虎杖先生、少しお時間をいただけますか?   作:だっちゃまん

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アビドスとアジト

 

 

「……ほんとに、何者かな」

 

静かに呟きながら、彼女──ホシノは敵の攻撃を盾で防ぎながらショットガンの引き金を引く。ダァン!と重量のある轟音を立てて暴徒の頭を弾いた。呻き声を最後に立ち上がることない姿を一顧し、次に向けられた銃口を察知して盾に身を隠す。

 

ホシノが持つ、最大の防御たる折り畳み式の盾。普段は畳んだ状態でスリングを付けカバンのようにして携行しているソレは、側面には『Eye of Horus(ショットガン)』を乗せることが可能な溝があり、盾を構えつつ安定して射撃が行えるようになっている。

 

ホシノ程の体格であれば、余裕で覆い被せる高さのある盾だ。展開時の裏側にはシェルホルダーがあり予備弾を保持できる優れものであり、こんなことは造作もなければ……ホシノに夢中になっているこの隙は不良達にとって致命的な隙晒しとなる。

 

──横合いから出現したシロコの弾が不良の体を撃ち抜き、次に現れたセリカが最後のトドメを刺す。そして、ミニガンを乱射するノノミは物陰から顔を出す不良に牽制を掛け、防御手段のないシロコとセリカを援護している。

 

アヤネに関しては、ドローンによる補給品の援助や補助といった面で既に活躍を見せている。弾薬が切れたら右手を上げる合図で彼女の飛ばすドローンが飛んでくる、それが普段の役割分担。

 

……ここまで、いつもの自分たちだ。数の減ったヘルメット団は悪知恵を働かせて爆発物等 手榴弾を頻繁に投擲するに飽き足らず、地理地形を使った戦法を取るようになってきた。

 

少し、厄介なところはあれど時間さえ掛けたら制圧はできていた。

 

でも。

 

「──ちょっと痛むぞ!」

 

悠仁が真剣な趣で拳を振りかぶる。次の瞬間──バギャッ!という音と共に、不良の体が後ろへ吹っ飛んだ。

 

「今の、すごく響いた」

 

「ごめん!結構手加減したんだけど…!」

 

「今から物資を届けます!」

 

冗談のような一撃に、周囲の空気が一瞬だけ止まる。そしてすぐ、アヤネのドローンから弾薬が補給され、悠仁はそれを片手で受け取ると叫ぶ。

 

「シロコ、右を回り込め!セリカ、背後から連携だ!」

 

「「了解!」」

 

ずっと同じチームの一員だったかのよう馴染み方だった。時間にしてまだ数時間も経っていない、この短時間で戦場に溶け込んでいる。

 

……本当に、何者かな。

 

ホシノは、銃身を冷たく撫でながら、そっと息を吐いた。其の言葉には警戒だけではなく、畏怖も少しばかり含んでいる。有り得ない事態ばかりを見せる強さ、アヤネと連携しつつも的確に現場指揮を執る指揮官的頭脳も持ち合わせた、異常存在。

 

「ノノミ!12時の方角に敵!シロコはそのまんま右側に沿ってセリカは背後から援護射撃を頼む!」

 

敵性勢力は悠仁の暴れぶりで一気に十人も減った。残った十余名は既に半壊して──全身赤色に染めたヘルメット団の幹部らしき生徒を含めた残り三名となった。

 

抵抗するように乱撃を行う不良の弾を避けつつ、ノノミからの牽制に加え、シロコとセリカの連撃に見舞われた彼女は悲鳴を上げた瞬間に意識を手放した。もはや早業の域にあるセリカの射撃とシロコの容赦ない顔面発砲に痛みを感じることなく地に伏せたであろう。

 

残り二名。

 

「く、くそ!なんなんだあの大人!!」

 

握ったライフルの銃口をシロコに定め、やけくそ気味に放った銃弾は地面や建物、車両などに当たって跳ねていく様は──縦横無尽に飛び交う弾丸の嵐。しかし、シロコは猪突猛進のまま、銃身を使って殴打。

 

綺麗な弧の字を描いて吹き飛ぶ不良の横で、セリカとホシノが敵の幹部目掛けて突撃していく。それに気が付くと、手榴弾を投擲するものの──。

 

「ノノミ!狙える!?」

 

悠仁の一声でノノミはミニガンの標準を宙に舞う、精々掌サイズの的に濁流の如く連撃を敢行した。ライフルや狙撃と違い、ミニガンは風の抵抗を受けていても秒数間に発射される弾の数が尋常ではない。分数に換算した場合は数千発にも及ぶ。

 

それによって、抵抗や風の流れを総合的には受けにくい特性──リコイルも伴って上昇する難点があるゆえに扱いが非常に難しく、唯の人間が使えばそう長くは持たないだろう。

──しかし、常人離れした反射神経と身体能力を持つキヴォトス人がミニガン使った瞬間、彼女はイージス艦のような迎撃を見せてくれる。

 

「───どーですか☆ 私のリトルマシンガンの威力〜!」

 

みろ、人がゴミのようだぁ!なんて事を良いそうな楽しげにやっているノノミの銃撃により、空中で爆発した手榴弾、そして爆炎の中をくぐって現れたホシノは盾を向けたまま敵幹部に突進、盾を横に回しながら、ショットガンを片手で放った。

 

反動の悪魔と呼んでも差し支えない、リコイルの大きさは片手で撃とうものなら引き金を引いたと同時に掌から吹き飛んでいく。悠仁のいた世界でショットガンの片手撃ちが出来たら、それこそ化け物と比喩されてもおかしくはない神技といえる。

 

反動をものともしないホシノは重心を確りと真っ直ぐの状態を維持し、確かな腕前で敵幹部の意識を刈り取った。

 

追い討ちをかけるようにセリカも発砲を行うのだが、その怨念ったら獲物を前にした虎も思わず逃げ込むほど。至近距離から何発も撃ち込む姿に苦笑を漏らしつつも、殆ど私的制裁も含んでいる行為に悠仁は既視感と背中を伝う汗を自覚して、見て見ぬふりを貫いた。

 

そして──戦場を終えた現場に流れる異様な空気に違和感を覚えて、そんなはずは無いと思考を止めた。

 

(……気のせい、だよな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掃討戦は、存外呆気なく終わった。元々彼女達の連携や個人の実力が高いことも相まって、悠仁はシャーレの奪還作戦時よりはまだ心臓に優しい戦場だったと胸をなで下ろす。

 

「カタカタヘルメット団残党、校外エリアに撤退中─私達の勝利です!」

 

「やったぁ…!思い知ったかヘルメット団め!」

 

呆然と、負傷者を引き摺りながら撤退していく少数の不良達を見つめながら、セリカは地面に倒れ込む勢いで嬉しさを解放する。

 

周囲には飛び散った弾薬箱、土嚢、気絶した不良達が散乱し、地面には無数の弾痕が刻まれている。しかし、建物に多少の傷はあれどアビドス側に負傷者は皆無。ただ、無我夢中だった。

 

シロコはうすら笑みを浮かべて「勝った…!」と悠仁に向けてVサインを作り、ノノミはホシノに抱きつき、アヤネは端末越しに「おつかれさまでした!みんな!」と歓喜を滲ませていた。

 

「ほんとにみんなお疲れ!」

 

悠仁も空かさず労いの言葉をかけ、笑顔を浮かべているが……反してみんなの視線は悠仁へと注がれている。誰も言葉を発しないものの、言いたいことは顔に書いた状態で注視する。もはや睨みである。

 

「えっと……なに?」

 

「ん、先生ってすごく強いんだね」

 

「そうですよ!私もびっくりしたんですからね!」

 

「あ、そうよ!何よあれ!素手で制圧って聞いたこと無いんだけど!?」

 

「おじさんも今回は驚いたなぁ〜なになに〜?」

 

捲し立てられる言葉にたじろぐ悠仁は落ち着いて。と両手を前に四人を抑え込もうとするが、一切合切通用せず。ジリジリと歩み寄る四人の迫力に押され、遂には───。

 

走って逃げだした。

 

 

「「追いかけるよ!!」」

 

シロコ、セリカは見事なタイミングでハモって悠仁を追い掛ける。その背中をノノミは楽しそうに笑って、同じく駆け出した。端末で事のいきさつを聴いていたアヤネは申し訳なさそうに苦笑いを零すが……彼女に限らず、初対面の頃よりは皆の心は悠仁を許しつつあった。

 

やっと、これで希望の兆しが見える。アヤネはそう思い、安堵の声とも嬉しさの溜息とも呼べる声を零す。そして、彼女──ホシノもまた、少しばかりは陰のない笑顔を纏ってこの光景を見守っている。

 

けれど、その目だけは冷たくて。

 

この学校の異物とでも言うように、でもそれを表に出すことはせず、彼女は歩みだした。

 

「みんな〜早く戻るよー」

 

ただ、いつものように。彼女は眠たげに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

部室に戻って来たアビドスの面々は、銃をガンラックに立てかけながら深く椅子に腰掛けた。戦闘自体はほんの一時間足らずの出来事だったが、流石に鉄火場となると神経が擦り切れる。

それでも、補給の心配がなくなったというのは大きい。

 

「いやぁ~、まさか勝っちゃうなんてね、ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けて来たみたいだったけど」

 

「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩……勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか」

 

「いつもよりスムーズだったね。先生が指揮してくれたり、一緒になって戦ってくれたから。これが大人の力……大人ってすごい」

 

「ほんとですよね☆ 私もすっごく頼もしかったです」

 

「…みんなが頑張ってくれたおかげだって。俺はちょっとサポートしたぐらい」

 

シロコとノノミの言葉に、全員の顔が先生に向いた。

 

その脳裏に過るのは、戦闘時に受けた先生のサポート。的確に戦場を乱すだけではなく彼女達の射撃の邪魔にならないギリギリの動きで不良達を一撃でKOをしていたのだ。

 

それだけではなく、現場の指揮を行って様々な形で生徒を導いていた。一人二役の仕事をこなす姿に賞賛の声をあげるものの、悠仁はどこか困ったように笑うだけ。

 

「先生って無駄に謙遜するよね」

 

「無駄……そ、それが大人だから…」

 

嘘である。無理やり感が否めない返答ではあるが大人の威厳のためにも弁論を放った。とは云え、悠仁は顔を逸らして言っているためあまり効果はない模様。セリカからの追求の目は終わらない。

 

居た堪れなくなった悠仁は話題を逸らすべく、新たに切り出した。

 

「そ、それよりさ!対策委員会って、具体的には何を目指してる部活なんだ?」

 

「そうですね……対策委員会はこのアビドスを蘇らせるために有志が集まった部活です」

 

アヤネが説明していく横で、ノノミがぴょこんと顔を出す。

 

「うんうん!全校生徒で構成される、構内唯一の部活なのです!全校生徒といっても、私たち五人だけなんですけどね」

 

「他の生徒は転校したり、学校を退学したり町を出て行った。学校がこの有様だから、住民も殆ど居なくなってヘルメット団のような三流チンピラに学校を狙われてる始末なの」

 

続けて、シロコは苦虫を噛み潰したような表情で告げた。

 

「現状、私たちだけじゃ学校を守りきるのが難しい。在校生としては恥ずかしい限りだけど……」

 

「もし、シャーレの支援がなかったら……万事休すでした。改めて、本当にありがとうございます、先生」

 

「だねー、補給品も底をついていたし、ナイスタイミングだったよ、先生」

 

やはり、お礼をされると少しだけ照れくさい悠仁ではあるものの、今回ばかりは素直に謝意を受け取り、彼女たちが話す傍らでこれからの行動を思案する。

一先ずは急を要する事案は解決を見せた。しかし、このアビドスに降りかかる問題の先延ばしに過ぎない現状を打破すべきだろう。

 

そして、その問題は彼女達も自覚しているようでシロコが切り出す。

 

「──でも、アイツらが攻撃をやめることはないと思う」

 

シロコの言葉通り、みんなの共通認識なのかこれで終わりだという意識は見えない。シロコとセリカは分かり易く顔を強張らせ、吐き捨てる様に云った。

 

「……きっと、また来る」

 

「しつこいもんね、あいつら」

 

彼女達の云う通り、カタカタヘルメット団を名乗る不良達は戦力が揃い次第、またこの校舎に攻めて来るだろう。先の大攻勢で大半の戦力を失ったとは云え、時間の問題。なぜなら、ヴァルキューレや自警団の手が伸びない辺鄙な場所であるからこそ、彼女達にとっては天国ともいえる環境なのだから。

 

そう遠くないうちにまた来る。その意見に賛成なのだろう、アヤネの表情が曇り、顔が俯く。

 

「こんな消耗戦をいつまで続けなきゃいけないんでしょうか……ヘルメット団以外にも沢山問題を抱えているのに」

 

「問題の核を一掃する必要があるよね〜、此処には先生もいるし、丁度いいよ」

 

ホシノはだらんと曲がっていた背筋を正し、不意に笑みを零しながら云った。

 

「そういう訳で、ちょっと計画を練ってみたんだ」

 

「えっ、ホシノ先輩が!?」

 

「うそ……!?」

 

ホシノの言葉に、明らかに驚いている顔をするアビドスの面々。その反応を見たホシノは、心外だとばかりに頬を掻いた。

 

「いやぁ、その反応はいくら私でも、ちょーっと傷ついちゃうかなー……おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさ」

 

「……で、どんな計画?」

 

セリカは腕を組みながら、明らかに不審そうな顔で問いかけた。少なからず、悠仁を除くアビドス勢に同じように見られる現状に「そんなに信用ないかなぁ……」と呟きながら、ホシノは自身の考えを皆に明かす。

 

「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃に来るはず。ここんとこ同じサイクルだったからねー、こんな事で諦めるなら最初っから諦めてるだろうし」

 

全員を見渡し、告げた。

 

「だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなーって。今なら消耗も激しいだろうし、何よりも暫くは手が出せないと思うよ」

 

「い、今からですか!?」

 

ホシノの唐突な襲撃提案に、アヤネは目を見開いて声を上げた。他の面々も、驚いた表情を隠せない。此方から攻勢に出る───それは今までアビドスが一度も考えていなかった、否、考えついても出来なかった行動だからだ。

 

だからだろう、必ず刺さるという確信がホシノにはあった。

 

「そう。今なら先生もいるし、補給とか面倒なものは解決した万全の態勢だからね。負ける要素ないでしょ? どうせ向こうはこっちが補給している事も知らないだろうし、物資がカツカツだと思っている中で攻勢に出るなんて想定していないでしょ」

 

ホシノの提案にアヤネは少し不安そうな面持ち──慎重で情報を重んじる彼女からすれば、ホシノの提案は唐突過ぎて余り歓迎出来ないのだろう。反して、シロコやセリカ、ノノミと云った面々はどちらかと云えば賛成寄りの雰囲気であった。

 

「なるほど、ヘルメット団の前哨基地は此処からそう遠くないし、行けない距離じゃない」

 

「良いと思います、あちらもまさか即日反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

「まぁ、先輩達が良いなら」

 

ノノミとシロコはやる気を見せて、積極的な態度を見せる。セリカはホシノの提案という事でやや疑る気配があるものの、理屈自体は通っていると賛成の意を決めた。

 

しかし、三人に反して取り残されたアヤネはあわあわと忙しなく皆の顔を伺いながら、ぐるぐると目を廻して悠仁に縋った。

 

「そ、それはそうですが……先生は如何ですか?」

 

「んー」

 

アヤネが不安そうな面持ちで悠仁を見る。悠仁は腕を組み、算段を整えつつ考える。このまま当たったして…確かに生徒が傷つく可能性と云う名の不安要素はあれど、負けることは無い。

 

アビドスの面々、その素の戦闘能力が高いというのもあるが、不良達は今大幅に戦力が削がれた状態、仮に先程と同じ規模の不良達と戦闘になったとしても、撃退自体は可能だろうと判断。

 

「まぁ、みんながそれに賛成するなら俺も協力するぜ!そのために来たしな」

 

悠仁がそう言い切ると、アヤネは悠仁が云うならという表情をして、「分かりました、私も賛成します」と頷いた。

 

皆の意見が纏まり、全員の顔に戦意が灯る。

 

「よっしゃ、先生のお墨付きも貰った事だし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」

 

「ん、善は急げって奴だね」

 

「はい~、それではしゅっぱーつ!」

 

「今度こそ再起不能にしてやらなくちゃ…!」

 

「あっ、ちょっと、まだ準備が――!」

 

部室に銃を取りに戻る皆の背を見ながら、アヤネは強襲に必要な道具を整えねばと駆け出す。悠仁もまた、気を引き締めて静かに拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへぇ〜すげぇーな。町のど真ん中じゃん」

 

「あ、おじさん2号だ」

 

「ちょっと〜セリカちゃん。おじさんは一人だから愛でれる存在なんだよー」

 

「二人居てもわたしは愛でますよ☆」

 

「ん、私の方が美少女。みんな分かってる」

 

「そういう話を今してないから!」

 

「確かに……!え、ちょいまち、俺の方が美少女じゃん」

 

「先生でも、ナンバーワンは譲らない」

 

アビドス高等学校を出発して早数十分、悠仁達は現在敵のアジトと思わしき、出入り口のない雑居ビルの近くまで来ていた。

 

予め、クラフトチェンバーによる生成で弾薬等の補給品を作り出し、万全の状態で向かったのは敵の縄張り。公道を全速疾走で駆ける女の子達と云う、第三者が見たらシュールすぎて通報されるレベルだ。

 

走って向かう理由は単純、車両がアビドスに無い理由から走って来たのだが…やはりキヴォトスの人間。元の世界の人間でも三十キロを超す速度で走れるが、短距離に限った話。

 

何十分も原付バイク並の速度で走り続ける体力は正に常識外れだろう。その間にも、彼女たちは会話をし続けながら走っていた。陸上選手も真っ青の光景だろう。

 

悠仁自身もやっぱ人間じゃねぇわ。と内心慄いていたが、彼女達もまた悠仁のことを改めて人間じゃないと同じ感想を抱いていた。どんぐりの背比べである。

 

「あはは…それより、カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました」

 

アヤネが操作する遠隔ドローンで先回りし、手前にあるビルに隠れた悠仁たちは彼女の言葉を待つ。彼女達の顔には多かれ少なかれ緊張を滲ませていた。

 

「先生」

 

不意に、ホシノが悠仁を呼ぶ。

 

「どった?」

 

「……えっとね、今更かもしれないけど、此処まで着いてきてくれてありがとね」

 

その声色に、僅かな悲しみが籠っている事に悠仁は気付いた。嬉しさなんてものはそこになく……そういう事かと、悠仁は察した。彼女はずっと疑ってきたのだ、悠仁だけではない、ありとあらゆる大人を───それがアビドスを守る為に必要な事だったと。

 

彼女の行動や言動を、自身は責める事は出来ない。彼女はたった一人…仲間が居る中で、自分だけでもと戦ってきた証拠。

 

悠仁は真っ直ぐホシノを見た。初めて会った時から、どこか誰かに似ている……そんな既視感に駆られていた。それが誰かはまだ理解をしている訳では無いけど、そんな事はどうだって良い。ただ真摯に、それが当たり前なんだと。

 

それを彼女に伝えるのが先決だと、そう思ったのだ。

 

「──それが(先生)のやるべき事だからな、遠慮なく頼ってくれよ。ホシノやみんなの頑張りは俺が見てもすげぇって思うもん。だから、これからは俺もみんなの力になりたい」

 

本当なら、一緒に背負わせてほしいって言いたい。だけど、これを言えば、彼女たちは悠仁を一緒になって背負うべき人じゃない。これは自分たちの問題だ、と言って線引きを決めるはずだ。

 

優しい子達だから、この短期間でそれが痛いほどわかった。何気ない仕草や行動で、彼女達は各々をしっかりと見ていた。この道中で、どれだけその瞬間を見たのだろう、と思うほどに。

 

だからこそ、変に気負わず…頼ってもいい存在として近くに居たい。そんな意味も込めていた。

 

悠仁の言葉を聞き、頬を緩ませるホシノ。

 

「…そ」

 

俯く彼女の感情は分からない。けど、部室で見せた昏い瞳を覗かせることなく、面を上げたホシノと視線が交差する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。生徒が子どものままで居られる場所。それを守るのが大人であり──教師である俺の役目。この手から零すことは二度とないように……笑顔で、楽しそうに笑うみんなとの日常を──奇跡にしてはならない。

 

悠仁が決意を新たにする中、不意に、アヤネが表情を変えた。

 

 

「敵のシグナルを発見───此方の存在に気が付いてる動きがあります!」

 

先行させていた偵察ドローンからの情報だ。どうやら視界に不良達の基地が映ったらしい。全員の顔が引き締まる。

 

「じゃあ、最後の戦闘だな」

 

「そうだねぇ〜、先生もいるから余裕じゃない?」

 

「ん、心強い」

 

「私たちだって強いってことも、いっぱい示さなきゃだめよ!」

 

「ブンブン暴れましょう☆」

 

悠仁の言葉に呼応し、銃器を掲げた皆が力強く頷いた───。

 

 

 

「しゅっぱ〜つ!」

 

 







あーあ、段々と不穏な空気が寄ってきちゃったよ。ゴキブリホイホイなんじゃない?悠仁くん。早くホシノの泣き顔を含めた曇り差分を見たいなぁ…絆ストーリーで見せた水族館のデートで、ふんだんにデロデロに好感度を稼いだ悠仁の前でホシノが転んで傷付いてさ。膝擦りむいちゃった程度でも、慌ててほしいよね。

転んで傷つくとか有り得ないって正論は受け付けてませんので、とにかく小さな傷一つでも負ったホシノを見て、過呼吸になりながら駆け寄って「大丈夫!?血、出てる、なんでっ!」

って焦って普段の冷静な悠仁を吐き捨てて欲しいし、それを見たホシノは「先生…?ど、どうしたの?転んだだけだよ…?」って悠仁の豹変ぶりに驚いて震えて欲しい。

何気ない平和の日常から、血で濡れた渋谷を思い出して「絶対守るから、何があっても助けるから……」なんて呪詛のように呪われてほしい。で、悠仁と目が合った際に瞳の奥に渦巻く深い闇と何かに怯える感情を見て、ヒュッなんて息が漏れちゃって、「……先生、大丈夫だよ。大丈夫、もう平気だよ」って泣きながら悠仁を包み込んでくれるんだよきっと!!

悠仁にとっては、その優しさが逆に追い討ちをかけるってことも知らずに。

そして、芽生えてくんのよ。ホシノは。

先生は、自分一人で抱えてる。

だから、1人にさせちゃダメだって。

なにこれ。

もう、欲張りセットすぎるよこれ…!!生徒が傷ついたら悠仁が曇って、悠仁が傷付いても生徒が曇る…!!なんなんだこの幸せスパイラル。おかしいだろ。怪我の程度に関係なく、悠仁が見せる激情に共鳴を示すように彼女達も小さな犠牲でも、感情を爆発してくれる、そうに違いない。

だから、悠仁が軽はずみな言動で「俺が囮になるよ」なんて言ったら、ホシノは「だめ!!」ってマリアナ海溝の水深1万mよりも深くて黒い拒絶反応を示すんだ。絶対そうだ。

拒絶した後に、ホシノは言うんだろうなぁ。

「……私が、やる。先生は…私の後ろで……」

とか、守らなきゃって使命感に駆られるのに、反対に悠仁は自分たちを守る対象として見てる。傷つけたくないって、自分たちと同じ想いを抱いてるんだ。対極なんだよ!ホシノたちが思ってること、その思いが自分達に向けられてる。

ホシノがどんなに言っても、悠仁は提案を蹴る。だけど、悠仁が犠牲になろうとすると、ホシノたちも拒否反応を示す。守らなきゃって思ってるのに守らせてくれない苦しみを抱えて、信じる辛さや任せる重みに心が潰されそうになりながら、ホシノは進むしかない。

だって、最終的には悠仁の案を受け入れるしかないんだ。

だって、悠仁の心は既に鎧で守られてて、覚悟が違うから。

あぁ……やっべぇな。業の深いトライアングルだ。意識の伝染は深いね、もうほんっとに深い。これだけで卒業論文書けるわ……!!

このままだと、いつか後書きで一話分の文字数行きそう……。
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