呪術師に再び青春を   作:枝那

10 / 15
今回はチナツの絆ストーリーのネタバレがあります。
予めご了承ください。

これ含めてあと2、3話くらいで終わらせたいなぉ


第9話 石を穿つ⑥

「今日の訓練は、対多数を想定した耐久戦です」

 

そう言ってシオンはグラウンド上に大量の呪霊を出す。マネキンのような姿形をしている呪霊。のっぺらぼうで無機質なのに人のような挙動をしていて、それがかえって不気味だ。

 

「5分間。3つのチームに分かれて、大量に湧き出る呪霊をできるだけ多く倒してください。仲間との連携も重要ですし、どれほど的確に相手の弱点を突けるかも攻略の鍵です」

 

説明を聞いた彼女たちは、訓練の準備に取り掛かる。呪霊を相手にした訓練はもう慣れたものだ。

全員準備が万全なのを確認したシオンは手を掲げ、勢いよく振り下ろす。

 

「それでは、訓練開始!」

 

◇◇◇◇◇

 

ピピーッ!

 

訓練終了を告げる笛の音が響く。

 

「はい、終了です」

 

「Aチームは28体、Bチームは33体、Cチームは30体ですね。初めてにしては上出来だと思いますよ」

 

「負けちゃったー」

「う~ん、あそこでもう少し突っ込むべきだったかなー」

 

「さて、この訓練がどんなものか大体わかったと思いますし、10分くらい後にまた始めますね。その間に作戦会議するといいでしょう」

『はーい』

 

シオンはグラウンドを一旦立ち去る。このまま彼女たちに任せても問題ないだろう。

彼がゲヘナに来てから10日が経った。そのわずか10日間で風紀委員は今までとは比にならないほど成長した。

 

これといった目的もなく校舎を歩いていく。最初の頃にあった好奇の目線も今では無くなっている。…代わりに大半が恐怖をはらんだ目で見ているが。

 

しばらく歩いていくと、教室から見覚えのある生徒が出てきた。あれは確か保健室だ。

彼女は重そうに荷物を抱えている。

 

「持ちましょうか?火宮さん」

 

彼女は火宮チナツ。風紀委員の医療を担っている。

 

「シオンくん。いえ、あなたの手を煩わせる訳には」

 

「遠慮しなくていいですよ。どうせ暇ですし」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

荷物を半分受け取り、横に並んで雑談をしながら風紀委員の執務室へ向かう。

 

「そういえば、火宮さんは元々救急医学部だったと聞きましたけど、なんで転部したんですか?」

 

「あぁ、そのことですか」

 

「言い辛いなら無理に言わなくてもいいですよ」

 

「ふふっ、いいえ。別に隠してる訳でもありませんから」

 

「…簡単に言えば、『放っておけなかったから』ですね」

 

彼女は自分が風紀委員へ入部するに至るまでの経緯を話した。

 

風紀委員会と救急医学部は良好な関係にあるが、常に同じ現場で活動するわけではない。

 

風紀委員会の活動で負傷者が発生する度、救急医学部は現場に急行するものの、即時対応が難しいこともあった。

 

そんな状況が続く中で、彼女は風紀委員会の中に医療処置を行える者が必要だと気づく。

 

しかし両組織の部長の常に多忙であるため、話し合いの場を設けることも難しく、組織再編の話が見送られていく中で。

 

チナツは、自分にできることを考えた。

 

「そうして、今の私がいます」

 

「ほほう、つまり貴女は風紀委員会に変革をもたらした訳ですね」

 

「そ、それは少し大げさな言い方な気がします」

 

頬を赤く染めて、照れくさそうに笑う。

 

「でも、凄いことですよ。何が問題なのかを考え、自分にできることを見つけて行動に移す。口では簡単に言えますが、実際に行動を起こすのは予想よりも遥かに難しい」

 

「あなたが風紀委員のみんなから信頼されているのも頷ける」

 

「そう、ですか…」

 

話しているうちに、二人は執務室にたどり着いた。

 

「着きました。ありがとうございます、シオンくん」

 

「どういたしまして」

 

別れを告げ、再び廊下を歩き始めるシオン。

また暇になってしまった。

 

「なにしようかな…」

 

天啓。

 

「あそこに行こう」

 

◇◇◇◇◇

 

「それでここに来たんだ」

 

ここはゲヘナの食堂。お昼前ということもあって、人は少ない。

給食部部長の愛清フウカはテーブルに腰掛けるシオンに話しかける。

 

「風紀委員のことは見てなくていいの?」

 

「大丈夫ですよ。みんなはもう僕がいなくても十分やれますし」

 

「ふーん」

 

彼女はゲヘナ学園の生徒には珍しく常識人の生徒だ。それゆえに苦労することも多く、トラブルに巻き込まれやすい。

 

学食のパンデミックの一件から、シオンは何度か食堂に通っていた。しょっちゅう面倒事を持ち込んでくるテロリストを追っ払ってくれたり、食事のマナーが良く誠実であるため、フウカは彼を好ましく思っている。

 

「もうすぐお昼の時間ね。準備しないと」

 

「手伝いましょうか?」

 

「え?悪いよ。今でもたくさん助けられてるのに。確かに手伝ってくれたら嬉しいけど…」

 

「でも、いつも見ていますけど、大変そうじゃないですか。他にやることもありませんし、少しでも力になりたいです」

 

「じゃあ、お願い。シオンくんは料理できるの?」

 

「ふっ、僕はこれでも料理には自信があるんですよ。特にスイーツの腕は五条先生の折り紙つきです」

 

「五条先生って誰」

 

◇◇◇◇◇

 

「シオンくん!スープの具材切って!」

 

「はい!!」

 

()B()は早く皿を洗って!」

 

「Cは盛り付けを!」

 

ピーク時の食堂。多くのお腹を空かせた生徒たちで賑わい、満員電車もかくやというほど混みあっている。普段は一人でこれを回しているのだから、驚きを通り越して恐怖を抱く。

 

規模が規模なので、シオン一人が加わったところで早々に状況は改善しない。そこで彼はある『ズル』をした。

 

「シオンさん、あちらで喧嘩が!」

 

「分かりました。手が空いてる分身を向かわせます!」

 

分身の術式を持つ呪霊。それを『蝕』によって憑依させることで利用する。

5人ほど分身を増やした彼のおかげで、今日の学食は普段より余裕を持っていた。

 

「おい!」

 

「はいはい、どうかしました?」

 

「飯に髪の毛入ってんじゃねーか!どうしてくれんだよ!」

 

「…お客様、髪の色と質から考えて、これはあなたのものではないですか?」

 

「ごちゃごちゃうるせーよ!こっちは気分が最悪なんだよ!お客様は神様だろーが!!」

 

そう言ってシオンに銃口を向けるクレーマー。彼は眉一つ動かすことなく。

 

「お客様」

 

鮮やかな手つきで彼女から銃を奪い。

 

「食堂でのマナーはお守りください」

 

銃口を彼女の額に突きつけた。

彼女は何が起こったのか理解できないといった表情のまま、顔を青くする。

舌打ちを一つして逃げるようにその場を去った。

 

なんて、多少のゴタゴタがあったりしたものの、給食部+シオンはなんとか忙しいランチタイムを乗り切ることができた。

 

「ふーっ………なんとかなりましたね…」

 

「えぇ、正直こんなにスムーズに回せたのは初めてだわ」

 

二人は机にだらん、と座る。

 

「普段は二人でこなしてるなんて…改めて給食部はすごいですね」

 

「まぁ、慣れてるからかな」

 

「でも、なんとなくわかった気がします」

 

「?」

 

「こんなに大変で、理不尽なことも多いのに愛清さんが逃げない理由。僕も同じです」

 

「自分の作った料理を食べてもらうのは、とても気持ちがいい」

 

「『誰かに喜んでもらいたい』という気持ちだけでここまで頑張れるのは、とても素敵なことだと思いますよ」

 

「面と向かってそこまで言われると、結構恥ずかしいな…」

 

フウカは目をそらす。素面でこんなことを言ってのける彼の顔をまともに見ることができない。

 

「…でも、ありがとうね。こんな風に褒められるのなんて、中々ないから。もっと頑張ろうって思えるよわ」

 

「えぇ,それでこそ共に美食の道を往く同志ですわ!」

 

「え?」「おっ」

 

気品を感じられる声。シオンでもフウカでもジュリのものでもない。発生源の方を見ると、軍帽のような帽子を被った銀髪の少女がいつの間にかテーブルに腰掛けていた。

 

彼女は黒舘ハルナ。悪名高い美食研究会の会長である。

 

実はシオンとハルナは何度か接敵したことがある。フウカを連れ去ろうとするのを防いだり、風紀委員の仕事を手伝っているときに交戦したことがあるのだ。

 

彼女は両手でシオンの手を握る。その瞳はキラキラと輝いている。まるで自分のチームに期待の新人が入ってきたスポーツ選手のような、そんな表情で彼を見る。

 

フウカは呆れたような三白眼をハルナに向ける。嫌な予感が止まらない。

 

「私、あなたのことを勘違いしておりました!」

 

「うん?」

 

「その料理への高い志。あなたも、美食の道を歩まんとする求道者だったのですね!」

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

フウカが突っ込む。食に関することになると話が通じない奴だが、まさかここまでとは思わなんだ。

 

「さぁ!ぜひ我々と共に美食の道を追求しましょう!」

 

「…いいですよ」

 

「はぁ!?本気で言ってるの!?」

 

まさか了承するとは思ってなかったフウカが驚きの声を上げる。

 

「では、早速私と共に…「()()、いいですけど」」

 

()()が認めますかね?」

 

「彼女?……あっ」「あら」

 

フウカとハルナがその存在に気づいたのは同時だった。学食の入り口。そこには誰もが恐れる彼女がいた。

 

「ハルナ?何をしているの?」

 

そう、空崎ヒナである。今の彼女は仕事モード。能面のような表情でハルナに詰め寄る。

 

「馬に蹴られるのはごめんですわ。では、シオンさんにフウカさん。ごきげんよう」

 

ヒナの追及をひらりひらりと躱し、ハルナは学食を後にする。ヒナもそれ以上追う気はなかったのか、銃を下してシオンに話しかける。

 

「もう、私が来なかったらどうするつもりだったの?」

 

「その時はその時ですよ。…それで。僕に用があって来たんでしょう?」

 

「話が早くて助かるわ。また温泉開発部が悪さをしたの」

 

「またですか。懲りない奴らですね、本当」

 

「ええ、まったく」

 

「という訳で、愛清さん。僕はもう行きますね」

 

「うん。今日は本当にありがとう。また食堂に来てね。できる限りのもてなしはするから」

 

その後、とある森林をいつも通り爆破した温泉開発部と、彼女らを捕まえようとする風紀委員、そして住処を荒らされた原住民との三つ巴の争いになったのだが、この話はまた今度。




まさかのナグサ・ニヤ実装で横転
どこが「みに」なんだよ!!

ちなみに分身の術式は身体能力・呪力出力は変化しませんが、分身を増やせば増やすほど一体あたりの耐久力が低くなるというデメリットがあります。呪力は本体の呪力を分身たちで共有する感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。