弾を投擲。人間を相手にする時よりは効果を期待できないものの、一瞬のホワイトアウトは引き起こせる。

 

閃光弾は戦車の正面装甲に弾かれ、目前で炸裂。ユウカと悠仁は閃光弾が投擲されると同時に進路上を飛び出し、退避。視界が白く染まり、目測を見誤った戦車が勢いそのままに壁に突撃していく。

 

背を追い掛ける形で、悠仁は走る。そして壁を殴って破壊した後、視認装置を上から殴るようにして、大きく凹ませた。更に、視界不良を起こすよう壁を崩壊させていく。この程度の瓦礫に埋まろうと、壁に激突しようともビクともしない代物。再び駆動を開始するだろう。

 

そして、その時が遂にやってきた。

 

「───まったく、苦労させるわねっ!!」

 

「ですが、その甲斐がありましたね」

 

ユウカとスズミの疲労困憊具合を無線機で拾う。そんな姿に、ハスミは口角を上げて告げた。

 

「お疲れ様です、お二人共。また───機会があれば、この五人でお食事でも致しましょう」

 

姿は分からないが、無言の頷きが聞こえて…ハスミは気持ちを切り替える。舞い散る粉塵を手で払い、ユウカとスズミは藻掻く戦車の傍から距離を置き、瓦礫の上に立って鉄の塊と化したそれを見下ろす悠仁は、ハスミの位置を捉え、グットポーズを送った。

 

「───撃ちます」

 

「……分かった。カウント入る。3……2……1──!」

 

乾いた銃声と共に、弾丸が閃光の軌跡を描いて飛び出す。炸裂音とともに、戦車の後部装甲に亀裂が走った。

 

同時に、戦車がゆっくりとこちらに向き直ろうとする。

 

だが――

 

「任せろッ!!」

 

悠仁の拳が、亀裂を叩き抜いた──その瞬間、時間が止まったように思えた。誰もが息を呑み、鼓動が世界に響いた時、内部で何かが爆ぜ、鋼鉄の獣が呻き声を上げる。

 

───火花。そして、けたたましい大爆発がすべてを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───先生、あの拳は何者なんでしょうか……?」

 

「え、拳が?」

 

「その拳です。なんで戦車を殴って拉げるんですか…?」

 

「俺のちょーパワーってやつ?」

 

大破された戦車の前で、そんな事を呟く悠仁たちは戦闘一色の雰囲気から開放されたように、思い思いの言葉を発していた。ほとんどが悠仁の異常なパワーに引いている模様だが、それは仕方ないと言える。特にスズミとユウカの二人。

 

ハスミはもう諦観気味に会話を聞いていたが、チナツだけはずっと上の空で「…アコ行政官が聞いたら……うるさいかなぁ…」とブツブツと口を動かしていた。

 

路肩には搭乗していた不良達も積み上げられている。怪我も多少の火傷程度に治まっていたようで、悠仁はホッと胸を撫で下ろしていたが、チナツの回復剤を使い、火傷の痕が残らないよう処置も施されている。

 

尚、搭乗員であった三名はユウカの私的制裁によって原型を留めていない顔になっているが、あれを止めれるほど悠仁は肝っ玉が座っていなかった。

 

回復した意味が一瞬で消えたことは言うまでもない。

 

「んー!!着いた!!」

 

心なしかすっきりした表情でそう告げるユウカ。そんな彼女を恐ろしいものでも視たように見つめる悠仁の元に、一本の通信が入る。端末を取り出せば、発信者は「リン」、応答ボタンを押し込むと彼女のホログラムが投影される。

 

「シャーレの奪還に成功したようですね。お疲れ様です、先生。私も直ぐに到着するので、地下で会いましょう」

 

「おう!待ってるよ」

 

それだけ告げ、通信は切れる。まだまだ仕事がある五人はどっと息を吐いて、次の任務完了を遂行するまで気を抜いていられない。だが、死ぬ気で頑張ってくれたみんなに労いの言葉を紡いだ。

 

「みんな、ほんとにありがとうだし、おつかれ!マジで助かった」

 

「いえ、此方こそ。これらも全てキヴォトスの平和に繋がることですから」

 

「もっと感謝をしてほしいぐらいですが、充分謝意はもらいました。私の方こそ、助かりました」

 

「それより、先生。また端末が鳴ってますよ」

 

スズミ、ユウカに続いてチナツ達も何かを告げようとした瞬間、ハスミに釣られる形で小刻みに揺れた端末の画面を見る。送信者は同じく「リン」、なにか伝え忘れでもあったのかと、もう一度ボタンを押し込んだ。

 

「───二度も申し訳ございません、先生。お伝えし忘れたことがありました。地下には、お一人で向かわれるようお願いします」

 

それでは。と、此方の反応が訪れる前に通話が切れた。

途端に四人は顔を見合せて、悠仁に駆け寄って端末を奪うと、「あんの女狐…!」と恨み、怒りを全開でリンに鬼電を掛けようとするユウカを何とか止めて、端末を奪い取る。

 

「あっぶね…!」

 

「先生!どうして止めるんですか!」

 

「止めるよ!?」

 

「───私たちが関わるべきではない、何かがきっとあるんでしょう。心配ですが、ここは見送りましょう」

 

「……そう、ね。もし、ワカモがいても先生なら対処出来るはずだし……分かったわ。外で待ってます」

 

ハスミは何処か不安そうな表情を隠さず、スズミもまだ納得はしてない様子を見せる。何とかチナツの言葉で抑え込んだユウカは、心配そうに悠仁を見つめると、肩を落としてスズミの横に並んだ。

 

「先生、もし何かあれば遠慮なく伝えてください。すぐ駆けつけます」

 

「私の無線機もありますから、ご遠慮なく」

 

「おう。行ってくるよ」

 

スズミとハスミの提案に軽く頷きながら、彼女達の不安そうな表情に反し、悠仁は微笑みを浮かべてシャーレの内部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、ここ……どこ?」

 

薄暗い、廃墟の一角。天使の羽根を携え、白い制服に包まれた彼女は何処とも知れない、街並みの道にひっそりと立ちすくんでいた。黄白色の髪を揺らして、見渡す。

 

学園にいたはずだった。クラスメイトと喋って、テストに向けて勉強をしていたはずだった。だって、さっきまで隣に友達がいて……そして、そして……。

 

……あれ…?

 

違和感は、大きくなる。頭痛が激しく巡り、全身から血が吹き出す。紅く、黒く───沼のように湧き出した血潮のように。

 

 

そして、彼女は嗤った。

 

 

空に、無いよ。神々の宇宙船(ウトナピシュテム)

 

あ、そっか。

 

「───私、なんで……」

 

───生きてる、って……錯覚してたんだろ。

 

少女は、異形に変質した。

 

大きく捻れたこの世界の、最初の犠牲者となって。

 

特別の名を冠した、神話の呪いに。

 

 

 

 

 

「───私の想いは、既に過去になったんだ」

 

 

 

 

名も無き神々を求めた、彼女は───屍となって動き始めた。

 

 





正直なこと言っていい?くっそ描写ムズくない?戦車の方めっちゃ苦労したんだけど。なんでゲームだと貫けるわけねーだろ!の装甲を小銃でぶち抜いてんの?だとしたら、神秘すごすぎない?なんか、不思議な力が働いて勝てたー!にすべきかすごい悩んだよ直前まで。

んで、この4話にどれだけつぎ込もうかも悩んだよ。区切りよく、次の話に繋げるようにするかとか!!もういっその事書きたいところまで書くか、とか!!

激おこです。

だけど、悠仁が許して!って言うからゆるします。悠仁に感謝しろよ!!

曇らせるからなお前ら!!覚悟しとけよ!!
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